老後の準備は何もしていない――映画『老後の資金がありません!』出演のクリス松村さんに聞く人生哲学

老後の準備は何もしていない――映画『老後の資金がありません!』出演のクリス松村さんに聞く人生哲学

夫婦が95歳まで生きるには、老後資金が2,000万円必要――。2019年に金融庁が発表した報告書は、国民に驚きを持って伝えられました。さらに、夫婦が暮らすには2,000万円の貯蓄ではかなり切り詰めた生活になるので、4,000万円が必要だという説まであります。

天海祐希さん主演の映画『老後の資金がありません!』(公開中)は、50代以降の暮らし方について考えさせられる作品です。この映画に、天海さんが演じる後藤篤子らが通うヨガ教室のセレブな講師・城ヶ崎君彦役で出演するクリス松村さん。いつも明るいクリスさんは、老年期についてどう考えているのでしょうか。老後や人生の楽しみ方についてお話を伺いました。

●クリス松村さん

オランダの政治都市ハーグ生まれ。イギリス、ブラジル、アメリカ、カナダなど、世界各地の都市での生活を経験。メインMCとして番組やイベントで活躍するほか、幼い頃から洋邦問わず音楽に親しんだ経験から、近年は音楽番組の監修兼パーソナリティー、CDの音楽解説者といった一面も。大物シンガーソングライターとの対談も行うなど、アーティストから認められるほどの大の音楽ファン。アナログ盤、CD、DVDは約2万枚を所有し、現在も収集中。

1.老後の備えには後ろ向き!? クリスさんの人生哲学

−−クリスさんが、セレブなヨガ講師・城ヶ崎先生として出演された映画『老後の資金がありません!』を拝見しました。出演者の方々の楽しそうな雰囲気が印象的でしたね。

エキストラの方々も含めて和気あいあいとしていて、皆さんすごくいい雰囲気でした。私がカメラに向かってセリフを言うシーンは、天海祐希さんが映らないのに、わざわざ私の前に立って目線を合わせてくださって。「天海さんはこんなに細かいところまで気を遣ってくださるんだ」と、感動しましたね。

それに私は、天海さんのお義母さん役で出ていらした草笛光子さんの大ファンなんです。人生初のミュージカル鑑賞が、1982年に三越ロイヤル劇場で上演された草笛さん主演の『ジプシー』でした。だから、草笛さんをお見かけすると、ずっと話しかけてしまって。すると、その様子を見ていた共演者の北斗晶さんに腕を掴まれて、「クリス!」って止められちゃったくらい(笑)。

作品も撮影現場もとても楽しかった。でもこの映画では、夫婦や両親をはじめ、子どもたち、友だちにまつわるお金の問題が、次から次へと起こるんです。だから、映画出演が自分の老後を考え始めるきっかけになりました。

−−クリスさんは、ズバリ老後の備えをしていらっしゃいますか?

「老後の資金がありません!」

<キャプション>ⓒ2021映画「老後の資金がありません!」製作委員会

いざという時のために備えるのが大事なのはわかっているんです。病気にならない保証もないですからね。でも私、何もしていないんです!

私の大好きな歌手、トニー・ベネットは今年95歳でレディー・ガガと新譜を出したでしょう? ああいうふうにいつまでも輝きながら生きるためには、何より健康でなくてはいけない。そして、自分の働く場所も確保していなくてはいけない。いろいろと考えてしまいますよね。

−−でも、一般の方からすると、芸能人は定年がないですし、きらびやかな生活をされているように見えます。

老後の備えをする意味では、芸能人は会社勤めの方よりも大変だと思いますよ。芸能界の第一線で生き残っていられるのは、ほんの一握りです。

そもそも私は、コロナ禍でお仕事がものすごく減ったんです。毎月2本行っていたイベントの仕事が、昨年はゼロ。海外ロケのお仕事も完全になくなりました。

私も老後の資金や死後のことを考えないわけじゃない。行きあたりばったりの人生では良くないのかもしれない。

でも、歳を重ね、コロナ禍を経験して感じたのは、今この瞬間を精一杯楽しく生きることが一番大事じゃないかなってことです。今を楽しむにはお金を貯めることだけに集中せずに、ある程度自分の好きなことにお金を使わなきゃと思っています。私が楽しく生きるために必要なのは、音楽、映画、ドラマですね。

2.人生で大切なものは20歳までに興味を持ったこと

クリス松村

−−昨今は「人生100年時代」といわれています。定年の年齢がどんどん引き上げられたり、逆に「45歳定年」みたいな新しい制度が話題になったりしました。自分の居場所や人生設計がどんどん難しくなっているのでしょうか?

そうですね。映画『老後の資金がありません!』でも描かれているように、たとえば50代は後進に道を譲り、子どもも独立する年代だったりします。人によっては、自分が必要とされていない感覚に陥る方もいるかもしれない。でも、趣味はね、人を助けます。

結局、悩んだ時に人が立ち返れるのは、20歳までに興味を持ったことだと私は思うんです。歳をとってから新しい趣味をむやみに探すよりも、自分がこれまでの人生で何に興味を持ち、何を捨ててきたか。それを見つめることで、定年後も楽しく生きられるヒントが見つかるかもしれない。

これからは60歳以降も働く世の中になるでしょう。仕事は仕事で続けつつ、同時並行で趣味に没頭する道もあります。老後のためにお金を貯めておくだけでなく、ある程度好きなことをしながら自走しないといけませんよね。

−−クリスさんは、幼い頃から大好きだった音楽にかかわるお仕事をされるようになりましたよね。

私が初めてバラエティ番組に出演したのは、18年前です。当初はタレントとして世間に認知していただき、今では仕事の中心が大好きな音楽に変わりつつあります。

出演する音楽番組の監修をしたり、CDのライナーノーツを書いたり。これは子どもの頃から趣味として、邦楽も洋楽も真剣に追ってきた結果です。タレントの仕事に限らず、どんな職業に就いたとしても同じ内容をずっと繰り返すことはないですよね。仕事とは常に変わっていくものでしょう?コロナ禍で会社員の方だって、リモートで仕事をするようになったんですから。

最近、音楽の仕事でうれしかったのは、私のラジオで20代のリスナーがものすごく増えたことなんです。これはコロナ禍の大きな変化でした。緊急事態宣言下の自由に動けない暮らしのなかで、若い子たちは心が温まる空間や癒やしを求めていたのかな。1970〜80年代の邦楽・洋楽を掘り起こす私の番組の選曲も、若いリスナーが興味の持てる内容へとどんどん変えていきましたね。

3.「私は私」だけど、他人同士がゆるく支え合える社会であってほしい

−−コロナ禍のラジオ空間で、リスナーの世代を超えたつながりができたのですね。映画の中では、退職後のおじいさんと若いお母さん、赤ちゃんたちが生活を共にするシェアハウスも出てきました。

いずれ人は、必ず誰かから介護してもらう必要があるし、自分ひとりで食事を作れなくなる時も来ます。だから老後のシェアハウスは、今後増えていくんだろうと思います。シェアハウスは、みんなで仲よく住めれば最高。

でも私自身は心配。だって、同居する人たちと仲悪くなったら、どうするんです?

日本の一般的な老後のシステムって、どうしても家族やお年寄り同士だけで生活や情報をシェアしあいがちですよね。そういう暮らしはあまりよくないと思っています。

例えば、小学生が地域のおじいちゃん、おばあちゃんのところに行って直に触れ合う。そういった違う世代の人間同士がつながり合える試みを、学校のカリキュラム外の教育として、もっと積極的に取り入れるべきですよ。

−−クリスさんは海外での生活も経験されています。日本が見習いたい海外の老後の暮らし方ってありますか?

クリス松村

オランダのアムステルダム近郊に、ホグウェイという「認知症の人たちが尊厳を維持したまま普通の暮らしができる街」があって。街の中には映画館やスーパー、レストランなどが揃っていて、認知症の人たちが街の中を自由に行き来できるんです。こういう暮らし方が日本でも実現できるのが理想的かなって。

私は子どものころに海外で育って、あまりにも人と違うものを持ちすぎていたから「私は私」って考えなんです。ジェンダーの問題もそうだし、周りと違うアジア人として常に差別の目に晒されていたから。

だから、確固たる「私」を持って、いつも充実した自分でいる。大事なのは、他人と自分を比べない。そういうブレない「私」があった上で、みんなと支え合って生きる。「私は私」だけれども、他人同士がゆるくつながり合える社会は、1つの理想的な暮らし方ですよね。

4.葬式もいらないし、墓もいらない

−−ご出演された映画は「老後の資金」がテーマですが、突き詰めるといかに生きて、いかに死ぬかという「死生観」の話に行き着きます。最後にクリスさんに伺いたいのは、死について。クリスさんはご自身の死について、どう考えていらっしゃいますか?

私は正直なことをいうと、死んだら終わりだと思っているの。お葬式もいらないし、お墓もいらない。遺灰をおトイレに流されるのは困るけど。遺灰はむしろ海に放り投げていただきたいくらい。軽石よりは邪魔にならないでしょう?(笑)

今、放置されているお墓ってたくさんあるじゃないですか。お墓に入ったとしても、何代か後の世代では捨ておかれる可能性がある。そう思ったら、死んだ時に自分に関わるすべてを終わらせた方がいい。今を精一杯生きると言ったのは、死んだら終わりだと思うからなんですね。

万が一、生前葬をするなら、とことん自己満足のためにやりたいですね。私だったら、会ったこともないスーパースターや好きな歌手を呼んだパーティーにしたいかな。そして一流の写真家にお願いして、私のキレイな写真を残してもらう。それくらいしなきゃ、自分のご褒美にもならない。「このアーティストたちが私のお葬式に参加してくれたの」って自慢できるレベルじゃないと。それだったら生前葬、やってみたい!!

でも、そんな豪華な生前葬を開くとなると、そのための資金をある程度作っておかないといけないってことよね。だって私、何もやっていないんだから(笑)。老後の蓄えばかりに注目が集まりがちだけど、そのお金を自分や家族のためにどう使うのかも合わせて考えるべきじゃないかな?

クリス松村さん、貴重なお時間をいただきありがとうございました。十人十色でいろんな老後が想定されます。天海さんが演じる後藤篤子と同年代の50代のみなさんだけでなく、20~30代の子ども世代の方々にも、将来を考えるきっかけになれば幸いです。

絶賛公開中の天海祐希さん主演の映画『老後の資金がありません!』をぜひご覧ください。

「老後の資金がありません!」

<キャプション>ⓒ2021映画「老後の資金がありません!」製作委員会

(取材・執筆協力=横山由希路 撮影=小野那奈子 編集=ノオト)