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中国で味わったお正月気分ー中国生活体験記(その6)

中国で味わったお正月気分ー中国生活体験記(その6)
深谷 百合子 人を動かすコミュニケーター

執筆者
深谷 百合子 人を動かすコミュニケーター

国内及び海外電機メーカーで技術者として20年以上勤務。工場の「案内人」としてメディア対応、講演、環境教育にも携わる。「専門的な内容を分かりやすく伝える」をモットーに、立場の異なる人同士が理解し、協力し合えるための伝え方を工夫した。2020年に独立。「相手を動かす伝え方」をテーマに講師、コーチとして活動している。また、個人へのインタビューや企業への取材記事執筆を通じて、「知られざるストーリー」の発信を行っている。掲載媒体:WEB天狼院書店、天狼院書店WEB READING LIFEブログ

日本ではすっかりお正月気分も抜けた頃ですが、中国では「春節」こそがまさにお正月です。春節間近になると、街では飾り付けが始まり、新しい年を迎えるときの「ソワソワした雰囲気」に包まれます。私たち日本人にとってはお正月を2回迎えるようで、いつも不思議な感覚を抱いていました。2023年の春節は1月22日(日曜日)。前日の1月21日から1月27日までが「連休期間」となりました。コロナ禍になる前は、春節の連休期間中、大勢の中国人観光客が来日していましたね。

私たち日本人にとってお正月が特別であるのと同じように、中国人にとっても春節は特別です。私は中国で6回春節を過ごしました。今回も私が実際に体験したエピソードを交えて、中国の春節についてご紹介します。

1.変わりつつある春節の風景

私は中国語のテキストで、春節の伝統的な過ごし方を知りました。そこで紹介されていたのは、「大晦日には家族が集まってご馳走を食べ、テレビ番組を見て、夜も更けた頃、爆竹や花火で新年を祝い、年始には挨拶まわりをして、お年玉を配る」というもの。でも、そんな春節の風景も時代とともに変わってきているようです。

1-1.都市部では爆竹禁止

1-1.都市部では爆竹禁止

中国の春節といえば「爆竹」。新年を迎える夜、爆竹や花火で盛大にお祝いする風習があります。しかしPM2.5問題が深刻になって以降、都市部では禁止されているところもあります。

私が中国で初めて春節を迎えたのは2014年の1月でした。春節の前日、つまり日本でいう「大晦日」の日、私は日本へ一時帰国するため上海の空港にいました。ところが当日は深い霧が立ちこめていて、フライトの案内ボードには「遅延」の文字がズラリと並んでいるような状態でした。私が乗る予定の飛行機も「遅れ」の表示が出たまま。結局4時間近く空港内で足止めされた挙句、フライトはキャンセルとなり、空港近くのホテルで待機することになりました。

日付が変わる頃、ホテルの窓のすぐ横で花火が爆発しました。びっくりして外を見ると、数人の人たちが花火をあげたり、爆竹を鳴らしていました。思いがけず春節の風景に接することになり、私はしばらく窓から外の様子を見ていました。賑やかな時間は1時間ほど続きました。

私にとって、春節のこの風習を目にしたのは、2014年のこのときが最初で最後でした。当時私が住んでいた南京市では爆竹や花火が禁止され、その後移り住んだ成都市でも禁止されていたからです。爆竹や花火を楽しみにしていた中国人の中には、何とも物足りない年越しだと感じる人もいたことでしょう。

そこで売れているのが「電子爆竹」という商品です。電気がチカチカと点滅し、爆竹の破裂音が出るもので、「火薬を使わないから安全で、煙も出ないから環境にもいい」と売れているそうです。長年続いた春節の風物詩も、時代の変化とともに変わってきています。

1-2.こんなところもIT化?お年玉も挨拶もSNSで 

1-1.都市部では爆竹禁止

お正月といえば「お年玉」ですが、中国の子どもたちもお年玉をもらいます。中国ではお年玉だけでなく、結婚式などのお祝いごとのご祝儀には、赤い袋にお金を入れて渡します。これを「紅包(ホンバオ)」といいます。

春節では、子どもだけでなく、自分の両親や祖父母、友人や部下などにも紅包を渡したりします。この紅包の渡し方にも変化が起きています。

2016年の春節を迎える時のことです。当時私は、現地の国有企業に出向していました。中国のその企業では、業務連絡も資料の送付も「Wechat」というチャットアプリを使っていたので、私も所属する部門のグループチャットに入れてもらっていました。

大晦日から日付が変わる時刻になると、グループチャット内は年始の挨拶で溢れかえりました。「新年おめでとう」「この1年、すべてが順調でありますように」「健康でありますように」といった文言が書かれたメッセージやスタンプが次々と送られてきます。人によって少しずつ文言が変わっていたりするのも興味深く、私も真似をしてメッセージを送りました。

しばらくすると、中国人部長から「紅包」というメッセージが送られてきました。

「何だろう?」と思ってクリックすると、「0.5元」と金額が出て自分の残高にチャージされました。グループチャット内では「部長ありがとう!」「もう1回お願いします!」などというメッセージやスタンプが飛び交っています。

実はこのWechatの「紅包」は、個人間でお金をやりとりできるほか、グループ内で配ることができるのです。その配り方もさまざまです。例えば、30人のグループ内で「20元を10人にランダムに配る」という設定にすると、30人いる内の10人しか受け取れないわけですから早い者勝ちになります。しかも金額の配分はバラバラなので、受け取る金額が1元の人もいれば0.1元の人もいます。金額は運任せというわけです。くじ引きやゲームのような感覚で楽しめるのです。設定を変えては少額をばらまくという感じです。

「今から紅包を送るよ」「待ってました!」「次はゲットするぞ」「今度も受け取れなかった。もう1回お願い」とメッセージが飛び交うさまを見て、私は「まるで日本の節分で、お寺にしつらえられた舞台から有名人がまく豆を受け取ろうと皆が手を伸ばしている様子みたいだな」と思いました。

ただ、私の勤めていた会社ではその後、上司から紅包を配るのは禁止され、以降は年始の挨拶だけのやりとりになりました。

2.中国の家庭で味わった「お正月気分」

中国の家庭で味わった「お正月気分」

中国で5度目の春節を迎える大晦日の日、中国語の先生が私を自宅に招いてくれました。私にとって、中国人の自宅で食事を頂くのは初めての経験です。どきどきしながら部屋を訪ねると、見知らぬ人が扉を開けて私を中に招き入れてくれました。

部屋には年配の女性が二人と、先生と同じ位の年齢の若い女性が一人、そして小さな子どもが一人いました。皆先生の親戚でした。初対面の人たちに囲まれて、私はちょっと緊張していました。集まっていた親戚の人たちは、日本人に会うのは初めてだったようで、「中国に来てどれくらいになるの?」「何の仕事をしているの?」などと次々に質問してきました。私は身振り手振りで何とか答えるものの、思うようには話せません。一問一答みたいな形で会話が弾まず、何となくいたたまれない気持ちでいました。

でも、彼女たちはあかの他人が混じっていることなど全く意に介していない様子で、話をしたり、テレビを見たりしています。

食事の準備ができると、4人掛けの食卓を6人で囲みました。食卓の上には乗り切れないほどのお皿が並んでいます。

「これは美味しいから沢山食べて」と、年配の女性が料理をとって、私のお皿にポイポイとのせてくれます。お節介なくらいに、「あれ食べろ、これ食べろ、もっと食べろ」とすすめてくれるのです。

食事を終えると、皆でテレビを見て過ごしました。最初は会話が弾まなくて居心地の悪さを感じていた私ですが、皆で食卓を囲み、同じテレビ番組を見ている内に、「その場にいるだけでいい」という安心感が芽生えてきました。家族のように、別に何も話さなくても、同じ空間にいて同じ時を過ごす、そんな安心感です。

そして何よりも、大切な年越しの時間なのに、家族ではない他人が混ざっていても、全く意に介さず、むしろ喜んでもてなしてくれたというのが、不思議でした。もしも私だったら、「家族が集まっている大晦日の晩に遊びに来るなんて、非常識」と思ったかもしれません。日本人の私が持っている感覚とは随分違うんだなと思いました。

それから1年後。また春節の時期がやってきました。大晦日の日、私は休日出勤をしていました。会社の食堂で昼食を終えると、一緒に仕事をしていた中国人の同僚が声をかけてきました。

「今晩、家に遊びに来て下さい。一緒にご飯を食べましょう」

単身赴任をしている彼のところへ、飛行機に乗って両親と奥さんと子どもが来ているというのです。そんなところに、私がお邪魔してもいいものか迷いましたが、せっかく誘ってくれたのを断ったら、彼の面子をつぶすかもしれません。私は彼の申し出をありがたく受け取り、仕事を終えると、彼の車で一緒に家に向かいました。

家に着いて部屋に入ると、お母さんと奥さんが魚を揚げたり、餃子を並べたりしていました。

「せっかく家族で過ごす時間なのに、招待してくれてありがとうございます」と伝えると、同僚のご両親はこう言ってくれたのです。

「中国ではそんなの気にしなくていいの。大晦日は大勢で賑やかに過ごすのがいいのだから」

食事をひとしきり食べると、「これは日本のお菓子。TORAYA」と言いながら、サイコロ状に切った羊羹を載せたお皿を奥さんが持ってきました。日本人の私のために日本のお菓子を食べさせてくれるなんて、なんという優しい心遣いなのだろうと感激しました。「おもてなし」は日本の代名詞のように言われることがありますが、私はこの中国人の優しい「おもてなし」で心が温かくなる時間を過ごすことができました。

3.わざわざ出勤したがるのはなぜ?春節も働く社員たち

わざわざ出勤したがるのはなぜ?春節も働く社員たち

私の勤めていた工場は、春節期間中も機械のメンテナンスなどの仕事があるため、担当者は当番を決めて休日出勤をしていました。7連休の中で誰がいつ出勤するのかカレンダーに書き込んでいくのですが、いわゆる「三が日」に出勤を予定する社員が多いのです。日本人の私からすると、それは不思議なことでした。私なら年末年始の休み中に出勤しなければならないとしたら、三が日は休みたいです。少なくとも元旦に出勤するのは気が進みません。

なぜ三が日に出勤したい社員が多いのか?それには理由があります。実は、三が日の休日出勤手当は通常の3倍になるからです。私は最初「三が日くらいは皆休みたいだろうから、私が代わりに出勤しよう」と思っていたのですが、そんな気を使う必要はなかったようです。

とはいえ、春節という特別な期間でも仕事をしなければならない人は沢山います。公共交通機関や宿泊施設で働く人、電気や水などのインフラに携わる人、警察官や消防士など。そうした休日返上で働く人たちを取材したニュース番組では、故郷の家族に思いをはせながら、人々が春節を楽しく安全に過ごせるよう、仕事に集中する姿を描き出していました。

おわりに

私は日本で仕事をしていた頃は、大晦日も元旦も仕事をしていることが多かったので、あまり「お正月気分」を味わうことはありませんでした。それが思いがけず中国で懐かしい「年越し」の気分を味わえたことは、今でもいい思い出となっています。中国人にとっての春節は、日本人がお正月に抱く思いと同じか、それ以上ではないかと思います。国土が広くて移動に何日もかかったり、都市部に出稼ぎに出ていて「家族に会えるのは春節の時だけ」など、帰郷することそのものが簡単でないことがあるからです。その特別な日に、日本人の私を家族同様に迎えてくれた中国人の優しさやおおらかさを感じて頂けたら嬉しいです。そしてまた、日本でも中国でもお正月という特別な日も休まず仕事をしている人がいて私たちの生活が成り立っていることに、改めて感謝をしたいものですね。

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