発見!くらしの厳選記事

元祖「自立した女性」の作家・松原惇子さんに聞く、シングルでも孤独を愛する方法
更新日
公開日

元祖「自立した女性」の作家・松原惇子さんに聞く、シングルでも孤独を愛する方法

まだ未婚女性への風当たりが強かった35年前、作家の松原惇子さんはシングルとして生きる女性の胸の内を綴った『女が家を買うとき』で文壇デビューしました。

1998年には、自らと同じ境遇のおひとりさま女性の老後を応援するNPO法人SSS(スリーエス)ネットワークを立ち上げ、そこで出会ったシングル女性の生きざまを、数々の著書で紹介してきました。

著書から伝わる松原さんの印象は、率直な意見の持ち主。もちろんそのイメージの通りなのですが、実際にお会いしてみると、自分の人生に常に迷いつつ、望む未来を日々マイナーチェンジしているチャーミングな方でした。

人生を歩んでいると、独身を貫く以外にも、パートナーに先立たれたり、離婚をしたりと、シングルになるケースは多々あります。今回はおひとりさまとして生きる高齢者が孤独を愛する方法について、長らくシングルで生きてきた松原さんにお話を伺いました。

松原さんprof

松原惇子さん

1947年、埼玉県生まれ。昭和女子大学卒業、ニューヨーク市立クイーンズカレッジ大学院修了。39歳のとき、作家として『女が家を買うとき』(文藝春秋)でデビュー。3作目の『クロワッサン症候群』(文藝春秋)はベストセラーとなり流行語にもなった。「ひとりの生き方」をテーマに執筆・講演活動を行っている。著書に『ひとりで老いるということ』(SB新書)、『母の老い方観察記録』(海竜社)など多数。 最新刊は『わたしのおひとりさま人生』(海竜社)。

シングル女性が70代になって分かる、「山頂=50代」からの心と身体

――松原さんは今年で75歳になられました。作家活動を続けながら、年齢を重ねるごとに体力も生活の状況も変わってきたと思います。ご自身の人生を振り返ってみて、松原さんが感じる50代からの身体と気持ちの変化はどのようなものでしたか? 

50代はやっぱりゴールデンエイジね。人生を山に例えたら、山頂ですよ。気力と行動力は人生のピークだと思いますし、体力もまだ落ちていない。仕事もバリバリできるし、稼ぎどきだし、友だちと遊んで恋愛もできる。

私自身、孤独を感じることはほとんどなかったかな。もちろんこの時期は更年期でもあるので、体調面で苦しい方もいると思います。でも、せっかく人生の中でたくさん動ける時期なのに、ふせってばかりいるのはもったいない。50代は楽しまなくちゃ。

この時期にやりたいことが見つからない方は、子どもの頃に好きだったことに立ち返ってみるといいですよ。大人になってから興味を持ったことは、周りの状況に左右されていることが多いから。自分の原点に立ち戻ると、人生が楽しくなると思います。

シングル女性が70代になって分かる、「山頂=50代」からの心と身体

――60代になってからはいかがですか?

60代は還暦とよくいったもので、少しずつ身体が衰えていく。身体の無理が徐々にきかなくなっていくんだけど、それよりもシングルの方は気持ちの落ち込みの方が大きいと思う。

キャリアウーマンの60代独身の方と話すと、「60歳で落ち込んだ。子どもを作っておけば良かった」だなんて言うの。仕事も明らかに減っていくからね。結婚に走る方もいたわよ。人に幸せにしてもらおうと思う心は、やめた方がいい。一人の良さである自由の素晴らしさに、心を持っていかないとね。

――では、60代の孤独感を乗り越えて、70代の今、どのような変化を感じられていますか?

70代に突入した途端、私は身体にガタがきたの。歩いていると、小さな段差などで簡単につまづく。何もしていないのに、身体の節々が急に痛くなる。今日は平気でも、明日にはその痛みがきて動かなくなる。これが75歳の真の姿よ。

でも80代のお友だちにそのことを言ったら、笑われちゃった。「あなた、80代になったら、そんな痛みでは済まされないわよ」って。

70代になると「人生の終わり」が射程距離に入ってくる。そのとき初めて、どう生きるべきかを考えるようになる。だからこそ、「今生きていること自体が素敵なんだ」と心の底から思えるようになるのよ。

60代の孤独感を乗り越えて、70代の今、どのような変化を感じられていますか?

孤独は背中に張り付いているもの。大事なのは、前向きに生きることを目指すか目指さないか

――松原さんは最新刊の『わたしのおひとりさま人生』で、幼少期から現在までの人生を振り返っています。女性一人で生きていくと決めて家を買い、作家デビューをされたときの気持ちを、「うれしいはずの自分の城を得たというのに、惨敗の気持ちだ」と赤裸々に綴っていましたね。

今でこそシングルの女性は増えたけど、当時は結婚して家庭に入る女性がほとんど。家庭に入れば子育てがあるから、女性は40代までなんだかんだ忙しくて、日常に賑わいがある。

でも私みたいな独身女性は、日々の賑わいを作ってくれる家族がいない。だから私、自分が嵐の中に立っている1本の木みたいな感じがしたわ。本当に「私って、一人ぼっちなんだ」って思っちゃった。結婚するしないで、人生の勝ち負けなんか決まらないのに、負けた気がしたわ。

――そして御本に「孤独とは背中に張り付いているもの」とも書かれていました。

ちょうど作家デビューした30代の頃に出会った人生の師に、「人間は生まれたときは一人で世の中に出てくる。出てきたときからもう孤独は背中に張り付いている」と言われたのね。孤独は張り付いているから、死ぬまで剥がすことができない。でも、みんな孤独を見たくないのよ。だから、視界に入らない背中に張り付いているのね。

孤独はどうしても剥がれないものだから、人間は自分と向き合うのが怖い。だから人は孤独をごまかすために、日々賑わいを作る。でも、20世紀を長く生きたフランスの歌手ジョルジュ・ムスタキは一歩進んでいて、『私の孤独』という歌で「孤独は一番の友だち。だから私は決して一人じゃない」って歌ったの。

「私たちもいっそのこと孤独と仲良くすればいいんだ」って気づいたわ。

孤独は「自由」「自立」とイコールよ。孤独の良い面にもっと焦点を当てたほうがいいと思う。決して「寂しい」「一人ぼっち」という面だけじゃないから。

――30代で出会った「孤独とは背中に張り付いているもの」という言葉を、本当の意味で実感されたのはいつ頃ですか?

人生のピークを下りるときかな。50歳が頂上。人って、人生が下降するときにいろんなことを学ぶのよ。上昇していくときは、案外何も学ばないもの。50歳を過ぎて、自分の顔も少しずつ変わっていく。

だんだん「アレ?これは何だろう?」って思うものね。でも下り坂っていいのよ。下り坂をどう生きるかを考えればいいわけだから。

孤独は背中に張り付いているもの。大事なのは、前向きに生きることを目指すか目指さないか

――松原さんが代表を務めているNPO法人SSSネットワークの会員さんなど、周りには孤独の良い面に焦点を当てている方が大勢いるかと思います。共通している点はありますか?

本当に明るくて前向きなこと。みんなニコニコしている。「私、歳だし……」だの「膝が痛い」だの、愚痴や後ろ向きな発言をしない。

話の取っ掛かりとして「最近、コレステロール値が悪くて……」から始める方って多いじゃない?私、アレは本当にやめたほうがいいと思う。おすすめの話の取っ掛かりは、病気の話ではなく、相手を褒めること。

「そのワンピース、素敵ね。似合うわね」とか「ヘアスタイル変えた?いいわね」って。これは生きるコツよ。自分から良いオーラを出していかないとダメよ。

私、70代になってから、びっくりするほど人を求めなくなったの。今までは友だちをどこかであてにしていたのね。友だちがいるのは良いことだけど、賑わいの友だちならいない方がマシよ。

私だって迷い迷いの人生だったし、こうやって話していても家に帰ったらそこそこ落ち込むこともある。でもね、大事なことは自分を奮い立たせることよ。

自分一人でできることに熱中すれば、それが孤独と向き合うことになる

人生を前向きに生きるために、どんな方法がありますか?例えば、一人で楽しめる趣味を持ったり、近年流行している「推し活」をしたりするのはいかがでしょうか?

「推し活」、すごくいいと思います。私の主宰する、おひとりさま女性を応援する「SSSネットワーク」でも、そういう方はたくさんいます。亡くなった中村勘三郎さんを追っかけていた方、宝塚に夢中な方……。

とにかく大好きなわけだから、幸せですよ。何でもいいから夢中になれるものを早く見つけましょ。ほら、テレビ番組の『博士ちゃん』みたいに。

でも大事なのは、そんなふうに追いかけつつも、背中に張り付いている孤独の存在をきちんと忘れないこと。そして、たまにヘンな人がいることも覚えておいて。シングルの高齢者はお金に余裕があるとみられて、「推し活」コミュニティの友人に財産を取られてしまった方もいますから、要注意ですよ。

高齢者は「寂しさ」と「お金の匂い」を見せちゃダメ。そういう匂いを嗅ぎ取ったら、ヘンな人がわっと寄ってくるわよ。

自分一人でできることに熱中すれば、それが孤独と向き合うことになる

――お金の匂いをさせたり、寂しさを他人に気づかれたりしてはいけませんが、熱中できることを持つのは大事なのですね。

そう、自分一人で楽しめることをやってみるのは大事よね。そうするとポジティブな気分になれる。お料理でも、絵画でも、釣りでも、何でもいいのよ。一人の時間を楽しんでいれば、つまらないことを考えなくなるわよ。

私の60代の友人で、今でもコンスタントに週に2〜3本も映画を観ている方がいるの。ご両親も亡くなって天涯孤独で、働いていないのだけど、いつもニコニコしている。例えばロシアの作品を観ては、「その国の文化や経済が知れる。だから世界が手に取るように分かるようになった」って言うのね。映画が大好きっていうだけでも、ものすごく豊かな人生だと思う。

最近、その彼女が紹介してくれた映画で『ベルベット・クイーン ユキヒョウを探して』っていう作品があって。世界でもっとも高地に生息するユキヒョウに出会うために、マイナス40℃のチベット高原の高地に陣を張りながらじっと待つカメラマンと作家のドキュメンタリー。

孤独を愛する二人と、そこに出てくる孤独な野生動物たちの美しいこと。どの動物も凛としていて、生きざまが堂々としている。あまりに素敵で、観ていて涙が出ちゃった。

人間は欲が深くて、意地が悪いところもある。だから人間世界に疲れたら、たまには自然界や野生動物から学ぶといいかもね。老後がどうした、病気がどうしたという悩みがちっぽけに思えてくるから。

孤独を愛し、愚痴も言わず、凛として生きる。ねえ、みなさん、ユキヒョウみたいに孤高の人になりましょうよ!

(取材・執筆=横山由希路 撮影=栃久保誠 編集=ノオト)