「めばちこ」や「めいぼ」など、地域ごとにさまざまな呼び方をされるものもらいは、身近な目の病気のひとつです。このコラムでは、目の腫れや痛み、異物感などといった不快な症状を引き起こすものもらいについて、発症の原因や治療方法を解説します。効果的な予防方法についても触れていくので、何度もものもらいが再発してつらいという方も必見です。
ものもらいの原因と症状は?
まぶたが赤く腫れて痛みやかゆみなどの症状が出たとき、多くの方がまず原因として考える病気は、ものもらいではないでしょうか。ものもらいは、細菌感染や分泌腺の詰まりなどが原因となり、誰でも発症する可能性がある身近な病気です。
ここではまず、ものもらいの主な原因と症状をみていきましょう。
ものもらいの主な原因
ものもらいの主な原因は、以下の6つです。それぞれについて詳しく解説していきます。
不衛生な状態
汚い手で目をこすると、ものもらいになりやすいということはご存知の方も多いのではないでしょうか。不衛生な手や汚れたタオルなどが目に触れると、細菌などが目の中に入ってものもらいが発症するリスクがあります。
アレルギー
花粉症やアトピー性皮膚炎などといったアレルギー体質を持つ方は、アレルギー疾患を持っていない方に比べてものもらいを起こしやすいという特徴があります。アレルギーが原因で粘膜や皮膚に炎症が起きていると、細菌感染のリスクが高くなるのです。また、アレルギーによって目がかゆくなり、こする機会が多くなることもものもらいの発症を招く原因です。
高温多湿
夏になり、高温多湿の環境が続くと細菌は増殖しやすくなります。また、暑さで夏バテや睡眠不足に陥り抵抗力が低下することも、ものもらいにかかりやすくなる原因のひとつとして考えられるでしょう。
前髪
ものもらいは、髪の毛の先端が触れる刺激によって引き起こされることもあります。特にカットしたての髪の毛は先端が尖っていて刺激が強いため、前髪が目にかかる長さの方は注意しましょう。
コンタクトレンズ
日常的にコンタクトレンズを使用している方も、ものもらいを発症しやすくなります。装着時や外すときなど目の周りを触る機会が多く、細菌を持ち込みやすいためです。保存ケースの中で細菌が増殖してしまうケースもありますので、コンタクトを使用しない方と比べてものもらいの発症リスクは高くなります。
また、コンタクトレンズユーザーにはドライアイの方が多いです。ドライアイは、結膜や角膜が乾燥して傷付き、目のバリア機能が低下しているので、細菌感染を起こしやすい状態であるといえます。
プール
ものもらいはプールなどで人からうつる病気であると認識している方も少なくないでしょう。しかし実際は、ものもらいは細菌感染により引き起こされる疾患であり、人から人へ感染する病気ではありません。
プールに入った後にものもらいを発症したり、ものもらいになったときにプールに入らない方が良いといわれたりするのは、プールの中の雑菌が原因です。プールに入ることで目に細菌が入り、ものもらいを発症しやすくなるのです。
ものもらいの主な症状
状況や程度によって現れる症状に違いはありますが、ここでは一般的なものもらいの症状をご紹介しましょう。
- まぶたの一部、または全体が赤く腫れる
- まばたきをしたり、指で押したりすると痛い
- 目がかゆい
- 目が充血する
- 目やにが多い
- 目の中がゴロゴロする
- 膿が出る
上記のような症状が見られる場合は、ものもらいになっている可能性があります。
ものもらいの種類は?
ひとつの病気として総称されることが多いものもらいですが、実は「麦粒腫(ばくりゅうしゅ)」や「霰粒腫(さんりゅうしゅ)」といった異なる原因の疾患が含まれています。それぞれの症状や原因などの特徴をお伝えしましょう。
麦粒腫(ばくりゅうしゅ)
ものもらいの種類のひとつである麦粒腫は、細菌感染によって目に炎症が起こる疾患です。麦粒腫のほとんどは、「黄色ブドウ球菌」や「表皮ブドウ球菌」という細菌が原因といわれています。
この2つの細菌は、普段から人間の皮膚や髪の毛、鼻や喉の奥などにいる常在菌です。健康なときに影響を受けることはありませんが、疲労やストレスなどが溜まって体の抵抗力が極度に弱まっていたり、目の周りが傷付いたりすると感染に至ります。
感染したばかりの頃は部分的な赤みや軽い痛み、かゆみなどの症状が見られ、炎症が進むと腫れや痛みなどが悪化したり、化膿したりといった症状が出るのが特徴です。
麦粒腫は、感染する場所によってさらに細かく分類されます。まつ毛の根元に感染した場合は「外麦粒腫(がいばくりゅうしゅ)」、まぶたの内側にあるマイボーム腺に感染した場合は「内麦粒腫(ないばくりゅうしゅ)」といいます。
霰粒腫(さんりゅうしゅ)
霰粒腫は、マイボーム腺の詰まりが原因で起こるものもらいです。マイボーム腺はまつ毛の内側にある分泌腺で、油膜を張って涙の蒸発を防ぎ、目の乾燥を防ぐ役割を担っています。このマイボーム腺の出口が詰まることで炎症が起き、肉芽腫と呼ばれるしこりができるのが霰粒腫です。
霰粒腫の症状は、痛みや赤みがあまりなく、まぶたにコロコロとした異物感を感じる程度がほとんどです。炎症が出たときは麦粒腫と間違えられることも多く、この状態を「急性霰粒腫」と呼びます。
麦粒腫と結膜炎の違いとは?
麦粒腫は、結膜炎と症状がよく似ています。どちらも目の充血や目やに、炎症などが起こるため、一見見分けるのは難しいでしょう。2つの疾患の大きな違いは、感染の場所です。麦粒腫は睫毛の生え際に近い分泌腺の感染で、結膜炎は眼や瞼(まぶた)を覆う結膜の炎症です。
また、ものもらいは一般的に目の一部が腫れてしこりができるケースが多く、結膜炎は結膜の表面全体に炎症が見られるのが特徴です。
ものもらいは自然治癒できる?
ものもらいは、誰にでも起こりうる身近な病気です。そのため、発症後はしばらく様子を見るという方もいるのではないでしょうか。しかし、ものもらいを自己判断で放っておいたり、自然治癒に任せたりすることは好ましくありません。
まぶたの皮膚は非常に薄いため腫れが目立ちやすく、そのうえ麦粒腫の場合は放置しておくことでどんどん悪化してしまう可能性があります。症状が治まってきたように感じても、実は目の奥深くに細菌が残っていて、再発を繰り返すケースもありますので注意しましょう。
また、ものもらいは過度なストレスや体全体の免疫が下がっていることなども影響する疾患です。ご自身の体が出すSOSを見逃さないためにも、安易に自己判断で放置せず、少しでもおかしいなと感じたらすぐに眼科を受診しましょう。
知っておきたい!ものもらいの予防方法
ものもらいは、日頃からさまざまなことに気を付けていれば防ぐことができます。ここでは、ものもらいの予防方法をお伝えしましょう。
こまめな手洗い
ものもらいを予防するために一番大切なのは、目の周りを清潔に保つことです。コンタクトレンズを脱着するときはもちろん、普段からこまめな手洗いを徹底して、汚れた手で目元を触らないようにしましょう。
マイボーム腺のマッサージ
朝晩の洗顔時などにマイボーム腺をマッサージするのも効果的です。まぶたを閉じ、まつ毛の生え際に指を揃えて当てたら、そのまま1~2mmくらい左右に揺すりましょう。習慣的に行うことでマイボーム腺が詰まりにくくなり、霰粒腫(さんりゅうしゅ)の予防につながります。
まつ毛の内側へのアイメイクを控える
アイメイクやまつ毛エクステンションなどでマイボーム腺を塞いでしまうと、麦粒腫や霰粒腫を引き起こす可能性があります。まつ毛の生え際まで施したアイメイクが綺麗に落としきれない場合も、不衛生な状態が原因となってものもらい発症のリスクを高めます。
目の周りを清潔に保つためには、まつ毛の内側まで及ぶようなアイメイクはできる限り控えた方が良いでしょう。
免疫力の低下を防ぐ
適切な食事や睡眠の習慣を身に付け、身体の免疫機能を低下させないこともものもらいの予防につながります。免疫機能が正常に働いている健康体であれば、目に細菌が触れても感染することはないからです。
反対に、免疫機能が未熟な子どもや低下しがちな高齢者、病気の方や病みあがりの方などはものもらいに感染しやすいともいえます。
目元を温める
マイボーム腺の詰まりによって起こる霰粒腫は、目の周りを温めることで予防できます。ホットタオルなどを用いて、定期的に目元を温める習慣を付けましょう。温めた蒸しタオルを目元に当てて、一緒にマッサージなどを行うのがおすすめです。
また、入浴時にしっかりと湯船に浸かって体を温めるとまぶたも温まるので、マイボーム腺の詰まり予防に効果的です。
コンタクトの使用方法を守る
ものもらいを予防するためには、コンタクトの使用方法をきちんと守る必要があります。レンズやレンズの保管ケースは、雑菌を繁殖させないよう清潔に保ちましょう。レンズの汚れは、アレルギーや細菌感染のリスクを増やすだけでなく、症状を悪化させる恐れがあるためです。
日頃からコンタクトを正しく使用するのはもちろん、ものもらいになっているときは使用を控えるようにしましょう。
前髪・爪のケアをする
目の周りを清潔に保ち、ものもらいの感染リスクを下げるには目以外のケアも有効です。前髪が目にかかることで、目を傷付けたり感染を引き起こしたりする可能性があるため、前髪は上まぶたにかからない長さに整えるか、ピンで留めると良いでしょう。
また、爪の内側には汚れが溜まりやすいため、爪を短く整えておくことも大切です。
アルコール・刺激物を控える
アルコールや刺激物などの食品も、ものもらいの原因になる可能性があります。炎症を悪化させる作用を持っているため、できるだけ摂取を控えることが好ましいでしょう。
ものもらいの治療方法や治療に必要な費用
実際にものもらいにかかったときは、どのような治療を行うのでしょうか。続いては、ものもらいの治し方や治療にかかる費用についてお伝えします。
ものもらいの治療方法
ものもらいの治し方は、状況や症状の進行度などによってさまざまです。基本的には体調管理と同時に目薬や内服などといった抗生物質を使用した治療を行いますが、炎症が強いときにはさらに他の治療を行います。ものもらいの5つの治し方についてご説明しましょう。
目薬(抗生物質)
1回1~2滴、1日3~4回ほど点眼薬を用いて治療する方法です。早く治したいからといって1度にたくさんの量を点眼しても、余計な分がまぶたの外に流れ出てしまうだけで効果はありません。用法用量を守って点眼することが大切です。
軟膏(抗生物質)
まぶたの赤く腫れている部分に直接塗る薬です。塗布するときは、手を洗った清潔な状態で行いましょう。塗り薬を指先や綿棒に付けてから、まつ毛の根元までしっかりと塗るのがポイントです。
内服(抗生物質)
ものもらいの症状が重いときや、体調不良などで重症化が見込まれるときなどは内服薬を処方されるケースもあります。用法・用量を守って3日ほど服用し、様子を見ましょう。ただし、下痢や発疹などの副作用が見られた場合はすぐに内服を中止します。
切開手術
ものもらいが進行すると、膿が溜まってくることがあります。膿が自然と流れ出て治っていくこともありますが、そうでない場合には切開手術が必要です。特に、目の深いところに溜まった膿は自然に排膿せず、切開して膿を出すことになります。自然排膿や切開手術を経て膿が出たあとは、点眼や軟膏などの抗菌薬が有効です。手術後ものもらいが消失するまで時間がかかる場合もあります。
ステロイド剤
なかなか治らないものもらいには、点眼や軟膏などのステロイド剤を使用することもあります。ステロイド剤は、眼圧の上昇や角膜の感染症などといった副作用を起こす可能性があり、必須の薬ではありません。使用するかどうかは医師の判断のもと、患者と相談のうえで決定します。
治りの悪いものもらいの赤みを少しでも早く治したいときなどに処方されますが、副作用が出た場合にはすぐに使用を中止することが大切です。
ものもらいの治療にかかる費用
ものもらいで病院にかかる場合の治療費は、おおよそ500~2,000円です。点眼薬だけ処方されるケースや、軟膏や内服と一緒に処方されるケースなど、治療方法によって金額に差が出るため注意しましょう。また、切開手術の相場は2,000~3,000円ほどです。手術費用のほかにガーゼや保護テープなどの用品代や検査費用がかかる場合もあります。
これってどうなの?ものもらいについての疑問
ここでは、ものもらいを発症したときに知っておきたい疑問についてご紹介しましょう。
ものもらいはうつるの?
ものもらいのほとんどは、「黄色ブドウ球菌」や「表皮ブドウ球菌」という常在菌が原因です。この2つの細菌は感染力が弱く、人から人へうつることはほぼありません。その証拠に、国が定めるガイドラインでも、ものもらいは学校や保育所などの出席停止が必要な感染症に含まれていないのです。
一度症状が出ると癖になるって本当?
ものもらいは、疲労やストレス、体調不良などによる免疫力の低下などが影響する疾患です。一度かかった方が再度発症しやすいという事実はありませんが、何度も繰り返しかかるという場合には生活環境を見直す必要があります。
不摂生な生活を改めて3食バランスの良い食事を摂り、目の周りを清潔に保つよう心掛けることなどが有効です。
見た目が気になるから眼帯を着けても良い?
ものもらいが悪化すると、赤く腫れた目を人に見られたくないからと眼帯を希望する方もいます。しかし、眼帯自体にものもらいの治癒効果はないうえ、眼帯によって瞬きが制限され、充血や目ヤニの増加に繋がる恐れもあります。眼帯の着用は可能な限り控えるのが良いでしょう。
ものもらいができたときコンタクトはいつから付けて大丈夫?
ものもらいにより、痛みや腫れ、炎症、化膿、異物感などの症状が出ている間はコンタクトの使用を控えましょう。きちんと目を休ませてしっかり治すためにも、完治するまではメガネに切り替えておくのがおすすめです。眼科通院時は、主治医の指示に従いコンタクトレンズの使用を決めてください。
目立った症状がない場合や治ってきた場合も、コンタクトを着用したときに痛みやかゆみ、異物感などの症状が見られた際にはすぐに使用を中止しましょう。
おわりに
ものもらいは、人からうつるのではなく、疲れやストレス、生活習慣の乱れなどが原因で細菌感染を起こすことにより発症する目の病気です。少しでも目に違和感を感じたり、ものもらいのような症状が見られたりする場合は、自己判断で放置せずに病院を受診しましょう。
悪化する前であれば、点眼薬などの簡単な治療で治すことも可能です。日頃から清潔で健康的な生活を心がけ、ものもらいになりにくい環境作りを行なって予防しましょう。