日本への中国人観光客が増えるにつれて、中国人のマナー問題がたびたび取り上げられています。でも、問題のほとんどは、文化や習慣の違いによるものです。その違いを知り、理解することでお互いに気持ち良く過ごすことができたらいいですよね。私は6年半ほど中国で生活をしていたことがありますが、最初は驚くことばかりでした。今回は、その時の体験を通じて得た「お互いを理解するヒント」をご紹介します。
1.「日本での当たり前」は「当たり前」ではなかった
日本では当たり前にしていることでも、海外に出たら当たり前ではなかったということは多々あります。一体どのような違いがあるのでしょうか? その一部をご紹介します。
1-1.水道水は飲めない
海外に出ると、まず日本の「ありがたさ」を感じるのは「水」ではないでしょうか。国土交通省2021年(令和4年度)の資料によると、水道水をそのまま飲める国は、日本を含めて世界で12ヵ国だけです。中国は他の多くの国と同じく、水道水をそのまま飲むことができません。そのため、飲料水は部屋にウォーターサーバーを置くか、ペットボトル入りの水を購入するのが一般的です。私はペットボトル入りの水をいつも使っていました。
水道水を直接飲むことができないとはいえ、私の住んでいた地域(江蘇省南京市、四川省成都市)や、北京、上海のような都市部では、水質は比較的良く、濁りや臭いは気になりませんでした。顔を洗うのもシャワーも、私は水道水をそのまま使っていました。口に入るものに注意を払えば、過度に神経質になる必要はありません。
1-2.ビールはぬるい
暑い夏、額から噴き出る汗をおさえながらビールを注文し、今か今かと待っていたら出されたのは常温のビール。「なんでやー」と、つい叫びたくなります。キンキンに冷えたビールを期待していた私たちはガッカリ。ソフトドリンクも同じで、常温のサイダーが出てきたりします。
実は中国の人たちは、冷たい飲み物を好みません。私が冷たいジュースをがぶ飲みしていると、中国人の友人から「身体を冷やすのは健康に良くない」と、よく注意されたものです。夏でもお湯を飲む人が多く、会社では朝、空の水筒を持って給湯器の前で行列しているのをよく見かけました。
もしレストランで冷えたビールを飲みたいときは、わざわざ「冷えたビール」と注文する必要があります。お店によっては、「無い」と言われてしまうこともあるので、その時は「郷に入れば郷に従え」で常温のビールを味わいましょう。
1-3.食べかすがテーブルの上に散乱
昼休み、混み合う会社の食堂で、やっと空いた席を見つけたと思ったら、テーブルの上に魚や鶏肉の骨が散乱していました……。とても座る気になれません。
中国の食事では、魚はもちろん肉も骨ごと出てきます。日本の場合、例えば手羽先を食べたら「食べ終わった骨はこちらに入れて下さい」と容器が準備されていたり、魚の骨も枝豆を食べた後の殻も、お皿の隅に寄せたりして、テーブルを汚さないように気を付けていませんか?
ところが中国では口からそのままテーブルに出します。彼らは、「口から出した食べかすをお皿にのせるのは汚い」と考えているからです。食堂には清掃係がいて、テーブルの上に残された食べかすを拭き取ってくれます。だから、散らかっていたら清掃係の人を呼んで、きれいにしてもらえば良いのですが、私はこの習慣になかなか馴染めませんでした。
ある日、中国人上司の家に招かれたときのことです。数人の中国人同僚と一緒に家を訪ね、食事をしました。同僚たちは上司の家でもお構いなくテーブルの上に骨を吐き出します。でも上司は全く気にしていません。食べ終わった後は、皆でテーブルの上を掃除して終わり。私もその時は皆と同じようにテーブルの上に骨を置きましたが、ちょっと抵抗感がありました。やはり長年染みついた習慣は、変えられないものですね。
1-4.自動車優先
私の勤めていた日本の工場へ、中国から研修生が来たときのことです。夜、彼らと一緒に食事に出掛けました。レストランへ行く途中、信号が青に変わって道路を渡ろうとすると、急に「危ないよ」と中国人に引き留められたのです。左折をしてきた車がいたからです。ところが車は横断歩道の前で止まりました。それを見て、中国人は「車が止まるの?」と驚いていました。
中国ではこういう時、「人が止まって、車が通り過ぎていく」ということが多いので、この中国人研修生は止まった車の前を堂々と歩行者が歩くことに驚いたのでしょう。
ただ、今は中国でも、横断歩道で歩行者を優先しない車に対して、取り締まりが強化されています。監視カメラで監視されているので、カメラのある横断歩道では車は止まるようになってきています。もちろん歩行者側も、信号無視などの違反を監視カメラで監視されていますので、ご注意を。
1-5.地下鉄でも荷物チェックがある
日本では、乗り物に乗る前の手荷物検査といえば、飛行機くらいしか思い当たりませんが、中国では地下鉄に乗るときも、改札前にX線による手荷物検査があります。
ペットボトルや水筒など、液体の入ったものはカバンから出して、検査員に見せなければなりません。危険物ではないことを示すために、一口飲むようにいわれることもあります。また、刃物を持ち込むこともできません。私は中国で生活を始めた頃、地下鉄に乗って生活用品を買い出しに行くことがよくありました。液体洗剤やペットボトルの水などを買って、地下鉄に乗ろうと手荷物を検査機に入れると、「液体があるでしょう? 出して下さい」と言われ、慌てたことがあります。ただ、これも慣れてしまえば、それほど面倒でもなくなりました。
2.意外?中国で遭遇したエピソード
日本との違いに驚くことの多い中国。日本人の感覚では「中国人はマナーが悪い」と、つい思ってしまいがちです。この章では、私が現地に行って初めて知った中国人の一面をエピソードとともに紹介します。
2-1.電車で見かけた意外な光景
初めて中国出張に行った時のことです。勤務先へ向かう地下鉄は混んでいました。降りる人がいてもお構いなく、皆我先にと乗り込みます。事前に上司から「行儀良く待っていたら、いつまでも乗れないよ」と言われていましたが、本当にその通りだなと思っていました。
ある駅で、年配の男性が乗ってきました。車内に空いている席はなく、男性は入口近くに立ちました。すると、すぐ脇に座っていた若い女性が男性に声をかけ、席を譲ったのです。「あれほど人を押しのけて乗り込むのに、席を譲るんだ」と、私は意外に思いました。それ以降も、地下鉄で、バスで、年配の人や小さな子どもを連れた人がいると、皆すっと席を立ち上がって譲るのです。中には、「おじいさん、あそこが空いてるよ」とわざわざ教える人もいました。
また、混雑した地下鉄車内で、私の向かい側の席に座っていた女性が抱いていた赤ちゃんがギャーっと泣き出したことがありました。すると、私の右隣に座っていた年配の女性が、向かい側の赤ちゃんに笑いかけながら、両手でバイバイをしてみたり、いないいないばあをするような仕草をしながら、何かを話しかけたのです。お母さんの横に座っていた男性も、「今何ヵ月?」みたいなことを聞いていました。
中国の地下鉄車内は、大声で電話をしている人もいるし、動画を見て声をあげて笑っている人もいて、日本のしんとした車内とはまるっきり違います。けれども、中国の地下鉄には、お年寄りや子ども連れ、妊婦など、立場の弱い人に優しい雰囲気が漂っていました。
2-2.家のトイレを詰まらせた!修理の男性が持ってきたものとは?
中国のトイレは使用済みの紙は流さず、備え付けのゴミ箱に捨てます。トイレットペーパーが水に溶けない、水洗水の水圧が弱いなどの理由で、トイレが詰まりやすいからです。でも自宅のトイレでは、やはりトイレットペーパーは流したいものです。そこで、私も他の日本人同僚も、日本メーカーの「トイレに流せるトイレットペーパー」を購入し、トイレが詰まらないように気を付けていました。
それでも詰まる時は詰まります。
同僚の部屋のトイレが詰まった時のことです。ラバーカップでパコパコやっても詰まりが解消しないため、専門会社に連絡して来てもらうことになりました。
作業担当者の方はあっさりと詰まりを解消してくれました。業者を見送ってしばらくすると、ドアのチャイムが鳴ったそうです。ドアののぞき穴から見ると、さっきの作業担当者が立っていました。
「何か不都合な事でもあったのか?」
同僚が恐る恐る扉を開けると、その業者は「トイレが詰まるから、紙を流したらダメだ」というようなことを言い、ゴミ箱を置いていったそうです。同僚のトイレにゴミ箱が無かったのを見て、わざわざ買ってきてくれたのです。
私たちの方が迷惑をかけたのに、この心遣いはとても嬉しいものでした。
3.これからできることは?
日本の当たり前が中国での当たり前ではないように、中国の当たり前も日本での当たり前ではありません。「マナー違反」なのではなく、知らないだけなので、日本で守って欲しいルールがあるなら、はっきりと伝えてあげましょう。伝える時、遠回しな表現を使うと相手は混乱します。「何をどうしてほしいのか」を明確に、理由も添えて伝えれば、相手は理解してくれます。「相手のマナーが悪い」と決めつけるのではなく、相手の文化や習慣を尊重したうえで、伝えられたらいいですよね。
そしてやはり一番は、現地で実際に経験してみることです。今はまだ、自由に行き来できる状況ではありませんが、いずれ行ける機会がやってきたら、ぜひお互いの国の違いをご自身で感じてみて下さい。
おわりに
「人はみな自分とは違う」という前提を持てば、腹立たしい思いをすることもなく、違いを面白く思えるようになるのではないでしょうか。「?!」と思う瞬間があった時こそ、相手を知るチャンスです。「不快だ」と思う前に、「なぜ?」と興味を持ってみるようにしてみませんか? きっと新しい発見があるはずです。