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脳梗塞の前兆?手足に力が入らない、ろれつが回らない原因とは

脳梗塞の前兆?手足に力が入らない、ろれつが回らない原因とは
甲斐沼 孟 医師

執筆者
甲斐沼 孟 医師

私は医師として15年以上キャリアを積んできました。これまで消化器外科や心臓血管外科を研鑽して参り、現在は救急医学診療を中心に地域医療に貢献しております。全国学会での学術発表や論文執筆などの多角的な視点で医療活動を積極的に実践しています。さまざまな病気や健康の悩みに対して、これまで培ってきた豊富な経験と専門的知識を活かして誠心誠意対応します。

脳梗塞はある日突然に発症し、手足に力が入らない、ろれつが回らずに人と会話しづらいなど身体の自由を奪ってしまう病気です。

脳梗塞の典型的な原因や症状を把握して、日常に潜む脳梗塞の前兆を見落とさずに、適切な判断のもとで検査や治療を受けることが重要です。

今回は、脳梗塞のタイプ、発症する原因、代表的な症状、検査や治療方法などを中心に解説していきます。

脳梗塞の3つのタイプ

脳梗塞の3つのタイプ

ラクナ梗塞(ラクナこうそく)

脳梗塞とは脳へ血液を供給する血管が細くなり、血栓や粥腫(じゅくしゅ)ができて詰まることで脳細胞に血液が流れなくなり脳細胞に障害が起こる病気であり、血液が届かなくなった脳細胞は時間が経過すると壊死して、基本的には壊死した脳細胞は元の状態によみがえることはありません。脳梗塞には、血栓などが詰まる原因によって3タイプに分類されており、特に細い脳血管が詰まって引き起こされるものを「ラクナ梗塞」と呼んでいます。

アテローム血栓性脳梗塞(アテロームけっせんせいのうこうそく)

アテローム血栓性脳梗塞は、脳内の太い血管である中大脳動脈、内頸動脈、椎骨動脈、脳底動脈などにおいて、アテローム変化を生じた血管に血栓が形成されて、血管が細くなって血流が悪くなることで血管閉塞して脳梗塞を引き起こします。また、血管壁に存在していた血栓がはがれ落ちて、血管が詰まって脳梗塞を発症することもあります。

心原性脳塞栓症(しんげんせいのうそくせんしょう)

心原性脳塞栓症は心臓内でできた血栓が脳を栄養する血管を閉塞して起こる脳梗塞であり、脳梗塞の中でもその発症率は20~25%を占めています。他のタイプの脳梗塞と比較して、前触れなく突然発症することが知られており、脳梗塞巣が広範囲であって後遺症も含めて重症になりやすいという特徴があります。

脳梗塞を引き起こす3つの原因

脳梗塞を引き起こす3つの原因

高血圧

脳梗塞は脳の血管が詰まることが原因で起こり、その原疾患でもっとも多いのは高血圧であると考えられています。一般的には、最高血圧(収縮期血圧)が140mmHg以上、あるいは最低血圧(拡張期血圧)が90mmHg以上であれば、「高血圧症」と診断されることからも、最高収縮期血圧が140mmHg以上を上回ったら脳梗塞の発症リスクが高くなります。

高血圧症は日本において約4,000万人以上にも及ぶ国民が罹患しているといわれており、高血圧を制御することによって脳血管障害の発症を抑制することが大いに期待されています。高血圧の状態を放置していると、動脈硬化を悪化させて脳卒中など死に至る重篤な病気の発症の引き金となります。

糖尿病

糖尿病は現代の疫病ともいわれ、糖尿病予備軍まで含めると全人口のおおむね30%程度が発症しており、血糖値(血液中に含まれるブドウ糖)が慢性的に高くなる病気を指します。日本では1,000万人ほどが糖尿病に罹患していると推定されており、生活習慣病とも関連しているといわれている注意すべき病気のひとつです。

近年、糖尿病の増加に伴って、アテローム血栓性脳梗塞の発症数が増えてきています。血糖値が高い状態が続くと血液中に多量に存在するブドウ糖が血管の壁を傷つけることで、動脈硬化が悪化して脳卒中などの病気の発症リスクも高くなります。普段から規則正しい食生活、運動をするようにして、ストレスや喫煙習慣など生活スタイルに注意して糖尿病にならないように心掛けましょう。

心房細動(しんぼうさいどう)

日本のおよそ2%弱の方が心房細動という不整脈を患っていると推定されており、本疾患の患者さんは加齢に伴って増えることが知られていて、特に80歳以上の男性ではその罹患率はおおむね10%以上といわれています。

心房細動と呼ばれる不整脈では、心房内に血栓を形成し、その心房内の血栓は血流に乗って全身へ飛ばされる恐れがあるため、脳梗塞の発症リスクも上昇すると考えられています。

心臓の中にできた血液の塊が時に遊離して、不幸にも脳の動脈の方に流れていってしまうせいで脳の血管が詰まって閉塞してしまうことが原因で起こる脳梗塞のことを特に心原性脳塞栓症と呼んでいます。高齢化に伴い心房細動という不整脈を抱えた患者さんが増加しているため、心原性脳塞栓症も徐々に増えています。

心房細動を有する場合には、毎年約5%の方に脳梗塞が起こるといわれていますので、普段の生活で動悸を自覚するなどの症状が出現した際には、心房細動などの不整脈がないかどうか医療機関で詳しく調べてもらいましょう。

脳梗塞に関連する知識

脳梗塞に関連する知識

症状

脳梗塞は障害を受けた脳の部分により出現する症状が違い、代表的な症状は手足や顔の痺れ、呂律(ろれつ)が回らなくなる構音障害(こうおんしょうがい:「声が出ない」「声はでるが、はっきりと発音できない」など)、ふらつきがある、視野の半分が欠ける、物が二重に見える、激しい頭痛や嘔気に襲われるなどが挙げられます。

四肢の痺れ症状は脊椎管狭窄症(せきちゅうかんきょうさくしょう)や頚椎症(けいついしょう)など他疾患でも現れる症状ですが、脳梗塞の場合には左右の現れ方に有意な差異があるのが特徴的であり、例えば片手だけに麻痺がある、顔の片方だけが歪んでいるなどが典型的な症状であると考えられます。

脳梗塞は血栓の詰まった部位や細胞壊死の障害程度などによってさまざまな症状を呈することが知られており、片麻痺とも呼ばれる運動麻痺は、脳の奥の脳幹で左右に交差しているため、障害の起こった脳の反対側に麻痺が引き起こされます。

失語症(しつごしょう)に陥ることもあり、思ったことがうまく話せない運動性失語、あるいは会話が成り立たない感覚性失語が存在します。

症状に関するチェックリスト

症状に関するチェックリスト

脳梗塞の有無を適切に判断する際には、症状項目を絞った「FAST」と呼ばれる症状に関するチェックリストが便利であり、早期発見に役立ちますから、常日頃から認識しておきましょう。

F(face:顔面の麻痺度合いをチェック)は、笑ったときに片方の口だけ上がらない状態を指します。

A(arm:腕の麻痺度合いチェック)は、両腕を挙げると片方の腕だけが下がって、腕に力が入らない状態を指します。

S(speech:言葉の障害度合いチェック)は、他者と会話がスムーズに成り立たない、ろれつが回らない状態を指します。

T(time:発症した時刻)は、上記3つの症状を認めた時間を確認して、すぐに救急車を呼ぶ事を意味します。

受診目安

モノが二重に見えるなどの視覚障害や突然めまいが生じて普段通り歩くことができなくなる症状が出現した場合には、脳梗塞の前兆である可能性があるため、症状出現後遅くても2時間以内を目安にできるだけ速やかに脳神経内科、脳神経外科を標榜している病院を受診しましょう。

突然激しい頭痛が生じる、声掛けに対して反応が悪いなどの場合にも、初期症状が落ち着くまで様子を観察するのは危険な可能性があり、脳梗塞の急性期治療のタイムリミットが関係しているため、早急に救急車を呼ぶ必要があります。

検査

脳梗塞の疑いで受診した場合、医師は患者さんの血圧を測って、心臓の聴診を行い同時に問診を行います。そして次に、 血液検査、頭部CT検査、頭部MRI検査、頚動脈や心臓に関する超音波検査を実施します。

血液検査では血糖値や感染症の有無を確認できます。脳梗塞の早期診断に必要なCT検査やMRI検査は、脳の詳細な画像が作成され脳内の出血や血栓を発見するために行われる検査です。さらに、必要に応じて頚動脈や心臓の状態を評価する為に超音波検査などが行われます。 

治療

脳梗塞に対しては、早期治療が重要なポイントです。脳梗塞と診断された場合、血栓溶解療法、 脳カテーテル治療、 薬剤治療等を組み合わせて治療に当たります。血栓溶解療法は脳梗塞の原因となった血栓を溶かし、再び血液を流れるようにするための治療であり、発症してから4.5時間以内に治療が可能とされる方のみ受けられます。

基本的には、大動脈解離を疑われる方・過去に大きな手術をした方・脳出血を起こした方には本治療は適応されません。脳カテーテル治療は直接カテーテルを血管内に挿入する治療法で、血栓回収術と局所線溶療法の2とおりの方法があります。

血栓回収術はカテーテルを血管内に挿入して血栓を取り除き、再び血流を開通させる治療法ですが、この治療では脳梗塞症状が出て6時間以内であり、しかも脳梗塞のなかでも大きな動脈が詰まった場合に行われることが推奨されています。

局所線溶療法(きょくしょせんようりょうほう)はカテーテルを血栓の近くに挿入し、薬を注入して血栓を溶かす方法であり、この局所線溶療法は、血栓回収術で取り切れなかったケースに使われることが多いです。

血栓溶解療法・脳カテーテル治療以外の方法として抗血小板薬や抗凝固薬などを用いた薬剤による治療も行われており、これら薬剤による治療は脳梗塞の拡大防止・再発防止目的もあり発症の初期段階から実践されています。 

自宅でできる改善方法

現在では、脳梗塞を発症した直後からリハビリ治療を行うことによって、脳梗塞に随伴する症状や後遺症を軽くすることができて、誤嚥性肺炎などの合併症や死亡率も低減することができます。自宅などでできる脳梗塞のリハビリの準備段階として、患者さんの自宅での居住環境をあらかじめ整備しておく必要があり、具体的には自宅の手すりやスロープを上手に工夫して設置し、踏み台などで段差をなくすことによって転倒を予防することなどが重要な観点となります。

また、手足の運動麻痺を有する患者さんが、自宅生活におけるリハビリ治療で意識すべきこととしては、麻痺側の運動機能だけでなく、麻痺の認めないサイドの運動機能を同時にバランスよく鍛えることが挙げられます。

病院での治療を終えて、自宅に復帰する段階では、生活の範囲を広げることができますので、家族や介助者のサポートを借りて、車椅子なども積極的に利用してできる限り外出することを目標に定めましょう。

改善しない場合は脳神経センター専門医へ相談しましょう

脳梗塞を疑う症状、顔の半分が歪む・片手が麻痺する・言語障害があるなどの異変がある場合には1分でも早い治療が必要になります。初期症状を見逃さずに救急車を手配して脳神経センター専門医を受診する事を意識して、早急な対応をしてください。脳梗塞は初期段階で治療すれば後遺症も残らず完治可能な病気です。今回の情報が少しでも参考になれば幸いです。

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