日本の庭に良く合う古風な雰囲気の松の木。松の木の剪定は他の木に比べて職人たちの間でも難しいとされているのをご存知でしょうか。このコラムでは、松の基本的な剪定方法を解説していきます。併せて、松の剪定を上手に行うポイントや、ありがちな失敗例と対処法などもご紹介していきますので、松の剪定をご自身で行いたいという方はぜひ参考にしてください。
松はあらゆる方向に枝を伸ばすため、一般的には剪定するのが難しいとされています。しかし、短葉法を用いたり、上下で葉の量を変えたりすれば上手に剪定することができるでしょう。 松の木の剪定は基本的に、春と秋の年2回行います。1回目は「ミドリ摘み」で、2回目は「透かし剪定」と「もみあげ」です。松の木を剪定する際は、剪定ばさみや植木ばさみ、剪定用のこぎりなどの刃物類の他に、汚れても問題ない衣類や手袋、脚立などを用意してください。もしご自身での剪定に不安があるようであれば、プロに依頼する方法も考えておくと良いでしょう。 |
松の基礎知識
松の剪定方法について解説していく前に、松がどのような植物であるのか基礎知識をご紹介していきましょう。
松の特徴
松は、マツ科に属する常緑高木の総称で、赤松・黒松・五葉松などの種類があります。赤松は全国的に広く分布しており、樹皮が赤く、やや細くて柔らかい葉を持ち、黒松は主に本州・四国・九州などに分布しており、樹皮が黒い褐色なのが特徴です。
五葉松は北海道南部・本州・四国・九州などに分布しており、庭木や盆栽としてはもちろん、神社仏閣などでも多く栽培されています。また、名前の由来とされている針状の葉が5枚ずつ付いていて、暗褐色をした樹皮が特徴。サイズは種類によって異なり、10mに満たないものから50mを超えるものまでさまざまです。
松の基本的な育て方
ここでは、松の基本的な育て方やお手入れ方法についてご紹介していきます。
種まき
種まきは3月中旬~下旬頃に行います。秋になると種が採取できるので、乾燥しないように翌年春まで保管しておきましょう。種まきを行う際はまず土を入れた平鉢を用意し、そこに指で1~2cmほどの穴を重ならないように空けて種を入れ、種が隠れるくらいの土を被せます。
松の種は発芽まで1~2ヵ月ほどかかるため、それまでは土を乾燥させないように水やりを行ってください。
苗植え
苗植えは、松の休眠期にあたる2月下旬~4月中旬頃に行うのがおすすめです。地植えする場合は、日当たりと水はけの良い場所を選び、苗よりも深さ・幅共に2倍以上の大きさの穴を掘って植えます。鉢植えする場合は、鉢底ネットを敷いた8号以上の深さがある鉢に植えましょう。
土作り
松は水はけの良い土壌を好みます。鉢植えの場合は赤玉土、鹿沼土、完熟腐葉土または樹皮堆肥を1:1:1の割合で混ぜたものを作り使用しましょう。もしくは赤玉土と川砂を7:3の割合で混ぜたものでも構いません。地植えの場合は、掘った土に2~3割ほど腐葉土や砂を混ぜて水はけを良くしてから植え付けましょう。
水やり
種や苗を植えた後の2年間は、土を乾燥させないように水やりを行います。地植えの場合はその後の水やりは不要です。鉢植えの場合は土の表面が乾いた様子が見られたら水やりを行いましょう。
施肥
松はやせた土でも育つ丈夫な種類の木です。そのため、多くの肥料を使う必要はありません。ゆっくり優しく溶ける緩効性肥料を2~3月頃に与えるのがおすすめです。
病害虫の予防・対処
病害虫の予防や対処も、大切な松のお手入れといえます。松の代表的な病気は、ペスタロチア菌を原因とする松枯れ病です。松枯れ病はその名のとおり松が枯れてしまう病気で、葉の除去や焼却をすることで対処します。
また、松に発生する代表的な害虫は、松の葉を食べて成長するマツカレハです。松は葉を食べられると樹勢が悪くなるため、駆除しなければなりません。マツカレハの幼虫は冬眠の際に木から降りて、落ち葉の下などに移動する習性があります。このタイミングで幹に藁を巻いておくことで、害虫を集めることができるでしょう。
松の剪定が難しいのはなぜ?
松の剪定は、普段から剪定を行う職人たちの間でも難しいとされていますが、それは松の特徴のためです。松の木の枝は四方八方に伸びているためどこを切り落としたら良いのか判断しづらいうえに、枝が身体に当たるとチクチクと痛みます。
さらに、松を無理矢理刈り込んでしまうと形が乱れたり、最悪の場合は枯れてしまったりすることもあるのです。このような松の特徴から、一般的に松の剪定は難しいとされています。
松の剪定時期
松の剪定は基本的に年2回行い、1回目の時期は4月~5月、2回目の時期は10月~1月です。忙しくて2回の剪定が難しい場合は、晩秋に1回行うだけでも良いとされています。
松を剪定する際に用意するアイテム
以下では、松の剪定に必要なアイテムをいくつかご紹介していきます。
松の剪定に使用する刃物類
まずは、松の剪定に必要不可欠な刃物類をご紹介していきましょう。
剪定ばさみ
剪定ばさみはペンチのような見た目をしており、太い枝を切る時や樹形を整えるときに使用します。小型のものから電動のものまでさまざまな種類があるので、ご自身に合った商品を選ぶと良いでしょう。
植木ばさみ
植木ばさみは工作用のはさみのようにグリップ部分が輪になっているのが一般的で、細かい枝を切るときや木の輪郭を整えるときに使用します。
剪定用のこぎり
剪定用のこぎりは、剪定ばさみや職木ばさみで切れないような太い木を切るときに使用するアイテムです。持ち運びしやすい折りたたみ型や片手でも扱いやすいピストル型、手が疲れにくい電動型など、さまざまなタイプが販売されています。剪定初心者は、軽量で小型のものを選ぶと良いでしょう。
松の剪定に使用するその他の道具
上記では、松の剪定に必要な刃物類をご紹介してきました。ここでは、刃物類以外に必要なアイテムをご紹介します。
松を剪定していると切り口から松ヤニが出てきます。松ヤニは衣類につくと取れなくなってしまうため、汚れても良い服を用意すると良いでしょう。さらに、松の葉は身体にあたるとチクチク痛むので、手袋も用意してください。
また、高所で作業する場合は安全に作業できる脚立なども必要になるでしょう。
松の基本的な剪定方法
ここからは、松の基本的な剪定方法をご紹介していきます。前述したように松の剪定は春と秋の2回行うのが理想です。以下では春と秋それぞれの剪定について見ていきましょう。伸び過ぎた松に困っている、ご自身で剪定したいという方は必見です。
春に行う松の剪定
4月~5月頃に行う春の剪定は「ミドリ摘み」といい、新しい芽を摘む作業を指しています。ミドリ摘みの目的は、樹形を維持することと秋の剪定作業を楽にすることです。
ミドリ摘みをする際は、枝1本に対し2~3本の新芽を残すことを意識します。1ヵ所から新芽が複数出ている場合、成長の良い真ん中の芽を折って、左右に生えている芽に栄養を届けましょう。長い芽が1本だけ生えている場合は、根本から1/3程度~半分くらいになるように長さを揃えておくのがおすすめです。
秋に行う松の剪定
次に、秋に行う松の剪定についてのご紹介です。秋の剪定には「透かし剪定」と「もみあげ」があります。以下でそれぞれについて詳しく見ていきましょう。
透かし剪定
10月~1月に行う透かし剪定には、日当たりを良くする・樹形を整える・病害虫を予防するという目的があります。透かし剪定を行う際は仕上がりをイメージしつつ、上から下へ、奥から手前へ切っていくことが大切です。
まずは上や下、遠くなどあらゆる方向から木を良く眺め、枝の向きをチェックしていきます。枝の向きをチェックしている際に枝が重なっている部分を見つけたら、そこを切っていきましょう。
もみあげ
透かし剪定の後に、もみあげという古い余分な葉をむしり取る作業があります。まずは芽の下の方にある古い葉を取り除きましょう。
次に枝の先端に生えている7~8本を残して、それ以外の葉を取り除いてください。もみあげを行う際ははさみで切り取るのではなく、根本からしっかり葉をなくし樹形を保てる手でむしり取るのが一般的です。
松の剪定を上手に行うポイント
前の見出しで松の剪定方法をご紹介してきましたが、前述したように初心者には難しい作業かもしれません。そこで、以下では松の選定を上手に行うポイントをご紹介していきましょう。
短葉法を利用する
松の選定を上手に行うには短葉法の利用がおすすめです。短葉法とはミドリ摘みの手法の1種で、すべての芽を摘む方法を指しています。通常のミドリ摘みのように、芽を選定する必要がないため、作業が楽になるでしょう。
短葉法を利用した松はすべての芽を摘まれ新しく芽を出しますが、通常よりも多くのエネルギーを使うので少々小ぶりに仕上がります。地植えで大きく育てたい場合には向いていませんが、盆栽などで小ぶりに育てる場合におすすめの手法です。
上から下・奥から手前の順で作業する
松の剪定を上手に行うには、上から下・奥から手前の順に作業していきましょう。下から上に向かって作業すると、上で切った枝によって下の枝が汚れてしまい、効率が悪いためです。
また、手前から奥に向かって作業を進めると、ご自身の身体がせっかくきれいにした手前の枝にぶつかって折れてしまう可能性があります。このような事態を避けるために松の剪定は、上から下・奥から手前の順を守って作業していきましょう。
一つひとつの枝ごとでまとまりを作る
一つひとつの枝ごとでまとまりを作るのも、松の剪定を上手に行うポイントです。松の枝はあらゆる方向に伸びるため、どのように樹形を整えたら良いのか迷ってしまう方も多いでしょう。しかし、一つひとつの枝ごとに山型のまとまりを作ることで、風情のあるきれいな樹形の松を作りやすくなります。
上下で葉の量を変える
もみあげを行う際、上下で葉の量を変えると全体的な生育バランスが整うでしょう。具体的には「上の葉を薄く下の葉を濃く残す」がポイントです。上の葉は日当たりが良いので必然的に下の葉よりも伸び、上下のバランスが悪くなることがあります。
このような事態を避けるために、上下の葉の量に差を付けておくときれいな樹形に仕上がるでしょう。
強剪定に気をつける
松を剪定する際は強剪定に気をつけます。強剪定とはその名のとおり強く思い切った剪定を指し、具体的には太い枝をばっさり切り落としたり、1度に多くの枝や芽を切り取ったりすることです。
強剪定は通常であれば問題ない行為ですが、松が弱っているときに行うとさらに免疫力が低下し、病害虫の被害を受けやすくなってしまいます。
さらに、暑い時期にも強剪定は不向きです。松が暑さに耐えられず枯れてしまう可能性があります。
ありがちな松の剪定の失敗例と対処法
ここでは、ありがちな松の剪定の失敗例と対処法についてご紹介していきます。
枯れ葉や枯れ枝が増える
松の剪定でありがちな失敗例のひとつが「枯れ葉や枯れ枝が増える」です。枯れ葉や枯れ枝が増える原因として、葉や枝が密着していることが挙げられます。
葉や枝が密着していると通気性や日当たりが悪くなって生長が鈍り、枯れ葉や枯れ枝が増えてしまうのです。このような失敗をしないようにするためには、剪定時にあらゆる角度から松を良く観察して葉や枝が密着しているところがないか確認しましょう。
樹形のバランスが悪い
「樹形のバランスが悪い」という失敗例も、松の剪定にありがちです。樹形のバランスが悪くなる原因は「取り除くべき枝が残っていること」や「生長する勢いが強い木であること」が挙げられます。
本来取り除くべき不要な枝が残っていると、あっという間に樹形のバランスが崩れてしまうため注意が必要です。また、生長する勢いが強い木の場合は、透かし剪定の回数を増やすと良いでしょう。
松の剪定が不安な方はプロに依頼しよう
これまで、松の剪定についてご紹介してきましたが、作業に不安が残る方もいるでしょう。そのような方は、プロに依頼するのもひとつの方法です。以下ではプロに依頼するメリットや、くらしのセゾンの「庭木のお手入れ」サービスについてご紹介していきます。
プロに依頼するメリット
松の剪定をプロに依頼するメリットは、ご自身で時間を作れなくても美しく剪定してもらえることはもちろん、難しい状況にも対応してもらえることです。ご自身ではできなくてもプロなら「好みの樹形に仕立てたい」や「放置してしまっていた松を手入れしてほしい」などの難しい要望にも応えてくれるでしょう。
さらに、基本的に剪定のプロは、面倒な後片付けまでも対応してくれます。樹木の剪定は掃除や切った枝の処分が付きものです。しかし、プロに依頼すると後片付けや処理まで対応してくれるでしょう。
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おわりに
職人たちの間でも難しいとされている松の剪定ですが、方法とポイントを理解していれば一般の方でもチャレンジできます。また、やはり難しそうと感じる方にはプロによる剪定をおすすめします。このコラムを参考にして、松の剪定に取り掛かりましょう。