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【専門家監修】目の健康寿命を延ばすために知っておくべきこと

【専門家監修】目の健康寿命を延ばすために知っておくべきこと
梶田 雅義

監修者

眼科梶田塾 塾長

梶田 雅義

眼科梶田塾 塾長。東京医科歯科大学医学部 臨床教授(2018-2022)。 1976年、国立山形大学工学部電子工学科卒業。1983年、福島県立医科大学卒業。1993~1995年カリフォルニア大学バークレー校へ留学(研究員)。2003年、梶田眼科院長。2018年、東京医科歯科大学医学部臨床教授に就任。眼の使い方は自律神経に直接影響するという独自の考えから、遠近両用やプリズム眼鏡を用いた調節機能の補助を軸とした治療を行う。全国から多くの患者さんが訪れ、テレビや雑誌などのメディアでも活躍している。

薄暗い場所で文字が読みづらい、ピントが合いにくい、目が疲れやすく感じるなど、年齢を重ねるにつれて目の悩みは増えていきます。では、快適な視界を保つためにはどのような対策が必要なのでしょうか?東京医科歯科大学医学部 臨床教授 梶田先生監修のもと、将来的に深刻な目の病気を防ぐために、今から実践できる方法をお伝えします。

目の健康寿命とは?

目の健康寿命とは?

私たちの生活に欠かせない目。生まれたばかりの赤ちゃんは、視力がまだ十分ではありませんが、成長とともに視力は発達し、一般的に3歳頃には安定してきます。しかし、視力以外の機能、たとえば、ピントを合わせる能力は、実は思春期頃をピークに徐々に低下し始めることをご存知でしょうか?

目の健康寿命とは、年齢を重ねても、日常生活で視力に不自由を感じることなく、快適に過ごせる期間を指します。人のピント調節機能は、10代、20代は比較的安定していますが、30代以降は徐々に低下していきます。ピントを合わせる力は、年齢とともに低下するため、近くのものが見えにくくなる「老眼」という状態になります。目の健康寿命は、生活の質を大きく左右します。年齢を重ねても、快適な”視生活”を送るために、日頃から目の健康に気を配ることが大切です。

「正視」は、遠近ともに良く見える状態で、「近視」は遠くのものも見えにくい状態、「遠視」は近くのものが見えにくい状態を指します。目の健康寿命を延ばすためには、自身の目の状態を知り、目の異常の早期発見と適切なケアが大切です。

目のメカニズム

目のメカニズム

私たちが何かを見ようとする時、目はカメラのように働いています。まず、光が角膜と水晶体というレンズを通って、網膜というスクリーンに像を映し出します。この像は、網膜にあるたくさんの細胞によって電気信号に変えられ、脳に送られます。そして、脳の視覚野でその信号を処理し、私たちに見えている景色を作り出しているのです。では、目はどのようにしてピントを合わせているのでしょうか。それは、水晶体の厚みを変化させることで行われています。

遠くを見る時:水晶体を薄くして、遠くの景色にピントを合わせます
近くを見る時: 水晶体を厚くして、近くの物にピントを合わせます

この水晶体の厚みを調整しているのは、目の中にある筋肉である毛様体筋(もうようたいきん)です。毛様体筋は、私たちの意思とは関係なく働く筋肉で、自律神経によってコントロールされています。しかし、現代人はパソコンやスマートフォンを長時間使うことが多く、本来交感神経が優位になり遠くを見るべき時間帯にも近くのものばかり見ています。そのため、副交感神経が過剰に働き、自律神経のバランスが崩れてしまうことがあります。自律神経のバランスが崩れると、毛様体筋が常に緊張状態になり、目が疲れやすくなります。また、不眠やイライラ感などの身体的な不調も引き起こす可能性があります。

目は、カメラのように光を集め、脳に情報を伝える精密な器官です。ピント合わせは、水晶体の厚みを変化させることで行われ、その働きをコントロールしているのは自律神経です。現代人の生活習慣は、自律神経のバランスを崩し、目のみではなく全身の健康を損なう可能性があるため、注意が必要です。

目の健康寿命を延ばす方法

目の健康寿命を延ばす方法

「目が疲れる」「最近、見えにくい気がする」そんな悩みをお持ちではありませんか?実は、これらの症状は、目の健康寿命が短くなっているサインかもしれません。では、目の健康寿命を延ばすためにはどのような方法があるのでしょうか?具体的な方法について詳しく解説していきます。

スマホやタブレット使用時には目の「眼球運動」を意識する

オンライン講義やWEB会議など、現代社会ではスマートフォンやタブレットといったデバイスの使用が不可欠になっています。しかし、デバイスを長時間利用すると、目が疲れたり、視力低下につながる可能性があります。目を健康に保つためには、目の筋肉を適切に動かし続けることが重要です。目の筋肉には、ピントを合わせる働きをする毛様体筋と、目の向きを調整する外眼筋があります。スマートフォンやタブレットを使用する際は、10分に1度、1~2秒間、視線を遠くの一定の場所に移動させることを心がけましょう。

たとえば天井のシミなど、ピントが合うギリギリの遠い距離にあるものが最適です。近くを見ているときに眼を寄せている状態から、遠くを見ることで眼が開散(近くを見ているときに寄せている目が真っ直ぐ前を向き、目を寄せる外眼筋が緩む)します。これにより、毛様体筋と外眼筋の両方が動いて、目の筋肉全体がストレッチされるような効果が期待できます。目はよくカメラに例えられますが、カメラにはピントを合わせる機能があり、それを使いすぎるとパーツが劣化しますよね。しかし、人の目は違って、使い続けることで逆にトレーニングになっています。ぜひ、今日から実践してみましょう。

目に良い栄養素を摂取する

スマートフォンやタブレットの使用は、現代人の生活に欠かせないものとなっています。しかし、長時間同じ姿勢で画面を見続けていると、目の疲れや乾燥といった不快な症状を引き起こす可能性があります。そこで注目したいのが、食事やサプリメントによる目の栄養補給です。

目の疲れに効果的な栄養素として挙げられるのが、アスタキサンチンです。鮭やエビなどの赤い色素成分として知られるアスタキサンチンは、強い抗酸化作用を持ち、目の疲れを回復させる効果が期待されています。特に、眼のピントを合わせる部分への良い影響が注目されており、老眼鏡やコンタクトレンズを使い始めた人におすすめです。また、ブルーベリーに含まれるアントシアニンは、視力改善や夜間の視力向上に効果があると言われています。さまざまな種類の目のサプリメントが販売されていますが、バランスの良い食事を基本とし、サプリメントはあくまで栄養補助食品として活用しましょう。

栗きんとんに多く含まれているカロテノイドは、緑黄色野菜に多く含まれる色素成分で、目の黄斑部の機能をサポートし、加齢黄斑変性などの予防に役立つという研究結果も出ています。たとえば、老眼鏡やコンタクトレンズを使い始めた時期に、アスタキサンチンのサプリメントを摂取するのもおすすめです。目が眼鏡やコンタクトレンズに慣れてきたら、サプリの摂取を中止しても大丈夫。上手に活用してください。

早めに眼鏡をつくる

目の健康寿命を延ばすためには、早めに老眼対策を行うことが大切です。特に、遠視の方は注意が必要です。遠視は遠くが見えるため、自分は目が良いと思い込んで、老眼に気づかない人が多いのです。特に、強い遠視の方は、30代から近くが見えづらくなる場合もあります。老眼鏡や遠近両用眼鏡の処方を誤ると、目の調整力が一気に低下してしまう可能性があります。適切な視力補正を行うことで、より快適な”視生活”を送ることができます。

40歳を過ぎると、水晶体の厚さを変えてピントを合わせる調節力が低下し、老眼が始まります。「まだ見える」と思って目を細めながら裸眼で頑張っていると、老眼の初期症状である疲れ目が悪化することがあります。また、老眼だけでなく、遠くにピントが合っている遠視や、両眼の視線にずれが生じる眼位異常もあるため、これらに適切に調節力を補わないと、毛様体筋だけでなく眼球を動かす筋肉にも疲労が蓄積され、結果として頭痛や肩こりの原因になることがあります。

これって本当?目の健康にまつわるQ&A

これって本当?目の健康にまつわるQ&A

「目を大切に」という言葉はよく耳にするけれど、一体どうすればいいのか、迷ってしまう方も多いのではないでしょうか?目の健康に関するよくある疑問について、梶田先生がQ&A形式で解説します。

緑や遠くを見ると目に良いのでしょうか?

緑や遠くを見ることで心がリラックスすることはありますが、目が癒されるという科学的な根拠はありません。ただし、長時間同じ方向を見続けることを避け、視線を動かすことは、目の疲れを軽減する上で大切です。

やってはいけない・避けるべきことは?

一つ目は、目を擦ることです。特にアレルギーなどをお持ちの方は、目を擦ると角膜を傷つけたり、感染症を引き起こす可能性があります。また、アイラインを目のキワに塗るのも避けた方が良いです。マイボーム腺と呼ばれるまぶたの内側にアイラインが入り込むと、結膜炎の原因になることがあります。最後に、コンタクトレンズを長時間装着することも避けるべきです。コンタクトレンズは医療機器です。長時間装着すると、角膜に酸素が行き届かなくなり、眼病の原因となることがあります。

目の運動は眼鏡やコンタクトレンズをつけたままでもできますか?

はい、眼鏡やコンタクトレンズをつけたままでも、目の運動をして大丈夫です。目線を天井にそらしたり、上下左右にゆっくりと視線を動かすなどの簡単な運動がおすすめです。

高齢でも視力が保たれる人はいますか?

はい、100歳近くまで視力を保っている方はいます。目を大切に使い続けることが、視力維持の秘訣です。バランスの取れた食事、十分な睡眠、そして定期的な眼科検診を受けることが大切です。

目を大切に守るだけでなく、細かく使って鍛えることが重要

目を大切に守るだけでなく、細かく使って鍛えることが重要

「目は使うほどに悪くなる」というイメージを持っている方も多いかもしれません。しかし、実は目は使うことで鍛えられる臓器なのです。私たちの身体は、使わない筋肉が衰えていくように、目も同じです。目の周りには、ピントを合わせたり、目を動かしたりするための筋肉がいくつもあります。目の周りの筋肉を意識的に動かすことで、老化による視力低下を遅らせることができます。目はしっかり動かし、使ってあげることが大切なのです。

目の健康は、生活習慣や年齢だけでなく、遺伝的な要素も関係してきます。しかし、日頃から意識して目をケアすることで、視力低下を予防することができます。1日の終わりには、蒸しタオルなどで疲れた目を温めると、目の周りの血行がよくなり、眼精疲労の予防や改善につながります。

目の健康を維持したい!老化を感じたらこの眼鏡

目の健康を維持したい!老化を感じたらこの眼鏡

近視の方は、加齢とともに近視の度数が弱まります。しかし、眼鏡を外せば近くはよく見えるため、眼鏡が合わなくなってきていることに気づきにくいことも。たとえば、「人との対談中に眼鏡を外してしまう」「食事中に眼鏡を外してしまう」「スマホを見るときに眼鏡レンズの外から裸眼で見ている」…これらの症状が出始めた場合は、遠近両用眼鏡の検討が必要です。また、遠視の人も遠くが見えるため「自分は目が良い」と思い込み、老眼に気づかないケースが非常に多いと言われています。遠視の方は、老眼の進行が早い場合があるため、早めの対策が大切です。

遠近両用眼鏡は、手元だけに見やすい老眼鏡と異なり、一枚のレンズで様々な距離にピントを合わせることができます。眼鏡は、単なる視力補正器具ではなく、生活の質を大きく左右するアイテムです。自分に合った眼鏡を選ぶことで、より快適な日々を送ることができます。眼科医や眼鏡店と相談しながら、最適な眼鏡を選びましょう。

遠視の方は、老眼鏡や遠近両用眼鏡の処方を誤ると、目のピントを合わせる能力である「調節力」が急速に低下してしまう可能性があります。特に度数が+3.00D以上の強い遠視の方は、比較的若いうちから老眼の影響が出やすい傾向があるので注意しましょう。

合わない眼鏡をかけ続ける弊害

「まだ大丈夫だから」と合わない眼鏡をかけ続けるとどのような影響があるのでしょうか?

私たちの目は、自律神経によってコントロールされています。近くを見るときには、副交感神経が優位になり、ピント合わせは頑張っていますが、身体はリラックスした状態に戻ろうとします。合わない眼鏡をかけて無理に近くを見続けると、副交感神経が過剰に働いてしまい、さまざまな不調を引き起こすのです。

たとえば、ドライアイの状態になると涙の量が減少し、目が乾燥しやすくなります。また、逆に、涙の量が増えてしまい、目がしょぼしょぼする状態になることも。目の筋肉が緊張し、周辺の筋肉にも影響を与え、眼の奥の痛み、頭痛、肩こりといった痛みやこりを引き起こします。自律神経のバランスが崩れ、自律神経失調症や軽度のうつ状態になることもあります。

合わない眼鏡をかけ続けることは、目の健康だけでなく、全身の健康にも悪影響を及ぼします。もし、眼の疲れや身体の不調を感じている場合は、一度眼科を受診し、目のピント合わせなどの視機能検査を受けることをおすすめします。

これらの症状は、眼鏡の度数を調整することで改善されるケースが多くあります。実際に、体調不良で仕事を辞めそうになっていた人が、眼鏡を調整することで症状が改善し、社会復帰できたという例も少なくありません。眼鏡は、単なる視力補正器具ではなく、健康な生活を送るための大切なツールです。年齢を重ねるごとに視力や目の状態も変化していきます。定期的に眼科を受診し、自分に合った眼鏡を選びましょう。

まとめ:目の健康を意識し、「快適に見える目」を守ろう

まとめ:目の健康を意識し、「快適に見える目」を守ろう

目の健康は、単に物を見るための機能だけでなく、私たちの生活の質を大きく左右する重要な要素です。合わない眼鏡をかけ続けることは、目の疲れだけでなく、頭痛や肩こり、さらには自律神経の乱れを引き起こす可能性があります。目を意識的に動かすこと、目の健康を意識し、「快適に見える目」を長く守りましょう。

※本記事は公開時点の情報に基づき作成されています。記事公開後に制度などが変更される場合がありますので、それぞれホームページなどで最新情報をご確認ください。

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