2012年、畑で野菜を栽培する番組へ出演したことをきっかけに、現在67平米ほどの畑を耕し野菜を育て続けている加藤紀子さん。
「あれからもう10年。最初は『畑に無縁だった私が野菜を作るの?』と思っていましたが、今や趣味を超えたライフワークです」と語ります。手塩にかけて育てている野菜たちや、知れば知るほどどっぷりハマる畑の魅力を伺いました。
加藤紀子さん
1973年、三重県鈴鹿市生まれ。1992年に歌手としてデビューし、現在はバラエティーやドキュメンタリー番組、ドラマなどでマルチに活動。テレビやラジオ、CMなどの出演は多数。YouTubeチャンネル『加藤紀子 畑チャンネル』では種まきから収穫まで畑のさまざまな活動を配信。また、オフィシャルブログ『加藤によだれ』やInstagram(@katonoriko)などでも収穫した野菜を使った料理を頻繁に紹介している。みえの国観光大使、やまがた特命観光・つや姫大使、お豆腐親善大使に就任。
1.テレビ番組をきっかけに野菜作りをスタート。あっという間に10年目に突入!
――何がきっかけで野菜を作るようになったのでしょうか。
ちょうど10年前、NHKの番組で「野菜を作ってみませんか?」とオファーがあったんです。それまで全く経験がなかったのですが、せっかくのお話だったのでお引き受けしました。1年間の番組が終了した後も、農家さんのご厚意で畑を引き続き貸していただけることになったんです。最初は小さかった畑が、あれもこれもと作っていく間にすっかり大きくなりました。
――番組が終わっても畑を続けたということは、相当ハマってしまったんですね!
もちろん収穫した野菜は美味しかったし、畑に来るたび成長している野菜を見るのはすご〜く楽しかったし…という気持ちもあったのですが、当時は何をすれば良いかも分からないし、番組収録の時間しかお世話ができなくて。
番組が終わった後も「私、ちゃんと畑仕事できてたかな?」「これで“野菜を作った”って言っていいの?」っていう心残りがあったんです。
それで、畑の持ち主の農家さん(畑作りの師匠)にご指導をいただきながら、野菜作りをまたイチから始めることにしました。最初は私1人だったんですけど、地方での仕事も多くなった今は友人と2人で畑の世話をしています。
自宅から畑まで1時間ちょっと。夏は成長が早いから週3、冬は週1〜2くらいで太陽を浴びながらのんびりやっています。
――週に1回の趣味だとしても、1時間以上かかるところに10年通うのは、相当好きじゃないと続かないですよね。
実は、楽しくなってきたのはここ2年くらいなんです。それまでは、“種はどうやってまくの?”と、畑の真ん中でスマホ片手にググるなんてこともしょっちゅうでした(笑)。まだまだなんですけど、クワで土を耕すことも上手になったかな。
2.畑に関わる歳月のなかで、仕事とは違うコミュニティも宝物に
――ちなみに、加藤さんは1年の中でどんな野菜を作っているんですか?
だいたい毎年決まっているんですけど、春夏は枝豆、トウモロコシ、キュウリ、オクラ、トマト、ナス、インゲン、トウガラシ、ピーマン、その間にショウガとミョウガ。
菊芋と落花生は7月の今まさに成長中で、秋に収穫予定です。それからジャガイモとタマネギも。秋になったら冬野菜の準備で、カブ、大根、白菜、キャベツ、春菊、カリフラワー、ブロッコリーなどの種をまくという感じですね。
――四季とりどりの野菜がいっぱい。お話を聞いているだけでワクワクしますね!
畑ってやめ時がないんですよ。春夏の間に秋まき野菜を準備して、冬の終わりから夏の種の準備をして……という感じで。今年は秋に落花生を食べてみたいと思い、初めてまいてみました。それから、豆腐づくりの勉強をしたから、枝豆を完熟させて大豆にして、手づくり豆腐にも挑戦しようとしています。やりたいことがどんどんできちゃうのも、やめられない理由の一つです。
――ところで畑の持ち主であり、師匠でもある農家さんとも、良い関係を築けているそうですね。
はい、畑の仕事と同じくらい大切な存在になっていますね。師匠の子どもたちの誕生日にはお祝いをしたり。ほかにも、師匠がマルシェの出荷に追われていると聞けば、野菜を洗ったり、計量して袋詰めのお手伝いをしたりもします。種まきや支柱を立てるなど、畑仕事のお手伝いもします。
それから、畑の隣にあるコロッケ屋さんとも仲良くなって、畑の取材にご協力いただいたりもしました。ふだんの仕事とは違うコミュニティもまた楽しくて、もう趣味の枠を超えてライフワークになっています(笑)。
3.畑に行くと野菜たちが元気をくれるから、忙しくてもがんばれる
――ブログで紹介されている野菜たっぷりの食事がとても美味しそうです。野菜作りを始めて、心や身体にどんな変化がありましたか?
旬の野菜を食べているからか、身体の調子が良くなった気がします。あと、収穫した野菜を一緒に食べている夫の肌ツヤが良くなりました(笑)。
――外食するときも何か変化がありましたか?
レストランで出てくるものが当たり前と思わなくなったし、作っている人に感謝しながらいただくようになりました。10〜20代では気付かなかったんですけど、今は同じ野菜でもその土地や作る人で味が変わることも分かって、ひとつずつ味わって食べています。
――味の違いが分かるのは、長く畑を続けてきた加藤さんだからこそな気がします。そんな加藤さんでも畑仕事をしていて辛いことはありますか?
辛いというより、面倒なことはあります。例えば、畑仕事で疲れて帰ってきたら、すぐお風呂に入って横になってビールでも飲みたい…。でも、野菜は洗わないと傷んだり枯れちゃったりするので、もう一手間が必要なんですね。
だけど、重い腰を上げて洗って茹でただけの枝豆がめっちゃくちゃ美味しいんですよ。「やっぱり、今食べてよかった〜!」って思うので、面倒くさかった気持ちもチャラになるというか。
それから、想像以上に収穫できると、周囲の人に配っても食べきれないことがあるんです。そういうときは干したり漬けたり、保存しながら大切に食べています。残さず捨てずにどうやって食べきってやろうかと考えるのも楽しいので、今は収穫でき過ぎて辛いと思うことも減ってきましたね。
――自然が相手ですから、天候に左右されることも多いですよね。
そうなんです。雨が降る・降らない、台風が来る、霜が降りる……。天気との闘いです。「今日行かないと、あの野菜は食べどきを逃しちゃうな〜」と思ったら、忙しくても仕事の前に畑に寄ることもあります。
ちょっと無理して畑に寄ったら、キレイなオクラの花が歓迎してくれたりして、「ああ、来て良かったな」って思うんです。
野菜がカラスやハクビシンなどの野生動物や昆虫に襲われることもありますが、それも自然のことだから持ちつ持たれつ。
――そんなささやかな幸せが続くと、心が豊かになりそうですね。
そうですね。野菜の強さやたくましさを感じることは多いです。しおれてダメになっちゃったな、と思ったルッコラが、水につけておいたら何事もなかったようにシャキッ!っとしていたり。
育てた野菜は皮まで大切にしたくて、コンポストで肥料も作っています。できた肥料を畑にまいたら、知らないうちにカボチャの種が混ざっていたみたいで、予期せぬ場所で発芽していたりとか。「わぁ、君はいつからいたの〜?」みたいな気持ちです(笑)。
4.野菜づくりに興味があるなら失敗を恐れずにチャレンジしてみて!
――加藤さんの活動を見て「自分も畑をやってみたい!」と感じた方もいると思います。どういう方が畑作りに向いていると思いますか?
そうですね、食いしん坊な方がいいんじゃないですか?「今、これを洗って茹でておけば、美味しく食べられる!」って分かると面倒くさがりでも立ち上がれるはず(笑)。
ハーブは虫がつきにくいし初心者向きとよくいわれますが、ハーブに限らずなんでも好きなものを育ててみたら良いと思います。
野菜たちのエネルギーは、思ったよりも強いんです。だから、失敗を恐れていろんな薬を畑にまくよりは、少し放っておくくらいの方がうまくいくことが多い。ひとつ実がついたときの喜びは格別ですよ。
よく虫が怖いという人もいますが、慣れればなんてことはありません。自分の野菜を守るためですから躊躇なく駆除しますし、むしろ見つけるのが楽しくもなってきました。うっかり家に連れて帰ってきちゃったら窓からポイッ!で解決です。私は今や悲鳴もあげませんよ(笑)。
種が発芽して、花が咲き、実がつく。育むプロセスを楽しみながら収穫する…。同じ野菜でも、自分の育てたものと買ってきたものでは価値が全く違います。そんな喜びも感じてもらえたら。
――そういえば、野菜たちがどんな花を咲かせるのか、意外と知らない方が多いかもしれません。
スーパーでは花がつくところは絶対に見られないですからね。それは畑をやっていないと見えない世界です。GWを過ぎた頃になるとルッコラの花が咲き始めるんですけど、白くてかわいいんですよ。食べるのもいいけど、部屋に花を飾ってもいいですね。
――そういう楽しみ方もできるんですね! 最後に、加藤さんの野菜や畑への想いを聞かせてください。
師匠のそばで農家さんたちの努力をたくさん見ていると、“野菜ってこんなに手間が掛かるのに、安いじゃん!” って思うんですよね。だから、残さず食べたいし、農家さんが困っていたら手伝いたいし、美味しく食べられる方法をシェアしたいと思っています。
楽しみながら野菜を作って、それを余すことなくいただく。こうして健やかに生きることが今の私らしさなのかな、と思っています。
(取材・執筆協力=パンチ広沢 撮影=小野奈那子 編集=ノオト)