食中毒は細菌やウイルスが付着した食べ物を食べることによって、下痢や嘔吐、腹痛、発熱などの症状が起きる病気です。食中毒の原因はさまざまで、このコラムでは食中毒が治るまでの流れや対処法、予防法について解説します。食事は生きる上で欠かせないものなので、食中毒が発症するリスクを少しでも抑えられるように予防法を押さえておきましょう。
食中毒が治るまでの期間
食中毒が治るまでの期間は原因によって異なりますが、概ね数日から二週間程度で完治します。食中毒の原因を知ることができれば、治るまでの期間を予測できるのですが、基本的に症状はほぼ同じなのでご自身で原因を知るのは難しいでしょう。
そのため、食中毒の症状が強く出た場合は医療機関を受診し、体内にいる原因菌やウイルスを病歴から推測または検査してもらうことが原因を知る一番早い方法でしょう。
受診すべき食中毒の症状の目安
食中毒の疑いがあると感じたら、まずは慌てずに直近で食べた飲食物の整理をして水分を摂取しましょう。水分の摂取を続けてもなお、食中毒症状が改善されない、もしくは症状が激しい場合には、早急に医療機関で適切な処置を受けることが必要です。以下の症状が当てはまる場合は受診した方が良いでしょう。
【受診を推奨する症状】
- 嘔吐が酷く水分の補給ができない場合
- 一日に複数回、嘔吐・下痢がある場合
- 血便など排泄物に血液が混じっている場合
- 呼吸が不安定だったり、意識が朦朧としている場合
- 発熱または高熱となった場合
食中毒とは
食中毒とは食べ物や飲み物に含まれる細菌やウイルス、微生物が増殖して発症する、もしくは原因物質がそのまま身体に作用して発症する病気のことをいいます。症状は下痢、嘔吐、腹痛、発熱などがあり、食中毒を引き起こす原因が体内から排出されないと改善しません。
食中毒は食べ物や飲み物から原因物質を摂取することが多いので、学校の給食や飲食店などで発生することも多く、大勢が感染した場合は集団食中毒として取り上げられます。これらを防ぐには、食材や料理を適切に調理・管理をし提供することが大切です。
食中毒には種類がある
食中毒の種類は4種類あり、食中毒を引き起こす原因によって以下の4つに大別されます。
【食中毒の種類】
- 細菌性食中毒
腸管出血性大腸菌、黄色ブドウ球菌、カンピロバクター、サルモネラなど
- ウイルス性食中毒
ノロウイルス、ロタウイルス、A型肝炎ウイルス、E型肝炎ウイルスなど
- 化学性食中毒
鮮度の落ちた魚、発酵食品、腐敗した食品に含まれるヒスタミンやアミン
- 自然毒食中毒
フグやキノコの毒
梅雨の高温多湿な時期から夏場にかけて多く発生するのが、細菌性食中毒です。また、冬場はカキなどから発生するノロウイルスによる食中毒も多くなり、細菌性食中毒とウイルス性食中毒が食中毒の原因の大部分を占めています。
食中毒予防の原則
食中毒を予防するには『食中毒予防の原則』に日頃から取り組むようにすると予防効果を高めることができます。
【食中毒予防の原則】
- 原因菌を付けない
- 原因菌を増やさない
- 原因菌をやっつける
- 原因ウイルスを持ち込まない
- 原因ウイルスを拡散しない
- 原因ウイルスを付けない
- 原因ウイルスをやっつける
食中毒にならないためには、原因菌やウイルスを体内に取り込む可能性を低くすることが必要なため、食中毒予防の原則を参考にして日頃から取り組みましょう。特に『付けない』と『やっつける』が重要で、原因菌やウイルスが生息するような場所に触れることは控え、アルコール消毒などをして体内にウイルスが入り込むのを防ぎましょう。
食中毒を引き起こす細菌・ウイルス
食中毒は細菌やウイルスなどの原因が体内に入ることで発症します。それらの種類によって潜伏期間、症状、感染経路が違うので、それぞれの特徴を知り、予防することが大切です。
【食中毒を引き起こす細菌・ウイルス】
- 黄色ブドウ球菌
- 病原性大腸菌
- サルモネラ菌
- カンピロバクター
- ノロウイルス
- ウェルシュ菌
厚生労働省では、食中毒を引き起こした原因を公表しています。この表から見ると、病原性大腸菌とノロウイルスが比較的多いので、これらに対する予防法を強化することが食中毒を防ぐには効果的といえるでしょう。
参照元:政府広報オンライン
黄色ブドウ球菌
黄色ブドウ球菌は人や動物の傷口、手指、鼻、のどなど広くに生息します。健康な方の20〜30%が保菌しているといわれている菌で、手作りの料理を通じて体内に入り込むことが多いといわれています。そのため、料理を盛る際にトングを使用したりすることで防ぐことができるしょう。
【黄色ブドウ球菌の特徴】
潜伏期間 | 1~5時間 |
感染経路 | 人、動物に常在 |
症状 | 吐き気 嘔吐 腹痛 下痢 |
予防するには | 手指の洗浄 調理器具の洗浄殺菌 低温管理 |
病原性大腸菌
病原性大腸菌は健康なヒトの大腸内や一般環境下で生息している微生物です。病原性大腸菌はO157などを発症する微生物で、体内に入り込んで胃腸炎などを引き起こします。病原性大腸菌による食中毒を防ぐには、食材を充分に消毒・加熱しましょう。
【病原性大腸菌の特徴】
潜伏期間 | 3~数日 |
感染経路 | 肉類、土壌、野菜など介して人に感染 |
症状 | 吐き気 嘔吐 腹痛 下痢 発熱 |
予防ポイント | 手指の洗浄 調理器具の洗浄殺菌 低温管理 加熱調理 |
サルモネラ菌
サルモネラ菌は動物(牛、豚、鶏)の腸内や自然界に広く生息している細菌です。サルモネラ菌に汚染された食べ物を摂取する、または汚染された手、調理器具などを介して口から感染し、胃腸炎などを引き起こします。サルモネラ菌による食中毒を防ぐには、食材を充分に消毒・加熱しましょう。また、調理器具の洗浄、消毒も大切です。
【サルモネラ菌の特徴】
潜伏期間 | 8~72時間(菌種によって異なる) |
感染経路 | 生肉、特に鶏肉と卵からの感染が多い |
症状 | 嘔吐 激しい腹痛 下痢 発熱 |
予防ポイント | 加熱調理(75℃以上、1分以上) 卵の生食は新鮮な物を選ぶ低温管理(4℃以下) 生肉調理後の手指の洗浄 調理器具の洗浄殺菌 |
カンピロバクター
カンピロバクターは動物(牛、豚、鶏)などの腸内に生息している微生物です。充分に加熱していない食肉を体内に摂取することで感染し、腸炎を引き起こします。カンピロバクターは加熱することで死滅するため、食材を充分に消毒・加熱しましょう。また、調理器具の洗浄、消毒も大切です。
【カンピロバクターの特徴】
潜伏期間 | 1~7日 |
感染経路 | 肉類、飲料類など介して人に感染 |
症状 | 吐き気 嘔吐 腹痛 下痢 発熱 倦怠感 血便 |
予防ポイント | 加熱調理(65℃以上、数分) 調理器具を熱湯消毒し、よく乾燥させる 生肉調理後の手指の洗浄 調理器具の洗浄殺菌 |
腸炎ビブリオ
腸炎ビブリオは沿岸の海水や海泥に生息している細菌です。水温15℃以上の環境で活発化します。そのため、海水温度が上がる5月~9月に獲れた魚介類やその調理食品から感染します。塩分濃度が高いと増殖するため、真水でよく洗い流すことも大切です。
【腸炎ビブリオの特徴】
潜伏期間 | 8~24時間 |
感染経路 | 魚介類を介して人に感染 |
症状 | 嘔吐 腹痛 下痢 発熱 |
予防ポイント | 加熱調理(60℃以上、10分以上) 魚介類は新鮮な物を選択 魚介類調理後の手指の洗浄 調理器具の洗浄殺菌 低温管理(4℃以下) 真水で洗浄 |
ノロウイルス
ノロウイルスは主にカキを含む二枚貝に多く生息している細菌です。11月から1月に発生することが多いとされています。貝類を食べることで感染し食中毒を引き起こすことや、感染した方の嘔吐物や便、それらが乾燥したものから出る塵埃が体内に入ることで感染します。食材を充分に加熱してから食べ、食事前は手洗いをしましょう。
【ノロウイルスの特徴】
潜伏期間 | 1~3日 |
感染経路 | 二枚貝(カキ、ハマグリなど)感染者の嘔吐物や便から |
症状 | 嘔吐 腹痛 下痢 発熱(38℃以下) |
予防ポイント | 手洗いの徹底 加熱調理(85~90℃以上、90秒以上) 調理時の手指の洗浄 調理器具の洗浄殺菌 嘔吐物、便の適切な処理 |
ウェルシュ菌
ウェルシュ菌は人や動物の腸内や下水、河川、海などの土壌に広く生息する細菌です。特に食肉(牛、豚、鶏)などの汚染が多いといわれています。酸素を嫌い、耐熱性が高いという特徴があります。ウェルシュ菌を増殖させないように加熱食品は小分けして保管することを心掛けましょう。
【ウェルシュ菌の特徴】
潜伏期間 | 6~18時間 |
感染経路 | 汚染された肉類、魚介類を使用した食品 |
症状 | 軽い腹痛 下痢 |
予防ポイント | よく混ぜながら調理する 前日調理を避け、加熱調理しなるべく早く食べる 保管する際は小分けにする |
食中毒になった際の対処法・注意点
食中毒になった際は下痢、嘔吐の症状が多く見られます。そのため体内の水分が不足しがちになるので、脱水症状を防ぐことを常に心掛けましょう。
基本は水分を摂取しながら安静にしていれば回復に向かう病気です。しかし、対処法を間違えると回復までの期間が長くなったり、重症化したりする可能性もあるので注意点を押さえておきましょう。
【食中毒になった際の対処法・注意点】
- 水分を摂取する・お腹にやさしいものを食べる
- 横向きに寝て休む
- 下痢止めは飲まない
- 嘔吐物・便を適切に処理する
水分を摂取する・お腹にやさしいものを食べる
食中毒になった際は徹底して水分を補給するように心掛けましょう。発症した場合、食中毒の症状である下痢や嘔吐、発熱によって水分が大量に失われ、脱水症状になる可能性が高まります。そのため、ご自身の体調が安定している時にこまめに水分補給をするよう意識しましょう。
水分補給をする際は、市販の経口補水液などで補うのが有効で、嘔吐がある場合は、スプーン一杯の湯冷ましを先に飲むことも重要です。また、消化しやすいもの(フルーツ、ヨーグルト、お粥など)を摂取し、無理のない範囲で食事をして栄養補給を心掛けます。流動食や刺激が少ない食べ物などを摂取する際は冷たいものではなく、温かいものが好ましいでしょう。
横向きに寝て休む
横向きで休むことで嘔吐したものが喉に詰まる危険を回避できます。寝ている状態で嘔吐した場合、その処理をする際には直接嘔吐物に触れずにビニール手袋などをして口からかき出すようにしましょう。
常に看病できない場合は、背中に丸めた毛布を置いてあげたりすると横向きで寝るよう矯正ができるでしょう。
下痢止めは飲まない
下痢が継続し不快な状態が続いても、下痢止めは飲まないことが重要とされています。食中毒の原因菌やウイルスを排出させることで食中毒は改善するので、それらの排出を止めてしまう下痢止めなどは控えた方が良い場合があります。体調が悪くどうしようもない場合は、医療機関を受診しましょう。状態によっては点滴などで治療をしてくれます。
便・嘔吐物を適切に処理する
床などに飛散した嘔吐物や便は、使い捨てのマスク、エプロン、ビニール手袋を着けてふき取り、ビニール袋に密封し廃棄するなど適切に処理を行わなければなりません。なぜなら、食中毒に感染している方の嘔吐物や便から感染するリスクがあるためです。
処理する際は汚れた場所とその周辺を、次亜塩素酸ナトリウムで消毒するのが好ましいでしょう。また、処理中とその後はしっかり換気を行いましょう。万が一、嘔吐物や便などに直接触ってしまった場合は必ず石鹸でよく手を洗いましょう。
おわりに
食中毒は非常に怖いものであり、放置すると命の危険を及ぼすケースもあります。そのため、適切な予防をすることが肝心です。多少の手間はありますが、ご自身や大切な方を守るためにしっかりと予防しましょう。万が一、異常を感じた際は水分補給をし、体内にある食中毒の原因を排出することを心掛け、必要に応じて医療機関を受診しましょう。