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孫に本当に喜ばれるプレゼントって? 専門家に聞く、親・子・孫3世代のより良いコミュニケーション

孫の記念日や久しぶりに会う機会には、何かプレゼントをしたいと考えるもの。しかし、「子どもの趣味に合わず、扱いに困る」「プレゼントが多くて、家に置ける場所がない」など、“ありがた迷惑”になるケースも少なくありません。

では、孫にもパパ・ママにも喜ばれるプレゼントを選ぶためには、どんなことを意識すれば良いのでしょうか。このコラムでは、子育てや絵本、おもちゃの専門家である「岩城敏之さん」に、パパ・ママ世代とのすれ違いの原因や子どもの発達段階に合ったおもちゃの種類、親・子・孫3世代のより良いコミュニケーションなどについて伺いました。

1.若い世代はモノを欲しがらない? かさばるおもちゃは「じいじ・ばあばの家」に

−−祖父母世代の中には、「せっかく孫にプレゼントを贈ったのに、あまり喜んでもらえなかった」「パパ・ママから嫌がられているような気がする」という体験をした方もいるようです。なぜ、このようなすれ違いが生まれてしまうのでしょうか?

祖父母世代、ここでは親しみを込めて「じいじ・ばあば世代」と呼ばせていただきますが、この世代が気に留めておきたいのは、孫を含むパパ・ママ世代は、余計なモノを欲しがらない傾向があることです。

戦後間もない頃は、今よりもずっとモノが少なかった時代。遊びといえば外で走り回るか、がらくたから手作りするか。そんな時代でした。そこから少しずつ日本は豊かになり、現在60代前後のじいじ・ばあば世代が大人になった頃は、まさに消費のピーク。モノがたくさんあることこそが豊かさの象徴だったため、孫にはできる限りモノを買ってあげたいと考える方も珍しくないです。

しかし、今のパパ・ママ世代は、モノの豊かさに慣れ、むしろ「余計なモノはいらない」と感じるようになっています。必要なものは、必要なときに借りれば良い。不要になれば、フリマアプリなどで売れば良い。そのような価値観を持ち、なるべく家の中をすっきりさせておきたいと考える方が少なくないです。

こうした価値観のズレを知らないままでいると、せっかくのプレゼントが“ありがた迷惑”と思われてしまう可能性があります。まさか、じいじ・ばあばのプレゼントをフリマに出品するわけにも行きませんからね(笑)。

その結果、良かれと思って贈ったプレゼントが、パパ・ママや孫とのすれ違いを生んでしまうのです。とくに、かさばるものなどはトラブルにつながりやすい傾向がありますね。

ジャングルジム

ジャングルジムや乗用玩具など大きなものは迷惑なケースも

−−確かに、部屋の広さが十分でないと、せっかくのプレゼントを「邪魔」と感じてしまうパパ・ママもいるかもしれません。

そうなんです。ですから、それぞれの家庭事情に合わせて、プレゼントの頻度や量には配慮しなければいけません。愛情表現のはずが、邪魔になってしまってはむなしいですから。

ちなみに2世帯で同居していない場合、「かさばるものは、じいじ・ばあばの家に置いておくね」と言えば、孫が遊びに来る機会も増え、一石二鳥ですよ。

−−モノに対する価値観の違いについてお話しいただきましたが、ほかにも気をつけたいことはありますか。

じいじ・ばあばがプレゼントを贈る際にぜひやってもらいたいのが、「事前にプレゼントを予告する」ことです。

たとえば、パパ・ママは「子どもをやさしく育てたい」と考え、何かを戦わせるおもちゃは避けているとします。その教育方針を知らず、いきなり「子どもはこういうおもちゃが好きだろう」と対戦もののおもちゃを贈ってしまったら、トラブルにつながるかもしれません。

プレゼントを贈る目的は、孫を喜ばせ、たくさん遊んでもらうことのはず。そのためには、事前に「こういうものをプレゼントしたいのだけど」と相談して、パパ・ママ世代との無用なすれ違いを避けることが大切です。

2.発達段階に合わせつつ、「孫との時間が増えるもの」を選ぼう

−−次は、プレゼントの内容について教えてください。孫にふさわしいプレゼントを選ぶ場合、どのような基準で選べば良いでしょうか?

プレゼントを選ぶにあたり、念頭に置いてほしいことがあります。それは、「最大のプレゼントは、一緒に楽しく過ごす時間」ということです。

「しっかりしつけをしなければ」と気負いがちなパパ・ママと比べると、じいじ・ばあばと孫の関係は和やかになりやすいものです。だからこそ、「孫と楽しく過ごす時間を増やすには、どのようなプレゼントをすればいいかな?」という視点を持ってみてください。

孫との時間

そしてもう1つ、知っていただきたいのが、「子どもの遊びは五感を育てるためにある」ことです。

私はおもちゃの専門家として、海外のおもちゃや教育学を勉強してきました。その中で出会ったのが、ドイツのおもちゃでした。

ドイツでは、子どもの遊びは脳を育てる大切な行為だと捉えられており、五感を刺激するおもちゃが多数販売されています。一方の日本では、光ったり、音が鳴ったりと、とにかく派手なおもちゃで子どもの注意を引こうとしてきました。その結果が、視覚や聴覚ばかりを刺激するテレビゲームや動画サイトの隆盛です。

今のパパ・ママは忙しいですから、こうしたものに頼るのもある程度は仕方がありません。でも、大切な孫の思考力を伸ばすために、じいじ・ばあばのプレゼントは、ぜひ別の切り口を考えていただきたいです。

−−具体的には、どのようなおもちゃを選ぶと良いでしょうか?

子どもは発達段階に応じ、できることが増えていきます。それぞれの段階に応じたおもちゃを用意することで、子どもの成長を助けてあげると良いでしょう。

幼い子どもが初めに興味を持つのは、「模様」です。つまり、一定の法則に従って並べると、きれいな模様ができることに子どもは強く関心を持ちます。ですから、まだ幼いお子さんでしたら、同じ形のタイルがたくさん入っているようなおもちゃが良いかもしれませんね。

そして、「模様」の次にチャレンジするのが、「立体表現」です。代表格は積み木でしょう。他にも、『ピタゴラスイッチ』の「ピタゴラ装置」(※)のように、ビー玉を転がす道をつくるような遊びを一緒にしてあげると良いでしょう。

※定規やフライパンなど、身の回りのものを使って組み立てた立体物。その上をビー玉が転がり、ゴールに辿り着く仕組みになっている

積み木

さらに子どもが成長すると、「人と関わりながら遊ぶ」ようになってきます。会話を通してイメージを共有したり、一緒にものを作ったりできるようになるわけですね。会話が楽しめるとなれば、じいじ・ばあばの出番です。なにせ、パパ・ママ世代は、基本的に子どもがひっきりなしに話しかけてくることに疲れきっていますから(笑)。孫の話をたっぷり聞き、ときには一緒に“研究”してあげるつもりで、図鑑を与えたり、博物館に連れて行ってあげたりすると良いでしょう。

人との関わりがさらに一歩進むと、「ルールを決めて遊ぶ」ようになります。体を動かす遊びなら、おにごっこ。頭を使う遊びなら、ボードゲームを楽しめるようになります。ボードゲームというと、勝ち負けを決めるイメージがあるかもしれませんが、中にはみんなで協力してゴールを目指すようなものもあります。こうしたゲームを一緒に楽しみながら、子どものコミュニケーション能力を伸ばしてあげると良いでしょう。

−−これまでは「子どもの発達段階」という観点からのお話でしたが、子どもの性別に応じて、おもちゃの種類も変えたほうが良いのでしょうか?

いえ、そうは思いません。昨今、世界各国が重視しているSDGs(持続可能な開発目標)にも、「ジェンダー平等」が掲げられていますよね。世の中の流れを見ても、「男の子だから・女の子だから、これがふさわしい」という決め方は好ましくない。平均的・理想的な「男らしさ・女らしさ」に閉じ込めず、「その子らしさ」を中心に考えてあげてください。

−−パパ・ママが共働きで忙しい家庭だと、子どもが一人で熱中してくれるようなおもちゃがありがたいのではと思いますが、一人で遊べるおもちゃについてはどうでしょうか?

それぞれのご家庭の状況がありますから、一人で遊べるようなおもちゃが悪いわけではありません。でも、せっかくの機会ですから、個人的には、じいじ・ばあばとコミュニケーションを取りながら、遊べるようなおもちゃをおすすめしたいところです。

日本で「遊び」というと、「遊んでばかりいないで、勉強しなさい!」という小言がセットでくっついてくるように思います。けれども、世界的には、遊びは子どもの社会性や思考力を伸ばすためのもの。のびのびとした、健やかな大人に育てるために欠かせない行為ですから、ぜひ孫と一緒に楽しんでいただければと思います。

3.事前に話し合えば、家族全員がプレゼントを楽しめる

−−プレゼントを親・子・孫3世代全員が楽しむために、じいじ・ばあば世代とパパ・ママ世代は、どのようなコミュニケーションをとると良いでしょうか。

私はいつも、パパ・ママ世代に「先手を打て」とアドバイスしています。じいじ・ばあばが気を揉む前に、「こんなおもちゃが欲しい」「こういうことをして欲しい」とリクエストしなさいと。そのようなルールにしておいて、応じるかどうかはじいじ・ばあばが決めれば良いでしょう。

そして、「プレゼントが嬉しいものだったら、動画や写真で感想を送ってあげて」ともアドバイスしています。動画や写真が撮れない(送られてこない)ということは、孫が喜んでいないということ。いわば“空振り”ですから、じいじ・ばあばは、似たようなおもちゃは次から避けた方が無難かもしれませんね。

家族団らん

時代は変わり、「親は子どもよりえらい」「嫁は、姑の言うことを聞くもの」という価値観は終わりました。今の子育ては、全員がフラットな立場で、チームで取り組むもの。一方的に贈ったり、教育方針にそぐわないプレゼントを押し付けたりするのではなく、「こういうプレゼントを贈りたいと思うのだけど」と事前に話し合ってみてください。

良い人間関係を築いてさえいれば、プレゼントが“ありがた迷惑”にならず、素直に喜んでもらえると思いますよ。

(取材・執筆=夏野かおる 編集=ノオト)