近年の人材採用や人材育成において「キャリア」という言葉を聞く機会が増えました。しかし、なんとなく使っている「キャリア」という言葉が具体的に何を指すのか、ご存知ではない方も多いのではないでしょうか。今回は仕事におけるキャリアとはどのようなことを指すのか、具体的に説明をしていきます。30代後半から60代にかけてのミドル・シニア世代の転職市場についても解説していきますので、転職やスキルアップを考えている方は参考にしてみてください。
- 「キャリア」とは、人生という長い期間において、仕事のスキルアップや経験を積んでいくことを指す言葉。かつての終身雇用や年功序列といった、保障された働き方から一転して、積み上げた経験が通用しなくなるようなリスクをはらんだ時代へと変化したことによって、長い目で見てキャリアを形成していくことを考える必要性が高まっている。
- キャリア形成のための手段として転職する方も多く、転職に不利だとされていた30代から60代のミドル・シニア世代の転職機会も増えている。
- ミドル・シニア世代の転職を成功させるためには、キャリアの棚卸しを行い、自己分析をしっかりとしたうえで、求人を選ぶと良い。
そもそも「キャリア」とは?
「キャリア」という言葉は、そもそも何を意味するのでしょうか。厚生労働省が2002年に発表した「キャリア形成を支援する労働市場政策研究会」の報告書によると、「キャリア」とは過去から将来という長い目でみた、職業経験やそれに伴う仕事のスキルアップの連鎖を指すものとされています。
終身雇用のような安定した働き方が企業から保障され、昇進や昇格も年功序列だった働き方が、近年では大きく変化しています。グローバル化や社会のニーズが大きく変化したことで、今まで培ったスキルが全く通用しなくなってしまったり、勤務する企業が倒産してしまったりといったリスクを負う可能性が高くなりました。
それによって、たとえ大きな企業に勤めていても、永年勤め続けられるという保障がなくなり、スキルの専門性や問題解決能力といったキャリアを考えていく必要性が注目されているのです。
参照元:厚生労働省 「キャリア形成を支援する労働市場政策研究会」報告書
キャリアに関連する用語
「キャリア」という言葉の意味についてはおわかりいただけたと思います。次に「キャリア」とつく用語の意味を知って、「キャリア」についてさらに理解を深めていきましょう。
キャリアビジョン
キャリアビジョンとは、将来の仕事や人生について思い描く理想の姿のことです。キャリアビジョンを思い描くことで自己分析ができ、モチベーションのアップにもつながるため、人材採用や人材育成において注目されています。
人材不足や人材流出に悩む企業は、研修や配置転換によって従業員のキャリアビジョンを叶えることによって、優秀な人材確保が期待できます。
キャリアパス
キャリアパスとは、勤めている企業の中で、どのように昇進したりキャリアを積んだりしてステップアップしていくのか、といった目標へのルートのことを指します。
従業員がキャリアパスについて考える場面もありますが、従業員が自ら形成するキャリアビジョンとは異なり、キャリアパスは主に企業側が従業員へ提示することが多いです。
企業が従業員に向けてキャリアパスを提示することによって、従業員は昇進やステップアップのために求められているスキルや経験を把握することができ、目標に向けて具体的に行動しやすくなります。
キャリアデザイン
キャリアデザインとは、人生で将来どのような仕事がしたいのか、どう働きたいのかといった予定を主体的に考え、実現のために具体的に行動していくことを指します。
キャリアビジョンとも似ている言葉ですが、思い描いたキャリアビジョンを実現させるために、自らが計画して行動していくことがキャリアデザインです。
キャリアプラン
キャリアプランとは、思い描いたキャリアビジョンを実現させるための計画を立てることを指します。
キャリアパスとも意味が似ていますが、キャリアパスはひとつの企業内における目標への筋道を指すのに対して、キャリアプランは転職や独立も含めた人生においての仕事のプランを立てるという点が異なります。
「キャリアプラン」は面接で聞かれることが多い
人生における仕事の計画を意味する「キャリアプラン」は、採用面接の際に聞かれることも多いテーマです。そのため、転職やキャリアアップを考えるときには、まずキャリアプランを立てることから始めると良いでしょう。
「キャリアプラン」を面接で聞かれる理由とは?
採用面接で応募者のキャリアプランについて質問する理由は、入社後に応募者が思い描いていたキャリアを実現できずに辞めてしまうといったミスマッチを避けるためです。
応募者が思い描いているキャリアを自社で実現できるか、採用面接の段階であらかじめ見極めておくことによって、応募者との思い違いを防ぎ、離職率を減らすことにつながります。
キャリアプランの立て方
それでは、実際にどのようにキャリアプランを立てれば良いのでしょうか。将来の仕事について漠然と考えてしまうと、イメージがつきにくいでしょう。そのため、次のようなステップに沿って進めていくのがおすすめです。
- 自己分析をする
- 将来像を明確にする
- 将来像に近づくための方法を考える
【手順1】自己分析をする
まずはご自身の現状を把握しましょう。今までどのような仕事に就いてきたのか、どのような業務に意欲的に取り組み、成果を上げてきたのか、キャリアの棚卸しをします。
仕事をとおしてうまく行ったことや成長できたことだけではなく、苦手なことや失敗したこともふまえて自己分析を行い、ご自身を深く理解することが大切です。
【手順2】将来像を明確にする
次になりたい職種や役職、年収といった具体的な将来像を設定しましょう。その際に、漠然とこうなりたいと決めるのではなく、できるだけ具体的に目標を設定するのがポイントです。いつまでに、どのような職種、役職に就きたいのか、そのために必要なスキルや経験はどういったものなのか、細かく洗い出していきます。
【手順3】将来像に近づくための方法を考える
最後に、自己分析で洗い出した自分の状況と設定した将来像を照らし合わせ、足りていない部分を整理します。特に将来像を実現するためのスキルや経験の有無が比べやすいです。現状で足りていないスキルや経験を洗い出し、それらをどのように養っていくか、そのために今どのようなことをするべきか考えていきます。
やりたいことが明確な場合は「手順2」から始めよう
将来やりたいことがはっきりとイメージできない方は、自己分析によって自分の強み・弱みを知ることで将来像が描きやすくなります。
反対に、将来なりたい職種や役職が明確な方は、将来像を具体的に考えてから、自己分析に進むとスムーズです。目標に対して、今の自分に不足しているものがわかりやすく、スキルを身につけるべきタイミングを逆算しやすくなります。
ミドル・シニア世代の転職の実態とは?
少し前までは、30代以上のミドル世代やシニア世代は、ある程度のスキルや経験があるからこそ新しい職場になじみにくく、のびしろが少ないと考えられていました。
そのため、ミドル・シニア世代が転職することは難しいといわれていました。しかし近年では、就労人口の多かった団塊世代が引退して管理職クラスの人材が不足していたり、キャリア形成のための手段として転職する方が増えたりといった要因から、ミドル世代の転職市場も好転しています。
また、高齢者雇用安定法の改正で定年が引き上げられたり、公的年金の受給年齢が引き上げられたりしたことによって、シニア世代の就労の機会も増えています。
ミドル・シニア世代の転職後の給料についても気になるところでしょう。厚生労働省が2021年に行った雇用動向調査によると、転職したミドル世代のうち35歳から49歳までの区分で賃金が増加したという回答が得られました。
特に40~44歳では4割の方が増加したと回答しています。一方で、ミドル世代のなかでも50~54歳の方やシニア世代の方は減少した方のほうが多いという結果が得られました。
参照元:
30代後半・40代の方が転職をするときのポイントとは?
ここからは実際に30代後半から40代の方の転職を成功させるポイントをご紹介していきます。
ライフステージの変化を見通して求人を選ぶ
30代は結婚や出産、育児などライフステージの変化が多い世代です。そのため、ご自身のキャリアプランも加味しつつ、これからのライフステージを考慮して求人を選ぶ必要性が高まります。
企業で得られるキャリアパスだけではなく、育休制度や子育て支援といった福利厚生をはじめ、転勤の有無、勤務地をよく吟味し、面接時にも企業側に確認をすると良いでしょう。
求人情報を読み解き、求人の幅を広げる
40代はさらに専門性の高いスキルが重視される傾向にあります。そのため、キャリアプランを設定する際の自己分析によって、ご自身に何ができるのか、身につけたスキルや経験を洗い出しておくことが大切です。
そのうえで、求人情報に記載されているスキル条件を鵜呑みにせず、正しく読み解くことが必要になります。求人情報に掲載されているスキルは絶対条件ではない場合もあります。職務内容と条件から、そのスキルが必要なのかよく考え、応募する求人の幅を広げていくようにしましょう。
自分の成果をアピールする
ミドル世代の転職は即戦力が期待されるため、ご自身がどうしたいかといった自己PRよりも、どういった経験があり、どのように貢献できるのかが重視される傾向にあります。
そのため、ご自身が今までどのような工夫を凝らして成果を出し、どのように企業に貢献をしてきたかといった経験をアピールしましょう。キャリアの棚卸しで洗い出したご自身の経験やスキルを根拠に、転職先企業でどのように貢献できるか理論的に伝えることが大切です。
50代・60代の方が転職をするときのポイントとは?
次に50代から60代の方の転職を成功させるためのポイントをお伝えしていきます。
経験を活かせる職種を選ぶ
50代から60代の方は積み上げてきた経験やスキルが豊富です。そのため、そういった経験やスキルを充分に活用して職種を選ぶことが、転職成功のポイントになります。
キャリアを積み上げてきた方はマネジメント層や経営者といったハイクラスの役職や、育成する立場といった今までとは別のポジションの求人に目を向けてみましょう。ただし、ご自身の市場価値を高く評価し過ぎていないか、理想と現実のギャップが大きくないか、振り返りは大切です。
ご自身のキャリアに対して理想が高過ぎると転職活動は難航してしまうので、自己分析はしっかりと行ってください。
求人の選択肢を広げる
スムーズに転職先を見つけるためにも、求人の選択肢を広げることが大切です。特に、給与や待遇など、企業に多くを求め過ぎてしまうと転職先がなかなか決まりません。
キャリアプランを加味したうえで、ご自身にとって重視したい条件を絞り、どこまで譲歩できるのか、あらかじめ考えておくと良いでしょう。
新しい環境に柔軟に対応できることをアピールする
シニア世代は培ってきた経験やスキルから、プライドが高く周囲となじめないのではと懸念されがちです。また、年下の上司について仕事をする場面も出てくるでしょう。
そのため、年齢に関係なく敬意を持ったコミュニケーションができ、何ごとにも柔軟に対応できるという点が評価されます。採用面接の際には、円滑なコミュニケーション能力や謙虚さをアピールできるように、意識してみてください。
転職には長期間かかることを想定する
厚生労働省による2020年度の転職者実態調査の概況によると、60代以下は3ヵ月未満で転職先が見つかる場合が多かったのに対し、60~64歳までは3ヵ月から6ヵ月ほどかかることが多いという結果でした。
年齢があがるほど、採用するにはそれなりのキャリアが期待されますが、転職者が希望している理想の条件にマッチしないということが多い傾向にあります。一方で、非正規社員や人件費を安く雇いたいと言ったニーズが高まる65歳以上は1ヵ月未満で転職先を見つけています。
そのため、シニア世代の転職活動では、転職先が決まるまでの時間が長くなることを想定しつつ、希望の条件を見直したり非正規での働き方を考えたりするなど、広く求人を検討してみると良いでしょう。
セカンドキャリアのための学び直しもおすすめ
ミドル・シニア世代のセカンドキャリアを成功させるために、ファーストキャリアを活かすための学び直し(リスキリング)が注目を集めています。2022年10月の岸田首相による所信表明演説では、構造的な賃上げのために個人のリスキリングへ5年で1兆円の支援をすると表明しました。
また、2023年1月の政府方針演説では、年齢や性別に関わらず、リスキリングから転職まで一貫して支援する枠組みを作るとしています。このことからも近年のビジネスシーンにおいて、リスキリングの重要性が高まっていると言えます。
独学での学び直しも可能ですが、ご自身だけでの学習は行き詰まってしまう可能性があるので、講座やスクールなどを検討してみても良いでしょう。ここからはリスキリングにおすすめの分野についてご紹介していきます。
今こそAIスキルを手に入れるチャンス!経済産業省支援の実質無料プログラムで、キャリアアップを目指そう。まずは無料相談から。プロのコンサルタントがあなただけの最適な道筋を提案します。
資格
資格を取得することによって、技術を身につけたことがわかりやすく、資格必須の職種へ就職するためのチャンスが増えるのでおすすめです。
比較的取りやすく仕事で活かしやすい資格が、一般医薬品を販売するための登録販売資格、ビルや住宅といった建物の電気設備に関わる電気工事士の資格です。医薬品や建物の設備にかかわる仕事に就いている方は、取得することによってキャリアアップのきっかけになるかもしれません。
また、常に人材不足の課題がある介護職で活かせるような介護関連の資格は、国家資格だけではなく民間資格もあるため比較的チャレンジしやすく、資格取得後の就職につながりやすいです。
IT
コロナ禍において、リモートワークやオンライン会議といったビジネスのデジタル化は急速に進んだと言えるでしょう。
しかしながら、そんなビジネスのデジタル化についていききれていないミドル・シニア世代の方も多いかもしれません。これからさらに加速するIT分野に強くなるためにも、ITに関するスキルを学ぶのもおすすめです。
経理などでExcelを日常的に使う方であれば、マクロ機能を極めたりVBAといったプログラム言語を学んだりすると、実務に活かしやすいです。また、広報にかかわる方であれば、ホームページを制作するためのHTMLやCSSといったコーディング言語を学んだり、デザインを作成するためのAdobe社のIllustratorやPhotoshopといったツールを学んだりするのも良いでしょう。近年需要が増えている動画編集の技術も身につけると、幅広いメディアでの広報活動に活かせる可能性も高まります。
今だけ半額の99,800円!日本初の動画編集スペシャリスト養成講座が、たった48時間の期間限定キャンペーンでお得に受講できます。プロ講師陣から動画制作のノウハウを直接学び、修了後は資格と実践の場をご用意。動画編集に興味がある方は、この絶好のチャンスをお見逃しなく。
コミュニケーション能力
仕事をするうえで、円滑なコミュニケーション能力は必要不可欠です。とりわけ、営業や広報、管理職と言った職種や役所において、コミュニケーション能力が重視されやすいため、リスキリングでコミュニケーション能力の向上を目指すのもおすすめです。
コミュニケーション能力はその方が生まれ持った才能のようにも思えますが、コミュニケーション能力認定講座といった人材育成のためのカリキュラムによって向上が期待できます。また、グローバル化も考慮して英語や中国語といった語学を習得するのも良いでしょう。
おわりに
人生において、仕事が占める割合は大きいものでしょう。特に、人生100年時代となってきた現代では、人生の長い時間を占める仕事が充実することによって、人生の充実度も変わってくるのかもしれません。人生の充実度を上げるためにも、どのように経験を積み、理想とする目標を目指していくかというキャリアプランを考えてみてはいかがでしょうか。