いつも元気で明るく前向きな映画コメンテーターのLiLiCoさん。2001年から出演しているTBS『王様のブランチ』では、番組の顔ともいうべき存在感を見せています。そして、映画コメンテーターとして20年以上、お茶の間に数え切れないほどの映画を紹介してきました。
今回はLiLiCoさんに、これからシニアを迎える世代にオススメの映画を5本紹介してもらいました。他者との向き合い方、自分自身のあり方、人生を通して見失ってはいけないこと。LiLiCoさん自身がこれら映画を観たときに感じたことを中心に、たっぷり語っていただきました。
LiLiCoさん
1970年、スウェーデン・ストックホルム生まれ。18歳で来日し、1989年から芸能活動をスタート。 TBS『王様のブランチ』では、映画コメンテーターを20年以上務めている。そのほかJ-WAVE「ALL GOOD FRIDAY」のナビゲーターなど出演多数。アニメの声優やナレーション、女優の他、今年3月までプロレスラーとしても活動するなど、マルチに活躍する映画コメンテーター。ファッションにも意欲的に取り組み、ジュエリーのデザイン、プロデュースも手掛ける。
1.自ら脇役を選んでしまう人に観てほしい『ブリット=マリーの幸せなひとりだち』
夫のために生きてきた専業主婦がサッカーコーチになる
1つ目は、『ブリット=マリーの幸せなひとりだち』。実はスウェーデン国内では、専業主婦は人口の2%ほどしかいないんですが、そのスウェーデンの専業主婦が主人公という珍しい映画です。
ブリット=マリーは結婚生活の40年間、忙しい夫のために日々食事を作り、自宅をホテルのように綺麗に保つことが自分の使命だと思っています。でもあるとき夫が出張先で倒れ、彼女が病院に駆けつけると、そこには私、LiLiCoによく似た派手な身なりの夫の愛人がいた(笑)。
そこでブリット=マリーは、63歳にして初めて家を出ます。働いたことのない彼女に職業安定所が紹介したのは、田舎の村にあるユースセンター管理人兼子どもの弱小サッカーチームコーチ。サッカーの知識はあるとハッタリをかまして現地に職を得て、キャラクターの濃い村人たちに揉まれつつも徐々に笑顔を取り戻し、子どもの頃に抱いた夢を思い出すようになります。
脇役から脱するには、少しずつでも新しいことを始めること
この映画の原題『Britt-Marie var här』を直訳すると、『ブリット=マリーはここにいた』。要は、徹底して脇役の人生を送っていた女性が存在感を示す話なんですね。
ブリット=マリーは自分を犠牲にしたり、我慢したりするのが美徳だと思っている。でも私、これはよろしくない人生だと思うんですよ。なぜなら、彼女自身の人生を生きていないから。だから、夫の浮気が明るみに出ると、今まで溜め込んでいた夫へのクレームばかり頭に浮かんでしまう。主体的な人生を送っていない人がこの映画を観ると、身につまされるんじゃないかな。
ブリット=マリーには子どもはいませんが、サッカーチームのコーチになると、子どもたちからの突き上げに遭います。ある女の子に「自分ばっかり可哀想がっているんじゃない?」と痛いところを突かれるんです。その女の子は、母親が他界していて、過酷な家庭環境で生きている。たくましく生きる女の子の姿から、ブリット=マリーは自分の存在意義を周りに示すことを覚え、人に必要とされる喜びを得るようになります。
彼女は、夫と別居することで新しい人生の1ページを開きます。新しいチャレンジ自体はいつでもできる。別居や離婚なんて大それたことはしなくていい。家の中からでも、新しいことを少しずつ始めていければいいんです。
作品概要
『ブリット=マリーの幸せなひとりだち』
監督・脚本 ツヴァ・ノヴォトニー
主演 ペルニラ・アウグスト
2018年製作/97分
提供:松竹
デジタル配信中
https://lnk.to/Britt-Marie
2.頑固な男性やもめと周囲の人たちを描く『幸せなひとりぼっち』
ご近所付き合いのなかで孤独に生きる男性
次に紹介するのは、『幸せなひとりぼっち』です。個人的に、『ブリット=マリーの幸せなひとりだち』と姉妹作品だと捉えています。日本でいうと千葉県にあるニュータウンを彷彿とさせるような、スウェーデン郊外にある戸建ての集合住宅が舞台の作品です。
主人公の頑固じいさん・オーヴェは、最愛の妻を亡くした男やもめ。共同住宅地の監視役を自ら買って出ては、規則と他人に厳しいせいか、住人との言い争いが絶えません。それに加えて、43年間勤めた鉄道局職員のクビを突然言い渡されてしまう。孤独の寂しさに耐えきれなくなった彼が「もう死のう」と行動を図ろうとするたびに、まるでコントのように近所の人がインターホンを押してきたり、厄介ごとを持ちかけたりしてきます。スウェーデンはご近所付き合いをきちんとする国で、お隣さんからちょっとした食べ物をいただいたり、卵や日用品を借りたりするのは日常茶飯事なんです。
近所に住んでいるのは、スウェーデン人の夫を持つイラン人のパルヴァネ一家。パルヴァネはチャーミングだけどいい意味で人使いの荒い女性で、オーヴェは彼女に翻弄されつつも、人種も考え方も正反対の者同士で友情が芽生えていきます。近所との温かい交流によって、彼の心が解きほぐされていくという話です。
一人になっても、どうやって周囲の人と生きていくか
日本に限らず、頑固なおじいさんはどこにでもいます。歳を重ねると、知恵がある分、人は頑固になる。でもソフトな態度でいると、日々たくさんいいことがある。オーヴェも考え方が柔らかくなってから、生活が楽しくなってくるんです。
この映画はパルヴァネのような移民だけでなく、ゲイや認知症の人も出てきますから、他者を理解するきっかけになる作品でもあります。
オーヴェ自身も、その半生は不幸の連続でした。哀しみを抱えて生きているんですよね。蓋を開けてみたら、ただの頑固じいさんではないわけです。
パートナーに先立たれてからの人生は、とても長いですよ。人生後半をどう生きるか、家族がいなくなっても地域の人とどう共生していくか。できるだけ若いうちから映画を観るなりして、考えをビルドアップしていけたらいいですよね。
作品概要
監督・脚本 ハンネス・ホルム
主演 ロルフ・ラスゴード
2015年製作/116分
デジタル配信中
http://hitori-movie.com/
3.紹介する中で一番おもしろい。クリント・イーストウッドが自ら高齢者を演じる『運び屋』
クリント・イーストウッドの演じる姿が観ていて楽しい
クリント・イーストウッド監督・主演の『運び屋』です。これがね、なんともいえず、おもしろいんです。当時88歳のイーストウッドが自ら90歳間近のおじいさんを演じています。
お金もなく、家族からも見放されていた孤独な主人公・アールは、「車の運転さえすれば金をやる」という怪しい話を持ちかけられます。引き受けた仕事は、メキシコ犯罪組織によるドラッグの運び屋。高齢者の気ままな安全運転で、13億円ものドラッグを一度に運び出すも、麻薬捜査官の手が彼の元に迫っていたという話です。
ただ麻薬を車で運んでいるだけの映画なのに、なぜか観ていて楽しい。ドラッグを運ぶ緊張感とは裏腹に、アールが運転中に大声で懐メロを歌うさまや、運搬を成功させるたびに給料が上がっていい服を着るようになるなど、細かいディテールが愛おしい。やっていることはドラッグの運び屋なので、共感するところは何もないのですが(笑)。
自分の家族に必要とされたいと思うのが真理
イーストウッド演じるアールは先ほど紹介した『幸せなひとりぼっち』の主人公・オーヴェとは性格が正反対。家族をまったく気に掛けなかったにもかかわらず、外面が良く誰とでも話ができます。
どうでもいい話を誰とでもできるのって、すごく大事なことなんですよね。でも、「外面は良いのに、どうして家族に構ってくれないの」と悩む日本の女性は多そうですよね。
家族を顧みないイーストウッド演じるアールを観て、自分の家族とダブって見える人もいるかもしれません。結局、仕事にかまけてばかりの彼を必要としたのは、家族ではなく麻薬カルテルだった。人間って必要とされないと、頑張れないものなんですよ。でもどんな人でも最後は自分の家族に認められたいし、優しくされたい。それが真理なんですよね。そのためには、若いときから家族を大切にすることですよね。失ってからじゃ、もう遅いんですから。
作品概要
『運び屋』
監督・主演 クリント・イーストウッド
2018年製作/116分
デジタル配信中
ブルーレイ 2,619円(税込)/DVD 1,572円(税込)
発売元:ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント
販売元:NBC ユニバーサル・エンターテイメント
https://wwws.warnerbros.co.jp/hakobiyamovie/
4.生涯ベストワン映画は人生そのものを問う『歓びを歌にのせて』
音楽を通して「自分の人生」を噛み締めていく物語
2004年公開の『歓びを歌にのせて』です。スウェーデンの名匠ケイ・ポラック監督が18年ぶりにメガホンを執り、コーラスをする彼の妻に着想を得て作った作品です。私の生涯ベストワン作品で、これを超える映画はないと思っています。役者陣の演技、脚本、そしてタイトルにもある「歌」……どれを取っても素晴らしいです。
誰もが羨むような世界的名声を手にした主人公の指揮者ダニエルは、8年先までスケジュールがいっぱい。分刻みのスケジュールと激しい音楽表現で彼の心臓はボロボロとなり、ある日舞台上で倒れ、再起不能になってしまう。すべてを捨て、彼は幼少期を過ごしたスウェーデン北部のある村に帰ります。
下手だけど歌好きの村のコーラス隊を指導することになった彼は、生まれて初めて音楽で心の充足を得るようになります。合唱のメンバーはそれぞれ家庭に問題や葛藤を抱えながらも、歌うときだけは幸せを噛み締められる。ダニエルと音楽を作っていく中で、一人ひとりが「自分の人生は誰にも脅かされることなく、自分のものである」ことを実感し、輝いていきます。
愛の本質を教えてくれる作品
村に来る前のダニエルは、モーレツ仕事人間の日本男性にどこか通じるところがあります。音楽への愛は彼の中で消えていて、ロボットのようにどこかの国に行っては指揮を振る生活。そんなダニエルも、天使のような母性を持つコーラス隊のレナからまっすぐな思いを伝えられると、今まで感じられなかった「愛」を知ることになります。
ケイ・ポラック監督にインタビューしたときに、「LiLiCoは心の底から誰かに『愛してる』と言ったことがありますか?」と聞かれたんです。自分の心に正直に聞いてみて、心の底から「愛してる」と言ったことがないことに気づいたんですね。でも、今の夫には心から言えた。だから、人として根源的に大事なことも、この映画を通じて教えてもらえましたね。
作品概要
監督 ケイ・ポラック
主演 ミカエル・ニクヴィスト
2004年製作/132分
5.まるでシニア版『セックス・アンド・ザ・シティ』? 『また、あなたとブッククラブで』
刺激的な小説でだんだん行動が大胆になっていく女性たち
ダイアン・キートン、ジェーン・フォンダ、キャンディス・バーゲン、メアリー・スティーンバージェンの4人の名女優が共演した作品です。監督はビル・ホルダーマン。HBOドラマの『セックス・アンド・ザ・シティ』のキラキラおばあさん版ともいうべき内容で、4人ともお金持ちの設定です。華やかな映画の世界に『自分には遠い話だ』と思う人もいるかもしれませんが、むしろシニアならではの楽しさを教えてくれる作品なんですよ。
娘に年寄り扱いされる未亡人・ダイアンと、経営者で独身貴族のビビアン、離婚の痛手から立ち直れない裁判官・シャロン、セックスレスの夫との生活に危機を感じるキャロル。都会的で自立した生活を送ってきた旧知の4人は、「女子会」ともいうべき“読書会”に精を出しています。
ビビアンが持ってきた課題図書は、世界的大ヒットの官能小説「フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ」。刺激的な内容に初めは眉をひそめていた面々も、やがて小説に感化され、行動が大胆になっていきます。この小説を読んだことのある人は、映画で本当に笑えると思いますよ。
70代になっても素敵な恋がしたい
4人の主人公のいろいろな話があるんですが、終盤のダイアンのエピソードは素敵だなと思います。娘2人は過干渉で決めつけが多く、「また転ぶかもしれないんだから」と年寄り扱いしてくる。でもダイアンはまだ恋がしたいし、素敵な恋人も作りたい。身近な人ほど束縛する話は、耳の痛い人が多いと思います。
そこで思い切って言うんですよね。ダイアンが娘たちに。「ある人に出会って、私もまだできるって気付いたの」と好きな人がいることを告げて、「あなたたちがどう思おうと、私の人生は終わっていない。まだ冒険したいし、その権利はある。だから心配し過ぎるのはやめて」「あなたたちの母性本能はとても強いと思うわ。それは子どもに向けてほしい。私は大丈夫だから」と言い切る。もうこの数分間のやり取りだけでも、観る価値がありますよね。
素敵なハンサムガイが隣に来たら、70代だって恋に落ちる。今の70代は若いですから。キスや手をつなぐことは、何歳になってもできること。私自身、キスや手つなぎデートは70代になっても現役だと思いますね(笑)。
作品概要
『また、あなたとブッククラブで』
監督 ビル・ホルダーマン
主演 ダイアン・キートン、ジェーン・フォンダ、キャンディス・バーゲン、メアリー・スティーンバージェン
2018年製作/104分
デジタル配信中
発売元・販売元:キノフィルムズ/木下グループ
https://bookclub-movie.jp/
6. 歳を重ねても楽しく笑っていたい。映画から見えてくる憧れのシニア像
私はやっぱり、将来は人生を楽しんでいそうなカッコいいおばあちゃんになりたいですね。
紹介した5本の映画だと、最後に紹介した『また、あなたとブッククラブで』が一番理想に近いかな。そのためには、まずは健康でいることですよね。そして、お金持ちになりたいとは思わないけれど、「ステーキが食べたい」と思ったら、そのお金が財布に入っているぐらいの金銭的な余裕は欲しいです。たとえ次の日がカップラーメンでもね。
あとは、信頼できる友だちが自分の鑑であったらいいと思うんです。だから今、私はそういう楽しい友だちに恵まれて幸せだなと。仲間内で定番の思い出話があって、新しい友だちが入ってくるたびに脚色されて、どんどんおもしろくなっていく。70代過ぎても、そうやって友だちと笑っていられたら、楽しいじゃないですか。
(取材・執筆=横山由希路 撮影=栃久保誠 編集=ノオト)