「年齢を重ねても好きなものを美味しく食べたい!」誰もが願うことですよね。しかし、年齢とともに喉は少しずつ老化し、誤嚥のリスクも高まってきます。この問題、実は日々のちょっとした工夫で予防できるかもしれません。この記事では、歯科医として摂食嚥下障がいや、口腔機能障がいの治療、高齢者の訪問診療に従事されている深津ひかり先生にお話をうかがい、喉の老化のメカニズムと老化を防ぎ、誤嚥性肺炎のリスクを減らすための具体的な方法をご紹介します。
飲み込みに変化が?喉が衰える4つの原因
「最近、声がかすれる」「飲み込みが以前より遅くなった」そんな風に感じたことはありませんか?年齢を重ねるにつれて、私たちの身体はさまざまな変化を経験します。その一つが、喉の老化です。一体なぜ、喉は老いていくのでしょうか?食事を美味しく楽しむために知っておきたい、喉の老化のメカニズムについて詳しく解説します。
加齢による筋力の低下
喉の筋肉は、私たちの体にある他の筋肉と同じように、年齢を重ねるごとに衰えていきます。喉の筋肉が弱ると、飲み込みにくくなったり、むせやすくなったりとさまざまな症状が発生します。
喉の機能低下に関しては、筋肉の衰えが要因の一つと考えられます。それに加えて特に首の長い男性の方や、やせている方は、飲み込む時に喉を絞り込むことが難しくなるのでむせやすい傾向が強いように感じます。やせている方は、そもそも筋肉量が少ないため、喉の筋肉も弱りやすいといえるでしょう。
人との会話の減少
なぜ喉の筋肉は衰えてしまうのでしょうか?その原因は老化だけではありません。人との会話や歌う機会が減ると、喉の筋肉を使うことが減り、筋肉が衰えてしまいます。特にコロナ禍以降、人との接触が減ったことで、この傾向が加速しているといわれています。
現役の時は、仕事で会話する機会も多く、喉をたくさん使っていました。しかし、退職後などは急にそのような機会が減ってしまい、使わない筋肉は徐々に衰えてしまうことがあります。
唾液分泌の減少
唾液は、食べ物を飲み込みやすい形にまとめるために重要な役割を果たしています。唾液が減ると、喉が乾燥し、飲み込みにくくなったり、誤嚥のリスクが高まったりします。加齢とともに、唾液を分泌する唾液腺が少しずつ変化していき、唾液をたくさん作ることができなくなります。これにより口の中が乾燥しやすい状態、いわゆるドライマウスになってしまいます。
年齢を重ねるにつれて、唾液腺の働きが低下し、唾液の分泌量が減少していきます。また、持病がある方は、薬の副作用が大きな原因になります。高血圧の薬、抗うつ薬、利尿剤など、多くの種類の薬が唾液の分泌を抑制する副作用を持っており、複数の種類の薬を服用していると、ドライマウスになるリスクが高まります。
喉の老化で起こるトラブル対策
喉の老化は、加齢とともに誰もが経験する自然な現象ですが、適切なケアを行うことで、その影響を最小限に抑えることができます。喉の老化によって起こる具体的なトラブルとその対策について詳しく見ていきましょう。
咳き込み・誤嚥
水分や飲み物を飲み込む際に起きやすい咳き込みや誤嚥の増加も気をつけるべき問題です。誤嚥は、飲食物が気管に入ってしまうことを指し、その過程で咳き込みが発生します。誤嚥を防ぐためには、食事中に姿勢を正すこと、一口ずつゆっくりと飲み込むこと、そして嚥下リハビリや嚥下体操で喉の筋力を維持・向上させることが大切です。特に高齢者の方は、定期的に嚥下機能をチェックすることをおすすめします。
誤嚥を防ぐためには、噛んで飲み込むという嚥下を意識化し、目の前の食事に集中することが大切です。また、口腔体操や嚥下体操といった、口や喉の筋肉を鍛える運動を取り入れてみましょう。
一方、むせることは、決して悪いことばかりではありません。食べ物が気管に入ろうとしているときに、体が身を守るための防御反応として起こるものです。すなわち、咳で誤嚥した物を吐き出すことができれば、誤嚥性肺炎になりにくいといえます。
肺炎
喉の老化に伴う最も深刻な問題のひとつが肺炎のリスク増加です。喉の筋力が弱くなると、食べ物や飲み物が誤って気道に入りやすくなります。これが原因で起こる肺炎を誤嚥性肺炎と呼びます。しかし、誤嚥性肺炎は喉の老化だけが原因ではありません。口腔機能の低下は、全身の衰えとも深く関連しています。バランスの取れた食事を心がけ、マッサージや会話など喉の筋肉を動かし、適度な運動を取り入れ、全身の体力維持を図りましょう。さらに、高齢者の場合は、肺炎球菌ワクチンの接種も、肺炎予防に効果的です。
ご自身の身体の変化に敏感になり、適切なケアを行うことで、健康な日々を送ることができます。何かご不明な点があれば、歯科医や耳鼻咽喉科を受診して、専門家のアドバイスを受けることをおすすめします。
あなたは大丈夫?喉の老化度セルフチェック
「最近、飲み込みに違和感を感じる」、「誤嚥に不安がある」、「ご家族の嚥下機能が気になる…」という方は、嚥下機能のセルフチェックが簡単にできる『嚥下スクリーニングツール』の使用がおすすめです。
喉の老化は、嚥下能力にも直結しています。嚥下には、食べ物を口から食道へ安全に運ぶという重要な役割があります。この機能がうまく働かなくなると、誤って食べ物が気管に入ってしまう誤嚥(ごえん)が起こりやすくなり、肺炎などの重篤な病気を引き起こすリスクも高まります。簡単な10個の質問に答えるだけで、嚥下機能に問題があるかどうかを自己評価することができます。
食事中に咳が出ることが頻繁にあるようでしたら、それは単なる咳ではなく、何か別の原因が隠れているかもしれません。嚥下、つまり飲み込む動作に少し問題が生じている可能性があるのです。『嚥下スクリーニングツール(EAT-10)』の結果を見て、もし嚥下に関する問題が疑われるようであれば、早めに専門医にご相談ください。専門医は、より詳しい検査を行い、原因を特定し、適切な治療法を提案することができます。
喉を鍛えるためにできること
喉の健康を保つためには、日常生活の中で簡単に取り入れられるエクササイズや習慣を実践することが大切です。ここからは、喉を鍛えるべく、飲み込みをスムーズにするための具体的な方法をご紹介します。
1日3食きちんと食べて動かす「嚥下運動」
「食べる」ことは、生きる上で欠かせない活動です。しかし、単に栄養を摂取するだけでなく、食事は私たちの「喉」にとっても大切な役割を果たしていることをご存知でしょうか?食事をする際には、食べ物を噛み砕き、飲み込むという一連の動作を行います。この一連の動作を「嚥下」と言います。嚥下には、口、舌、喉など、多くの筋肉が複雑に連携して働いています。毎日の食事は、これらの筋肉を自然に動かす絶好の機会なのです。食事の際に、しっかりと噛み、飲み込む動作を意識することで、これらの筋肉が鍛えられ、嚥下機能の維持に繋がります。
1日3食規則正しく食事をとることで、喉の筋肉が常に活動状態を保ち、衰えを防ぎます。また、食事をすることで、唾液の分泌が促され、口の中が潤います。唾液には、自浄作用があり、口の中を清潔に保つ働きがあるため、口腔内の健康にも繋がります。飲み込みにくさを感じたり、食事中にむせることが多くなった場合は、一度歯科や耳鼻咽喉科で相談してください。
口腔内で舌を動かす「舌のストレッチ」
「口のストレッチ」と聞くと、少し意外に感じる方もいるかもしれません。しかし、口の周りの筋肉、特に舌を動かすことは、健康な口腔を維持し、飲み込みをスムーズにする上でとても大切なことなのです。舌は、食べ物を飲み込む際、最も重要な役割を担う筋肉の一つです。舌を動かすことで、食べ物を奥に送り込み、飲み込む準備を整えます。口を閉じて、舌をゆっくりと上下左右に動かします。また、口元の筋肉を鍛える「あいうべ体操」など、舌を思い切り突出させることも効果的です。舌全体を大きく動かすことを意識しましょう。
舌のストレッチは、場所や時間を問わず、いつでもどこでも行うことができます。舌の筋肉を鍛えることで、飲み込みがスムーズになり、誤嚥のリスクを減らすことができます。ぜひ、毎日の習慣に取り入れて、健康な口腔を維持しましょう。
唾液分泌を促す「人との会話」
普段何気なく行っている「会話」ですが、実は、私たちの喉を健康に保つ上で、とても重要な役割を果たしています。発音するために、口の周りの筋肉をたくさん使います。また、話すことで口の周りの筋肉が刺激され、唾液の分泌が促されます。唾液には、口の中を清潔に保つ働きや、食べ物を飲み込みやすくする働きがあるため、口腔内の健康にも繋がります。
最近、人との会話量が減ったという方は、喉の老化が進行している可能性があります。会話は対面でなくても、電話やオンライン、カラオケなどでも大丈夫です。
唾液を出すための「マッサージ」
唾液は健康な成人で一日1.0~1.5L分泌されると言われ、喉の働きを促す大切な役割を担っています。
唾液腺は、主に舌下腺、顎下腺、耳下腺の3つがあり、これらの腺を口腔内から軽く手で押したり、マッサージすることで唾液の流れを良くし、口腔内の乾燥を防ぐことができます。唾液の分泌を促進することは、口腔内の乾燥や不快感、飲み込みづらさを改善するために効果的です。特に、食事前や歯みがきの際に行うと口腔内の潤いが増し、飲み込みや会話がスムーズになります。
専用の口腔ジェルを使って唾液腺マッサージを行ったり、ガムを噛むなどもおすすめです。唾液を出しやすいレモン味や梅干し味、ミント味などさまざまなバリエーションがありますので、お好みで使ってみてください。
まとめ:人生100年時代!最後まで健康な喉でいるために
喉の筋肉低下を感じた場合にはその原因に応じて適切な対策を講じることが大切です。少しでも「おかしいな」と感じたら、早めに専門医を受診し、適切なケアを受けることが、喉の健康を守るカギとなります。人生100年時代を健やかに過ごすためには、喉の老化予防に早い段階から取り組み、最後まで健康な生活を送りましょう。
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