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日本女性の目線からワイン業界に新風を巻き起こす~第10回サクラアワード~
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日本女性の目線からワイン業界に新風を巻き起こす~第10回サクラアワード~

2023年4月19日、第10回“SAKURA” Japan Women’s Wine Awards 2023授賞式と試飲会が、東京・帝国ホテル本館 孔雀の間で開催されました。

「“SAKURA” Japan Women’s Wine Awards (通称:サクラアワード)」は、ワイン業界で活躍する日本女性のみで審査を行う国際ワインコンペティションです。

コロナ禍が落ち着きを見せ始めた2023年は3年ぶりに海外から生産者の来日出展があり、授賞式後に行われた試飲会には約900人の業界関係者が参加するという大規模なイベントとなりました。

会場で取材した内容をもとに、サクラアワードの取り組みと今後、世界のワイン業界の動向を踏まえ、おすすめのワインについてもご紹介します。

1.アジア最大のワインコンペティション

10回目を迎えたサクラアワードは、日本女性のみが審査員となっているのが大きな特徴です。ソムリエ、ワイン醸造家、ワイン講師、ワインジャーナリスト、インポーター、流通・ワインショップの担当者など、ワイン業界の第一線で活躍する女性たちが、ブラインドテイスティング方式で審査し、受賞ワインを選びます。

主宰者で審査責任者である田辺由美さんによると、サクラアワードの大きな目標は以下の3点です。

  • 日本の食卓に合うワインを探すお手伝いをする
  • ワイン市場の活性化に貢献する
  • ワイン業界で働く女性の活躍の場を広げる

「日本女性の味覚でワインを選ぶ」ことをテーマのひとつに掲げて回を重ねてきたサクラアワードは年々認知度を上げ、アジア最大との呼び声も高いワインコンペティションです。

日本のワイン市場に対する生産者の期待は大きく、今回のエントリーが世界28か国から4,222アイテムを数えたことからも、影響の大きさがわかります。

受賞したワインボトルに貼られる「受賞メダルロゴステッカー」は、いわば日本の女性審査員お墨付きの美味しいワインの証。家庭料理に合うワインがわかるので楽しみが広がる、安心感があるという評価も年々高まってきているようです。

1-1.世界進出を目指す

第10回サクラアワード2023_授賞式-min

記念すべき第10回を終えたサクラアワードですが、今後の展開として特筆すべきは、海外でも活動を活発化させていく点です。

例えば、2023年5月23日からシンガポールで開催された「VINEXPO ASIA」では、2022年度 ASI アジア・オセアニアソムリエコンクールで優勝した「Mason Ng」氏をゲストに迎えた「サクラアワード受賞ワインマスタークラス」が実施されました。

「VINEXPO」は、40年以上の歴史がある世界最大級のワイン&スピリッツの見本市。そのため、サクラアワード受賞ワインに対しても大きな反響が予想されます。

1-2. ユニークな特別賞カテゴリー

サクラアワードは、100点満点で採点された結果による授賞に加え、各種特別賞が用意されています。

得点に応じ、「ダブルゴールド」(93~100点)、「ゴールド」(88~92点)、「シルバー」(85から87点)の各賞が与えられます。

また、「ダブルゴールド」に選ばれたワインの中から特に優れたワインに与えられるのが、最高賞となる「ダイヤモンドトロフィー」です。今回は全59アイテム、エントリーしたワインのわずか1.4%という狭き門でした。

サクラアワードならではの特別賞が、「和食・アジア料理に合うワイン賞」です。ゴールド以上の評価を受けたワインを対象とし、9つの料理カテゴリー別に選出。「日本の食卓に合うワインを探すお手伝いをする」というサクラアワードの趣旨を体現した賞といえるでしょう。

特筆すべきは、今年から加わった「オレンジワイン賞」です。オレンジワインとは、白ブドウを使って赤ワインの製法で造られたオレンジ色のワインのこと。近年世界的に注目を集めつつあるカテゴリーで、今回エントリーされたオレンジワインは、44アイテムでした。

こうしたワインの世界的トレンドも一早く取り入れ、紹介することもサクラアワードの特徴であり、意義でもあります。

特別賞一覧

SAKURA_GrandPrix_Logo

・女性ワインメーカー賞

・ロゼワイン賞

・いつも飲みたいスパークリングワイン賞

・デザートワイン賞

・フォーティファイドワイン賞

・これから飲みたい品種賞

・コストパフォーマンス賞

・”グランプリ“ジャパニーズワイン賞

・和食・アジア料理に合うワイン賞(寿司、天ぷら、すき焼き、鉄板焼き、焼き鳥、寄せ鍋、中華料理、韓国料理、タイ料理)

1-3. 約900人が来場した試飲会

試飲会の様子
試飲会の様子
試飲会の様子

授賞式、記者会見後に開かれた試飲会は約900人を集め、大きな盛り上がりを見せました。

全61ブースに数百アイテムのワインがずらりと一堂に会する様子は圧巻の一言。酒類業界従事者である参加者はメダルロゴステッカーが貼られた各種ワインをテイスティング。各社の業態に合うワインを探しつつ、各ブースで質疑応答を交わすなど、活気ある試飲会となりました。

2.世界のワイン業界の動向

世界のワイン業界の動向を語るうえにおいて、クライメット・チェンジ(温暖化と土壌水分量の減少)とSDGs(持続可能な開発目標)を通じたオーガニックワイン市場の活況も見逃せません。

2-1. クライメット・チェンジによるテイストの変化

世界のワインの生産量は、コロナ禍でも大きな変化はありません(OIV:国際ブドウ・ワイン機構統計資料)。しかし、気温の上昇や土壌水分量の減少により、ワイン用ブドウの早期熟成傾向が見られます。これを背景に、長年築かれてきた各ワインの個性の変化に注目が集まっています。

ブドウは品種によって、土壌の水分の影響を多く受けるため、品種に合わせて栽培地域や環境を整えなければなりません。

例えば、青リンゴのような爽やかな酸味を特徴としていたワインが、ブドウの糖分上昇によりバランスが変わる減少も見られます。

ワインの味わいの変化により、質が低下したと評価される可能性も否定できません。環境要因によるワインの味の変化に注目する動向は、今後も続くと予測されています。

一例として、フランス南西部のボルドー一帯で生産されるボルドーワインでは、ワイン造りに用いられるブドウの品種を限定してきました。しかし、近年の気候変動によるワインの風味の変化が問題となり、2021年に新たな品種の使用を承認。条件は伴いますが、伝統や文化に深く根差しているワイン造りにおいては大きな変化だといえるでしょう。

一方、近年知名度を上げてきた感のあるチリワインですが、チリは雨があまり降らないためブドウの品質劣化が少なく、気候や環境を味方につけた水分コントロールが可能です。そのため、品質にばらつきがなく安定生産が見込めると注目を集めています。

2-2. SDGsとオーガニックワイン市場の活況

ワインの業界においてもSDGsは注目されており、土壌汚染や残存農薬の問題、生態系の維持などの観点からオーガニックなブドウ栽培方法がワイン業界でも注目されるようになりました。

オーガニックワインは科学的な農薬・肥料を使わないため、その年の天候がブドウの出来に強く影響します。添加物も少ないため、生産者の力量やこだわりが直接ワインの味に反映されるといっても過言ではありません。

オーガニックワインの主要地域は長らく欧州地域でしたが、生産者のこだわりが色濃く反映され、環境への配慮といった点から世界中でオーガニックワイン生産が広まりつつあります。

サクラアワードでも、厳密にはオーガニックワインと区別されますが、ビオワインが総エントリー数の37%を占めたことから、SDGsとワインとの関係性に注目が集まっていることが伺えます。

3.今回賞を受賞した注目のワイン

ここでは、今回賞を受賞した注目のワインをご紹介します。

3-1. ダイヤモンドトロフィー受賞ワイン

【スパークリングワイン】

CHAMPANE MONTAUDON MILLESIME2015Brut(シャンパーニュ・モントードン ミレジメ2015ブリュット)
ピノ・ノワール44%、シャルドネ43%から造られた、フランス・シャンパーニュ地方の辛口シャンパーニュ。   シャンパーニュ・モントードン は、1891年創業の歴史と伝統を誇る老舗シャンパーニュ・メゾンです。 「MILLESIME」(ミレジメ)は、特に作柄の良かった年のみのブドウで造られる特別なシャンパーニュ。MILLESIME2015Brutは樽詰めから8年という年月を経て、すっきりした中にも芳醇なブドウの香りとトースト香が味わえる、とっておきの1本です。   すっきりとした味わいはさまざまな料理とベストマッチですが、特に油を切ってくれるため和食なら天ぷらとベストマッチ。実際に今回、「天ぷらにあるワイン賞」のグランプリを受賞しています。

【スティルワイン・白】

LEYDA RESERVA SAUVIGNON BLANC 2022 (レイダ リザーヴ ソーヴィニヨン・ブラン2022)
100%ソーヴィニヨン・ブランで造られたチリのすっきりした辛口白ワインです。   2007年から現在の醸造責任者であるヴィヴィアナ・ナヴァレッテ氏が着任 して以降、さまざまな賞を受賞しています。今回のサクラアワードでは、ダイヤモンドトロフィーに加え、「女性ワインメーカー賞」グランプリを受賞しました。   フレッシュできりっとした酸味に加え、豊かな果実味を楽しめるオールマイティーさが特徴。1,500円以下という価格帯なので、デイリーに楽しみたいワインです。

【スティルワイン・赤】

CONO SUR SINGLE VINEYARD PINOT NOIR 2021(コノスル シングル・ヴィンヤード ピノ・ノワール 2021)
コノスルは、日本への国別輸入量で1位(2020年)を誇るチリ・アコンカグアのワイナリー。日本のスーパーやコンビニエンスストアでもよく見かける、身近なワイナリーです。   100%ピノ・ノワールで造られ、D.O.サンアントニオヴァレーの単一区画の畑だけを使用した1ランク上の上級品。ラズベリーやイチゴの凝縮した香り、酸味の持続力と飲み終えた後の余韻が長く感じられる、柔らかな辛口赤ワインです。   フルボディだけはでない柔らかい印象のチリワインとして、しゃぶしゃぶなどのあっさりした肉料理をはじめ、和食の繊細な味付けによく合います。

【オレンジワイン】

VIGNOBLE DU REVEUR SINGULIER 2021(ヴィノピュル デュ レヴール サンギュリエ2021)
フランス・アルザス=ロレーヌ地方産のビオオレンジワイン。60%リースリング、40%ピノ・グリージョで、天然酵母のみで醸造されています。   ピノ・グリージョのやや赤みがかったオレンジ色が特徴であり、リースリングとピノ・グリージョの完熟した果実味と甘い香りを感じますが、残糖感はゼロの辛口。タンニンの渋みはまろやかで、飲み口が快いワインです。   ブドウ本来のうまみと果皮の色素、タンニンを上手く引き出した画期的なワインとして、今回のサクラアワードでは「オレンジワイン賞」グランプリを受賞しました。   白ワインと赤ワインのまさにいいとこどりの味わいなので、蒸した魚料理から、スパイシーなエスニック料理まで、料理とのマリアージュの楽しみが広がるワインです。

4. 初心者におすすめの受賞ワイン

今回のサクラアワードにて受賞したワインの中から、これからワインを楽しんでみようという初心者の方向けのワインをピックアップしてご紹介します。

ワインの楽しみ方は人それぞれ。手を出しやすい価格帯なのに味わい深いワインや、飲みやすくワインビギナーにおすすめのワインもご紹介します。

4-1. ダイヤモンドトロフィー受賞ワイン

【スパークリングワイン】

FURST VON METTERNICH RIESLING SECT TROCKEN DRY(フュルスト・フォン・メッテルニヒ リースリング ゼクト トロッケン ドライ)
ドイツ産、100%リースリングから造られた辛口スパークリングワインです。   リースリングはドイツを代表するブドウの品種であり、レモンや野菜の香りにハチミツや火打石、花のような繊細な香りが特徴です。   樽を使わずに、初心者にも親しみやすいまろやかで柔らかく爽やかな味わい。焼き野菜やマリネなどの前菜や、和食全般によく合うので日常的に食卓のお供として楽しめるでしょう。   1,500~2,500円前後と求めやすい価格も魅力です。

【スティルワイン・白】

SILENI GRAND RESERVE STRAITS SAUVIGNON BLANC 2021(シレーニ グランド・リザーヴ・ストレイツ ソーヴィニヨン・ブラン 2021)
日本で一番売れているニュージーランドのブランド、シレーニの上級ワインです。グランド・リザーヴは、すべて単一畑で収穫されたブドウから造られます。   冷やすとフレッシュ感を、温度が上がるにつれてパッションフルーツや桃、メロンなどのまるみのある果実味や、植物の茎のような奥深い味わいが楽しめます。   魚介料理、軽くスパイスの効いたアジア料理などと好相性。きりっとした酸とすっきりとしたミネラル、ほのかな苦味が余韻まで残る、辛口の白です。

【デザートワイン】

ALAIN BRUMONT CHATEAU BOUSCASSE LARMES CELESTES 2018 (アラン・ブリュモン シャトー・ブースカッセ ラルム・セレスト 2018)
干しアンズなどフルーツや花、ビスケットの香りがかぐわしいデザートワインです。フランス南西地方で、100%伝統品種プティ・マンサンから造られています。   まったりした甘さと飲んだ後に長く続く余韻が、和菓子やケーキなどのスイーツによく合うのもデザートワインならではの特徴のひとつ。食後酒として単体でも楽しめます。   ワインを飲み慣れない初心者の方にもおすすめです。

4-2. ダブルゴールド受賞ワイン

【スティルワイン・白】

CONO SUR SINGLE VINEYARD CHARDONNAY 2022(コノスル シングルヴィンヤード シャルドネ 2022)  
チリ・アコンカグア産の辛口白ワイン。コノスルのピノと同様、単一区画の畑だけを使用した1ランク上の上級品です。   新鮮な柑橘系果実やピーチ、アンズの香り、レモンのような酸味が特徴。長い持続力があるのに切れ味が良い、ふくよかな味わいが魅力です。   豊かな酸とボリューム感のある味わいですが、和食全般の繊細な味付けにピッタリ。1,500~2,000円前後なので、日常的に食事と一緒に楽しめるワインとしておすすめです。

4-3. ゴールド受賞ワイン

【スティルワイン・ロゼ】

MISIONES ROSE 2021 (ミシオネス ロゼ 2021)  
サクラアワード2021ではダイヤモンドトロフィーを受賞した実力派。チリのセントラル・ヴァレーにて85%カベルネ・ソーヴィニヨン、10%シラーから造られる辛口ロゼです。   綺麗なピンクの色彩、ラズベリーやプラムの甘い香り、フレッシュな酸味とミネラル感のある複雑さも楽しめます。渋みは穏やかなので、ワインビギナーにピッタリです。   比較的どのような料理にもペアリングしやすく、きりっと冷やして和食全般やエスニック料理、中華料理などにもフレッシュな酸味がよく合います。   万能選手なのに1,000円以下という安さも魅力のひとつです。

5.授賞後の販促活動がサクラアワードの特長

授賞後の販促活動がサクラアワードの特長

2014年に第1回を開催したサクラアワードですが、今年10回目を数え、ワインの単なるコンペティションにとどまらず、授賞後のプロモーションに更に力を入れるべきと考えています。

2-1. エントリーワインの傾向から見えてきたこと

国別のエントリーワインの傾向を見ると、ブドウの不作やコロナ禍の影響からフランスのアイテム数の減少が顕著でした。一方で、ブルガリアやルーマニアなどのワインが目立って増えています。また、未輸入のワインが697アイテムあり、これらの受賞率が高い点も今回の際立った特徴でした。

日本ワインは今回410アイテムでしたが、近い将来、500アイテムまで増やしたいと主催の田辺さんは語ります。カテゴリーとしては赤ワインが全体の半分以上を占めました。これはワイン生産量の反映となります。

また、価格帯は、1本1,000~4,000円までが全体の68%を占めました。サクラアワードとしても、この価格帯のワインの訴求に力を入れていく予定です。

今後、バリエーション豊かなワインを日常の食卓で楽しむスタイルを提案していくことも、サクラアワードの果たすべき役割だといえるでしょう。

2-2. 多彩な企業やイベントとコラボレーションを図る

今年は特に「消費者に寄り添う サクラアワード」をテーマに、消費拡大が大切なミッションと考えており、販売・宣伝チャネルの拡大に力を入れています。

北海道から沖縄までの店頭やeコマースでのサクラアワードの受賞ワインの拡販を目指しチャレンジしているのが、さまざまな企業やイベントとのコラボレーションです。例えば、2022年11月には、ナチュラルローソンにて「ワイン女子が恋したワインとフードフェア」を開催しました。

また、株式会社名畑(なばた)が主催する食のトータルサポートフェア「食王(ショッキング)」では、毎年サクラアワード受賞ワインのテイスティングコーナー“Sakura Bar”を設置し、田辺由美によるワインセミナーを行っています。

生活協同組合コープさっぽろでは、サクラアワードのコーナーを常設。それまでは売れるワインの中心価格帯が500円以下だったところ、現在では2,000円以上のワインもよく売れるようになりました。

こうした販売チャネルの模索と共に、よりサクラアワードの認知度を上げるべく、今後は様々な商談展示会等にて、サクラアワードをPRする場を設ける予定です。

2-3. 時代のニーズに合わせた展開を

第11回サクラアワードのエントリー目標は、4,500アイテム。ビオやサステナブルなワインのエントリーも増加傾向にあり、今後より注目されることが予想される東欧のブドウ品種や古代品種の動きも注視する必要があります。

日本の食卓に合うワインを発掘し、ワイン市場の活性化に資する、そしてワイン業界で働く女性の活躍のために時代の動きに柔軟に対応しつつ、根本をブレさせないコンペティションとして、サクラアワードの存在感は今後さらに増していくでしょう。