健康のためにウォーキングを始めたものの、「長時間歩くと足が痛くなる」といったトラブルを抱えていませんか?もしかしたら自分に合っていない靴を履いているのかも知れません。そのまま履き続けてしまうと、足腰への負担や靴ずれ、外反母趾などの恐れもあり、身体への影響が懸念されます。さらに、足の筋力チェックや正しく歩けているかを見直すことも、より正しくウォーキングのカギになるはずです。
本記事では日本初の‟足専門クリニック”で院長を務める桑原靖先生に、正しいウォーキングシューズの選び方や正しい歩き方などを解説していただきました。
ウォーキングシューズとは?
ウォーキングシューズは、ウォーキングに特化したデザインや構造を持っており、スニーカーやランニングシューズといくつかの違いがあります。ウォーキングシューズの特徴とはどんなものなのでしょうか?
ウォーキングシューズの特徴
- クッション性とサポート力:ウォーキング時のかかとからつま先への体重移動をサポートするため、クッション性が高く、衝撃吸収がしっかりしている。
- 足裏全体のサポート:歩行時に足裏全体で体重を支えることを前提に、安定したソール構造になっている。
- かかと部分の補強:かかとが最初に着地するため、かかと部分が強化され、歩行中の安定性を高めるためのパッドが入っている。
- 柔軟性と屈曲性:歩行中の自然な足の動きに合わせて、足指の付け根で曲がるように設計されている。
- かかと部分とつま先の高低差:ランニングシューズに比べて高低差が少なめ(5~10mm程度)。
- 耐久性:長時間の歩行に適した耐久性の高い素材が使用されている。
なお、スニーカーと呼ばれるものはカジュアルで日常使いがメインで、ウォーキングシューズほどのサポート力はなく、よりファッション性に特化したものといえます。
また、ウォーキングシューズと一見すると似ているランニングシューズは、走るための強い衝撃吸収と反発力が特徴ですが、歩行には少し安定性に欠けるところがあります。それぞれの特徴を理解し、用途に合った靴を選ぶことが重要です。
足のトラブルは女性の方が多い!40代から注意が必要
ウォーキングを始めている、もしくはこれから始めたいと考えている方の中には、足のトラブルを少なからず抱えている方がいらっしゃるかもしれません。
一般的に足のトラブルは女性の方が男性より多く、桑原先生のクリニックでも患者さんの約75%が女性だといいます。
女性の患者さんが多い理由として、女性はもともとの骨の作りが男性に比べて弱く、筋力量が少ないということが前提にありますが、出産を経験されている方はホルモンバランスの影響で足がゆがみ、足のアーチが崩れやすくなります。その影響が40代後半頃から出始めるのです。
特に痛みを感じていなければそのままやりすごしてしまいそうですが、自分の足の状態を把握することで、「実は扁平側だった」など、自分が抱えているトラブルが明確になり、靴選びに活かせるかもしれません。
足の専門医監修 足の機能セルフチェック
足の機能が正常かどうかがチェックできる、4つのテストを桑原先生に教えていただきました。
①つま先10秒チャレンジ
<やり方>
つま先をまっすぐ前に向け、両足でゆっくりつま先立ちをします(支えを使わずに)。かかとをできるだけ高く上げ、そのまま10秒間キープします(かかとが下がらないよう注意)。
<結果>
安定してキープできる→足の機能は良好です。
かかとが上がらない・グラつく→ふくらはぎの筋力低下、扁平足の可能性、足のむくみやすさなどの心配があります。
②片足バランス10秒チャレンジ
<やり方>
素足になり、膝を持ち上げて片足立ちします(支えている脚の膝を曲げない・腕は胸の前で組んで姿勢を保つ)。そのまま10秒間キープします。
<結果>
安定してキープできる→足の機能は良好です。
外側にグラつく→ふくらはぎや股関節外側の筋力が弱い可能性があります。
キープできるが足の指で床を強く抑えてしまっている→足首周りやふくらはぎの筋力が低下し、足がつりやすくなることがあります。
③しゃがみこみフレックステスト
<やり方>
両足をまっすぐ前に向け、手を腕の前で組みます。かかとを浮かせないようにゆっくりとしゃがみ込みます。最後までしゃがみ込めたら成功です(無理のない範囲で行いましょう)
<結果>
最後までしゃがみ込める→足首の柔軟性は良好です
かかとが浮く→足首が硬く、扁平足が悪化するリスクがあります。
④足指クリップテスト
<やり方>
座って足首を90度に保ち、全ての足の指を指の根本から内側に向けてしっかりと握ります。握った時、指や甲の骨が出っ張って見えるかを確認します。(写真のような状態)
<結果>
骨の出っ張りが見える→足の指の筋力が良好で、蹴り出しがしやすく、足への負担は少ないでしょう。
骨の出っ張りが見えない→足の指の筋力が低下し、足やふくらはぎが疲れやすくなる可能性があります。足の指が固まっていて、タコや指先のしびれのリスクもあります。
いかがでしたか?
少しでもテスト結果に不安があったら、足の機能が衰えているのかもしれません。そして、正しい靴選びができていない可能性があります。今一度自分の履いている靴を見直してみましょう。
足の専門医が教える正しいウォーキングシューズの選び方
足の老化を防ぐために有効とされているウォーキングですが、正しい靴を選べていなければ効果が半減するどころか、足を痛めてしまう原因になりかねません。
ここでは、快適に歩ける靴を選ぶ際に特に気をつけるべきポイントを、足の専門医の視点からご紹介します。
まずは“かかとがフィットしているか”をチェック
靴選びで最も重要なのは、「かかとがしっかりフィットしているか」ということです。かかとが合っていないと足が靴の中で前後左右に動いてしまいます。
靴を履いてかかとに靴擦れがおきてしまうのは、合わない靴が脱げそうになって上下に動くからと思われがちです。
実は、足と靴がしっかりフィットしていないために、歩くたびに足のアーチが崩れ、足が過度に内側に傾くことが原因です。その結果、かかとが靴に擦れることが多くなり靴擦れが起こりやすくなるのです。試着時にはかかとをしっかり固定し、歩いて確認することが大切です。
甲がひもやベルトでしっかり固定できているか
せっかくかかとが合っている靴を選べたとしても、甲が浅いものだと歩いている時に脱げそうになり、無意識に指に力が入ってしまいます。そうなると余計に足に負担がかかって疲れやすくなる原因になりかねません。ウォーキング用の靴は履き脱ぎしやすいスリッポンなどは避け、甲がしっかりと覆われていて、ひもやベルトでしっかり固定できるものを選びましょう。
つま先に5~10mm程度余裕があるものを
靴のつま先部分に5〜10mm程度の余裕を持たせましょう。足が少したわみ、前後に伸びたときに衝撃を吸収してくれます。また、少し滑ることで衝撃を逃がしてくれるメリットもあります。
アウトソール(靴底)は程よい厚みのものを
歩く際に踏み返しの動作をスムーズに行うためには、アウトソール(靴底)が足指の付け根部分だけで曲がる構造になっていることが重要です。必要以上に厚底の靴は、指の付け根が曲がらず、正しい踏み返し動作ができないため、履いた感じは楽に見えても実際に歩くと非常に疲れます。逆に、靴底が薄くて完全に平らな靴は、歩行中に足が不安定になりやすく、踏み返しに時間がかかって疲れやすくなるだけでなく、地面からの衝撃が直接足に伝わってしまいます。
かかと部分とつま先の高低差が5~10ミリ程度の靴が理想で、靴底には適度な硬さとクッション性を持つ発泡素材が使われていると良いでしょう。さらに、つま先が少し上がっているデザインの靴であれば、より快適に歩くことができるのでチェックしてみて下さい。
インソールが交換できるものを選ぶ
足のトラブルが多い方は、靴だけで完璧に足に合わせるのは難しいため、インソールを併用することで理想的なフィット感を得られます。自分の足に合ったインソールに交換できるように、取り外し可能なインソールを備えた靴を選ぶことが重要です。ウォーキングシューズでもインソールが取り外せるものが市販されていますので、そういったものをチェックしてみましょう。
ヒールカップも重要
ヒールカップとは、靴のかかと部分を包み込むように設計された構造のことを指します。これは足のかかとをしっかりと固定し、歩行中の安定性を保つための重要な要素です。ヒールカップが適切に足にフィットすることで、靴の中でかかとが動くのを防ぎ、足の疲れや痛みを軽減する効果があります。
メーカーによって形状が異なるので、靴がかかとに合わないと感じた場合は、他メーカーのものを検討してみるのも良いでしょう。
正しい試し履きの仕方
試し履きの手順も重要です。
靴を試着する際は、つま先ではなくかかとを軽く地面に打ち付け、ひもやベルトをしっかり締め、足の甲を固定します。
その後、実際に歩いてみて、歩くときにかかとがしっかりと固定されて動かないかを確認しましょう。かかとと甲の部分がきちんと固定されていれば、歩行中の不安定な動きを靴がサポートしてくれ、足の疲れや痛みが軽減されます。かかとの深さは浅すぎず深すぎず、アキレス腱に当たらない程度が理想です。
“3つの面”で足を固定することが大切
以上のことを踏まえた上で、靴選びのポイントとなるのが、「かかと」「甲の部分」「足底」の3つの面で固定する、ということです。靴の中で前後左右の揺れが生じると足のアーチが崩れ、トラブルが起きやすくなる原因になります。
重要なのは、
- かかと部分をしっかり合わせ、後ろからぐっと掴むような状態にして左右の揺れを抑える
- 靴紐やベルトをぐっと締め、前後の揺れを抑える
- アウトソールやインソールなどで下から立体的に持ち上げる
この3つが守られていれば、足と靴が一体化し、より疲れにくい歩行が実現するはずです。
靴は健康に歩くためのツールとして考え、そのツールが最大限生かされるような靴選びを実践してみてください。
正しい歩き方とは?
足の疲れを予防するためには、自分の足に合った靴を選ぶのはもちろんですが、そもそも正しく歩けていなければ、その効果が半減してしまいます。
「健康のために1日1万歩歩きましょう」といったことが謳われていますが、大切なのは歩く量ではなく、歩き方の質にあるのです。
アキレス腱や股関節の柔軟性が大切
歩くという行為は足のみで行っているものではありません。足というのは体が前に進もうとする力をうまく受け流しているものに過ぎず、体が前に進むのを足を使ってコントロールしている、というイメージです。
その動きをスムースにするために一番重要なのが、アキレス腱の柔軟性です。アキレス腱や足首が硬い方は前に進む力をうまく受け流すことができず、足首をしっかり前に倒せないため、歩幅が狭くなってしまいます。
さらに、かかとが早く浮く際に無理に足をひねって前進しようとすると、回転の力が指の付け根にかかり、そこにタコやウオノメができやすくなるといったトラブルに見舞われる可能性があります。
また、股関節の柔軟性や体幹の筋力も大切です。
例えば、右足を前に出す際には、まず右の骨盤を前に出し、同時に左の肩を前に出します。その際、左足のアキレス腱が伸びているのを感じながら、徐々に右足のかかとに体重を移していきましょう。このとき、左肩を前に出しすぎると、腰のねじれがうまく歩幅に反映されないため、右の骨盤をしっかり前に出して歩く距離を稼ぎます。右の骨盤を前に動かすためには、右の股関節は外側に回転し、左の股関節は内側に回転する必要があり、これには股関節の柔軟性が求められます。
そして、この骨盤を水平に保つためには体幹を鍛えることも大切になってくるのです。
全身を使って歩けていれば、1万歩を歩かずとも足に負担をかけずウォーキングの効果が発揮されるはずです。
アキレス腱ストレッチを取り入れよう
アキレス腱の柔軟に効果のある「アキレス腱ストレッチ」を実践してみましょう。
- 両手を肘が曲がらないようまっすぐつける。
- 片方の足を前に踏み出す。つま先は壁に対してまっすぐ前を向き、垂直にする。
- 反対側の足を膝を曲げずに伸ばしアキレス腱を伸ばす。かかとはしっかり床につけることを意識する。
- 反対側の足も同様に行う。
自宅で簡単にできるので、ウォーキングの前はもちろん、体が硬くなっている朝に取り入れるのもおすすめです。
まとめ:自分にあったウォーキングシューズで正しく歩いて健康を手に入れよう
ウォーキングにおいてまず大切なことは、「無理して長距離を歩こうとしないこと」です。これから始めようと思っている方は特に、限界を超えてしまうと足を痛めてしまう恐れがあるので、過度な努力はせず、足の状態を確認しながら自分のペースで続けていくことが健康維持のためには重要です。
また、日本人に多いとされる扁平足の傾向が強い方は、自分の足に合ったインソールを取り入れてみましょう。正しいインソールを選べれば、足のアーチの立体構造を保ちながらウォーキングが続けられるはずです。
靴の購入の際には、スポーツ用品店や靴専門店に出向き、店員さんにご自分に合った靴を選んでもらうことをおすすめします。より正しいウォーキングが実践できるでしょう。
また、過度な扁平足な方や外反母趾に悩んでいる方は、ウォーキングを始める前に一度医療機関に相談してみてはいかがでしょうか。
健康維持のために何かしたいと思った時、ウォーキングは老若男女誰でも取り入れやすく続けやすい簡単な運動のひとつだと思います。
長く続けていくために、
- 自分の足の状態を知る
- 正しい靴選びをする
- 全身を使いながら正しい歩き方をする
を意識して、ウォーキングを楽しい時間にしていきましょう。
※本記事は公開時点の情報に基づき作成されています。記事公開後に制度などが変更される場合がありますので、それぞれホームページなどで最新情報をご確認ください。