海外での生活で心配なことの一つに、病気やケガがあります。もちろん病気やケガを負わないことが一番ですが、万一の場合に備えておくと安心です。特に海外では日本と医療体制が異なるだけではなく、治療費の負担割合や保険制度も異なるため事前に確認しておかなければなりません。
今回は、海外での病気やケガの治療費や保険制度についてご紹介します。海外移住を考えている方はぜひ参考にしてください。
1.移住先で病気した!海外での治療費はいくら?
まずは、海外での治療費について見ていきましょう。
1-1. 国によって治療費が違う!
日本は「国民皆保険(公的皆保険)」といわれるように公的保険制度が整っており、外来受診時の負担額は原則3割です。しかし、海外では国によって保険制度や負担額が異なるので注意が必要です。
例えば、フランスでは日本同様に公的皆保険で3割負担ですが、かかりつけ医を通すことが条件。イギリスやドイツでは9割は公的保険、1割が民間の医療保険や自費医療サービスと、2つの保険が両立しています。負担額は両国とも原則無料です。
海外は医療費負担が軽い国が多いのかも!と思うかもしれませんが、アメリカでは公的保険が少なく2種類のみで、保険によって負担額が異なるようです。
負担額は各国さまざまであるため、診療や治療を受けた際の費用は日本と必ずしも同じではないと覚えておきましょう。
1-2. 救急車も簡単に呼べない?!
日本では119番のコールですぐに駆けつけてくれる救急車ですが、救急車の費用を払ったことがある方はいないでしょう。しかし、海外では有料の国もあるのです。救急車の種類にも公営と民営の2種類があり、運営元によって負担額が変わる場合もあります。
フランスでは公営・民営での違いはありませんが、基本料金とは別に走行距離による加算があります。アメリカでは、なんと10万円を超えることもあるようです。そのうえ搬送先までの距離に応じて加算があるため、さらに高額になってしまいます。日本のように緊急時にすぐ「救急車!」と呼べるのは恵まれているのです。
1-3. 初診料だけでも高い
初めての受診や久しぶりの受診の際に請求される初診料。日本では高くても数千円が相場といわれていますが、海外では日本より高額になるケースが多くなっています。
日本と同じアジアの国であるタイは日本と同程度の数千円ですが、中国では5,000円以上で、20,000円を超える場合もあるそうです。イギリスやフランス、アメリカなどはいずれも10,000円を超えるのが普通で、なかには20,000円前後になることもあります。日本の認識のまま受診すると会計の際に驚いてしまうでしょう。
2.健康保険って海外でも使えるの?
ここでは、海外移住する前から入っている公的保険の取り扱いについて解説します。日本には「国民健康保険」「健康保険組合」の2つの保険があり、それぞれで扱いが異なるので注意が必要です。
2-1.国民健康保険の場合
国民健康保険は、住民票が登録されている場合は海外に移住しても被保険者として認められ、保険は継続して有効です(保険料の支払いが必要)。自治体によって「海外療養費支給制度」が設けられており、帰国後に申請することで医療費の支給を受けられます。
海外での受診時には全額を支払い、その際の領収書や診療内容明細書などを添えて申請することで給付が行われます。受診時に受け取った書類は大切に保管しておき、帰国時に忘れず申請しましょう。申請には期限もあるため、各自治体のWEBサイトなどで確認しておくと安心です。
一方で、住民票の転出手続きを行った場合は被保険者ではなくなります。転出手続きと同時に国民健康保険の脱退手続きを行い、必要に応じて民間の医療保険に入るようにしてください。
2-2.健康保険組合の場合
健康保険組合は一般的に民間企業に勤めている方が加入できる保険です。海外に移住しても被保険者の場合(海外赴任など)は医療費のサポートを受けることができます。
海外で医療費がかかった場合、まずは全額負担する必要があります。その後、領収書や診療内容明細書などを添えて加入している健康保険組合に申請しましょう。支給額は日本で同様の診療を行う際の額を基準に計算されるため、国や治療内容などによって異なります。
2-3.介護保険料の場合
介護保険は、国民健康保険と同様に海外に移住しても住民票が登録されている場合は被保険者として認められます(介護保険料の支払いが必要)。ただし住民票の転出手続きを行った場合は被保険者ではなくなるため、介護保険料の支払いは不要となり、同時に介護保険サービスを受けられなくなります。
ただし、海外赴任などで長期海外へ滞在し帰国した場合には、再度住民票を登録すると再び被保険者となるので心配はありません。介護保険料の徴収が再開され、介護保険サービスも利用できるようになります。
3.民間の保険は継続できる? 手続き方法について
海外へ移住する前に、民間の保険に加入している方も多いのではないでしょうか。ここでは、民間の保険の取り扱いについてご紹介します。
3-1.医療保険の場合
海外に移住した場合も、日本で契約した医療保険は継続して有効です。ただし、受診医療機関は日本国内に限定しているなど、国内で受ける保障とは変わるケースもあります。海外移住の準備の段階で契約内容を必ずご確認ください。
また、海外へ移住する前の手続きも必要です。保険会社からの各種書類の送付先の変更(書類内容によっては海外送付可能なものもあります)や保険料支払いの確認・変更など。保険料の支払いが滞ってしまうと保険契約の効力を喪失してしまう場合もあります。必ず保険会社に確認して、必要な手続きを完了させてから渡航してください。
また、海外に移住する際は、保険証券の約款など契約内容が確認できる書類を持参するようにしましょう。問い合わせの際にも必要となります。
実際に海外で入院や手術を受け、保険金の請求が必要になった際の流れは次のとおりです。手続きは保険会社によっても異なるため、詳細は加入している保険会社へご確認ください。
- 保険会社への連絡
- 診断書の準備
- 診療明細書類や診断書などを保険会社へ送付・請求
3-2.生命保険の場合
生命保険も、医療保険と同じく海外移住した場合も継続して有効です。ただし死亡保険では日本国内の場合と取り扱いの異なる場合があるため、事前に保障内容や手続きを保険会社へ確認しておきましょう。また、海外移住前には医療保険同様に手続きが必要となるため、余裕を持って手続きを済ませておくと安心です。
実際に海外で保険金の請求が必要になった際の流れは次のとおりです。
- 保険会社への連絡
- 診断書などの準備(※)
- 診療明細書類や診断書などを保険会社へ送付・請求
※死亡保険金の請求は、帰国してからの請求となるケースが多いようです。ただし海外で用意すべき 書類もあるため、保険会社の指示を仰ぎましょう。
4.老後が心配!移住者も年金に加入できる?受け取れる?
海外移住する場合、老後も引き続き海外生活を送る前提という方も多いでしょう。その際に老後の生活資金が心配というというのはよくあるお悩みです。ここでは、年金の取り扱いについてご紹介しましょう。
4-1.国民年金の場合
国民年金は、日本国内に住民票がある方が対象の年金制度です。ただし海外に住む20~65歳未満の日本人も任意加入が認められています。任意加入の手続き方法は、渡航前に住民票のある自治体か社会保険事務所へ確認しましょう。すでに海外に住んでいる方も同様で、海外移住前に住民票のあった自治体へ手続き方法を問い合わせてください。
年金の受給内容は任意加入の有無によって異なります。任意加入しない場合は海外に住んでいる期間は老齢基礎年金を受け取るための資格期間に含まれますが、年金額には反映されません。一方、任意加入してきちんと保険料を納めていた場合は、老齢基礎年金だけではなく遺族基礎年金や障害基礎年金も受け取ることができます。
4-2.厚生年金の場合
厚生年金は、一般的に民間企業に勤めている方が加入できる保険です。この保険は、海外赴任となった場合も継続して適用されます。ただし、海外で働く場合はその国の社会保険制度に加入することが原則。その国によって保険の扱いが異なるのでよく確認してください。
日本から海外へ赴任する場合、海外の社会保障制度に加入すると日本の保険と合わせて二重負担になってしまいます。これを防止するために、日本と一部の国の間で「社会保障協定」が結ばれています。この協定が結ばれている場合、一定の条件をクリアすると赴任国での社会保障制度への加入が免除になるのです。
国によって、「1.二重負担がなく年金加入期間も通算できる場合」と「2.二重負担がないものの年金加入期間には通算されない場合」があります。赴任国が決まったら、1・2のどちらのパターンになるか確認しましょう。1・2ともに日本国内での事業主に年金事務所で手続きしてもらう必要があります。
なお「3.社会保障協定を結んでいない国で働く場合」は、日本・赴任国の両国で社会保障制度に加入することになります。
4-3.iDeCoの場合
iDeCo(確定拠出年金)は、海外でも厚生年金の被保険者であれば加入が認められます。2022年5月からは加入条件が拡大し、国民年金に任意加入している65歳未満の方も加入が認められるようになりますので、日本で加入していたiDeCoをそのまま継続できる方が増えるでしょう。
なお、海外で年金受給開始年齢を迎えた場合は、日本で最後に住民票があった自治体を管轄する年金事務所や年金相談センターでの手続きが必要です。
5.<金銭面>海外移住で注意すること
海外移住では、保険以外にも金銭面で注意すべきポイントが少なくありません。ここでは、主な4つをご紹介します。
5-1.現地の物価の確認
海外移住の際にまず確認したいのが、現地の物価。特に物価の高い国では、日本と同じ感覚で生活していると生活費や食費だけでも高額になる可能性があります。また、物価が安くても住まいの安全を維持するための費用や、快適な暮らしを送るために日本では必要のなかった出費が発生する場合もあるでしょう。
海外旅行であれば短期間なので費用が不足しても何とか乗り切れるかもしれませんが、海外移住は長期の生活。周辺のスーパーの価格帯や地価、家賃など、詳細に調べて移住計画を進めることが大切です。
5-2.生活費の確保
海外移住で必要な資金として、生活費の確保は大切です。海外赴任で海外移住となる場合は収入の見込みがあるため問題はありませんが、働く予定がない場合は預貯金から生活費を捻出していくことになります。
まず、クレジットカードやデビットカードが使えるかを確認しておきましょう。カードが使えない場合は日本から現金を持参するか送金する必要があります。日本の銀行口座から現地の銀行口座へ送金する場合は手数料が発生しますが、ネット銀行などを利用すると安く抑えられるケースもあるため確認しておくのがおすすめです。
5-3.貯蓄は十分あるのか
現地で働くなど、収入の見込みがない場合は、生活費などを確保するために貯蓄を確認しておく必要があります。通常の生活費や食費、固定費だけではなく急な病気やケガなども想定して十分な貯蓄があると安心です。日本の保険制度が使えても、一度は全額負担となると予想以上に高額な出費が発生する可能性もあります。
5-4.税金に関する知識
海外移住の場合、日本に住民票を残していると納税義務が発生します。住民票がない場合も年金などを受け取る際に源泉税などが必要になる場合もあるので注意しなければなりません。
また、現地でも一定の収入があると課税対象になる可能性があります。日本と現地の両国で納税した際は両国の間で「租税条約」が結ばれていると二重に負担した税金は還付してもらえます。詳細は税務署に確認してみましょう。
6.海外移住にかかる費用について
海外移住の前には多くの手続きが必要となりますが、次のような手続きでは費用も発生します。こんなにお金がかかるなんて、と驚くことのないよう、あらかじめチェックしておくのが賢明です。
6-1.ビザ取得費用
海外ではさまざまなビザが必要となります。退職者であれば、リタイアメント査証というビザがおすすめ。ただし、ビザの要不要や種類は渡航先によって異なるため、詳しくは外務省WEBサイトでご確認ください。
リタイアメント査証取得にあたっては、移住する国によって異なりますが、資産の証明やさまざまな条件がある国があります。
6-2.渡航費用
海外移住の際には移住国への片道の渡航費用が最低限必要です。移住前に下見や手続きで現地へ行く場合はさらに費用を要します。アジアなど近隣国であれば安く抑えられるケースもありますが、ヨーロッパなど距離がある場合はその分渡航費も高くなるでしょう。移住日程が決まっている場合、早めに航空券を手配して安いチケットを手に入れておくことも検討することをおすすめします。
6-3.荷物輸送費用
海外移住は、大きな引っ越しでもあります。日本国内とは異なり移動距離が大変長くなるため、その分費用もかかってきます。荷物輸送費用を抑えたい場合、家具は現地で揃えるなどを検討するのも一つの方法です。ただし購入費用は必要となるため、荷物輸送費や荷造りの手間などと比べて決めると良いでしょう。
6-4.住居費
海外移住の場合も、日本同様に賃貸や家を購入するなど住居のあり方はさまざまです。賃貸の場合は賃料が必要ですし、持ち家の場合も税金がかかってくるでしょう。いずれの場合も現地の物価なども参考にし、必要な費用として用意してお科なければなりません。
6-5.予防接種の費用
海外では、渡航先によって接種が義務づけられている予防接種があります。国によって必要な予防接種は異なるため、移住国が決まったら早めに確認して予防接種を受けておきましょう。渡航時に予防接種の証明書の提示が求められる場合もあります。
6-6.国際運転免許証の費用
日本で運転免許証を持っていた方は、国際免許証の申請を行うとジュネーブ条約に加盟している国で車を運転することができます。各都道府県の運転免許センターや運転免許試験場、指定の警察署で申請可能です。申請にかかる費用や受付日時は各受付場所によって異なるため、渡航前に最寄りの免許センターなどでご確認ください。
おわりに
海外移住では日本での保険を活かせるケースが多くあります。ただし、移住国によって体制は異なるため、日本国内にいる間に十分に調べて備えておくことが大切です。また、保険だけではなく金銭面で注意しておくべきポイントもあります。海外移住は事前の情報収集や準備が重要ですので、渡航してから困ることがないよう、計画的に移住手続きを進めてください。