終身保険は文字どおり保障が一生涯続く生命保険ですが、保障だけでなく高い貯蓄性がある点も大きな特色です。途中解約で受け取れる解約返戻金をさまざまな資金として活用できます。 今回は終身保険のメリットやデメリット、どんな方に適しているかを詳しく解説します。生命保険の加入や見直しを検討している方は、ぜひ参考にしてください。
終身保険とは?
終身保険とは死亡または高度障害の保障を一生涯(終身)受けられる生命保険です。解約をしなければ必ず死亡保険金を受け取れ、途中で解約した場合は期間の経過に応じた解約返戻金を受け取れます。
掛け捨てではないため、同じ保険金額の保険料は定期保険などより高めになります。そのため、葬儀費用などの死亡整理資金を目的に、保険金300万円から500万円程度で契約するケースが一般的です。
また、学資保険代わりに途中で解約して解約返戻金を受け取るなど貯蓄目的の活用法もあります。
定期保険や養老保険との違い
死亡を保障する生命保険には、終身保険の他に定期保険と養老保険があります。以下で終身保険とそれぞれの違いを解説しましょう。
定期保険との違い
定期保険とは一定期間を保障するタイプの死亡保険で、満期保険金はありません。「60歳まで」「10年間」など定められた期間のみを保障し、期間が満了すると契約が消滅します(更新できるタイプもあります)。
定期保険は途中で解約すると解約返戻金はゼロか、あってもごくわずかの「掛け捨て」タイプのため、保険料は割安です。
子どもが独立するまでに一家の大黒柱の死亡保障を確保するなど、一定期間だけ大きな保険金を準備したい場合に活用できます。
養老保険との違い
養老保険とは被保険者が満期までに死亡した場合は死亡保険金、満期時に生存していた場合は満期保険金が支払われる生死混合保険です。保険期間が一定である点が、終身保険との大きな違いになります。
途中で解約した場合は、期間の経過に応じた解約返戻金が受け取れます。一般的に死亡保険金と満期保険金は同額であり、保険料は終身保険より高めです。
現在、養老保険そのものはあまり利用されておらず、個人年金保険や学資保険など養老保険を応用した商品の方が人気です。
終身保険の特徴
終身保険には一生涯の保障や高い貯蓄性など、多くの特徴があります。
保障は一生涯続く
終身保険の保障は一生涯続くため、被保険者が何歳で死亡しても受取人は死亡保険金を受け取れます。例えば、100歳満期の定期保険であれば、被保険者が101歳で死亡すると受取人は死亡保険金を受け取れません。人の寿命は不確定なため、死後に保険金を特定の受取人に残したいという希望を確実に叶えられるのは終身保険だけです。
保険料が変わらない
終身保険の払込期間中の保険料は一定であり、途中で上がることはなく、保険料払込期間が終わると以後の保険料を払う必要はありません(終身払い以外)。一方、更新タイプの定期保険の保険料は、更新ごとに上がります。満期を迎えた定期保険と同じ内容の保険に加入する場合、年齢が上がったことで保険料は高額になります。また健康状態によっては加入できない可能性があります。
まとまった解約返戻金が見込める
終身保険を解約すると期間の経過に応じた解約返戻金を受け取れるため、掛け捨てではありません。場合によっては解約返戻金が支払った保険料を上回る可能性があります。ただし、加入してすぐに解約すると解約返戻金は全くないか、あってもわずかです。
終身保険の解約返戻金は期間の経過とともに右肩上がりに増加し、減ることはありません。加入年齢や契約の仕方によっては高い貯蓄性が期待でき、死亡保障の確保以外に教育費や老後資金準備などにも活用可能です。
終身保険の種類
終身保険には基本的な円建ての終身保険以外に、いくつかの種類があります。それぞれの特徴やメリット・デメリットを紹介しましょう。
円建て終身保険
円建て終身保険とは、スタンダードな終身保険で保険料の支払いや解約保険金・死亡保険金の受け取りを円ベースで行うものです。
一般的に加入時に将来受け取る解約返戻金が決まるため、契約的に資金準備ができます。また、円建てのため、為替変動の影響も受けません。
しかし、長引く超低金利の影響で高い貯蓄性は期待できなくなりました。また、契約時に将来受け取る額が確定すると、物価上昇時には価値が目減りしてしまいます。
外貨建て終身保険
外貨建て終身保険とは、米ドルなどの外貨で保険料の支払いや解約返戻金・死亡保険金の受取りを行う終身保険です。
一般的に米ドルなどの通貨は日本円より高金利であり、同程度の保険金額に対する保険料が割安になります。また、解約返戻金の返戻率も円建てより高めになります。さらに、為替が円安に振れると、解約返戻金や死亡保険金に為替差益が期待できます。
しかし、為替変動の影響を受けるため、円安に振れると円で支払う保険料が割高になるなどのデメリットに注意が必要です。また、円高に振れると為替差損を被る可能性もあります。そして、保険料の払込や死亡保険金・解約返戻金の受け取り時に為替手数料がかかります。
積立利率変動型終身保険
積立利率変動型終身保険とは、金利情勢に応じて定期的に積立利率が見直されるタイプの終身保険です。最近では外貨建て終身保険で積立利率変動型が多く採用されています。
積立利率が上昇すれば死亡保険金や解約返戻金の増加が期待でき、インフレリスクに対応しやすい商品です。一般的に最低利率が保証されており、金利が下がっても死亡保険金や解約返戻金が減らされる心配はありません。
しかし、一般的に通常の終身保険より保険料が割高で、一定の積立利率を超えなければ通常の終身保険より高い保険料を支払うデメリットもあります。
低解約返戻金型終身保険
低解約返戻金型終身保険とは、保険料払込期間中の解約返戻金が通常の終身保険より抑えられている終身保険です。解約返戻金を抑えた分、保険料も安く、保険料払込終了後の解約返戻金は払込保険料を上回る可能性もあります。
一般的に保険料払込期間は10年や60歳、65歳までなどのタイプがあり、保険料の払込が短期間であるほど解約返戻率が高くなります。そのため、学資保険の代わりに活用することも可能です。
ただし、保険料の払込期間中に解約すると解約返戻金が支払った保険料を大きく割り込むため、計画的に利用することが大切です。
変額終身保険
変額終身保険とは保険料を投資信託などで運用してその成果に応じて死亡保険金や解約返戻金が増減する、投資タイプの保険です。運用のリスクは契約者が負い、一般的に死亡保険金は契約時の保険金が最低保証されます。
運用成績が好調であれば死亡保険金や解約返戻金が増加します。投資信託は株式などで運用するため、インフレリスクにも対応可能です。
しかし、運用が低調であれば解約返戻金は元本割れする可能性があるため、注意が必要です。また、保険料の一部が死亡保障に使われるため、被保険者の年齢が高いと同じ運用成績でも解約返戻金が低くなります。
終身保険の払込期間
終身保険の保険料の払込期間は以下の3つに分かれます。
終身払い
終身払いとは、一生涯保険料を払い続ける方法です。払込期間が長いため、1回分の保険料は安くなります。ただし、長生きすればするほど保険料を多く支払うことになり、支払う保険料の累計が受け取る保険金を上回る可能性もあります。終身払いは主に、高齢で加入して有期払いが選択できない場合などに選択されています。
有期払い
有期払いは「60歳まで」「10年間」など一定の年齢や期間を定めて保険料を払い込む方法です。1回の保険料は払い込む期間が短いほど高くなります。解約返戻金の増え方は通常の終身保険と低解約返戻金型で異なり、一般的に有期払いの解約返戻金は終身払いより高いです。
一時払い
一時払いとは、保険料全額を一括で支払う方法です。保険料を全額支払うため、病歴のある方なども加入しやすい商品がほとんどです。一般的には退職金などまとまった資金の運用や、相続対策などで活用されます。
終身保険のメリットとデメリット
終身保険はメリット・デメリットを理解し、目的をはっきりさせて活用する必要があります。
終身保険のメリット
終身保険の主なメリットは以下のとおりです。
ライフステージに合わせて柔軟に使える
終身保険には期間の経過に応じた解約返戻金があり、そのお金をライフステージに合わせて計画的に活用が可能です。終身保険を契約すると、その時点で年齢ごとの解約返戻金額が決まります。
そのため、子どもの進学に合わせて解約し学資として活用するなどできるでしょう。また、一度に全部を解約せずに部分的な解約(減額)ができるため、年金受け取りのようなこともできます。
保障を確保しながら資産形成ができる点は、終身保険の大きなメリットです。ただし、早期に解約すると元本割れがほとんどのため、加入時から資金計画をしっかり立てる必要があります。
生命保険料控除の対象になる
終身保険の保険料は生命保険料控除(一般生命保険料控除)の対象となり、その年の所得から一定額差し引くことが可能です。生命保険料控除が適用されることで、所得税・住民税が軽減されます。
2012年1月1日以降に契約した終身保険の所得税・住民税の生命保険料控除額の計算方法は、以下のとおり。
年間の支払保険料 | 控除額 |
20,000円以下 | 支払保険料の全額 |
20,000円超40,000円以下 | 支払保険料×1/2+10,000円 |
40,000円超80,000円以下 | 支払保険料等×1/4+20,000円 |
80,000円超 | 一律40,000円 |
【住民税の生命保険料控除】
年間の支払保険料 | 控除額 |
12,000円以下 | 支払保険料の全額 |
12,000円超32,000円以下 | 支払保険料×1/2+6,000円 |
32,000円超56,000円以下 | 支払保険料等×1/4+14,000円 |
56,000円超 | 一律28,000円 |
例えば、1年間に支払った保険料が60,000円であれば、所得税の課税所得金額からは35,000円控除でき、住民税の所得金額からは28,000円控除できます。
相続税対策として使える
終身保険の契約者と被保険者が同じで、受け取る人が相続人である場合、死亡保険金は「みなし相続財産」になります。相続人が受け取った死亡保険金は、「500万円×法定相続人の数」で算出される非課税限度額を超えた部分が相続税の課税対象となります。
例えば、法定相続人が配偶者と子2人であれば、死亡保険金1,500万円までは相続税がかかりません。
また、この場合の保険金は相続税法上のみなし相続財産であり、遺産分割の対象ではないです。つまり、生前に受取人を指定して終身保険に加入しておけば、特定の子どもなどに財産を残してあげられます。
契約者貸付制度が使える
終身保険のように掛け捨てでない保険は、契約者貸付制度により解約返戻金の一定範囲内での借入ができます。契約者貸付の条件は保険会社によって異なり、一般的に借入限度額は解約返戻金の7~9割程度です。
借りたお金は契約者の任意のタイミングで、一部または全額と保険会社所定の利息を返済します。契約者貸付を受けている間も、保険契約は継続します。
終身保険のデメリット
終身保険には注意すべきデメリットもあります。
保険料は高め
終身保険の保険料は、定期保険に比べて割高です。一般的に保険期間が長いほど保険料は上がり、掛け捨てタイプより貯蓄性がある保険の方が保険料は高くなります。
そのため、葬儀費用などの死亡整理資金を終身保険で準備し、子どもが独立するまでの遺族の生活費などに定期保険を活用するなどの使い分けが有効です。
インフレ対策には使えない
通常の終身保険は契約時に死亡保険金や年齢ごとの解約返戻金が決まるため、将来のインフレには対応できません。契約後に物価が上昇してしまうと、契約どおりに支払われた死亡保険金や解約返戻金の価値が目減りしてしまうのです。
早期解約すると元本割れを起こす
終身保険に加入してすぐ解約すると、解約返戻金は支払った保険料を大きく下回るケースがほとんどです。解約返戻金は期間の経過とともに増えますが、必ずしも支払った保険金以上に受け取れるわけではありません。
解約返戻金を利用する場合、どのタイミングでいくら受け取れるかをしっかり確認することが大切です。また、早期解約にならないように無理のない保険金額や保険料での契約を心がけましょう。
保険の見直しが難しい
終身保険は定期保険のような更新がないため、見直しがしにくいタイプです。保険料は年齢とともに上がり、解約返戻金は年齢が上がるとともに少なくなります。そのため、一度加入した終身保険は、続けるのがベストです。目的に応じて定期保険と終身保険を使い分けましょう。
終身保険に加入するのがおすすめな方とは?
以上のメリット・デメリットを踏まえ、終身保険に加入するのが適した方を解説します。
保障を維持しながらまとまった資金を確保したい方
終身保険は保険機能と貯蓄機能が一体になった金融商品なので、保障を維持して資産形成をしたい方に向いています。親が資産形成の途中で亡くなった場合は死亡保険金を学資に充てられるため、子どもの教育資金準備には有効でしょう。
また、保険契約の一部を解約する減額や契約者貸付を利用すれば、保障を継続してお金を受け取ることも可能です。
老後の資金を準備したい方
老後の公的年金だけで治療費や入院費、高額医療費、葬儀費用などを賄うことは難しいです。万が一の際の死亡保障として備えながら、必要に応じて使える資金を準備したい方に向いています。
終身保険は、老後資金を準備したい方にも有効です。払込の終了した終身保険を少しずつ減額していくと、死亡保障を備えながら年金のように資金を使えます。
コツコツ貯蓄をするのが苦手な方
終身保険の保険料は自動的に引き落とされるため、貯金の苦手な方の資産作りに向いています。収入から生活費を差し引いた残りを貯蓄しようと思ってもなかなかうまくいかない方でも、終身保険なら無理なくお金を貯められるでしょう。
相続税の節税を考えている方
死亡保険金には「500万円×法定相続人の数」の非課税枠があり、相続税対策に活用可能です。終身保険の保険金額を相続税の非課税枠に合わせて加入すると、全額非課税で遺族が受け取れます。
相続対策で終身保険を活用する場合、非課税枠を考えて保険金額を決めると良いでしょう。
おわりに
終身保険は死亡保障が一生涯続き、途中で解約すると解約返戻金を受け取れる貯蓄性のある保険です。そのため、さまざまな活用法があります。しかし、生命保険はライフプランを実現するためのツールであり、商品単体を検討するよりもトータルな見直しが大切です。できればライフプラン、生命保険、保険商品の全てに精通した専門家に相談することをおすすめします。
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