経営リスクは、会社の経営時に起こりうるすべてのリスクを指します。「経営リスクをすべて避けて利益を上げていく」ということはできないため、発生する頻度や自社への影響度を考え、適切な方法でリスクに対処することが重要です。
このコラムでは、経営リスクの種類や対応方法などをご紹介します。自社が抱えるリスクを洗い出して対応方法を検討する手順もご紹介していますので、ぜひ参考にしてみてください。
- 企業が安定的な経営を行っていくうえでは、自社がかかえる経営リスクを把握し、適切に対策を検討することが重要
- 経営リスクには経営戦略リスクや財務リスク、コンプライアンスリスク、事故リスクなどがある
- リスクの対策方法には、危機管理マニュアルの作成や研修の実施、保険への加入などの種類がある
経営リスクの存在を知ろう
企業を円滑に経営していくためには、経営リスクを把握して、リスクマネジメントを行って対処することが大切です。まずは、経営リスクやリスクマネジメントについての基本的な内容をご紹介します。
経営リスクとは?
経営リスクとは、会社を経営するときに起こる可能性がある危機の可能性や、危機の発生によって受ける影響のことです。
「経営判断を誤ったことで大きな損失が生じた」「個人情報が流出し、企業の信頼が大幅に低下した」など、企業が抱えるリスクには、さまざまな種類があります。
また、経営環境や市場の動向、人々のニーズ、情報技術などが変化することで、自社が抱えるリスクの種類や危機が生じたときの影響度が変化することもあるでしょう。
平時からのリスクマネジメントが大切
リスクマネジメントとは、想定されるリスクを事前に把握し、その影響を最小限にするための経営管理手法のことです。
適切なリスク対応を怠ると、業績の減少や企業の信頼が低下、従業員の士気低下などさまざまな支障が生じかねません。大きな損失が発生すると、経営破綻を招くこともあります。
企業が安定的に成長を続けていくためには、リスクマネジメントを行って自社が抱えるリスクを洗い出し、万が一危機が発生したときに対処できるように体制を整えておくことが重要です。
企業にまつわるリスク一覧
企業が抱えるリスクの分類方法はさまざまですが、今回は以下の6種類に分けてご紹介します。
- 経営戦略リスク
- 財務リスク
- コンプライアンスリスク
- 事故リスク
- 情報漏洩リスク
- 労務リスク
経営戦略リスク
経営戦略リスクとは、設備投資や新商品の開発、事業規模の拡大など、企業経営におけるさまざまな経営判断にともなうリスクのことです。
経営戦略リスクとして以下の例が挙げられます。
- 顧客のニーズを見誤って期待した収益を得られなかった
- 市場の変化に適応できずシェアを急速に失った
- 競合企業の参入によって業績が悪化した
経営戦略の実行には基本的にリスクを伴います。企業が持続的に成長しながら、安定的な経営を行うためには、経営戦略リスクへの適切な対策が必要不可欠といえるでしょう。
財務リスク
財務リスクとは、企業の資金繰りや資金調達などの財務面に関連するリスクのことです。企業が抱える財務リスクとして以下の例が挙げられます。
- 金融機関から運転資金を調達したことで負債が増加して次の資金調達が困難になった
- 取引先が倒産したことで売掛金の回収が困難になった
- 金利や為替が変動して保有資産が減少した
財務リスクへの対処が不十分であると、資金繰りが悪化したり融資の返済が滞ったりする恐れがあります。
コンプライアンスリスク
コンプライアンスリスクは、企業が法律や規制、契約などに違反することで発生しうるリスクのことです。コンプライアンスリスクには以下のようなケースが該当します。
- 経営者が不祥事を起こして企業のブランドイメージが損なわれた
- 企業が社内規程に違反して従業員との間で労務トラブルに発展した
- 取引先と締結している契約に違反し、損害賠償を請求された
企業がコンプライアンスに違反すると、業績が悪化するだけでなく、法的責任を問われたり企業のイメージが低下したりする恐れもあります。
事故リスク
事故リスクとは、自然災害や人為的な事故が原因で起こりえるリスクのことです。具体的には以下のような例が挙げられます。
- オフィスや工場が地震の被害に遭った
- 従業員が勤務中の事故で死亡した
- 販売された製品に欠陥が見つかった
事故が発生すると、事業の継続が困難になったり、被害を負った消費者や従業員の遺族などから法的な責任を問われたりすることがあります。
情報漏洩リスク
情報漏洩リスクとは、企業が保有する個人情報や顧客情報などが外部に流出するリスクのことです。以下のようなケースが該当します。
- 従業員が顧客情報の入ったUSBメモリーを紛失した
- 情報が保存されたPCが盗難された
- 企業がサイバー攻撃の被害に遭って個人情報が抜き取られた
情報漏洩が1度でも発生すると、企業の信頼が大きく損なわれてしまうでしょう。また、顧客や取引先から損害賠償を請求されることもあります。
労務リスク
労務リスクとは、ハラスメントや残業代未払いなどの労働問題が発生するリスクのことです。労務リスクは以下のような例が挙げられます。
- 労働基準法で定める上限を超えて従業員に残業させた
- パワハラやセクハラなどのハラスメント行為によって従業員のメンタルヘルスが悪化した
- 正当な理由もなく従業員を解雇した
労務リスクの対策を怠ると、企業の社会的信用が失われてしまいかねません。また、人材の流出や従業員の労働意欲の低下によって、企業の生産性が低下することもあります。
自社の経営リスクを洗い出して対策方法を検討する手順
経営リスクを洗い出す際の手順は、次のとおりです。
- リスクを特定する
- リスクを分析・評価する
- リスクを評価し対応方法を決定する
リスクを洗い出す手順を一つずつ確認します。
リスクを特定する
まずは、自社のリスクを洗い出して分類をしましょう。経営者や幹部のみでリスクを検討するのではなく、各部署にアンケートやインタビューを行い、リスクを漏れなく特定することが重要です。
また、この時点では発生する可能性や、企業への影響度を考慮する必要はありません。業績の低下や信頼度の低下など、企業に何らかの影響があるリスクをすべて書き出していきましょう。
リスクを分析する
リスクを特定したあとは「発生頻度」「企業への影響度」の2つの軸で分析します。リスクを分析することで、優先順位が決めやすくなるだけでなく、従業員がどのリスクを重視すべきかが分かりやすくなるでしょう。
分析をするときは、発生頻度と影響度の大きさを数値で表し、2つの項目をかけあわせて数値を比較します。
例えば、0〜5の点数でリスクを定量化するとしましょう。点数が高いほど、発生頻度は高くなり、影響度は大きくなるとする場合「発生頻度3点×影響度3点=9点」と「発生頻度4点×影響度4点=16点」のリスクがある場合、後者の方がリスクは大きいと評価できます。
数値化が難しい項目については「大」「中」「小」で評価するとよいでしょう。
リスクを評価し対応方法を決定する
リスクを分析したあとは、リスクを評価して優先順位を決め、対応方法を検討します。リスクの対応方法は、主に以下の4種類です。
- リスク低減
- リスク保有
- リスク回避
- リスク移転
対応方法を検討するときは、影響度を縦軸、発生頻度を横軸とした以下のようなグラフに、分析結果を当てはめてリスクを評価すると良いでしょう。
基本的には、グラフの右上に位置するリスクほど、対応する優先順位が高いと評価できます。ここからは、リスクの対応方法をみていきましょう。
リスク低減
リスクの逓減とは、リスクが発生する可能性を軽減したり、発生時の影響を小さくしたりすることです。
例えば、感染症が流行したときに業務を継続するために、テレワークが可能な環境を整備することはリスクの低減にあたります。
リスク保有
リスクの保有とは、発生しうるリスクに対策をせず受け入れるという方法です。リスクが発生したとしても、影響度が低いと考えられるときは、あえてリスクを保有することがあります。
発生したときに企業に与える影響度を正確に分析し、保有するリスクを判断することが重要です。
リスク回避
リスク回避とは、リスクが発生する要因自体を取り除くこと。例としては「リスクの高い事業から撤退する」が挙げられます。
リスク回避が選択されるのは、発生頻度が高いだけでなく発生時の影響も大きく、優先順位の高いリスクに対処するときです。
リスク移転
リスクの移転とは、発生しうるリスクを自社外に移転すること。例えば、地震保険に加入すると、地震や津波などで自社のオフィスや工場などが負った損害を、保険会社に引き受けさせることができます。
発生する可能性は高くないものの、もし発生してしまったときの影響度が大きいリスクについては、リスク移転で対策するのが効果的といわれています。
経営リスク対策の事例
企業によって、経営リスクに備える方法はさまざまです。ここでは、企業で行われることの多いリスクマネジメントの例をご紹介します。
危機管理マニュアルの作成
リスクの種類や対応方法を従業員に周知・徹底するときは、危機管理マニュアルの作成が有効です。危機管理マニュアルに記載すると良い項目として以下に例を挙げます。
- マニュアルを作成した目的・基本的な方針
- 危機の影響度や被害予測
- 危機が発生した直後の行動内容
- 業務を普及するための取り組み内容
- 危機が発生したときに最低限維持すべき業務内容
- 緊急時の連絡先一覧
マニュアルを作成し、危機が発生したときに従業員が取るべき行動が明確になっていれば、顕在化したリスクの軽減に向けて、迅速かつ正確な対応が可能となるでしょう。
情報漏えいへの対策
情報漏えいは、企業に大きな損失をもたらしかねないため、さまざまな方法で情報の紛失・盗難やサイバー攻撃などに対処することが大切です。対策方法としては以下の例が挙げられます。
- 業務用のPCやUSBメモリを社外に持ち出さないように徹底する
- PCを処分するときに専用ツールを活用して残っているデータを確実に消去する
- 従業員にPCやスマートフォンなどの貸与品のパスワードを定期的に変更するよう促す
- ウィルス対策ソフトを導入する
- 退職者のアクセス権限を速やかに削除する
設定した対策方法を従業員に周知・徹底するときは「情報セキュリティポリシー」を作成すると良いでしょう。情報セキュリティポリシーとは、企業の情報セキュリティ対策の方針や行動指針のことです。
自然災害への対策
企業が、地震や台風などの発生を防ぐことはできません。そのため、自然災害が発生したときの被害を軽減するような体制を構築することが重要です。
例えば、本社機能を複数のエリアに分散する方法があります。企業の中心的な業務機能やデータベースなどを複数の場所に分散していれば、一つの拠点が地震や台風などで機能しなくなったとしても、被害に遭っていないエリアの事業所で業務を継続することが可能です。
また「自然災害の被害に遭ったときの復旧手順を策定しておく」「定期的に避難訓練を実施する」といった方法も効果的な対策でしょう。
従業員への研修・勤怠管理の徹底
労務リスクに対策する方法としては、従業員に向けた研修の開催が挙げられます。
例えば、役職がある職員を対象に、パワハラやセクハラなどのハラスメントを防止するための研修を開催する方法です。研修を通じて、ハラスメントに該当する言動や行動などを周知し、防止を促すことで、職場内での人間関係のトラブルを防ぎやすくなるでしょう。
また、従業員を抱える企業は、勤怠管理を管理し超過労働を防ぐことが必須です。2019年に施行された「働き方改革関連法」では、残業時間の上限が「月45時間・年360時間※」と定められました。また、年次有給休暇の取得も義務化されています。※臨時的な特別の事情がない場合
従業員の心身の健康を守り、人材流出を防ぐためには、研修を開催するだけでなく勤怠管理も徹底し、安心して勤務できる環境を整えることが大切です。
各リスクに応じた保険への加入
火災や自然災害などの事故や人為的なミスについては、損害保険や生命保険でカバーする方法があります。保険商品で備えられる損害の例は、以下のとおりです。
- 火災・風水災・地震による財物の損壊
- 機械的な事故や電気的な事故による財物の損壊
- 財物の損壊にともなう事業の中断による収益の減少・支出の増加
- 経営者や従業員の死亡・後遺障害・傷害・疾病
- 不注意や過失による法的賠償責任
- 製造物責任(PL) など
例えば、火災保険に加入すると、自社のオフィスや工場が火災で燃えてしまったときや、台風で損害を負ったときに、保険会社から支払われる保険金で損失をカバーできることもあるでしょう。
保険に加入してリスクに備えるときは、商品の種類や補償範囲、補償金額などを適切に選ぶことが重要です。とはいえ、保険やリスクマネジメントの専門知識がなければ、適切と考えられる補償を選ぶのは困難かもしれません。
そこで、保険を活用して企業経営にまつわるリスクに備えたいと考えている方は「セゾンの法人保険」にご相談ください。
セゾンの法人保険は、企業の経営リスクの洗い出しから解決策まで法人保険の取扱経験豊富な提携先コンサルタントに無料で相談することができます。
おわりに
企業は、経営戦略リスクや財務リスク、コンプライアンス、事故リスクなどを抱えながら経営をしており、リスクへの対応を怠ると、業績の悪化や損害賠償の請求、企業のイメージダウンなどを招きかねません。
そのため、企業経営においてはリスクマネジメントが重要となります。自社がどのようなリスクを抱えているのかを洗い出して適切と考えられる方法で対策しましょう。
経営リスクの対応方法には「リスク低減」「リスク保有」「リスク回避」「リスク移転」があります。発生確率や影響の大きさをもとに対応方法を決めることで、リスクに備えながら企業を経営していくことができるでしょう。