「ブレイキン(Breaking)」とは、近年オリンピック種目として採用が続くアーバンスポーツにカテゴライズされるスポーツで、パリオリンピック唯一の新競技に選出されたことで注目を集めています。DJが流す音楽に合わせて跳ねたり回ったりとアクロバティックな動きを取り入れたダンスは、圧倒的な身体能力はもちろん、芸術性の高さが魅力です。本記事では、ブレイキンの歴史的背景やルール、見どころをご紹介します。
ブレイクダンスとブレイキンの違い
「ブレイキン」と聞くと、多くの方が「ブレイクダンスとは違うの?」と思うのではないでしょうか。結論から言うと、ブレイクダンスとブレイキンは、同じダンスのことです。
元々ダンスの名称は「ブレイキン(Breaking)」でした。そのダンスカルチャーを日本に広めるきっかけとなった映画「Breakin’」の邦題が「ブレイクダンス」と名づけけられたことなどにより、日本では本家アメリカとは異なる呼び方が浸透、定着しました。
また同様に、日本ではブレイキンを踊る人をブレイクダンサーと呼びますが、アメリカではブレイキンを踊る男性をBボーイ、女性をBガール、性別問わずダンサーの総称をブレイカーと呼びます。
ブレイキンの歴史について
ブレイキンの起源は、ギャングの抗争が激化していた1970年代のニューヨーク・サウスブロンクス地区にあります。当時、ブロンクスは世界でも稀にみる貧困地区で、ドラッグの売買や窃盗など犯罪が横行し、無慈悲な縄張り争いで数多くの人が亡くなっていました。
このような状況を打破し、街に秩序を取り戻そうと動いたのが、ブロンクスのミュージシャンであり、「ヒップホップの名付け親」として知られるアフリカ・バンバータです。影響力を持つバンバータが銃撃戦や殴り合いではなく、平和的に抗争を解決するための策としてダンスバトルを提唱したことにより、向き合って踊るバトルというフォーマットが自然に生まれていきました。
その後、1980年代前半、ニューヨークの大規模なダンスバトルがメディアの関心を受けて急速な成長へとつながり、テレビ番組や映画、公のイベントなどに進出。ギャングの抗争から始まったブレイキンは世界中に広まり、いつの間にか数多くのブレイカーたちが大会での優勝を目指して自身のダンスに磨きをかける人気のスポーツへと発展し、2013年には台湾で第1回WDSF(世界ダンススポーツ連盟)ワールド・ダンススポーツ・ゲームズが開催されるまでに成長しました。また、2018年には夏季ユースオリンピックのブエノスアイレス大会で人気を博し、若い世代をオリンピックに呼び込むことを目的の一つに、パリ大会での新種目採用に至りました。
ブレイキンの基本要素
ブレイキンにはさまざまな動きがありますが、大きく分けると4つの要素から成ります。立った状態でステップと上半身を組み合わせた「トップロック」、しゃがんだ状態で手をつきながら足さばきやステップをする「フットワーク」、高速スピンなどのアクロバティックな動きをする「パワームーブ」、そして一連の激しい動きを止めて体を固める「フリーズ」があります。4つの基本要素を見ていきましょう。
トップロック
フロア(床)へ入る前に立って踊る、基本のステップです。ほとんどのラウンドで、このトップロックから演技が始まります。それぞれの動きには意味や解釈があり、組み合わせることで表現やアピールとなります。
フットワーク
屈んだ状態で地面に手をつき、素早く動かす足さばきやステップです。いくつかのパターンがあり、ステップのパターンの組み合わせや変形を加えることでオリジナリティを競います。
パワームーブ
ブレイキンを代表するようなアクロバティックな動きが特徴的です。頭で回るヘッドスピン、体操のあん馬の技にもあるトーマスフレアなどが有名で、身体のさまざまな部分で回転する動きを指します。
三点倒立の姿勢からバランスを保ちながら頭だけで回転するヘッドスピン、背中で回転するバックスピン、開脚した足の遠心力で背中や肩を床について回転するウィンドミルなどがあります。
フリーズ
トップロック、フットワーク、パワームーブなどの一連の流れから、音に合わせて身体や動きを固めて止めるのがフリーズです。バランス、パワー、柔軟性を必要とし、フリーズする際の身体の形や止まり方で個性を出します。中でも椅子に座っているように見えるチェアフリーズが有名で、低い位置や逆立ちなどの高い位置のフリーズなど、種類も多いのが特徴です。
これら4つの基本の要素を自分でアレンジし、いかに独創性を出せるかが重要なポイントとなります。
ブレイキンの試合形式と採点方法
ブレイキンにはソロバトル、チームバトルがありますが、パリ大会では、男女それぞれ16名の選手による1対1のバトル形式が採用されています。
バトルでは一方が最大1分間のパフォーマンスを行い、続いてもう一方がパフォーマンスを披露し、これが交互に3回繰り返されます。音楽はDJが選んでおり、アップテンポの曲なのか、それともスローテンポの曲調かどうかは、選手たちがステージに立つまでわかりません。即興で個性あふれるブレイキンを踊らなければならない点も、ブレイキンの面白さの一つです。
5人の審判が見るのは「技術性」「多様性」「完成度」「独創性」「音楽性」の5つ。逆に減点対象となるのは、他人の仕草を真似する「バイト」、特徴的な技を対戦中に繰り返す「リピート」、バランスを崩したりする「クラッシュ」や公序良俗に反することが挙げられます。
パリオリンピックに出場の日本人選手をチェック!
パリ大会には 日本からは男女それぞれ2名ずつ、合計4名の選手が代表として出場します。選手の技術力や表現力、即興性も重要な評価基準に、国内外の大会での成績を基に選考されました。これまでの実績とともに、彼らの個性豊かなパフォーマンスが どのように発揮されるのか、注目が集まっています。
湯浅亜美(AMI)選手
生年月日:1998年12月11日生まれ
出身地:埼玉県
小学校1年生でヒップホップに出会い、ダンスをスタート。流れるような動きのあるダンスを持ち味とし、特にフットワークやパワームーブを得意としています。日本を代表するBガールです。
⚫︎主な戦績/ 21年世界選手権2位、22年ワールドゲームズ金メダル、22年世界選手権優勝、 23年杭州アジア大会銀メダル
https://www.joc.or.jp/athletes/yuasaami/index.html
福島あゆみ(AYUMI)選手
生年月日:1983年6月22日生まれ
出身地:京都府
所属:一般社団法人 Body Carnival
ブレイキンを始めたのは21歳という遅咲きのブレイカー。大技に頼らず緻密な動きを得意とし、高速で繰り出される足さばきと斬新なポーズは見る者を魅了します。
⚫︎主な戦績/ 21年世界選手権優勝、22年世界選手権3位、23年世界選手権2位
https://www.joc.or.jp/athletes/fukushimaayumi/index.html
半井重幸(Shigekix)選手
生年月日:2002年3月11日生まれ
出身地:大阪府
所属:第一生命保険
姉の影響で7歳からダンスを始め、14歳でプロに転向。体の動きを一時静止するフリーズを得意とし、音楽とダンスとの融合を重視しています。日本ブレイクダンスシーンの特色である高速かつ高精度なパワームーブを取り入れ、それをさらに進化させています。
⚫︎主な戦績/ 20年「Red Bull BC One」ワールドファイナル優勝、22年世界選手権2位、 23年世界選手権3位
https://www.joc.or.jp/athletes/nakaraishigeyuki/index.html
大能寛飛(Hiro10)選手
生年月日:2004年12月3日生まれ
出身地:石川県
スピードとキレのある動きを強みとし、特に、高速回転技であるパワークロージングを得意としています。また、バトルの状況に応じて最適なムーブを選択する高度な状況判断能力にも秀でています。
⚫︎主な戦績/ 24年ジャパン・オープン優勝、24年全日本選手権2位
https://www.joc.or.jp/athletes/hirotoono/index.html
まとめ 見どころを学んでブレイキン観戦を楽しもう
国際的な普及によって、ブレイキンは単なるダンススタイルを超えて文化やアートの一部として認識されるようになりました。そして2024年、ストリート発祥のカルチャーとして育ってきたブレイキンが、オリンピック採用のスポーツとして認可を受けたことにより大きな注目を集めています。
ブレイカーのダンススタイル同様、楽しみ方も自由ですが、国や地域によって独自のブレイクダンスシーンやスタイルが存在するため、それぞれの文化や背景がダンスにどのように反映されているか、バトルの中に違いを探してみるのもおすすめ。パリオリンピックを経て、多様性と包括性を備えているブレイキンがさらにどのように発展していくのか、今後にも注目です。