社員旅行は、法人にとって節税効果が期待でき、社員にとっては会社負担で慰安目的の旅行が楽しめることがメリットです。そこで、このコラムでは福利厚生費の対象となる社員旅行についてご紹介していきます。特に法人経営者や経理担当者におかれましては、損金算入となる社員旅行の具体的な要件などを確認することで、企業運営を円滑に進めるヒントとしてお役立てください。
この記事を読んでわかること
- 福利厚生費として認められる社員旅行は、3つの要件を満たす必要がある。社員全員を対象にした旅行であり(機会の平等性)、社会通念上妥当な金額であり(金額の妥当性)、現物支給ではないこと。
- 福利厚生費の対象となる社員旅行は、正社員だけでなくパートやアルバイトも含めた働く方全体を対象にする必要がある。金額の妥当性として、社員一人当たり10万円以内を予算の目安とし、不参加の社員に対して金銭や金券等を授与しないことがポイント。
- 社員全体へ確実に周知徹底するためにも、就業規則で社員旅行について明記しよう。就業規則は、税務調査の際に重要な証拠にもなりえる。
- 社員旅行は法人と社員の双方にとってメリットがある制度。そのためには税法上のルールも確認し、双方が心から楽しめるイベントとしよう。
福利厚生費とは?
福利厚生費とは、税務会計上で経費として計上できる費用のことです。必要経費として損金算入ができるため、福利厚生費を活用することで法人の利益が減少し、結果として節税につながるということになります。
このように、福利厚生費を設けることは法人にとって節税効果が期待できるうえ、会社で働く社員(従業員・職員)にとってもメリットがあるため喜ばれる制度です。
費用が福利厚生費と認められるには要件があり、認められた場合にはその費用が全額会社負担となります。
福利厚生費は法定福利費と法定外福利費の2種類があり、法定福利費は義務で、必ず会社が拠出する必要のある費用です。一方、法定が福利費の拠出は任意で、会社ごとにルールを決める場合には原則として社員全員を対象とする必要があります。
法定福利費と法定外福利費の主な例は次のとおりです。
【法定福利費】
- 社会保険(健康保険・厚生年金、介護保険など)
- 労働保険(雇用保険、労災保険など)
【法定外福利費】
- 住宅手当、社宅の設置、家賃補助など
- リフレッシュ休暇など特別休暇の取得
- 慶弔見舞金
- 家族手当や育児・介護支援
- 提携サービスの優遇(スポーツジム割引など)
法定福利費は、会社が支払う義務が定められている費用であるため一律「法定福利費」として経費になります。一方、設置自体が任意である法定外福利費に関しては、福利厚生費として損金算入するための要件を満たす必要があるため注意が必要です。
福利厚生費として計上するための3つの要件
会社ごとに設置する福利厚生に関して、福利厚生費として認められるためには次の3つの条件を満たす必要があります。条件を満たさない場合、課税対象になることもあるため注意しましょう。
【福利厚生費となるための3つの条件】
- 機会の平等性(社員全員を等しく福利厚生の対象とすること)
- 金額の妥当性(常識の範囲内での金額であること)
- 現物支給ではない
福利厚生費として損金算入し節税効果を期待するには、社員全員を対象とし、常識の範囲内での金額で設置することが必要です。例えば、幹部社員だけを豪華な海外旅行に連れていくなどは、社員全員の平等性に欠き、豪華な海外旅行も金額の妥当性に欠けると判断されるでしょう。
社員旅行が福利厚生費として認められるための条件とは?
社員旅行の費用を福利厚生費として損金算入できれば、法人にとって節税効果が期待できるだけでなく、社員間の親睦も深められ、会社運営も円滑にいくことが期待されます。そこで、社員旅行が福利厚生費として認められるための条件を確認していきましょう。
国税庁タックスアンサーNo.2603では、従業員レクリエーション旅行(社員旅行)や研修旅行の費用について解説しています。この内容に基づき、以下に事例を挙げますので確認していきましょう。
- 旅行期間
- 参加する人数
- 旅費
旅行期間
社員を対象とした旅行や研修旅行の実施において、会社側が負担した費用を損金算入できるかどうかは、その旅行の内容を総合的に勘案して決めます。
その判断材料の一つが、旅行期間です。国内旅行では4泊5日以内で、海外旅行の場合には外国での滞在日数が4泊5日以内であることが目安になります。
参加する人数
社員旅行の参加人数も、要件が定められているため注意が必要です。社員だけでなくパートタイム労働者、アルバイト等も含め、全体の50%以上が参加する必要がありますが、勤務体系が正社員と異なる場合は含めなくても良いとされています。
旅費
福利厚生費として社員旅行を実施する場合に必要となるのが「金額の妥当性」。実際には会社の規模や従業員数などから総合的に勘案されますが、社員一人当たりの企業の負担金額は10万円以内を目安とする場合が多いです。
福利厚生費として認められないケース
ここまでにご紹介した要件を満たしても、実際には社員旅行の費用を福利厚生費とみなされない場合があります。細かい点は担当税理士等への相談が必要ですが、事例としては以下のとおりです。
- 参加者を特定している
- 接待を目的とした旅行
- 不参加者に金銭の支給をした場合
- 慰安が目的ではない旅行
参加者を特定している
社員旅行を福利厚生費として損金算入するには、機会の平等性が求められます。したがって、役員や成績優秀者だけを対象とした旅行は、給与所得や役員賞与となり福利厚生費に計上されません。
接待を目的とした旅行
社員旅行は参加者の特定をせず、社員全員の福利厚生を目的とするという意味を持ちます。そのため、接待を目的とした取引先との旅行は社員旅行にはあたりません。取引先との接待旅行は交際費に分類され、課税対象になります。
不参加者に金銭の支給をした場合
社員旅行は、社員全員を対象とすることで福利厚生費の対象となりますが、中には自己都合によって参加できない社員がいる場合もあるでしょう。その際、旅行に参加しなかった社員に対して旅行代金相当の金銭を支給した場合は、社員に対する給与とみなされ課税対象になるため注意が必要です。
一方、会社都合で不参加となる社員に対して金銭を支給する場合には、不参加だった社員への支給金額だけが給与として課税対象となります。
基本的に、働く方全員を対象とすることで福利厚生の対象となるのが社員旅行です。社員旅行の参加を促す告知をする際に「不参加者には旅費相当の金銭や旅行券等を支給する」などと提示し、社員に選択させると社員旅行全体が福利厚生費として損金算入できなくなる点に注意しましょう。
慰安が目的ではない旅行
あくまでも福利厚生費の対象となる社員旅行とは、従業員の慰安や衛生を目的とした費用が対象です。つまり、その条件を逸した旅行は対象となりません。
例えば、社員旅行で参加した従業員に対し、役員の家族(子ども)の世話をさせる場合は従業員にとって慰労に当たらないため、損金算入できる要件を満たしていないことになります。
社員旅行を経費として処理するためのポイント
社員旅行を経費として計上するために注意したい主なポイントは以下の2つです。
- 社員旅行の有無について就業規則に明記しておく
- 証拠資料を保存しておく
社員旅行の有無について就業規則に明記しておく
就業規則に社員旅行がある旨を明記しておくと、税務調査の時も有効な裏付けとなります。就業規則とは会社で働く社員がいつでも確認できるルール。
経費に計上できる社員旅行を実施する予定であれば、そもそも従業員全員を対象とすることが必要であるため、就業規則への明記が当然であると考えられるためです。
証拠資料を保存しておく
従業員全員で参加した社員旅行であるという証拠資料は、可能な限り多く保存しておきましょう。実際に社員旅行が実施されたかどうかの証明になるため、旅行中のあらゆる利用明細書や領収書を保存しておくことが重要です。
また、社員旅行の日程表や現地での写真等も社員旅行を実施した日時の確認となるため保管しましょう。
こんな場合は計上できる?ケース別に解説
従業員を対象にした社員旅行にもさまざまなケースがあります。以下のような場合の社員旅行は経費として計上できるのか、具体例を挙げてますので確認しましょう。
- 研修旅行や視察旅行
- 家族が同伴した旅行
- 海外旅行
【ケース1】研修旅行や視察旅行
社員旅行の目的は、従業員の慰安です。一方、研修旅行や視察旅行は業務に必要な旅行のため、慰安には当たらず、旅行交通費として計上されます。
しかし、条件によっては経費として計上されないものもあるため注意が必要です。
【ケース2】家族が同伴した旅行
社員旅行は、会社で働く従業員を対象にしています。したがって、基本的に同伴した家族の旅費は給与扱いとなり課税対象です。
【ケース3】海外旅行
社員旅行は、社会通念上妥当な金額であり、その他の要件を満たすことで海外旅行も経費として計上できます。ただし、滞在日数は4泊5日以内で、機内での宿泊分は含まれない点には注意が必要です。
社員旅行を経費に計上して従業員も楽しめるイベントに
社員旅行を福利厚生費として計上することは、企業側にメリットがあるだけでなく従業員にも所得税がかからないなどのメリットがあります。ここまでにご紹介した要件を満たす社員旅行は、所得税がかからないため、社員にとっても喜ばしい制度であるといえるでしょう。
節税にも!事業保険で福利厚生も充実
福利厚生が充実している企業は、働く側にとっても魅力的です。また、企業側にとっても節税になるだけでなく「福利厚生が手厚い企業」としてイメージにも好影響を与えるでしょう。事業保険に加入すると、さまざまなリスク対策ができるだけでなく、さらなる福利厚生の充実にもつながります。
おわりに
福利厚生費の活用は法人の節税対策の一つとして有効です。福利厚生費のうち、社員旅行は社員全員を対象にし、一人あたり10万円以内を目安にするなど、費用を損金算入するための要件があります。のちに社員旅行を実施する際の税務調査上の証拠にもなるため、就業規則で社員旅行について明示しておくと安心です。法人の節税対策は、他にも事業保険の活用が挙げられます。さまざまな視点から、自社にとって効果的な方法を検討していきましょう。