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【まさにサイレントキラー】女性のがん、死亡率トップは「大腸がん」…女性が見逃しがちな“サイン”とは
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【まさにサイレントキラー】女性のがん、死亡率トップは「大腸がん」…女性が見逃しがちな“サイン”とは

がんの中でも、罹患数・死亡数ともに男女共通でTOP3を占めている「大腸がん」。さらに言うと、女性にとっては死亡率トップのがんでもあります。本稿では女性の大腸がんに着目し、女性が気をつけるべきポイント、実は大腸がんかもしれないサイン、予防・早期発見のためにできる取り組みなどを見ていきましょう。消化器内科医・齋藤宏章医師が解説します。

「大腸がん」を見逃しやすい、女性ならではの事情

「大腸がん」を見逃しやすい、女性ならではの事情

私は消化器内科医として、大腸がんの予防や啓発に取り組んでいます。日々、患者さんのお腹の調子に関わる相談を受けたり、大腸内視鏡検査(大腸カメラ)を提供したりしています。

実は、胃腸の調子に関わるトラブルには男女に少し傾向の差があります。たとえば、特に女性の場合には、日頃から便秘や下痢に悩まされている方も多いと思います。一方で、痔や単なる便秘かなと思っていたら実は大腸がんだった、ということも少なくありません。

特に女性は大腸がんが、がん種別の死亡の原因の一位(2021年)となっており、注意する必要があります。今回は大腸がんに関連して、女性が気をつける点に焦点を当てて解説していきます。

多くの女性が「慢性的な便秘」に悩んでいる

多くの女性が「慢性的な便秘」に悩んでいる

慢性的に便秘に悩まされている、というのは女性の患者さんから相談を受けることが多い症状のひとつです。特に、単に便秘になるというよりも、小さくウサギの糞のようなお通じが出る、逆に下痢になることもある、便が出るまでお腹が痛い、不快感がある、1日の排便の回数が変化する(頻度が多かったり、少なかったりする)というような症状は、医学的には過敏性腸症候群と認識されています。実際の診療の場面でも、よくお話を伺うと、単に便秘になるというよりはこのような症状に悩まされているケースが多いです。

女性の場合、便秘の症状が主である便秘型の過敏性腸症候群が多いことが知られています。2008年に公開されたインターネットのアンケートをもとに発表された研究(*1)では、日本人女性の20代から60代の約4%から7%が便秘型の過敏性腸症候群を有していました。男性ではこれらは0.3%から2%と低かったのと対照的です。便秘と下痢の症状が混じるような混合型の過敏性腸症候群を含めると、実に8%から20%の女性がこれらの症状に悩まされていました。

どうして女性の方が、このような症状に悩まされることが多いのでしょうか。いくつかのメカニズムが考えられていますが、女性ホルモンが重要な因子のひとつとして知られています。女性ホルモンにはエストロゲンとプロゲステロンがありますが、特にプロゲステロンは腸の蠕動(ぜんどう)運動を抑制する作用があります。これらのホルモンは月経周期と共に分泌量が変化するため、過敏性腸症候群の女性は月経周期に応じて便秘症状が変化しやすいことが知られています。このようなホルモンの兼ね合いからか、一般的に女性の方が男性よりも便が大腸を通過していく時間が長いことも知られています。慢性的な便秘症やお通じの悩みは女性の皆さんの共通する問題といえるでしょう。

便秘を解消するには?

ちなみに、便秘症は薬による治療の他にも、食事の摂取や生活習慣でも改善される可能性も指摘されています。最近の研究ではキウイフルーツが便秘症にいいという報告があります。ニュージーランドで行われた研究では、1日2個のキウイフルーツの摂取で便秘症の方でも排便回数が週に約1.5回増えたということです。キウイフルーツに含まれる繊維は膨張して水分を保つため、便を柔らかくする効果があるそうです(*2)。便秘の際には果物を摂った方がよいと言われることがありますが、身近な果物でも効果があるものが他にもあるかもしれません。

また、米国で行われた14,000人のアンケート調査の結果では、睡眠時間が短い(7時間未満)、あるいは長い(8時間以上)のいずれも、平均的な方よりも便秘症の割合が高かったそうです。ちょうどいい睡眠が腸の活動にも関わっているということです。

便秘かな…と思いきや大腸がんだった!? こんな症状に要注意

便秘かな…と思いきや大腸がんだった!? こんな症状に要注意

さて、女性にとって便秘は身近な症状ですが、厄介なことに便秘や下痢などの排便の悩みは大腸がんの症状の一つでもあります。一方で、大腸がんの際に出てくる危険な“サイン”があることも知られています。医学雑誌『Surgery』に2023年に掲載された研究(*3)では、大腸がんと診断された286名の方が受診した際の症状を報告しています。この論文によると、最も多い症状は腹痛となっており、排便の変化肛門からの出血体重減少が続いていました。

肛門からの出血や、急激な体重減少、普段とは違うような痛みなどは、過敏性腸症候群や単なる便秘症では出現しにくい症状です。普段は便秘をしないのに、最近急に便秘をするようになった場合なども当てはまるでしょう。これらの症状に気づいた場合にはすぐに医療機関を受診することをおすすめします。

また、貧血にも注意する必要があります。大腸がんは初期の段階ではほとんど症状を出さないがんですが、日常的にがんの表面から少しずつ出血をすることで貧血が進んでいくことがあります。実際、2020年に米国から報告された研究では、18歳から49歳の男女を5年間追跡すると、貧血がない方に比べて貧血症状がある方は、大腸がんが発見されるリスクが10倍高かったそうです(*4)。これはつまり、貧血症状や貧血の数値がある方には大腸がんが隠れているリスクが高い、ということを示唆しています。貧血の程度が軽い場合には症状に出づらく、注意が向かないことがあるため、定期的な採血などの健康診断は重要です。

特に女性の場合には、いつも生理が重いから、という理由で貧血の詳しい検査をされていない方や、そもそも貧血の症状に慣れてしまっている方も見受けられます。確かに、婦人科領域の出血が原因で貧血、あるいは貧血傾向になっている場合もあります。一方で、貧血が大腸がんの始めの“サイン”ということもあります。

私は病院の診察で、貧血の女性の方を見かけた際には、お通じの様子や、お腹の症状、今までの貧血の程度をお聞きし、場合によってはその時点で大腸カメラもおすすめしています。腹痛などの大腸がんの兆候が出た際に検査を受けることはもちろんのこと、症状が軽いうちに検査を受けられるのが理想的です。

大腸がんのリスクを減らすには?

大腸がんのリスクを減らすには?

では、どのような取り組みで大腸がんのリスクを減らせるでしょうか。

慢性的な便秘があるなら受診を

よく、「便秘の人の方が大腸がんになりやすいのでしょうか」、という質問を受けることがあります。もちろん、大腸がんの症状として、便秘になることはあるため、注意することは重要ですが、便秘であることそのものは大腸がんのリスクを必ずしも高めないようだ、といわれています。例えば日本の国立がんセンターが2006年に報告した研究結果(*5)によると、便秘症の方とそうでない方で大腸がんの発症リスクは変わりませんでした。

また、上記で説明した過敏性腸症候群の方は、むしろ大腸がんの発症が少ないという研究結果もあります。2022年5月に英国から報告された450,000人を追跡調査した研究(*6)では、過敏性腸症候群の方はそうでない方よりも大腸がんの発症率が低く、かつ大腸がんによる死亡リスクも低かったと示されました。研究の担当者は、恐らく過敏性腸症候群の方のほうが病院を受診する機会が多く、大腸カメラの検査を受ける機会もあるために、大腸がんの発症や死亡を低く抑えられている可能性があると結論しています。

少なくとも便秘そのものによって大腸がんのリスクを上げる心配は必要ないと思われますが、症状が続く場合は医療機関への受診が重要、ということです。

インスタント食品はリスクを上げる、ヨーグルトや乳製品デザートはリスクを下げる!?

また、食品の摂取と大腸がんの関係に関する興味深い研究を紹介します。この研究は2022年に著名な医学誌に掲載されました(*7)。米国の200,000人を対象に、食事生活に関わる項目や体重などの身体状況を調査し、彼らを20年以上に渡って追跡した研究です。研究の結果から、女性ではインスタント食品などの加工済み食品を頻繁に摂取する場合、大腸がんのリスクが17%増加していました。反対に、ヨーグルトや乳製品を使用したデザートの摂取量が多い人は、大腸がんのリスクが17%減少していました。

実は、大腸がんは特定の腸内細菌が発症のリスクに関与していることが最近の研究で明らかになっています。腸内細菌は単にヨーグルトや乳製品を摂取するのみだけで、一朝一夕に改善するものではありませんが、定期的な運動や体重管理を行うことで腸内細菌のバランスが改善することが知られています。食事生活に気をつけ、運動を習慣づけることは大腸がんの予防には有効です。

以上、本稿では女性の大腸がんに関わる問題について紹介してきました。予防に努めることも大事ですが、症状がある際に受診することも重要です。単なる便秘かな、と思っていても続く場合には医療機関に相談してみてはいかがでしょうか。

<*参考文献>

1. Prevalence of irritable bowel syndrome in Japan: Internet survey using Rome III criteria Patient Prefer Adherence 2008 2:143-147

2.Two Gold Kiwifruit Daily for Effective Treatment of Constipation in Adults—A Randomized Clinical Trial Nutrients 2022 14(19):4146

3. Characteristics and symptomatology of colorectal cancer in the young Surgery 2023 173(5):1137-1143

4. Young-onset colorectal cancer risk among individuals with iron-deficiency anaemia and haematochezia Gut 2020 70(8):1529-1537

5. Bowel movement, state of stool, and subsequent risk for colorectal cancer: the Japan public health center-based prospective study Ann Epidemiol 2006 16(12):888-94

6. Irritable Bowel Syndrome and Long-Term Risk of Cancer: A Prospective Cohort Study Among 0.5 Million Adults in UK Biobank AmJ Gastroenterol 2022 117(5):785-793

7. Association of ultra-processed food consumption with colorectal cancer risk among men and women: results from three prospective US cohort studies BMJ 2022;378