公開日:2022.07.11 最終更新日:2022.08.05

新しいことって、ワクワクする――シニアeスポーツ選手が語る、退職後の「やりがい」

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「人生100年時代」と呼ばれる現代。寿命が長くなったとはいえ、人生の折り返し地点を超え身体の衰えを感じはじめると、新しいことに挑戦する気持ちは保ちづらくなります。そんな気持ちをはねのけ、背中を押してくれる活動が、急速に高齢化が進んでいるといわれている秋田県で生まれていました。

それが、65歳以上のゲーム初心者で構成された日本初のシニアeスポーツチーム「マタギスナイパーズ」です。eスポーツの大会やイベント参加、動画配信によって収益を生む「プロ」を目指し、週1回集まって対人オンラインゲームの練習を重ねています。

今回は、選手の「ミスター北さん」さん、「AKITA白影」さん、そして広報の根本さんに、ゲームに取り組む魅力、新しいことに生き生きと挑戦する秘訣を教えてもらいました。

マタギスナイパーズプロフィール

1.ゲーム経験がなくても、楽しめるeスポーツの世界

――65歳を超えてから、eスポーツを始めたきっかけを教えてください。

ミスター北さん
私がマタギスナイパーズに入ったのは71歳のときです。息子からマタギスナイパーズが主催するゲームプレイの見学会に誘われたんです。「父さん、毎日やることねえべ。ゲームやるから行がねえか?」と。

でも、私はこれまでの人生でゲームなんて一切やったことがなかったんですよ。だから、冷やかし半分で遊びに行ったんです。最初は「これがeスポーツだ」といわれても、「なんのことだべかな」と思ってました(笑)。

――実際にゲームをやってみていかがでしたか?

ミスター北さん
実はもともと、ゲームにはあまり良い印象を持っていなくて。当時の風潮もあって、自分の子どもたちには「ゲーム禁止!」といって教育してきたくらい。

でも実際にやってみると、自分が操作した通りに動くのに感動したんですよね。ゲームをするってこういうことなのかと、発見でした。

マタギスナイパーズの「ミスター北さん」さん(左)と、「AKITA白影」さん(右)
マタギスナイパーズの「ミスター北さん」さん(左)と、「AKITA白影」さん(右)

――それまでの認識が変わる体験だったのですね。AKITA白影さんはどうですか。マタギスナイパーズに所属したきっかけを教えてください。

AKITA白影
私はもともと新聞社で記者をしていました。定年退職を迎える頃、認知症や健康寿命についての取材を担当していて。脳にさまざまな刺激を与えることが認知症の予防につながるという文脈の中で、eスポーツを知りました。興味深く感じましたね。

それで、マタギスナイパーズの存在を知り、自分でもやってみようかなと思ったんです。

――実際にやってみて感じたことはありますか?

AKITA白影
私は若い頃にシュミレーションゲームにハマっていたことはあったのですが、ゲーム自体が久しぶりだし、対人オンラインゲームは初めての経験でした。とにかく刺激に満ちていて楽しいですね。判断力などの反射神経だったり、対戦相手との駆け引きに頭を使ったり。健康に効いているかはまだ検証中ですけれども(笑)。

それから、ゲームの勝ち負けで喜怒哀楽が引き出されるんです。日常生活でこんなに感情が揺さぶられることってめったにないので、刺激になります。でも、これはまだ下手っぴの証拠ですよ(笑)。プロを目指しているので、やっぱりゲームプレイは淡々とこなせなきゃダメですね。プロはちょっとしたことでは、喜怒哀楽を表に出さないですから。

2.ゲームに慣れていないからこそ、伸びしろがある

――初めは操作に慣れるだけでも大変だったのではと思うのですが、どうでしたか?

AKITA白影
そうですね。パソコンは仕事でも使ってきましたが、テキストの入力や画像の編集作業くらいだったので、キーボードとマウスを使ったゲーム操作には戸惑いました。

ミスター北さん
私は迷うことはあまりなかったですね。教えられた通りにやっていれば、だんだんと上達はしていくので。

――ゲームをたくさんやってきたわけではないからこそ、変なクセがなくて、吸収しやすいということでしょうか?

ミスター北さん
そうそう!

広報・根本
メンバーを指導しているマタギスナイパーズの監督も、「ゲーム経験がない・少ない方はどんなこともすんなり受け入れてくれる」っていっていますね。固定観念がないからこそ、すごく教えやすいそうです。

マタギスナイパーズの活動時間
活動時間は週に一回、平日の13〜16時。デバイスの使い方やプレイの基礎を監督に教わる。座学もあり、時にはテストも。(写真提供:マタギスナイパーズ)

――練習をすればするほど上手くなっていく過程は、どんなことでも楽しいですよね。 

AKITA白影
私が今やっている『フォートナイト』(※)は、100人のプレイヤーが最後の1人になるまで戦い続ける「バトルロイヤル」というルールのゲームです。最後の1人として生き残ると獲得できる「ビクトリーロイヤル(通称:ビクロイ)」という称号が、このゲームでの目標の1つなんですが……。最近、結構獲れるようになってきたんですよ! ビクロイが獲れると嬉しくて、そのたびにスクリーンショットを撮ってコレクションしています(笑)。

※フォートナイト…2021年には登録プレイヤー数が3億5,000万人を突破した人気オンラインゲーム。eスポーツの大会でも競技タイトルとして扱われることが多い。

――着実に成果が出ていて、すごいですね。

AKITA白影
歳も歳だしね、私たちはゼロどころかマイナスから始めているわけで、歩みも遅いんです。でも確実に始めたばかりの8ヵ月前の自分よりは格段に上手くなったことが分かる。それは、この歳になっても嬉しいことですよ。

ミスター北さん
ゲームって画面の向こうにいるプレイヤーの年齢が分からないじゃないですか。戦っている相手は10代、20代くらいかもしれない。向こうも、まさか今攻撃してきた相手が73歳だなんて思わないですよね(笑)。それが面白いです。

3.eスポーツが家族や周囲の人とのコミュニケーションのきっかけに

――ご家族や周りの人は、お二人がeスポーツのチームに入っていることについてどんな反応をしているんですか?

ミスター北さん
私はもともと、人前でマジックをしたりと多趣味ではあるんですけど、近所の人は「北さん、マジックだけじゃなくてeスポーツもやってるの!?」って盛り上がってくれて。結構、新聞やテレビに出たりするので、有名人になったなって感じですね。

――AKITA白影さんはどうですか?

AKITA白影
実はこの間、小学生の孫にバレました。長期休暇を使って遊びに来てくれたんですけど、私が部屋でゲームをやっているところを、チラッと見たらしくてね。「あれっ!? じいじ、フォトナ(フォートナイト)やってんの? 僕もやってる!」って。

――お孫さん、すごく喜ばれたんじゃないですか?

AKITA白影
うん、喜んでいましたね。せっかく来てもらったので、いろんなところに連れ出すはずだったんですが……。結局、うちにいて一緒にゲームで遊んでました(笑)。でも楽しかったですよ。こんな日が来るとは思わなかった。

広報・根本
他のメンバーでも、28歳の息子さんと初めて一緒にゲームができたと話していた方もいました。チーム宛に所属選手の息子さんから「うちの母をよろしくお願いします」とクリスマスカードが届いたことも。マタギスナイパーズの選手のご家族は、全面的に応援してくださっていて、ありがたいなと思います。

「孫に一目置かれる存在」がコンセプト
「孫に一目置かれる存在」をコンセプトに結成されたマタギスナイパーズ。2022年6月現在、メンバーの最高年齢は73歳。(写真提供:マタギスナイパーズ)

――eスポーツを始めてみて、良かったなと思うことは他にもありますか?

ミスター北さん
「やることがある」っていうこと自体が楽しい。あとは、いろいろな人に出会えたこと。なにより時間も忘れて無我夢中になれること、それに尽きるかなあ。早めに練習場に来て、5時間とか平気でやりますからね。

AKITA白影
eスポーツって、まだ新しい文化じゃないですか。これからどんどん成長していく、未来があるものだと思うんです。

そういう意味で、私たちがこの歳でeスポーツを始めて、孫くらいの年齢の少年少女たちと一緒にできるっていうのは、すごいことですよね。

――夢がありますよね。

AKITA白影
ずっと続けていたら、30年後とかに、もしかしたら世界制覇をするゲーマーになれるかもしれない(笑)。まだ時間はたっぷりあるからね。

4.「怖いもの知らず」になってから、もう一つの人生がスタートする

試合後には反省会
試合後には反省会なども行い、次のゲームプレイに活かすという(写真提供:マタギスナイパーズ)

――人生の後半戦に入り、今までできていたことが、できなくなってくることも増えてくると思います。そんな中でも、新しいことや自分のやりたいことを見つけて飛び込むのは、勇気がいることなのでは?

ミスター北さん
人生でいろいろな経験を積んで、いつの間にか、それまで辛かったことが辛くなくなっているんです。だからもう、怖いものなんてないですよ。チャレンジできることにはチャレンジする。失敗するのは当然なので、チャレンジしてみて失敗から学んでいくだけなんですよね。むしろ、時間を持て余すのがもったいないくらい。

AKITA白影
100歳まで、あと30年しかないもんね。

ミスター北さん
そう、あと30年しかない。やりたいことってまだ山ほどあるんだけど、とりあえず今はeスポーツをやっています。でも当然、これからも別の何かが見つかるはずです。そのときはまたすぐ飛び込む、みたいな。そういう心掛けで生きています。時間が足りないです(笑)。

AKITA白影
北さんがいうように、私ももう怖いことはないですね。不安もないし、ストレスもない。だから、新しいことに挑戦するのにも抵抗がない。

ミスター北さん
ははは(笑)! 私もストレスないね。ストレスになることが、もはや分からないもんね。

AKITA白影
今はフリーランス記者として、自由に働いています。稼いだお金で、いつかeスポーツ用のゲーミングPCを買いたい。もう、ワクワクしかないですね。

――その境地にたどり着けると考えると、歳を重ねるのが楽しみな感覚があります。

AKITA白影
一生のうちにできることって、そんなに多くないと思うんです。良い仕事が見つかるのは幸せかもしれないけど、仕事にはどうしてもストレスや不安がついて回る。仕事とは違う場所にいったからこそ見つかる、別の人生もあるのかな。

5.eスポーツを始めるなら、とにかく自分の心が惹かれたゲームを

――最後に、「eスポーツを始めたい!」と思っている方に向けて、オススメのゲームやゲームの始め方を教えていただけますか?

広報・根本
マタギスナイパーズの見学会では、いま、eスポーツ界で主流のバトルロイヤルゲームである『フォートナイト』『Apex Legends』『VALORANT』を紹介しています。

ただ、「ゲームを楽しみたい」というところから始めるのであれば、タイトルはなんでも良いと思います。

何よりも、自分が面白そうと感じるのが重要です。結局、面白くないと続かないですからね。マタギスナイパーズの選手たちも、バトルロイヤルゲームが面白いと思ったから続けているだけで。

ご家族や周りの方がやっているのを見て、気になったら「1回やらせて?」と聞いて、触ってみる。コミュニケーションも趣味も生まれる、絶好のチャンスだと思いますよ。

(取材・執筆協力=早川大輝 編集=ノオト)

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