転職活動を始める時、または新しい職場で働き始めた時、多くの方が気になるのが住民税の支払いです。会社に勤めている時には、会社があなたに代わって納める住民税は、転職の際にご自身での納付が必要となることがあります。転職のタイミングによっては、その年度分の住民税が一括で引き落とされ、手元に残る現金が減ってしまうケースもあるため充分注意する必要があります。
本記事では、転職後の住民税の納付方法について、転職先が決まっている場合と決まっていない場合で解説していきます。二重払い・延滞金を避けるためのポイントについてもご紹介しているので、最後までご覧ください。
1.住民税とは?税額の計算方法
そもそも住民税とは、消防・救急やインフラ維持などの行政サービスを支える地方税のひとつで、「市町村民税」や「道府県民税」として徴収される税金です。その年の1月1日時点で住民票を置く自治体が納付先となります。
1-1.住民税の仕組み
住民税の内訳には、前年の所得に応じて金額が決まる「所得割額」と、所得に関わらず一律で徴収される「均等割額」の2種類があります。前年の所得をもとに所得割額を計算し、均等割額を合算したものが納付すべき住民税額です。
1-2.住民税の計算方法
一例として、東京都23区内に住む方の住民税を、税額控除を考慮せず簡単に計算してみましょう。
東京都の均等割は、都民税1,500円と特別区民税3,500円を合算した5,000円、所得割は都民税が4%、特別区民税が6%の合計10%です。仮に前年の課税所得が100万円だった場合、所得割額が「100万円×10%=10万円」となり、均等割の5,000円と合わせて、10万5,000円が納税額となります。
2.住民税の2種類の納付方法
住民税の納付方法には、会社が給与から天引きして従業員の代わりに納税する「特別徴収」と、会社を退職された方や個人事業主の方がご自身で納税する「普通徴収」の2種類があります。
2-1.特別徴収とは?
特別徴収では、会社がすべての従業員の住民税を、個人に代わってまとめて納税します。会社から給与を受け取っている方が選択できる納付方法で、給与から住民税額の1/12が毎月天引きされることとなります。住民税額の計算は、会社が「年末調整」の手続きの際に従業員の分をまとめて計算するため、ご自身で納税額を算出したりする必要はありません。
なお、特別徴収の場合には、前年の収入に応じた住民税を「6月支給の給与から」天引きがスタートします。そのため新卒で入社した方の場合、新卒1年目には住民税の天引きが行われず、新卒2年目の6月から住民税が引き落とされる点にご注意ください。
2-2.普通徴収とは?
普通徴収では、会社を辞めた方や個人事業主の方が、確定申告によってその年の収入と納税額を申告し、申告金額をもとに住民税を納めます。特別徴収では住民税額を12分割して毎月の給与から天引きが可能ですが、普通徴収は6月・8月・10月・翌1月の4回が納期限とされており、最大で4分割しか選択できません。そのため1回あたりの納付額が大きくなりやすい点に注意が必要です。
3.転職先が決まっている場合の住民税の納付方法
転職に伴う住民税の支払いは、退職時に転職先が決まっているかどうかで手続き方法が異なります。まずは転職先が決まっており、退職後も引き続き別の会社に勤める場合の納付方法をご紹介します。
3-1.転職先で特別徴収の継続が可能
退職時に転職先が決まっている場合には、転職先でも特別徴収を継続することが可能です。転職先が決まっていない場合には普通徴収へ切り替わり、退職時期によっては残りの住民税を一括で天引きされる可能性もあります。そのため税負担をできるだけ抑えたい方は、退職後に期間を空けることなく新たな転職先で特別徴収の手続きを済ませると良いでしょう。
3-2.特別徴収を継続するための手続き方法
転職先でも特別徴収を継続したい場合には、転職前の会社で「給与所得者異動届出書」を発行してもらう必要があります。届出書には、転職前の会社で必要事項を記入してもらい、ご自身が転職先の会社を経由して自治体に提出することで、特別徴収の継続が可能です。
4.転職先が決まっていない場合の住民税の納付方法
前述の通り、退職時に転職先が決まっておらず、再就職までに期間が空く場合には、特別徴収は継続できません。そのため普通徴収によって残りの住民税を分割・一括で納付するか、または残りの住民税を会社に一括徴収してもらうことで納付することとなります。住民税がどの扱いになるのかは、退職する時期によって変動します。
4-1.退職時期によって納付方法が異なる
住民税は前年の1月〜12月までの所得をもとに計算し、翌年の6月〜翌々年の5月に納付します。そのため納付年度が切り替わる6月以前に退職するのか、6月以降に退職するのかによって、納付方法が切り替わる仕組みとなっています。
4-2.1月〜5月に退職した場合
退職日が1月〜5月に当てはまる場合には、最後に支給される給与から残っている住民税が一括徴収されます。毎月天引きされていた住民税額が最大5ヵ月分がまとめて徴収されることから、手元に残る現金が大きく減少する可能性があります。給与に対して納付額が大きくマイナスになってしまう場合には、後日納付書が届き、普通徴収としてご自身で納付します。
なお、5月中に退職した場合には、5月分に支給される給与から5月分の住民税額が天引きされる、通常通りの計算が行われます。
4-3.6月〜12月に退職した場合
退職日が6月〜12月に当てはまる場合には、翌年5月までの住民税をまとめて一括徴収してもらうか、普通徴収に切り替えてご自身で納付するかを選択できます。分割払いが可能な普通徴収を選択した方が、一時的な税負担を減らすことができるでしょう。
5.転職する際の住民税納付の注意点|二重払い・延滞金を防ぐには?
最後に、転職に伴う住民税の納付について、押さえておきたい注意点についてご紹介しましょう。住民税の二重払い・延滞金を防ぐための対策についても解説しているので、ぜひご覧ください。
5-1.転職とともに引っ越した場合にも税額は変わらない
転職に合わせて引っ越しを行うケースは少なくありませんが、住民税は1月1日時点で住民票があった自治体へ納付するため、年の途中に引っ越しても住民税の納付先や税額は変化しません。納付先や税率が変化するのは、翌年の1月1日に住所が変わっている場合に限られます。
また、実家がある住所に住民票を置いている場合や、単身赴任などで住民票を移していない場合にも、あくまで住民票がある自治体へ住民税を納める必要がある点に注意しましょう。
5-2.二重払いは発生しないが住所異動の罰則あり
引っ越しを伴う転職では、旧住所と新住所の2つの自治体から住民税が徴収されるのではないかと不安に感じる方もいることでしょう。しかし住民税の納付先は、1月1日時点で住民票があった自治体のみとなっているため、二重払いは発生しない仕組みです。引っ越しや転職によって、住民税の負担が増えることはないのでご安心ください。
ただし、引っ越しの際に正当な理由なく住民票を移していなかった場合、最高5万円の過料が科される可能性があります。現住所と住民票を置いている住所が異なると、身分証の更新や選挙の投票において不便を感じるケースも多いため、できるだけ住民票は現住所に移しておくことをおすすめします。
5-3.普通徴収で納付を忘れると延滞金が発生する
ご自身で住民税を納める普通徴収では、納期限までに納付しなかった場合に、延滞日数に応じた「延滞金(延滞税)」が課されます。自治体からの督促状に対応せず、延滞を放置してしまえば、財産の差し押さえが行われる可能性もあります。住民税の納付が困難な場合には、自治体の窓口に相談することで分割払いに応じてもらえるケースもあるため、決して無視しないようにしましょう。
5-4.転職後、自動的に住民税が天引きされるわけではない
転職前の会社を辞め、すぐに新たな転職先に就職した場合にも、住民税の天引き(特別徴収)が自動的に行われるわけではありません。住民税の天引きを継続したい場合には、転職前の会社で「給与所得者異動届出書」を発行してもらい、転職先の会社を通じて自治体に提出する必要があります。この手続きを忘れると、普通徴収に切り替わりご自身で納付する必要が出てくるため注意しましょう。
5-5.1月〜5月の退職は一括徴収の金額が大きくなる
退職するタイミングが1月〜5月の場合には、残りの住民税額がまとめて一括徴収されるため、手元に残る現金が少なくなる可能性があります。特に1月〜2月の退職は一括徴収される金額も大きくなるため、経済的に余裕がない場合には退職時期を後ろ倒しにすることも検討した方が良いでしょう。
おわりに
住民税は1月1日時点に住民票がある自治体が納付先となり、会社で勤務している場合には「特別徴収」によって給与から天引きしてもらうことで納付が可能です。転職する際にも「給与所得者異動届出書」を提出することにより、引き続き特別徴収を利用することができるため、税負担を抑えたい方は必ず手続きを進めておきましょう。
退職後、再就職までの期間が空く場合には、1月〜5月の退職であれば一括徴収、それ以外のタイミングでは普通徴収に切り替わり納付を行います。12分割で天引きされる特別徴収と比較して、普通徴収では最大4回の分割にしか対応しておらず、一括徴収では残りの住民税額がまとめて差し引かれるため、税負担が大きくなる点にご注意ください。