ペットを飼っている方なら、一度は「自分に万が一のことがあったら、うちの子はどうなるの」と考えたことがありませんか。ペットは法律上、動産の一種であるため、最終的には相続財産としてご家族やご親族、お知り合いが引き継ぐことになります。
ただし、実際に引き取ってくれるかは未知数なうえに、飼うには相応の費用がかかる以上、事前の準備は不可欠です。このコラムでは「ペットが困らないための対策」を解説します。
この記事を読んでわかること
- ペットは人間ではないため、財産を相続することはできない
- 飼い主に万が一のことがあった場合、ペットに財産を遺したいなら「負担付遺贈」「負担付死因贈与契約」「信託契約」のいずれかで対応する
- ペットを引き渡す際は「誰に」「どうやって」「何と一緒に」も含めて考える・納得して進めたいなら、生前の引き渡しも検討すべき
家族であるペットに相続はできるのか?
ペットを飼っているなら、「自分に万が一のことがあったら、うちの子が困らないように何か財産を遺したい」と思う方も多いでしょう。
相手が人間であれば、遺言書で指定することで相続させることができますが、ペットの場合は話が異なります。
その点も含めて、まずは相続が一体何かを把握しておきましょう。
相続とは
相続とは、亡くなった方の財産などの権利や義務を受け継ぐことです。亡くなったご本人のことを被相続人、権利や義務を受け継ぐ方のことを相続人といいます。被相続人が死亡した時点から相続が開始されると考えましょう。
なお、遺産にはプラスの財産とマイナスの財産(負債)の両方があります。それぞれの具体例は以下のとおりです。
プラスの財産 | 土地・土地の上に存在する権利 家屋・設備・構築物 預貯金・現金・貸金庫の中にある財産 国債証券・社債・株式・手形・小切手などの有価証券 貸付金・立替金などの債権 知的財産権 事業用財産 家庭用財産 その他(ゴルフ会員権など) |
マイナスの財産 | 借入金 未払金 敷金・保証金・預り金・買掛金・前受金 保証債務・連帯債務 公租公課 葬式費用 |
何もしなければ、プラス・マイナスの財産を含めて引き継ぐことになります(単純承認)。マイナスの財産の方が大きかった場合、債務を背負うことになるので注意しなくてはいけません。マイナスの財産を引き継ぎたくなければ、限定承認もしくは相続放棄を検討しましょう。
なお、遺言書により遺産の受取人を指定することができます。例えば「家は長男に相続させる」旨を記載することで、ご自分の財産である家を長男に相続させることができます。
日本ではペットは「動産」扱い
「それなら、遺言書でうちのペットにも相続させたい」と考える方もいらっしゃるでしょう。しかし、日本の法律では、人間以外に財産を相続させることはできません。
法的にはペットは「動産(=もの)」として扱われ、金銭など含めた財産の相続はできない決まりになっているためです。逆に、ペットを誰かに引き継いでもらう=相続財産として扱われるケースは散見されます。
飼い主の死後、ペットのために財産を残す方法
飼い主に万が一のことがあった後、ペットに財産を相続させることはできませんが、ペットのために財産を遺したい場合は、以下のいずれかの方法で対応しましょう。
- 負担付遺贈
- 負担付死因贈与契約
- 信託契約
それぞれの違いについて詳しく解説します。
負担付遺贈
負担付遺贈とは、特定の方に対し、財産の譲渡と債務の負担を一体として遺言を残す方法のことです。
例えば「自分が亡くなったら、長男一家でペットの面倒を見てほしい」という場合、「ペットの面倒を見る」という債務の負担を条件に、長男に財産の一部を相続させる方法です。ただし、相続人(この場合は長男)は「ペットの面倒は見られないから、財産も相続しない」と断る(相続放棄する)こともできます。
また、ペットの引き渡しを受けた相手が、その後ちゃんと世話をしてくれるとは限りません。そこで、遺言執行者を選任し、監督をしてもらう(つまり、ちゃんとペットの面倒を見ているかチェックする)ことが必要になります。
ご自身の生前に共同相続人やペットの引き渡し先になる相手と協議し、以下の点を含めて方針を決め、公正証書遺言を作成しましょう。
- 引渡し方法
- 飼育方法
- ペットの死亡時の扱い
- 飼育等のために譲渡する財産の内容・額
負担付死因贈与契約
負担付死因贈与契約とは、財産を贈る方と受け取る方が、生前に贈与内容について契約を交わすことです。具体例として、被相続人が「自分に万が一のことがあったら預貯金を譲渡するので、自分のペットの面倒を見てほしい」という契約を相続人(贈与する第三者のこともある)と交わします。先ほど紹介した負担付遺贈とは違い、贈与を受ける側はペットのお世話を原則として断れません。
「引き受け手を確保して、ペットが困らないようにしてほしい」という場合におすすめできる契約です。なお、負担付遺贈の場合と同様、以下の点を含めて公正証書を作成します。
- 引渡し方法
- 飼育方法
- ペットの死亡時の扱い
- 飼育等のために譲渡する財産の内容・額
信託契約
生前であっても、老人ホームに入るなどの理由で飼育が困難になりそうなら、信託契約を結ぶのもひとつの方法です。
この場合、飼い主が「委託者兼当初受益者」、引き受ける方が「受託者」として契約を結びます。
飼い主は飼育費用を信託財産として専用口座に入れ、引き受ける方はペットの世話をする対価として飼育費用を受け取るのが基本的な仕組みです。他の方法と同様、飼育方法やペットの死亡時の扱いについても決めておきます。
ペットを引き渡す時に事前に考えておくべき4つのポイント
ご自身に万が一のことがあった場合、ペットは誰かに引き渡すことになります。トラブルを防止するためにも、以下の4つのポイントを意識して準備を進めましょう。
誰に飼育を依頼したいのか
ご家族、ご親族など「この方にお願いしたい」という方がいらっしゃる場合、生前に説明して了承を得る必要があります。
「頼めばやってくれるだろう」と一方的に託してはいけません。お相手に飼育を引き受けられない事情があった場合、話が振りだしに戻ってしまいます。ご家族・ご親族での対応が難しい場合はお知り合いや、ペットの保護団体も含めて検討しましょう。
ペットの引き渡し場所、どのように引き渡すか
ペットの引き取り先が決まっていたとしても、実際に引き渡せなければ意味がありません。どこでどのようにペットを引き渡すのかを具体的に決めておきましょう。
考えられるパターンをいくつか列挙します。
- 相手に被相続人の自宅まで来てもらう
- 被相続人の家族・親族・知人が相手の自宅に行く
- 動物病院など双方の自宅以外の場所で落ち合う
いずれにしても「自分がこうなった時はこうする」といった使い分けが必要です。また、不測の事態に備え、ご家族・ご親族を含めた連絡先の交換もしておきましょう。
ペット以外に何を引き渡すのか
「お気に入りで使っていたベッドやえさ皿も一緒に渡したい」「生活を整えるための足しにしてほしいのでお金を渡したい」など、ペット以外に引き渡すものがある場合も注意が必要です。生前のやり取りでない限り、ご自身が立ち会えないのが基本である以上、抜け・漏れが生じないように配慮しなくてはいけません。
飼育に必要となるペット用品など、引き渡す予定の財産について、置き場所などの詳細も含めたリストを作成しておきましょう。できれば生前に、ご家族やご親族とともにリストの読み合わせを行うのをおすすめします。
ひとり暮らしなら、生前の引き渡しも検討すべき
ひとり暮らしの方の場合、生前の引き渡しも検討しましょう。万が一孤独死になってしまった場合、発見が遅れるとペットも危険にさらされる可能性が出てきます。
孤独死した場合、ご遺族やご友人、里親などがペット引き取れるのは遺体の検死後になるので、ペットにも甚大なストレスがかかるでしょう。また、発見が遅れた場合ペットも亡くなってしまう可能性もあります。
ご遺族やご友人の負担を和らげるためにも、できれば生前にペットの引き渡しを検討するのが望ましいのではないでしょうか。自力で引き渡し先が見つけられない場合は、保護団体へ相談しましょう。
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ペットを誰かに相続する時の注意点
ペットを誰かに相続し、育ててもらう場合には、以下の点に注意しましょう。対策を講じておかないと、深刻なトラブルに発展する恐れが出てきます。
- 贈与税・相続税がかかる可能性がある
- 相続放棄の心配
- ペットの治療費を考慮した相続を心がける
贈与税・相続税がかかる可能性がある
本来、犬や猫は動産なので相続財産ですが、一般的には相続税の課税対象にはなりにくいとされます。犬や猫は年齢を重ねると売買実例価格が低下する傾向がありますが、価値のあるペット(血統書つきなど)の場合は、課税対象財産になる可能性もあります。また、飼育費として現金などを渡していた場合は、課税対象として扱われるので注意が必要です。
ちなみに、ペットを譲ったことでかかる税金は「いつの時点で譲ったか」によって異なります。基本的に以下のように考えれば構いません。
被相続人が亡くなった後(遺贈・死因贈与) | 相続税 |
被相続人が亡くなる前(生前贈与) | 贈与税 |
ペットを譲ったことでどういう税金が発生するか、額はどうなるかは、個々の事例に応じた判断をしなくてはいけません。不安がある場合は、専門家に相談するのをおすすめします。
相続放棄の心配
ペットを相続してほしいと思い、遺言書にその旨を書くなど準備をしても、実際に引き取ってもらえるとは限りません。
マイナスの相続財産が多い場合など、さまざまな理由から相続放棄される可能性もあります。相続放棄された場合、財産の一切を引き継がないことになるため、ペットが行き場を失うかもしれません。
相続放棄の心配があるならば、生前からペットを譲っておく方が安心です。ご家族やご親族、お知り合いの方や保護団体を含めて譲り先を探し、実際の引き渡しまで実行しておきましょう。
ペットの治療費を考慮した相続を心がける
ペットの相続に当たっては、病気・けがをした場合の治療費も考慮しましょう。ペットは人間とは違い、公的医療保険が存在しません。そのため、病気・けがをした場合は、治療費が全額自己負担となります。ペット保険に入っていれば一部治療費が補償されますが、毎年保険料を払わなくてはいけません。
これらの費用は、飼育をする方が支払うことになるので、過度な負担を強いないよう、充分な対策が必要です。治療費やペット保険の保険料を賄えるだけの現金も含めて相続を検討しましょう。
高齢になってペットを飼うなら、しっかり備えをしよう
高齢になってからペットを飼う場合は、ご家族とも相談し、生前からしっかり備えましょう。備えがない状態で飼い主が亡くなったら、ご遺族が対応に困るうえ、誰もペットの面倒を見なくなるという悲しい事態も起こりえます。
以下の点に注意し、必要な対応を進めてください。
- できる限り生前にペットを譲る
- ペット保険に加入しておく
- 遺言書やペットの身上書を残す
できる限り生前にペットを譲る
相続放棄をされたり、ご自身が納得できないレベルで飼育されたりすることが心配なら、できる限り生前にペットを譲りましょう。万が一のことがあった後では、ご自身にとって不本意な譲り先にペットが渡ってしまうかもしれません。
話し合いをして納得がいく形で譲るためにも、生前にできることは済ませましょう。
ペット保険に加入しておく
ご自身の死後、ペットの治療費なども考慮してペット保険に加入しておくのもひとつの手段です。具体的な補償は商品や契約内容によっても異なりますが、病気やけがで治療を受けた際の費用の一部(全部のケースも)が補償されます。
また、保険会社によっては、かかりつけの動物病院で診察を受ける際に窓口精算をすることが可能です。保険証や専用ページを提示すれば、自己負担分のみの支払いで済みます。
ペットが高齢だったり、持病があったりなどの理由でペット保険への加入が難しい場合は、治療費を賄えるだけの現金を相続・遺贈できるよう調整する必要があるでしょう。
遺言書やペットの身上書を残す
ペットのために遺言書や身上書を残しておくのもおすすめです。万が一のことがあったとしても、ご遺族やお知り合いが迷わずに対応を進められます。かかりつけ動物病院にも相談し、アレルギーや持病など必要な情報を書面で残しておきましょう。
ペットのために財産を残したい、ペットを相続してくれる方に負担をかけたくないなら、しっかりと遺言書を残しておくべきです。「遺言書を作りたいけど、何から手をつけたら良いのかわからない」という方は、「セゾンの相続 遺言サポート」にお気軽にご相談ください。経験豊富な提携専門家のご紹介も可能ですので、スムーズな遺言作成をサポートいたします。
おわりに
ペットは人間ではないものの、立派な家族の一員である以上、万が一のことがあったとしても困らないようにするのが飼い主の務めです。特に、高齢になってからペットを飼う場合は「いつ、万が一のことが起きても不思議ではない」という自覚をもって準備するのをおすすめします。このコラムで紹介した方法のうち、ご自身の希望に沿った方法を選び、ご家族やご親族、お知り合いと相談しながら早めに準備を始めましょう。