「40代に入ってから疲れやすい気がする」
「太りすぎといわれるが、食生活をどう変えればいいかわからない」
「運動習慣をつけようにも、三日坊主で終わりそう」
とお悩みの方も多いのではないでしょうか。
アラフォー、アラフィフと呼ばれる中年期は、まだまだ働き盛りである一方で、若い頃より太りやすくなったり、身体の不調が気になる年代です。
私自身も40代であり、ヘルスケアをテーマとした書籍を執筆しているサイエンスライターとして、これまでに膨大な数の科学論文を読破し、そこで提唱されている健康法をご自身の体で実際に試してきました。その結果、たどり着いた考え方が、現代の生活に起因するさまざま様々な体調不良は、パレオ、つまり「旧石器時代」の暮らしを再現することで解消できるという理論です。
そこで本コラムでは、私自身が実践する「パレオな生活」をもとに、日々の食事と運動を改善する方法をご紹介します。継続して取り組むための「目標設定のコツ」もまとめていますので、これまでに生活習慣を変えようとして挫折した経験のある方にもおすすめです。
40歳を過ぎても「最高の体調」でいる秘訣とは
現在は書籍やブログを通じてヘルスケア情報を発信していますが、実は20代の頃は不健康そのものでした。頻繁に徹夜をし、ラーメンばかり食べる生活が続いたことで、身体は常に不調を抱えている状態だったのです。
しかし、30代の頃に一念発起し、それまで読破した科学論文から健康と仕事の生産性に関わるものを一つひとつ実行することで、半年経たずに体脂肪率を30%から12%まで減少させることに成功。寝てもとれなかった慢性的な疲労が解消し、今や1日に数万字もの原稿を執筆するなど、まさに「最高の体調」を手に入れました。
不調の原因は原始的な生活と現代人とのズレにある
私が生活習慣の改善を行う過程で注目したのが、「原始的な環境に適応するように進化した人類の性質」です。
人類の起源は類人猿が活躍した600万年前ですが、現代へつながる農耕・定住が始まったのは約12,000年前と“つい最近”のこと。狩猟採集が中心の生活を長らく送ってきた人間の身体は、新しい生活スタイルにまだ適応できていません。つまり、多くの現代人は身体の仕組みに馴染まない生活を送っているのです。結果、「人間のDNAに組み込まれた性質」と「近代的な生活」とのズレが生じることで、さまざまな体調不調につながってしまうのです。
食事を例に挙げると、人間のDNAには狩猟採集時代の「食べられる時に食べて、カロリーを過剰に摂ろうとする性質」が組み込まれています。その性質は現代人にも引き継がれているため、食べ物に困らない状況であっても必要以上に食べ物を食べようとしてしまいます。
「パレオな生活」で不調を改善
つまり、健康な体調を維持するには、人間の身体にマッチした「原始的な暮らし」が有効であり、これを「パレオ(旧石器時代)な生活」と呼んでいます。現代人が旧石器時代のような暮らしにできる範囲で近づけることで、健康改善、生産性向上を目指すのです。
具体的には、「パレオな生活」では旧石器時代と現代を比較して「多すぎるもの」を減らし、「少なすぎるもの」を増やします。また、旧石器時代には存在しなかった「新しすぎるもの」をなるべく遠ざけることで、原始的な暮らしに近づけていきます。あくまで、現代の生活と狩猟採集民の「いいとこ取り」をするのが目標です。
不調の原因:現代人の「3つの~すぎる」
現代の暮らしとヒトの遺伝子には、以下のような“ズレ”が存在しています。
・少なすぎるもの:原始時代には豊富だったが現代には少ないもの
例:食物繊維、オメガ3脂肪酸、抗酸化物質、タンパク質、運動、睡眠時間など
・多すぎるもの:原始時代には少なかったが現代には豊富なもの
例:総摂取カロリー、糖質、オメガ6脂肪酸、塩分、飽和脂肪酸など
・新しすぎるもの:原始時代には完全になかったもの
例:トランス脂肪酸、食品添加物、人工甘味料、ブルーライトなど
現代人は慢性的な運動不足です。2010年の論文による推定では、狩猟採集民が1日に運動で消費するカロリーは800〜1,200kcal(一部部族を除く)であり、これは、現代人のおよそ3倍ぐらいの消費量になります。
また、狩猟採集民族の食生活では、ビタミンやミネラルの摂取量は現代の日本人の2倍、食物繊維は3〜5倍といわれていて、歴然とした違いがあります。塩分が多くカロリーが高いファストフードのような食事に頼り過ぎると、これらの栄養素は圧倒的に不足してしまいます。
この「3つの~すぎる」問題を、食事と運動の面から改善する方法をそれぞれご紹介します。
10のステップで食生活を改善する「パレオダイエット」
Step1.お菓子やファストフードなどのジャンクフードを完全撤廃
Step2.小麦系の食品、加工肉、乳製品、精製糖、精製油を減らす
Step3.毎食時にカロリーの質が高いタンパク質を増やす
Step4.食物繊維の量を増やす
Step5.魚とホルモンの量を増やす
Step6.カロリーの質が高い脂肪を増やす
Step7.発酵食品の量を増やす
Step8.フルーツ、ナッツ、種子類を取り入れる
Step9.糖質の摂取量を総カロリーの20-40%に
Step10.プチ断食を取り入れる
減らすもの
第一に、カロリーばかりが高く、ビタミンやミネラルがないジャンクフードは極力避けます。
また、Step2に挙げた小麦系の食品、加工肉、乳製品、精製糖、精製油といった食品は、人類の進化の歴史から見ると新しすぎる食品です。パンやパスタには抗栄養素が多く含まれていますし、精製油にはオメガ6脂肪酸が多く、慢性炎症を引き起こす原因になります。時々の楽しみ程度に抑えましょう。
増やすもの
タンパク質には食欲を抑えたり、代謝を上げる効果があります。ダイエットだけでなく毎日を気分良く暮らすためにも必須の栄養素です。摂取量は1日の総摂取カロリーの15〜35%あたりを目安にしましょう。
食物繊維や発酵食品も積極的に摂りましょう。良質な脂質を含む、魚、卵、放牧牛、ココナッツオイルなども取り入れたい食品です。
今からでも遅くない!40代のための運動ガイドライン
40代、50代までに蓄積してきた不摂生のダメージが運動でリカバリーできるのか、不安に思う方もいるでしょう。しかし、運動は中年期から始めても決して遅くありません。
テキサス大学の研究チームは、2018年にある実験結果を報告しました。それは、運動をしてこなかった中高年でも、2年のエクササイズ習慣により年齢にともなう血管や心臓の老化が回復し、酸素摂取量も増えて完全に体が若返ったというものです。
実験に基づき、研究チームは以下のような運動をおすすめしています。
- 基本は1日30分のウォーキングなどを週に4〜5回は目指す。前後にウォームアップとクールダウンは必ず行うこと
- 週に1回は最大心拍数の95%まで届くレベルの運動をする。具体的には以下のような感じが望ましい
- 最大心拍数の95%の運動を4分
- 3分の軽いリカバリータイム(軽いジョギングなど)
- 以上をワンセットとして4セット行う(合計28分)
- 週に1〜2回は全身を鍛えるような筋トレをする
基本は歩くことです。毎日ウォーキングをしつつ、できれば自宅で筋トレをする習慣をつけましょう。種目は、ベンチプレス、プルアップ、デッドリフト、スクワット、腕立て伏せなどの基本的なものだけで十分です。
週1のハードな運動は、なわとびを使った運動などが手軽に始められます。できるだけアウトドアで、友人や家族と一緒に運動をするのも良いでしょう。
高すぎる目標は逆効果?目標設定のコツ
毎週3つのタスクの設定する
中年期は人生への希望や野心が大きく、目標や願望のレベルを上げてしまいがちです。その結果、ゴールが高くなればなるほど、現状を受け入れられない状態に陥ってしまいます。
キャリアだけでなく、生活習慣を変える上でも高すぎる目標は禁物です。具体的には、以下のプロセスを踏んで目標を設定してみましょう。
- 大きな目標を考える
- 目標までのプロセスを超細切れにする
- 細切れの目標を、1日単位で達成できるレベルまで落とし込む
- 大きな目標を忘れる
細切れにした目標は、1日単位で達成できるタスクとして設定します。例えば、体重を減らしたいという目標があり、そのためにウォーキングを始めると決めます。その場合は、「終業後は、最寄り駅ではなく隣駅まで歩く」といったタスクに落とし込み、まずは1週間取り組みます。
タスクは1週間で最大3つまで設定し、フィードバックを重ねながら更新してください。
パレオダイエットのメリット:慢性的な「炎症」を防いで病気を予防
「パレオダイエット」に取り組むメリットは、肥満解消やパフォーマンス向上だけではありません。体内の「炎症」を防ぐことで、さまざまな病気リスクを軽減する効果が期待できます。
体に異変が起きたときに、免疫が自身を守ろうとする働きを「炎症」と呼びます。火傷をしたところが腫れ上がったり、切り傷が赤くなったりするのは、身体が治療のためにがんばっている証拠です。ただし、長期にわたる慢性的な炎症、例えば小腸などの内臓に脂肪がたまると、身体は懸命になって免疫細胞を動かしはじめ、全身に炎症を引き起こします。
慢性炎症は体への負担が大きく、関節や内臓、組織、細胞にダメージを与えます。その結果、心臓病や脳卒中、癌などの病態を引き起こす可能性があるのです。
炎症の原因
慢性的な炎症が起こる原因は、ストレスや睡眠不足などさまざまありますが、運動不足もそのひとつとされています。また、加工食品の食べすぎ、グルテンの摂りすぎ、糖質のとりすぎも炎症につながる要素です。
つまり、「パレオな生活」や「パレオダイエット」の実践は、慢性的な炎症を予防し、大きな病気のリスクから自身を守ることにつながるのです。
おわりに
40〜50代の中年期は生活習慣を見直す転換点です。
まず、ご自身の生活と原始的な生活と比べて、「多すぎるもの」「少なすぎるもの」「新しすぎるもの」がないか確かめてみてください。改善しなければならない習慣が見つけられるはずです。そして、重要なのは適切な目標を立てること。少しづつ「パレオな生活」をライフスタイルに取り入れ、「最高の体調」を目指しましょう。
参照元:Organic fitness: physical activity consistent with our hunter-gatherer heritage:Phys Sportsmed 2010
参照元:Persistent low-grade inflammation and regular exercise:2010