ちょっとした階段の上り下りで息が切れたり、疲れやすく何をするのも面倒に感じたりすることはありませんか?そんな体の変化は、実は”フレイル”の始まりかもしれません。フレイルとは、加齢に伴う心身の活力低下のことで、放っておくと要介護状態につながる可能性があります。しかし、フレイルは適切な予防で進行を遅らせたり、改善することが可能でもあります。
本記事では、公益財団法人身体教育医学研究所の指導員・横井さんの監修のもと、誰でも気軽に始められる効果的なフレイル予防運動をご紹介します。
フレイルって何?知っておきたい基礎知識
フレイルという言葉を耳にしたことはありませんか?フレイルとは、英語の「frailty」が語源となっていて、日本語に訳すと「虚弱・老衰」などを意味します。フレイルは、ミドルシニアからシニアの健康状態を表す重要な指標として注目されており、単なる加齢による体の衰えを指すのではなく、正しく対策することで改善できる可能性がある状態を指します。
フレイルを理解し、早期に対策を講じることで、健康寿命の延伸や生活の質の維持向上につながります。
元気な状態と日常生活でサポートが必要な介護状態の中間がフレイルです。多くの場合フレイルを経て要介護状態へ進むと考えられています。
フレイルの定義と症状
フレイルとはどんな状態なのか。もう少し詳しく見ていきましょう。
フレイルは、加齢に伴う「心」と「体」つまり、心身の脆弱性として定義されています。具体的には、加齢とともに徐々に進行する心身の活力低下により、ストレスなどに対する抵抗力が弱まったり、生活機能が低下した状態を指します。
フレイルの主な症状には、意図しない体重減少、筋力の低下、全身の疲労感、歩行速度の低下、日常的な活動量の減少などがあり、これらの症状は単独で現れることもありますが、複数の症状が互いに関連し合って現れることが多く、その結果として日常生活の自立度が低下し、要介護状態のリスクが高まるとされています。
フレイルは、筋力低下により活動量が減少し、それによってエネルギー消費量が減り、食欲低下から栄養不足の状態になり、さらに筋力低下が進むという悪循環を生じさせます。この過程で、社会参加の減少による認知機能の低下なども加わり、フレイルがさらに加速していきます。しかし、このフレイルサイクルは適切な介入によって好転させることができるといわれています。フレイルの状態が長く続くと、どのようなリスクが生じるのでしょうか。
フレイルの症状としては、低栄養や筋力の低下、転倒を繰り返すなどの身体的側面と、認知機能や意欲の低下などの精神的側面、家に閉じこもりがちとなって他者との交流が減少する社会的側面とが相互に影響し合っています。健康で自立した生活をできるだけ長く送るためには、元気な状態から要介護までの坂道を急降下せず、いかに緩やかにできるかが大切です。
なぜフレイル予防が重要なのか
フレイル予防は、高齢者の健康を守り、社会を持続させるためにとても大切です。
フレイルの状態を放っておくと、要介護状態になるリスクが大幅に高まります。まずはフレイルに陥らないよう予防策を実践すること。たとえフレイルの状態であっても進行を遅らせることで、介護状態に進むのを抑えることが重要です。そして、自立した生活をより長く、健康寿命を延ばすためにもフレイル予防は欠かせません。
さらに、フレイル予防を心がけることで生活の質(QOL)が向上し、趣味やボランティアなど、社会とのつながりを楽しみながら、より豊かな生活を続けることができます。結果として、より健康で活力のある社会づくりにもつながります。
フレイルは、ちょっとした工夫で予防や、状態を改善することができます。元気で自立した生活を長く楽しむためは、フレイルのことを知って、ご自分の状態を確認し、ちょっとした衰えに気付き、早めに対応して、日常生活にフレイル予防を取り入れていくことが大切です。
あなたはフレイル状態?フレイルチェックリスト
自分がフレイル状態にあるかどうか、気になりませんか?自分は大丈夫と思っていても、気付いていないだけでフレイル状態が進んでいるなんていうことも。次の15個の質問に〇または△でチェックしてみましょう。さっそくチェックリストにそって、ご自分の健康状態を確認してみましょう。
「元気さがしチェック」は「身体活動」「栄養」「社会参加」の3つの項目からチェックができます。〇が12個以上ある場合は元気な状態ですが、まずは△の多い項目からフレイルリスクの改善に取り組んでいきましょう。
フレイル予防!毎日の生活で大切な3つの柱
フレイルを予防するためには、日々の生活の中で心がけるべき3つの柱があります。それは、バランスの良い食事、社会活動への参加、そして運動を取り入れた身体活動です。この3つの柱を意識した生活を心がけることで、フレイルを防ぎ、健康で充実した毎日を過ごすことができます。
それぞれのポイントについて詳しく見ていきましょう。
バランスの良い食事
まず、フレイル予防の基本となるのがたんぱく質を意識したバランスの良い食事です。年齢を重ねていくと、食事量や筋肉量の減少が進んでいきます。この筋肉量を維持するためには、特にたんぱく質をしっかり摂ることが重要です。毎日の食事の中で、さまざまな栄養素をバランスよく取り入れるためのコツとして合言葉をご紹介します。
フレイルを予防するために、毎日の食事の際、役立つのが「さあにぎやか(に)いただく」という合言葉です。東京都健康長寿医療センター研究所が楽しみながら自分の食べ方を確認するために作成したこの合言葉は、『魚(さ)、油(あ)、肉(に)、牛乳(ぎ)、野菜(や)、海藻(か)、芋(い)、卵(た)、大豆(だ)、果物(く)』の10種類の食品群を指しており、毎日7品目以上摂取することを目標としています。
また、十分な水分摂取も忘れてはいけません。水分が不足すると、体調を崩しやすくなるため、のどが渇く前にこまめに水を飲む習慣をつけましょう。
1食あたり約20gのたんぱく質が筋肉を維持できる量です。朝食や昼食が少なくなりやすいので、なるべく3食均等に摂ることが大切です。まずは、いつもの食事にプラス1品、牛乳やチーズなどを加える工夫をして、不足分を補いましょう。
社会活動への参加
社会的フレイルとは、人とのつながりや社会参加の機会が減少することで生じる社会的な脆弱化を指します。社会的フレイルの予防には、地域活動やボランティアへの参加が効果的です。たとえば、地域の清掃活動やお祭りの運営、子供の見守りなどに関わることで、地域との絆が深まり、自己の存在価値や生きがいを感じることができます。
また、絵画や音楽、園芸、読書会など、自分の興味に合った活動に参加することで、同じ趣味を持つ人々と交流し、新たな知識や技能を楽しみながら身につけることができます。
コロナ禍で社会活動が停止した際、高齢者が家に閉じこもることによる健康への悪影響(コロナフレイル)が懸念され、社会活動への参加が健康維持に非常に重要であることが再認識されました。まずは、買い物や散歩などで1日1回は外に出て、週1回は自分に合った興味のある活動に参加してみましょう。
運動を含めた身体活動
フレイルになる大きな原因の1つが運動不足、筋肉の衰えです。その予防には、運動が重要です。無理なく全身を動かすことのできるウォーキングは、道具や特別な技術を必要とせず、誰でも気軽に自分のペースで始められる運動で、心肺機能を高め、筋力低下を防ぐなどの効果がある有酸素運動です。1日20~30分程度の散歩を習慣にすると理想的ですが、5分、10分と小分けに運動しても効果は同じです。
また、筋力トレーニングも重要です。加齢による筋肉量の減少を防ぎ、日常生活での動作を改善させ、転倒予防などの効果もあります。あとで紹介する太ももやお尻の筋肉を鍛える運動から始めてみましょう。
さらに、筋肉の柔軟性を高め、関節の動きの改善を促すストレッチングや、転倒予防に効果のあるバランストレーニングを合わせて行うことが、フレイル予防の鍵となります。
運動を行うことはもちろん大切ですが、なかなかハードルが高いという方には、日常生活で行う活動も大きな意味を持ちます。たとえば、買い物や掃除などの家事や、通勤などの移動は立派な身体活動になります。掃除機をかける動作は全身運動となり、移動は車より自転車、自転車より歩いて、また階段を利用することで筋力維持にも役立ちます。このように生活の中で意識することで、日常の中で自然に体を動かす習慣が身につきます。
運動の大切さは誰もがわかっていますが、一歩を踏み出すことはなかなか大変です。まずは日々の生活や環境のなかに、身体活動を増やせるチャンスがたくさんあることを見つけていきましょう。さらに、厚生労働省が推奨している「+10(プラス・テン)」という活動は、今よりも10分多くからだを動かすことで、健康寿命を延ばし健康を手に入れることができるとしています。健康のための一歩を踏み出しましょう。
参考:厚生労働省|アクティブガイド(いつでもどこでも+10)
5分でできる!効果的なフレイル予防運動
フレイル予防のための運動は、大切だとわかっていても、「運動は苦手」「体力に自信がない」とお悩みの方も多いのではないでしょうか。忙しい日々の中でも、たった5分でできる簡単なエクササイズを取り入れるだけで、フレイル予防に大きな効果が期待できます。
ここからは、横井さんにフレイル予防に効果的な運動を解説していただきます。ここでご紹介する運動は、筋肉を増やす「ちょいトレ」です。ぜひ日常の一部に取り入れてみてください。
ふくらはぎの筋力トレーニング
- 椅子などを支えにして、上に伸びるようにかかとの上げ下げをする
- ゆっくりと10回行う
料理や歯磨き中でも手軽にできます。慣れてきた方はプラス5回速くやってみましょう。
太ももの筋力トレーニング
- 椅子に浅めに座り、良い姿勢で腿を上げる
- そのまま膝を伸ばして(かかとを前へ押し出すように)キープする
座ってできるエクササイズです。太ももに力が入っているのを確認しながら、片足3秒キープを目安に、両足5セット繰り返しましょう。
片足立ち体操
- 椅子などを支えにして軽くつかまる
- 目を開けたまま片足を上げて60秒キープする
左右60秒ずつ。体が上に引き上がるようなイメージで行うと、バランスだけでなく足腰の筋力アップや骨密度の改善効果も期待できます。
オーラルフレイル予防
フレイルというと「心身の活力低下や脆弱」と思い浮かべがちですが、お口の健康状態が全身の健康に大きく影響します。口まわりの筋肉が衰えることで、噛む力や飲み込む力が弱くなり、食事が楽しめなくなったり、栄養不足から全身の筋力低下を引き起こします。さらに、会話がしづらくなることで社会参加の機会が減少する可能性もあります。このようなちょっとしたお口の衰えのことを「オーラルフレイル」と言います。
オーラルフレイルを予防するための簡単なトレーニングとしては、「あいうべぷ体操」があります。「あ・い・う・べ・ぷ」とゆっくり大きく声を出しながら口を動かすだけです。食事前に行うことで、オーラルフレイルや誤嚥予防に役立ちます。
食べる力が衰えると十分な栄養がとれず、毎日元気に過ごせなくなってしまいます。『あいうべぷ体操』で会話や食べる楽しみをいつまでも保ちましょう。
適度な運動習慣を身につけよう
フレイル予防のための運動は毎日少しずつ継続することが非常に大切です。筋力トレーニングや散歩、軽いエクササイズなどを無理のない範囲で短時間でも続けることで、加齢によって失われていく筋力を維持し、体調を整える効果が期待できます。運動を習慣化することで、健康を保ちながら、楽しく日常生活を過ごすことができるようになります。
毎日の習慣に。フレイル予防運動の取り入れ方
フレイル予防運動は毎日の習慣にすることが大切です。ここでは、運動を習慣化するための具体的な方法をご紹介します。
朝のルーティンに組み込む
起床後すぐのストレッチングは、一日のスタートにぴったりです。朝の「日課」に組み込むことで、体を目覚めさせ、活力を引き出すことができます。たとえば、朝目覚めたら、まずベッドで軽く膝を抱え込んだり、膝を立てた足を左右に倒すなど5分間ストレッチングを行ってから起きる、着替えの際には片足で立つことを意識してみるなど、毎朝の習慣にすることが大切です。
また、アラームの音楽をお気に入りの曲にしてみると、運動が楽しみになるかもしれません。モチベーションを維持するためには、進捗を記録し、達成感を感じられるようにすることで習慣化していきます。
運動が習慣化できている方は、朝起き上がる前にベットでストレッチングをすると、体が軽く動きやすくなり、気持ちよく1日のスタートがきれるなど、心地よさを体感しているケースが多いです。特に膝や腰の痛い方におすすめです。
テレビを見ながら、家事の合間の「ながら運動」
家事の合間や、テレビのCM時間を利用して、手軽なミニエクササイズを行うのも一つの手です。前にご紹介した3つの筋力トレーニングやストレッチングなど、ながら運動をすることで、時間を有効に使え、運動を日常生活に自然に組み込むことができます。
テレビのCMはだいたい15秒なので、4つ分で1分運動したことになります。その場足踏みなどの細切れ運動を積み重ねれば、フレイル予防だけでなく生活習慣病予防にも健康づくりにも効果が期待できます。
専門家に聞く!フレイル予防Q&A
ここからは、フレイル予防でよく聞かれているQ&Aについて、横井さんに解説していただきます。
Q.運動の頻度や強度の目安はある?
厚生労働省の「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」によると、高齢者の方は運動のみならず、生活での活動を含み1日約6,000歩以上、そして筋力トレーニングを週2~3日取り入れることが推奨されています。
それが難しい方でも、今よりも少しでも体を動かした方が健康にもフレイル予防にもよいことがわかっています。それと同時に、座ったり寝転んだりした状態でテレビやスマホを見るなど、座りっぱなしで生活する「座位行動」が長くなりすぎないように注意することが大切です。立位困難な方でも、じっとしている時間が長くなりすぎないように、座ってできるストレッチングなど少しでも体を動かしましょう。
Q. フレイル予防はいつから始めるべき?
将来を見据えて、若い頃から生活習慣病の予防と重症化を防ぐことが、高齢期でのフレイル予防につながります。加えて40、50代になり筋力の低下を感じ始めた時が、フレイルについて考えるきっかけになるでしょう。さらに、子育てや仕事がひと段落した時に、新たな人とのつながりや社会参加の機会があることはフレイル予防に重要です。セカンドライフのあり方についてこの時期から考えてはいかがでしょうか。
まとめ フレイル予防をきっかけに体に向き合おう
フレイルを予防するためには、運動を含めた身体活動、バランスの良い食事、社会活動への参加の3つの柱が大切です。今日から簡単に始められる5分間のフレイル予防運動を取り入れて、楽しく充実した日々をお過ごしください。あなたの健康維持に向けた一歩を応援しています。
フレイル予防のための運動は難しいと構えて考えず、まずは座っている座位時間を減らし、細切れでも「すべての身体活動に意味がある」こと、起きている間は生活のなかで体を動かすチャンスがたくさんあることを意識して健康づくりにお役立てください。
※本記事は公開時点の情報に基づき作成されています。記事公開後に制度などが変更される場合がありますので、それぞれホームページなどで最新情報をご確認ください。