事業ポートフォリオとは、自社がどのような経営状態であるか客観的に把握できるツールのひとつです。特に法人経営者が事業ポートフォリオを分析、把握しておくことで、今後のスムーズな事業展開に役立つでしょう。このコラムでは、事業ポートフォリオの概要や作成方法、典型的な類型などについてご紹介します。
この記事を読んでわかること
- 事業ポートフォリオは、自社の事業について成長性や安全性、収益性を一覧化し可視化したもの。
- 事業ポートフォリオを定期的にリバランス(最適化)することで、事業の拡大や早期のリスクヘッジが可能。
- 事業ポートフォリオを作成する段階において、自社の強みや弱みの分析をすることが重要。
- 事業ポートフォリオはM&Aの際に用いられることが多く、さまざまなビジネスシーンで活用されている。
事業ポートフォリオとは?分かりやすくご紹介
事業ポートフォリオとは、企業の事業一覧のことを指します。具体的には、各事業における収益性や安全性、成長性を視覚的に確認できるツールのことです。
事業ポートフォリオを作成することで、企業内の全体的な事業一覧がチェックできます。そのため、経営資源の有効活用や、最適な配分へリバランスするための材料として有用なツールです。
事業ポートフォリオを作成することで、対象企業の現状や強みが確認できるだけでなく、M&Aをはじめとしたビジネスのさまざまなシーンでの活用が期待されています。
事業ポートフォリオを作成すると得られるメリット
事業ポートフォリオを作成すると得られる主なメリットは以下4つです。
- スピーディーな経営判断ができる
- 倒産危機を早期発見できる
- 自社の競争相手が明確化される
- M&Aに活かせる
スピーディーな経営判断ができる
事業ポートフォリオを作成することで、自社の成長性、収益性、安定性などを明確に確認できるため、新たなビジネスチャンスの発見につながるなど、スピーディーな経営判断が可能になります。
事業ポートフォリオによって自社の強みの確認や、逆に弱点も把握することができるため、世の中の情勢に合わせてすぐに動きやすい環境を作ることができるのです。
倒産危機を早期発見できる
事業ポートフォリオをチェックすることで、自社が危機的な状況になる前に早期に対処できます。前述のスピーディーな経営判断とも関連していますが、経営にはスピード感が大事です。倒産危機の回避も、迅速に行うことが求められます。
例えば、従来から継続している事業に対し、改善の見込みがなく利益が薄い場合には存続か撤退か早期に判断する必要があるでしょう。一方、高い収益性は見込めなくても安定した事業であれば継続し、安全性を重視した事業の要とすることも可能です。
自社の競争相手が明確化される
事業ポートフォリオは自社の強みや弱みなどを把握できるため、競合となりうる企業の見極めにも役立ちます。これにより、競合他社に関する情報を収集し、自社の事業にも照らし合わせてより円滑な運営ができるよう指標とすることが可能です。
M&Aに活かせる
M&A(事業承継や事業譲渡)では、事業ポートフォリオが活用されるケースが珍しくありません。M&Aを行う際、対象となる企業の事業ポートフォリオを判断材料の一つとすることが多いです。
事業ポートフォリオには、企業の内部における事業一覧がまとめられているため、事業の売却や譲渡に関して相手方に概要を伝えやすいという利点があります。
事業ポートフォリオの基本的な作成方法
事業ポートフォリオの基本的な作成方法は以下のとおりです。
- 現状把握(PPM分析)
- 注力する事業の決定(CFT分析)
- 自社の強みを明確化する(SWOT分析)
- ビジネスモデルの設定
現状把握(PPM分析)
PPM分析は事業ポートフォリオを作成する方法のうち、現状把握に活用される方法。PPM分析とは「プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント」の頭文字です。PPM分析では、自社の事業を以下4つの分類に分けてそれぞれ検討していきます。
- 花形
- 金の生る木
- 問題児
- 負け犬
花形
自社の事業のうち花形に分類されるのは、市場の成長性・市場におけるシェアがともに高い事業です。花形の事業を継続することで成長率が安定してくると、後述の「金のなる木」に分類されます。
金のなる木
金のなる木に分類されるのは、市場の成長性は低くても、市場においてシェアを高く獲得している安定的な事業です。すでに成長した後の事業が分類されることが多く、現状以上の成長や大きな利益獲得にはつながりにくいのが特徴。
しかし、安全で安定的に継続した利益が期待できるため、更なるコスト削減を実施し利益率を上げることを目標とします。
問題児
事業のうち市場成長率が高い領域であっても、現状の市場シェアが低い事業は問題児に分類されます。問題児に分類された事業は、市場シェアを高める目標を掲げ、将来的には花形になるよう努力することが目標です。
負け犬
負け犬に分類される事業は、もはや市場の成長の伸びしろがなく市場のシェアも低い事業。負け犬に分類された事業は、すでに旬を過ぎた事業であるとも考えられ、衰退期に差し掛かっているといえます。
負け犬に分類された事業は、事業自体の撤退も視野に入れて市場全体の傾向などから総合的に判断する事業です。
注力する事業の決定(CFT分析)
PPM分析により事業の現状分析が完了したら、次はCFT分析を活用して情報を整理しましょう。CFT分析では、ターゲットの明確化が図れます。
CFT分析で用いられるフレームワークは、次の用語の頭文字が由来です。
- Customer(顧客)
- Function(機能)
- Technology(技術)
顧客、機能、技術の3つの軸から「誰に何をどのような方法で提供するのか」について分析していきます。
Customer(顧客)は、自社の事業はどのような顧客をターゲットとしニーズを満たせるのかについて市場全体の分析から把握することです。
Function(機能)は、どのような価値(サービス)を顧客に提供できるのかを分析すること。これを分析することで、自社の強みを活用し、競合他社との差別化を図ることにつながります。
Technology(技術)では、具体的に実現する方法について分析しましょう。自社が保有しているサービスや技術をもとに、顧客に対してどのようにアプローチしていくかについて検討します。
自社の強みを明確化する(SWOT分析)
次に、他社がまねできない技術や代替できない商品など、自社の強みを明確化するためのSWOT分析を行いましょう。SWOT分析とは、自社を取り巻く外部環境と、自社の資産や価値などをプラスとマイナスに分類して分析する手法です。
SWOTとは、次のフレームワークの頭文字から命名されています。
- Strength(強み)
- Weakness(弱み)
- Opportunity(機会)
- Threat(脅威)
上記のフレームワークにそってSWOT分析を行うことで、自社の戦略策定やマーケティングが明確化され、特に経営資源のリバランスなどを実施する際に有効です。例えば、顧客にとって長期間需要が高い商品や希少価値のある商品は強みになりえます。
ただし、SWOT分析において強みと弱みにはっきり分類することが難しい場合もあるため注意しましょう。
ビジネスモデルの設定
SWOT分析を策定し活用したら、企業理念に沿ったビジネスモデルを設定します。ただし、自社の企業理念と経営内容がずれると、顧客離れの原因となるため注意が必要です。
ここまでに分析した結果に基づき目先の利益を優先してしまうと、本来企業が持つイメージや企業の安定性を損なうリスクがあります。ひいては顧客離れにつながる恐れもあるため、事業ポートフォリオと自社の企業理念に関するチェックが非常に重要です。
日本企業における事業ポートフォリオの代表的な類型
事業ポートフォリオのうち自社がどの類型か把握することで、今後に向けた対策を打ちやすくなります。
- ジリ貧型
- 後ろ髪ひかれ型
- 下手な鉄砲型
- ゆでガエル型
これらの類型は、売上高成長率×ROIC(投下資本利益率)のマトリクスに分類可能です。WACCとは、全社ベースの加重平均資本コストのこと。横軸はWACC、縦軸は全社ベースで目標とする売上高成長率や経済成長率としてのGDP成長率などを設定しています。
ジリ貧型
ジリ貧型とは、自社のメイン事業以外に、今後成長が期待できるような事業が見当たらない状況のこと。現在のメイン事業に収益性が見込まれるため当面の事業の安定性は確保できるとしても、このメイン事業が衰退したり、市場全体のシェアが縮小するようであれば、今後の企業運営に課題を抱えることになります。
後ろ髪ひかれ型
後ろ髪ひかれ型とは、複数の事業を経営しているなかで成長が見込めない事業や、利益を出せないままの事業がある状況のこと。
後ろ髪ひかれ型の特徴として、かつての経営者が花形事業としていた場合が多くあります。その時代のまま事業を継続していても成長性や収益性に乏しく、現在の自社には他の花形にあたる事業がある場合はそちらからの補填により何とか継続している状況です。
下手な鉄砲型
下手な鉄砲型とは、売り上げが伸びている事業が一つある状況のこと。一方で、多くの新規事業を始めていながらも一つの事業以外は成功していない状況のことを、下手な鉄砲型に分類します。
下手な鉄砲型では、複数の新規事業を立ち上げても、そのいずれも事業拡大が見込めず成長性に欠ける状態です。
ゆでガエル型
ゆでガエル型とは、以前から本業として経営している事業が最新の市場や取り巻く経済環境に対応できておらず、今後の成長が期待できない状況。昔から何の変化もなく、ただ事業を継続しているような状況を指すこともあります。
このままでは稼ぐ力が乏しくなることから、早期の事業改善に着手しない場合は倒産や閉鎖のリスクを抱えている状況です。
事業ポートフォリオで見つかる企業リスクをカバーするには?
事業ポートフォリオでは、内部と外部から総合的に分析し、企業が抱えるリスクを見つけることができます。しかし、リスクに備えていない場合は経営悪化や倒産の危機を迎える場合もあるため、さまざまな企業リスクに備えられる法人向け保険に加入を検討しましょう。
おわりに
事業ポートフォリオは、自社の経営状況を一覧化し明確にするものです。作成にあたり内部、外部の両面からさまざまな角度で分析する必要があります。例えば、一つの事業だけの継続で良いのか、複数の事業を同時に行っている場合はどの事業に注力し、どの事業を撤退すべきかなどが判断材料です。事業ポートフォリオを活用することで、スムーズな事業運営が期待できるでしょう。