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子どもがいじめられたらどうする?「SOS」を見逃さない親ができる対策とは?

子どもがいじめられたらどうする?「SOS」を見逃さない親ができる対策とは?
西岡 敏成 株式会社ジェイエスティー 顧問

執筆者

株式会社ジェイエスティー 顧問

西岡 敏成

企業の危機管理をサポートする株式会社ジェイエスティーの顧問。元兵庫県警警視長。警備・公安・刑事に従事。2002年日韓W杯警備を指揮後、姫路県警署長、須磨方面本部長を歴任。元関西国際大学人間科学部教授

2022年度(文部科学省発表)の小・中・高等学校及び特別支援学校におけるいじめの認知件数は、615,351件(前年度517,163件)であり、前年度に比べ19.0%増加しています。

いじめの認知件数を分析すると、

〇 小学校  500,562件

〇 中学校  97,937件

〇 高等学校 14,157件

〇 特別支援学校 2,695件

であり、小学校におけるいじめ認知件数が突出していることがわかります。また、自殺・不登校、いわゆる「重大事態」は705件認知され、中でも最悪・悲惨な結果である自殺は、368人(小学生8人・中学生109人・高校生251人)であり、年間ほぼ毎日、児童・生徒1人が自殺している現状が見えます。

自分の子どもがいじめに遭ってしまった時、親は不安・怒り・悲しみなどの感情が混在し、多くの親はうろたえてしまうでしょう。しかし、いじめは、現代の子育て中の親が抱える最も大きな心配事であり、悩みですが、うろたえてばかりはいられません。親にしかできないことがあるはずなのです。そこで増え続けるいじめ実態を踏まえ、親にしかできないいじめの発見・いじめられていた際の対策などを具体的に考えてみましょう。

子どもの行動の背後に隠されたサインに気づく重要性とは?

子どもの行動の背後に隠されたサインに気づく重要性とは?

親にしかできない最も大切なこととは、いじめの発見です。親だけがわかるいじめに悩む我が子のいじめの発見こそが「いじめから我が子を守る具体的対策」として最も大切だと認識してください。いじめに遭っている子どもの心の中を覗いてみましょう。

「自分が学校でいじめられていることを、友達の誰かが先生に言ってくれたらいいのになぁ。それがダメなら、無理なら、せめて大人の人に気づいてほしいんだ。」

などと、多くのいじめられている子どもたちは思っているのですが、なかなか口に出して言えないのです。だからこそ、いじめの事実が親に伝わらないのです。なぜ、事実を伝えられないのでしょうか。つまり、子どもはいじめられていることを認めたくないのです。認めてしまうことは、惨めでプライドが傷つく、でも親に言えば心配するだろうから言えないのです。では、手の打ちようがないと思わないでください。口では直接言葉に出せないが、いじめられているというサイン(いじめの兆候)を出しているのです。そのサインに気づくのは先生が発見すべきで、そうありたいものですが、先生任せ・学校任せだけではなく家庭における親の力が必要なのです。サインは学校でも、家庭でも出しているのです。家庭で出しているサインは親など周囲の大人にしか気づけないのです。それは、我が子を世界一愛している親の目や感覚こそが確かなのです。

いじめの特徴(理由なき遊び感覚)

いじめの特徴(理由なき遊び感覚)

第1に、発見が難しい。複数人で行い、その手口は巧妙化し、先生の不在時を狙う。また、友達関係から変化するなど発見が困難となっている。(知らぬは先生のみ)

第2に、罪悪感が薄い。いじめを悪いこととは感じておらず、皆がやっているし、何で俺だけなどと身勝手な言い訳をするなど、いじめられることが、どれほど辛く苦しい者なのか共感できないのです。

第3に、悲惨な結果になりやすい。いじめが継続すると傍観者効果で誰一人止めようとせず、結果、不登校・心の病・自殺など深刻・悲惨な事態を招くのです。

第4に、いじめがなくならない要因に、いじめに対する認識に相違がある。

ある成人有識者の研修で、こんな質問を投げかけた。「いじめは絶対してはいけないと思いますか?」主席者の100%がyesと回答しました。続けて質問「いじめられる側にも問題があると思いますか?」主席者の20%がyesと回答したのです。何故そう思うのですか?と問うと、「男なのにナヨナヨしている。場の空気が読めない。他人に迷惑をかけている。」などと答えたのです。絶対にダメと言いながら、いじめを容認する深層心理が存在するのです。自分の身を振り返って見ると、周りの人と違っているところや、足りないところが全くないと言えますか?周りに全く迷惑をかけないで生きてこられましたか?そんなことは絶対にないはずです。結局、いじめられる側に問題があると言うのは、どんな人に対しても、こじ付けて言うことができる後付けの言い訳に過ぎないのです。いじめられる側にも問題があるのは、全く間違った考え方なのです。

さらに、子どもたちの中には、いじめは遊びの範疇との考えがあるため、いじめを根絶できないのです。いじめは「犯罪である」ことを指導する必要があります。例えば、殴る・蹴る(暴行罪)、暴行した結果ケガをした(傷害罪)、バカ・ブス・デブ(侮辱罪)、カツアゲ(恐喝罪)、お金を無理やり取り上げる(強盗罪)、学用品を盗る(窃盗罪)、ノート・教科書にいたずら書き(器物損壊罪)、土下座させる(強要罪)など、いじめ行為を一般社会で行えば犯罪を構成するのです。子どもだから、学校だからという理由では許されないことを、学校教育・家庭・地域の中で教える必要があるのです。暴行・傷害・窃盗などの被害を認知しながら、これらの犯罪を見逃すと他の犯罪の根幹となることから、状況によっては早期に警察・児童相談所に相談すべきと考えます。

学校教育法に規定する「教育的配慮」を過剰に優先し、当局への相談・通報を躊躇すれば、現実から目をそらした甘い対応・事なかれ主義だとの批判を受ける恐れがあります。いじめの悪質化・陰湿化等を助長することがないよう切に願います。

いじめの初期兆候と細かい変化の気づき

いじめの初期兆候と細かい変化の気づき

過去に繰り返されてきた悲しい事件が教訓となり、その教訓の調査・分析から、子どもがいじめられているかどうか発見できるポイントを挙げてみましょう。文部科学省は「いじめのサイン発見シート」を作成・公表しています。いじめに気づいてあげるための「発見チェック項目」を10項目にまとめましたので、活用してください。

【発見チェック項目】

① 小学校への登校時に頭痛や腹痛など身体の不調を訴え、登校することをたびたび渋るようになる。

② 理由のはっきりしない衣服の汚れや破れなどが見られることがある。

③ 理由のはっきりしないあざや傷(殴られたり蹴られたと思われる痕跡)がある。

④ 子どもの持ち物である学用品や所持品がなくなったり、破損されたりしている。

⑤ 自宅に帰ったあとよく外出していたのに、外に出ることを避けるようになった。               

⑥ 部屋に閉じこもりがちになる。

⑦ 家族との会話が減ったり、学校の話題を意図的に避ける。

⑧ いじめの話になると、激しいほどに強く否定する。

⑨ 仲の良かった友達との交流が極端に減り、そんな友達からの電話にも出たがらなくなる。

⑩ 貯めていたお金などの使い方が荒く、無断で家にあるお金を持ち出すようになる。

以上ですが、該当する項目にチェックを入れてください。

10項目について説明します。

①については、いじめられている子どもは、当然、学校に行きたくない。嫌がらせをされたり、暴力を振るわれることが怖くて学校に行きたくない、行けない子どもは多い。いじめと不登校が密接に関係あるのは当然といえるでしょう。

②・③・④については、親が観察していれば、はっきりわかる変化です。衣服が異常に汚れたり破れたり、手足にあざや傷が見られたら、冷静に「どうしたの?」と尋ねてください。親が納得できるような理由を言えればいいのですが、はっきり言えなかったり、納得できない理由であれば、充分に注意が必要です。

⑤・⑥・⑦・⑧については、家庭生活での変化です。勉強があまり得意でない子どもであっても、仲の良い友達と一緒に遊べる学校は、子どもにとっては本当に楽しい場所なのです。そんな学校のことを話したがらない⑦・⑧が同時に見られたなら、要注意です。

⑨については、友達関係の変化です。

友達からの電話や誘いに出たがらないのは、きっと特別な理由・事情があるはずです。だからといって、仲が良い子がいじめているとは限りません。つまり、あなたのお子さんが、いつも悪いグループに囲まれているため、仲の良い子に近づけなくなっているのかもしれないのです。

⑩については、悪い友達やグループに金銭を要求(たかられて)いる可能性がありますので、金銭管理に気をつけて見守ってあげてください。

以上、個別の項目について説明しましたが、10項目のうち4項目以上該当すれば、お子さんがいじめを受けている可能性が高いと考えられます。

そこで親としては「いじめを受けているようだ」「何だか変だ」と感じられたら、本人から話を聞くことになりますが、話を聞く際に注意すべきことや対応要領については、以下で説明します。

対応が後手に回らないためにできること

対応が後手に回らないためにできること

我が子がいじめを受けていることに気づいたら、早期に、迅速な対応が求められます。対応で重要なのが、「初動対応」と「危機対応」です。

⑴初期対応

初期対応が、いじめ対応を大きく左右すると認識してください。火災現場で初期消火に不備があれば、被害は拡大し、大切な財産を焼失するばかりか、最悪、尊い命を失う結果を招きます。いじめが発覚したときには、すでにかなりいじめが進行していると判断されます。精神的、身体的に大きなダメージを受けているでしょうから、早期にいじめ行為を停止させなければなりません。

⑵初期対応3点

初期対応の3点とは、〇我が子への対応〇学校への対応〇教育委員会への対応です。初期対応の1つ目は我が子への対応です。

我が子への対応

事実関係の聞き取りをすること

時間をかけ、リラックスできる環境を整えることを心がけることです。親に心配かけたくない、いじめられていることを他人に知られたくないと思っている気持ちを尊重してあげることが大切なのです。質問攻め・詰問方式は絶対に避けてください。子どもは心を閉ざしてしまいます。お子さんが一番心を開くことができる人が聞くことです。父母、祖父母又は兄弟姉妹などそれぞれのご家庭の事情によります。まず、辛かった気持ちを丁寧に受け止めて、事実関係を聞いてあげてください。この段階での登校は無理にさせず、休ませたいものです。

自己肯定感情を回復させること

いじめで相当なダメージを受けている子どもは、いじめを受けるような人間なんだ、価値のない人間なんだと自己否定をし、自信喪失となります。よって、いじめをするほうが間違っているんだよ、何も悪くないんだよと伝えてください。人間の尊厳は何人も侵すことなど許されないのです。親にとってかけがえのない存在であり、温かく、優しく、熱く語ってあげてほしいのです。

学校への復帰を急がないこと

いじめが継続している状態で復帰などさせてはいけません。いじめている子どもの反省と謝罪が行われることが望ましく、かつ子どもが最も頼りにする先生方が守ってくれるという安心感ができて、はじめて復帰が叶うのです。決して焦ってはいけません。

学校への対応

我が子から聞き取ったいじめの内容を、まず、担任の先生に状況を伝達し、いじめに関する調査を依頼・要請します。また、学年主任等にも連絡する旨を合わせて伝えることです。これは学校全体で取り組んでもらうためです。

しかし、担任が対応してくれない、または対応に納得できない場合は、両親又は信頼できる第三者の同席のうえ、学校訪問し校長先生等管理職に相談してください。これは、いじめ防止対策推進法に基づく事実確認・緊急会議等に導くためです。

では、学校への対応の担任への対応は前述のとおりですが、何故、担任教諭、学年主任、生徒指導主事をも巻き込むのかを説明します。

これは、過去の教訓があります。担任の先生が、保護者からの訴えを重く受け止め、迅速に対応する場合と、大したことはないと判断し、対応を怠った場合がありました。後者の場合、対応が後手後手にまわり、悲惨な事態を招いた事例が全国的に発生したのです。

また、学校が保護者の訴えを学校全体の問題として受け止め、組織的に迅速対応する場合と、担当者が抱え込んでしまい、他の先生に相談しないで対応が遅れてしまった場合もあったからです。ですから、学校への連絡は複数の先生(担任、学年主任、生徒指導主事)にするほうが保護者にとっても学校にとっても良いことなのです。

通常、朝小学校に連絡・相談すれば、放課後あるいは遅くても次の朝には何らかの連絡があります。学校がしっかり対応してくれる場合は、連携を密にしながら、協力して対応し、我が子が元気に学校に通えるように、問題の解決をお願いすることです。ところが、現状のいじめは一筋縄ではいかないのです。完全解決に至るまでは、相当な時間を要すると覚悟する必要があります。何れにしろ、この初期対応を迅速・的確に実施することが、解決への一番の近道だと判断します

教育委員会への対応

校長先生等の管理職に連絡・相談したにもかかわらず、誠意ある対応をしてくれない、または対応に納得できない場合は、小学校を管轄する教育委員会に信頼できる関係者と複数で直接訪問し、小学校の対応事実を、時系列に経過をまとめて、順を追って説明することです。その際、どこが納得できないのか、どのように対応してほしいのかを具体的に伝えていただきたいのです。

危機対応

危機対応

「初期対応」を迅速・的確に行っても、解決の見通しがない場合は、関係機関の力を総動員して対応するのが「危機対応」です。

第1は、弁護士への依頼です。

大津市中2いじめ自殺事件の場合、最後は弁護士が裁判を起こしたことで報道機関が取り上げ、真相が判明しました。最悪の事態を回避するためには、弁護士に支援要請することをおすすめします。

弁護士への支援要請のメリットは、依頼者の話をじっくり聞いてもらえ、どうすれば良いかのアドバイスや、依頼者の代理人となり相手と交渉してもらえる。さらに、必要な場合は訴訟を提起してもらえるというメリットがあるが、問題もあるのです。それには、弁護士費用等がかなり必要です。費用面が克服できるなら弁護士に依頼することが危機対応の第1です。

第2は、関係機関への依頼です。

すべての人が弁護士に依頼できるわけではないため、関係機関に依頼することになります。関係機関とは、「警察」及び「児童相談所」です。管轄警察署の「生活安全課」が少年のさまざまな問題を担当していますので、電話か直接訪問して相談してください。警察署の対応が良好でない場合は、警察本部に設置された「少年相談窓口」に電話相談することをおすすめします。

次に「児童相談所」です。児童相談所は虐待対応だけでなく、いじめは「心と身体への暴力」「心への虐待」として対応してもらえるため、電話か直接訪問して相談することをおすすめします。

おわりに

おわりに

いじめは、自分がまるでモノや人形、奴隷のように扱われ、無視や死ねなどの言葉で、今ここにいること自体が認められなかったりすることは身体の痛みやお金の損とは比べ物にならないほど、心が深く傷つくのです。そのような場所では、毎朝登校するときの重たい気持ちで、安心した毎日を送ることができない。やがて、学校に行けなくなる。その子の学校に通うという人生の大事な時期をいじめは奪うのです。ましてや、人生を学ぶ場所で命が奪われてしまうことが、絶対にあってならないのです。小学生のいじめであっても発見が遅れれば何が起こるかわからないことを、保護者・教育関係者・関係機関及び地域住民などは再認識するとともに、情報共有と相互連携を強化し、組織総合力を発揮して対応することが求められます。

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