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【生涯学習のススメ】何歳からでも上達できる?書写・書道にチャレンジしてみました

パソコンやスマートフォンで文字を打つのが当たり前になっている今日この頃。「あれ?手書きで文字を書いたのっていつだっけ?」なんて遠い記憶をたどっても、なかなか思い出せない方もいらっしゃるのではないでしょうか。

特に手書きを意識するのは、年明けから届き始める年賀状を目にした時です。プリンターで印刷された色とりどりの年賀状が集まる中で、達筆で書かれた年賀状を目にすると、はっと目が覚めるような思いがします。

「来年こそはあんな字を書きたい!」そんな思いを抱えて今回飛び込んだのは、一般社団法人全国書写書道教育復興会の副会長を務める書道家・吉田琴泉(よしだ・きんせん)先生の教室です。

先生、字っていくつになってもキレイになるものでしょうか?

1.「書道と書写は何歳からでも上達する」って本当ですか?

吉田琴泉先生

-吉田先生は、日本書写書道検定委員会の会長をはじめ、書写・書道に関する数々の団体に携わりながら、ご自身でも「ことがわら学園」の学園長として、書写・書道を教えていらっしゃいます。そんな先生からご覧になって、字は40歳になっても50歳になっても、キレイに書けるようになるものでしょうか?

もちろん!何歳からでも字はとても上手くなりますよ。必ずしも小さい頃からお習字を習わないとダメなんてことはありません。私の教室にも大人になってから始める方がいらっしゃいます。特に最近多いのは、定年を迎えてから初めて書写・書道に取り組む方ですね。理由は、何か新しいことを始めたいと思った時に、書写・書道だと運動に比べて年齢的な限界がほとんどないというのがあると思います。実際この教室にも、80代や90代の方も通っていらっしゃいましたから。

教室風景
教室では幅広い年代の方が熱心に学んでいます(注:コロナ禍以前の様子)

書写・書道は、いくつになっても自分のペースで階段を登っていけるのがいいですよね。例えばどんなに水泳をやりたくても、若い頃のタイムを超えることってなかなか難しいじゃないですか。その点書写・書道は、年齢を重ねるごとに表現の幅が広がるので、若い頃できなかったことができるようになるというメリットがあります

-それはいいですね。実際先生の教室では、どんな方が上達されていますか?

ある男性の例をお話しすると、会社員時代は海外赴任が長かったので、書写・書道とは無縁の生活を送っていた方がいます。50代から国内での勤務が多くなったことをきっかけに、初めて書道をスタートさせました。それからは熱心に取り組まれて、60歳の定年退職を機に、ついに書写・書道の先生になられたんですよ。

-励みになるエピソードですね!いくつから始めても、本当に字はキレイになるんですね。

そうなんです。もちろんこの方は、とても熱心に字の練習に励んでいたので、これだけしっかり成果を出せたと思いますが、そうでなくても書道や書写は「やってみたい」と思った時が吉日です。いつから始めても遅くはないので、まずはいったん最初の一歩を踏み出してみることが大切ですね。

さらに字をキレイにする方法としては、「目習い」がおすすめです。私もよくやっていますが、「目習い」とはお手本にしたいと思えるような良い字や好きな字を見ることを指します

-ただ見るだけでいいのでしょうか?

人は頭の中に思い浮かべる文字を、そのまま手を使って書き出しています。そのため、自分の頭の中にある字をキレイな字にすり替えてしまうことで、実際の字も上達するんですよ。そのためにも、素敵な字をひたすら見る「目習い」が大事になってくるんですね。

書道展などを見に行ってもいいですし、街中で見かける誰かの字や看板、ポスターなどでもいいんです。そういう意味でいうと、書道や書写などを習っていなくても字が上手な人っていますよね。そういう方は、普段からキレイな文字を見る環境にずっといた方が多いです。これもまさに「目習い」の一種ですよね。

2.書道と書写を始めるのに大切なのは「どんな文字を書きたいか」

-書道や書写をやってみようと思った場合、まずはどのように動けばいいのでしょうか?

真っ先に考えないといけないのは、「自分がどんな文字を書けるようになりたいのか」という点ですね。「書道」をやりたいのか、「書写」をやりたいのかによって選ぶべき教室も変わってくるからです。

-書道教室はどこも同じだと思っていました。そもそも「書道」と「書写」の違いとは何でしょう?

ざっくりいうと、「書写」は実用的な字を書くもので、「書道」は「書写」の基本技術にプラスして芸術的な表現が加わったものを指します

例えば、現在 小学校3年生から中学校までは、学校で「書写」の授業がありますよね。これは芸術的な文字を学ぶ前に、まずは誰でも読めるキレイな字を学ぼうという目的で「書写」を学ぶ仕組みになっているんです。そこからもう一段階ステージを上げた高校では、芸術的要素を加えた字を表現する「書道」を学ぶようになっています。ちなみに「書写」は、毛筆と硬筆(ペンや鉛筆)を含めたものを指して言います。

-なるほど。もし普段のペン字や鉛筆の文字をキレイにしたいと思った場合は、「硬筆での書写を指導してくれる教室」を探せばいいんですね?

その通りです。教室によっては、ペン字を習いたくても毛筆しか指導しない所もあります。そのため慌てて教室に入会してしまうと、いざ授業が始まった時に「間違えた!」と後悔することになってしまいますので、ぜひ気を付けたいですね。

教室でどんなことを教えてくれるのかは事前に問い合わせたり、体験教室に実際足を運んだりしながらじっくり決めた方がいいでしょう。もちろん、先生との相性も大事ですよ。書写・書道の先生は性別はもちろん、年代も若い方から年配の方まで幅広いです。実際に授業を受けてみて、学びやすいと思える先生に指導を受けるのがベストだと思います。

もし教室に通うのが難しいと悩まれている方は、自宅で教材を見ながらチャレンジする方法もあります。幸い、書写や書道の書籍は色々と出ていますから、一度開いてみてやりやすそうな教材から始めてみるのもいいでしょう。

吉田琴泉先生の著書
吉田先生の著作。子ども向けのえんぴつ練習帳からスマホで学べる大人用の文字の練習帳まで幅広く揃っています

特におすすめしたいのは美しい字を索引できる「正しく美しい字が書ける 楷・行・草書順字典」

文字をきれいに書くためのポイントがよく分かる見出し文字のお手本は毛筆で掲載し、「とめ」「はね」「はらい」や字形など、正しく美しく書くための注意点を丁寧に解説しています。大きく見やすいお手本で、きれいな文字のポイントがひと目で分かります。そして、楷書・行書・草書とその筆順は硬筆で掲載。行書については、楷書に近い形から三段階の字形を示していますので、くずし字を書きたい方にもおすすめです。オフィスやご家庭に、書道のお稽古に、手元に置いて役立つおすすめの一冊です。Kindle版もあります。

3.長く続けられる人と続けられない人の違いは「マイルストーン」

-ところで、さきほど定年退職されてから書写・書道の先生になられた方のエピソードがありましたが、長く続けようと思っても途中で飽きてしまったり、仕事や家のことが忙しくてうまく続かないんじゃないかと心配です。じっくり続けるコツはありますか?

やっぱり一番大きいのは、「こんな字が書きたい!」という目標までの「マイルストーン」だと思います。「マイルストーン」というのは、目標に達するまでの中間目標のようなものですね。例えば現在運営している「ことがわら学園」では、生徒たちに書写・書道の検定試験で級を取得するようすすめているのですが、中には級に興味がなく、字だけうまくなりたいという方もいらっしゃるんです。ただそういう方は、どうしても長続きしないですね。

教材①
字のバランスやとめ・はらいを丁寧に解説してくれる教材
教材②
小倉百人一首をテーマにした検定試験の教材 

-どうしてでしょうか?

誰だってそうですが、やっぱり初めから高すぎる目標を持ってしまうと、途中でもう無理だと息切れしてしまうんです。そんな中ゴールにたどり着くまでの間に、いくつかの小さな目標を設定しておくとモチベーションを保ちやすいんですよ。

受験勉強でも何かの研究でもそうですが、大きな目標を達成するまでに、小さい目標をいくつか散りばめていくと前に進んでいけるものなんです。書写・書道教室でも同じです。次は9級を目指しましょう、その次は8級といったように細かい「マイルストーン」があると、途中で息切れしたときに、もう少し頑張ろうという気持ちを呼び起こすことができるんですね。 だから書写・書道を始める際は、この「マイルストーン」をいくつか決めた上で取り組むといいですよ。

美文字イメージ
「マイルストーン」を決めて根気よく練習に励めば美しい文字も夢ではないかも?

4.道具にもちょっと気を遣ってみる

-実際に使う筆はどのように選べばいいのでしょうか

きちんとこだわったものを選んだ方がいいでしょう。筆に予算をかけられるのなら、初心者の方には1000円前後のものをおすすめします。そのくらい出せば、使いにくい筆は無いのではないかと思います。そして初めての筆は白い毛ではなく、茶色の毛のものがいいでしょう

100円均一でも習字用の筆は売っていますが、何が違うのでしょう

筆に使われている毛の質がまったく違うんです。値が張る筆は、使用する毛の長さがきちんと揃っています。筆の先を正面から見てみると、職人さんが芯を囲むように何重にも丁寧に毛を重ねて作っているのが分かります。一方安い筆は、荒くて短い毛を集めて作っているので、長さが揃わなかったり接着部分が弱かったりします。

こうした筆の違いは、文字を書くと一目瞭然なんですよ!悪い筆だと「はらい」や「はね」などを書いた時に、先がキレイに出ないんです。反対に良い筆だと、とてもうまくいきます。書道や書写は、文字を気持ち良く書けないとまず上達しません。その意味でも、初心者の方ならなおさら、できるだけ良い筆を使うことをおすすめしたいですね

ただ気を付けたいのは、筆の軸に余計な装飾が施されていたり、素材の良い軸を使うことで、筆そのものの値段が高くなっているケースです。そういう場合は、こだわりたい毛の部分が必ずしも良いとは限らないため、注意が必要です。

よく生徒たちに言うのは、「値段が高いからって安心してすぐに買っちゃダメ」ということです。まずは毛の質をよく見て、できるならば、心得のある人に一度アドバイスを仰ぐのが間違いないですね

5.いざ体験!書道ビギナーが「和」を必死で書いてみたら

-今のお話を胸に刻んだ上で、早速体験してみたいと思います。今日挑戦する字は何でしょうか?

「和」という漢字を行書で書いてみましょうか。比較的形を取りやすいので、初心者の方にもいいと思います。そもそも書道や書写は、漢字の方が割と書きやすいんですよ。ひらがなは単純そうに見えて、かえって形のバランスを取るのが難しいです

また今日使っていただく筆は、普段私が使用しているものです。字をはらう時に、ぜひ筆の質に注目してみて下さいね。さあ、まずはお手本を見て、自由に書いてみて下さい

まずはお手本です。

お手本を書く様子
書き慣れた様子で素早く美しい「和」を仕上げる吉田先生

-お手本を見ながら書いていけばいいんですね。うーん、筆を動かすのも、字のバランスを取るのも思ったより難しいですね。

先生のお手本
吉田先生のお手本
最初の「和」
お手本を見ながら最初に書いた「和」

まず文字というのは、ひとつのまとまった流れがあることを意識してみましょうか。一見離れているように見える線と線でも、実は見えない糸でつながっているようなイメージですね。その流れを意識して、流れに逆らわないようにもう一度書いてみましょう。

そう、良くなってきましたね。ポイントは向かって右側の「口」です。きっちり「口」とは書かずに、少し崩した状態で書きますが、「口」の最後の一片を書くときは、筆の毛先を紙に押し付けたまま、横に丁寧にスライドさせてみましょう。この時、筆が悪いとはらいがキレイに出ません。ちょっとやってみましょうか。

-先生、文字の流れを意識しようとすると書き順が分からなくなってきました……。

大丈夫です。できてますよ。そのまま行ってみましょう。

-先生、「禾」の最初の位置はどこから始めればいいんでしょう……。

半紙の中央に線があると想像して下さい。向かって左側に「禾」を収め、左側に「口」が収まるように意識してみましょう。この中央線を超えないように「禾」を書くとしたら、最初の筆はどこに置けばいいのか、考えてみて下さいね。ちょっと一緒に筆を持って動かしてみましょうか。

形になりましたね。これで完成形としましょうか。

比較画像
最初の作品と比べてみると上達が目に見えて分かります

-最初は字のバランスが取れずに苦労しましたが、半紙の中央線を意識しながらゆっくり書いていくと、筆が動いて気持ちのいいものですね。先生と一緒に手を動かしたことで、思っている以上に大胆に筆を動かしているんだなあと驚きました。

お手本と比べるとまだまだでお恥ずかしいですが、初心者にしては納得のいく作品ができました。楽しかったです。ありがとうございました!

6.まずは気軽に挑戦してみることが大切

-今後書道や書写を始めようかと迷われている方に、何かアドバイスがあればお願いします

新しいことを始める前というのは、誰しも迷いがあるものですよね。でも、何もできない時の景色と、例えば3か月間訓練した後の景色とでは見えてくるものがまるで違ってくるんです。その時点で、次に達成したい新しい目標が見つかります。

まずは「目習い」として、手軽に作品を見ることから始めてみてはいかがでしょうか?その上で力試しをしたいと思った方は、一般社団法人 全国書写書道教育振興会の各種大会などに参加してみるのもいいかもしれません

こちらの振興会では、年4回の大会を主催していますが、その中でも硬筆(鉛筆・ペン字)の分野では、参加者に向けて「お手本」や「練習用紙」をネットで配信しているんです。大会に参加する際は、この「お手本」に沿って作品を仕上げればいいので、迷うことなくじっくり取り組むことができるかと思います。

‐確かにお手本があれば、手元で見比べながら挑戦できるので安心ですね

そうなんです。また、こうした大会の特別賞受賞者を一堂に集めて、上野にある東京都美術館で「全書会展」を開催する予定です。お近くにおいでの際は、ぜひお立ち寄りくださいね。

「正しく整った美しい文字」は、日本が誇る伝統文化です。 全国大会には、切磋琢磨し、互いを称えながら、日々研鑽を積んだ様子が伺える沢山の作品が集まります。東京都美術館に展示される作品は、優秀作品の中でもさらに秀逸と認められた作品です。来場の皆様に驚きと感動、そして次へとつながる目標を持っていただける展覧会になるものと確信しております。ぜひ今後書写・書道に取り組まれる際の目標にしてみてくださいね!

‐本日はありがとうございました。

7.おわりに

今回は、書写・書道の始め方について書道家の吉田琴泉先生にお話を伺いました。ぽかぽかと日のあたる広い教室で、一枚の半紙とにらめっこしながら書写に挑戦すること1時間。緊張で指に力が入ってしまい、終わった頃にはへとへとになりました。

きちんとキレイな字を書くには、想像以上に頭と体力が必要なのだと気付けたのは新しい発見でした。吉田先生からは、「大人の上達具合は、取り組める時間が人によって違うのでまちまちです決して人と比べない事。最初は自分が劣っているように感じても、5年先を見るとそうそう変わらなかったり、むしろ自分の方が伸びていることもあるんです。それでも善戦して進んでいることには変わりないですよ」と力強い励ましの言葉をいただきました。

年賀状での達筆(?)デビューにはまだまだ程遠いですが、少しでもキレイに書けるよう習ったことを実践していきたいと思った一日でした。今回の体験を続けることで、いつか新しい景色が見られるのでしょうか?今から楽しみです。

吉田 琴泉(よしだ きんせん)先生のプロフィール

日本書写書道検定委員会会長・最高師範/ことがわら学園学園長/一般社団法人全国書写書道教育振興会副会長/国際架橋書会常任理事

 

本名・吉田享子
幼少より日本書写書道検定委員会(略称:書写検)・一般社団法人全国書写書道教育振興会(略称:全書会)創設者、吉田宏氏に師事。元文教大学教授故氷田光風氏、元文部省調査官・元群馬大学教授加藤達成氏にも師事。

書家、揮毫家として活動する傍ら、文部科学省が推奨する書写の振興、中国・日本に於ける歴史的書家の筆跡研究、20人の書家で組織した揮毫委員会を設立。全国で書写書道の指導にあたり、内閣総理大臣賞・文部科学大臣賞などの受賞者を多数輩出。全国連合小学校長会顧問栁下昭夫氏の指導の下、書写書道全国大会の企画運営にあたる。2010年12月、天成院流家元、浄土宗極楽寺天王山35世住職加藤龍堂氏より雅号「琴泉」を授かる。

【主な著書】
「スマホで学ぶ美文字練習帳」(宝島社)、「正しく美しい字が書ける 楷・行・草 筆順字典」(ナツメ社)、「書道はじめの一歩」、「新えんぴつひらがなれんしゅうちょう」、「また使える えんぴつくずし字練習帳 」、「えんぴつ 漢字 れんしゅうちょう 」(金園社)ほか著書多数。

引用:吉田琴泉公式サイト