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お雑煮研究家に聞く!地方ごとの違いを楽しむお雑煮の魅力

お雑煮研究家に聞く!地方ごとの違いを楽しむお雑煮の魅力
粕谷 浩子

監修者

(株)お雑煮やさん代表

粕谷 浩子

(株)お雑煮やさん代表。雑煮に魅力を感じ、日本各地の雑煮事情を調査。住まいも1年ごとに移りながら現地に足を運び、地元の人に教えてもらいながら情報収集を続けている。

お正月の料理でお馴染みのお雑煮。実は、日本各地でその味や具材が異なることをご存知ですか?

お雑煮研究家の粕谷さんによると、市町村単位ではなく、地域ごとに特色あるお雑煮が存在しているそうです。お雑煮の違いを知ることでさらにお正月の食卓が楽しくなります。本記事では、地域ごとのお雑煮の違いを紹介しながら、その楽しみ方をお伝えします。

お正月の定番!お雑煮はなぜ地域ごとに違いがあるの?

お正月の定番!お雑煮はなぜ地域ごとに違いがあるの?

日本の正月を彩る定番料理、お雑煮。実は、地域によって味や具材が全く違うことをご存知ですか?なぜこんなに多種多様なのでしょうか。

お雑煮は、日本のお正月に欠かせない伝統料理で、その起源は古く、お雑煮の歴史は平安時代にさかのぼります。元々は正月に食べるものではなく、公家が食べる高級料理でした。室町時代には、武家が饗応料理としてお雑煮を取り入れ、江戸時代になって年間で一番のハレの日の正月料理として一般庶民にも広まりました。長い歴史を経て、地域や家庭ごとのスタイルが受け継がれ、現在では各地で独自の味わいが楽しめるお正月料理として親しまれています。

地域によってこんなに違う、日本各地のお雑煮文化

地域によってこんなに違う、日本各地のお雑煮文化

お雑煮は全国各地で食べられていますが、地域によってその姿は実にさまざまです。同じ「お雑煮」という名前でも、地域によって出汁、味付け、具材、そして餅の形までが異なり、その土地の文化や風土が色濃く反映されています。

ここからは、全国各地のお雑煮を食べ歩いてきた雑煮研究家の粕谷さんに、日本各地のお雑煮文化の特徴についてお話をうかがいます。

出汁

お雑煮の出汁は、地域によって実に多様です。

関東地方は、鰹節や昆布で取った出汁に醤油を加えた、すっきりとした味わいが特徴です。また、関西地方では、精進ということで、昆布出汁やどんこ出汁を使い、魚の出汁を使わないところもみられます。地域によっては、焼き海老、焼き鮎、鶏ガラ、煮干し、するめなど、その土地で手に入る食材を使った出汁が使われます。

宮城では焼きハゼ出汁、鹿児島では焼き海老出汁、島根や愛媛の一部では焼きアユの出汁など、お正月というハレの日の料理ならではの特別なお出汁が登場します。

味付け

お雑煮の味付けは、大きく分けて醤油ベースと味噌ベースの2種類に分けられます。

東日本、特に関東地方で多く見られるのが、鰹節や昆布で取った出汁に醤油を加えたすっきりとした味付けです。一方、西日本、特に関西地方では、白味噌や赤味噌を使い、コクのある味付けのお雑煮が多く食べられています。

具材

お雑煮の具材は、その地域で手に入る食材を最大限に活用しています。

山々に囲まれた地域では、山菜、きのこなど、山の幸が豊富です。これらの山の恵みをたっぷりとお雑煮に盛り込むことで、山の息吹を感じられるような風味豊かな一椀になります。

一方、海に面した地域では、新鮮な魚介類が豊富です。鯛や海老、あさりなど、海の幸をふんだんに使ったお雑煮は、海の香りが広がる、贅沢な一椀です。

広大な平野が広がる内陸部では、米や野菜、根菜類などの農産物が豊富です。大根、人参、里芋など、大地の恵みをたっぷり味わえる、滋味深いお雑煮が特徴です。

その地域の特産品を活かしながらも、お正月という年に一度の贅沢として、遠方のものや、希少価値の高いものを取り入れることもあります。

餅の形

お雑煮のお餅の形は、地域によって丸餅と角餅に分かれることが多く、「西は丸餅・東は角餅」というように大まかに分けられます。そして、その境界線は、岐阜県の関ヶ原あたりといわれています。

関ヶ原が境目になった理由は、歴史的な背景や地理的な条件など、さまざまな要因が考えられます。昔は、交通手段が限られ、人々の移動は限定的でした。そのため、地域ごとに独自の食文化が育まれ、その境界線が形成されました。山脈や河川など、地理的な条件も食文化の分岐点になったと考えられています。

地域ごとの違いを徹底解説!エリア別の特徴

地域ごとの違いを徹底解説!エリア別の特徴

お雑煮は、地域ごとに具材や味付け、餅の形が異なる点が特徴です。ここからは各エリアでよく食べられている代表的なお雑煮をご紹介します。日本各地で進化したお雑煮文化を詳しく見てみましょう。

北海道のお雑煮:沿岸部ではクジラ雑煮、内陸はさまざまな雑煮が交錯

北海道のニシン漁が盛んな海沿い地域では、クジラ雑煮が食べられています。クジラは、にしんの大漁を願う縁起食だったからです。皮クジラからしみ出す脂の風味とコリっとした食感、そして、冬に備えて備蓄してあったフキやゼンマイ、タケノコなどの山菜と豆腐など具沢山のお雑煮です。

北海道は、明治時代以降、日本各地から入植者が集まり開拓が進められました。入植者たちは、それぞれ故郷の食文化を持ち込んでおり、それが北海道のお雑煮にも反映されています。ただし、北海道で手に入らない食材も多く、たとえば、富山からの入植者が作るお雑煮では、本来ブリを使うところを、カレイに変えるなど、当時入手可能な食材に合わせて変化しています。それが子孫へと受け継がれて北海道独自のお雑煮となっているのです。北海道はさまざまな地域からの入植者が隣り合わせで住んでいましたから、香川から、石川から、山形から、と入植者の家族の歴史が交錯しています。日本全国の雑煮が入り混じっているのが北海道の雑煮の特徴でもあります。

東北地方のお雑煮:豪華食材と地域性が光る

東北地方のお雑煮は、地域によって大きな違いが見られます。

岩手県の三陸では、高級食材であるアワビを贅沢に使用し、海の幸の旨みを存分に味わえるお雑煮です。宮城県では、焼きハゼを出汁として使用し、お椀に盛り付けた豪快な見た目が食欲をそそります。秋田県では、比内地鶏の旨みが凝縮されたスープが絶品。比内地鶏の肉質の歯ごたえと、スープの奥深い味わいが楽しめます。共通していることは、どの県も全体的に具材が多いことです。

野菜の切り方にも特徴があり、宮城県では、大根や人参を拍子切り(粗い千切り)にし、大晦日のうちに湯がいて冷凍した「引き菜」を雑煮に使用します。凍み野菜にして雑煮に使うのです。東北地方全般的に、野菜をたくさん入れる地域が多いです。また、凍み豆腐を使用する地域も多いです。

関東地方のお雑煮:シンプルで上品なすまし仕立て

関東地方のお雑煮は、シンプルで上品なすまし汁がベース。

「福を取り入れる」という意味合いで縁起物として使われる鶏肉や旬野菜の小松菜、しいたけなど、定番の具材をバランス良く使い、餅は焼いた角餅が主流です。千葉県では、地元産の「はば海苔」を加えることで、磯の香りがアクセントになり、風味豊かなお雑煮に仕上がります。

関東全域で多いのは、かつお出汁の醤油ベースで、鶏肉と青菜が使われているお雑煮です。東京都の伝統的な雑煮で、菜鶏雑煮(名取り雑煮)、江戸雑煮とも呼ばれます。地域によっては、鶏肉を使わず大根や人参、里芋、油揚げなどが食材に使われていることもあります。

中部地方のお雑煮:かつおだしの旨味と「もち菜」

中部地方のお雑煮は、戦国時代の影響を受け継いでいるという説があります。白い餅を焼くことが「城が焼ける」=「縁起が悪い」とされ、名古屋では焼き餅ではなく煮た餅が主流になったといわれています。

名古屋のお雑煮は、角餅と餅菜だけのいたってシンプルな雑煮で、かつおだしで煮込みます。赤味噌文化が強い地域ですが、雑煮には味噌は使わず醤油で仕上げます。「みそをつけない」(しくじらない)という縁起をかついでいるのです。餅菜は、正月に食べられる伝統野菜で、小松菜よりも柔らかく、甘みがあるのが特徴です。地域の食材がしっかりと生かされています。

東海地域は、餅は焼かずに切り餅を煮ます。岐阜では、お雑煮に砂糖を加えて食べるところもありますし、豆腐を三角に切って入れるところもあります。しかし、全般的に、具材があまり入らないシンプルな雑煮が多いです。

近畿地方のお雑煮:白味噌仕立てと丸餅の組み合わせ

近畿地方では、京都の白味噌仕立てのお雑煮が有名です。

甘みのある白味噌をたっぷり使い、とろっとした汁、丸餅や里芋、大根など、シンプルな具材が調和し、優しい味わいが特徴です。野菜の切り方は、輪切りにするところが多く、これは家族円満、物事が丸く収まるように、という願いをかけているといわれています。大阪では、すまし汁のお雑煮もみられますが、基本的には白味噌仕立てが主流です。

大阪では、元旦に白味噌、翌日にはすまし汁にするなど、日によって味を変える工夫も見られます。毎日同じものを食べ続けるのは飽きてしまうため、毎日異なる種類の雑煮を用意することで、「飽きない」と「商い」をかける、大阪の人ならではの縁起担ぎですね。

中国・四国地方のお雑煮:海の幸がたっぷり

中国・四国地方のお雑煮は、海の幸が豊富なのが特徴です。

広島県では、地元産の牡蠣をふんだんに使用した贅沢な雑煮が有名です。牡蠣は「福を呼ぶ」として縁起物とされ、丸餅や野菜とともに、薄口醤油で味付けされます。海の幸の旨みがたっぷりな、贅沢な一品です。香川県では、白味噌ベースの出汁に、あんこが入った餅を加えた独特の雑煮が食べられています。甘さとしょっぱさのバランスが絶妙で、江戸時代から続く伝統的な料理です。愛媛県の一部では、地元で捕れる鮎を使った出汁で煮込んだお雑煮が食べられています。鮎のあっさりとした旨みが、お餅や野菜の味を引き立てます。

山陰の鳥取島根では、小豆雑煮と呼ばれる、いわゆるぜんざいをお雑煮として食べている地域が広くあります。小豆はもともと祝い事にもよく使用されますし、「邪気を払う」ともいわれます。実は、山陰地域だけではなく、ぜんざいを雑煮として食べている地域は、全国的にも点々と多く見られるんですよ。

九州地方のお雑煮:魚介出汁と特産品が光る

九州地方のお雑煮は、鶏肉や根菜をベースに、地域特産の食材をプラスしたものが多く見られます。

九州のお雑煮で最も特徴的なのは、餅の形です。多くの地域で丸餅が使われ、「円満」を象徴しますが、鹿児島県のように角餅を使う地域もあります。出汁も地域によって特徴があり、福岡県の博多雑煮では、焼きあご(トビウオ)を使った上品な出汁が特徴です。また、熊本県ではするめや昆布を使った濃厚な出汁も見られます。地域によって異なる味わいが楽しめます。

沖縄では「お雑煮」という言葉はあまり馴染みがなく、代わりに「中味汁(なかみじる)」と呼ばれる独特の汁物が正月の食卓を彩ります。琉球王朝時代から続く伝統的な料理であり、家族や親族が集まる大切な日の象徴として、故郷の味として愛されています。

宮崎県の漁師町では、魚を焼いてほぐしたものを炒って加えるタイプの雑煮もあります。見た目には魚のカタチはないけれど、汁全体に広がるお魚の風味がたまらなく美味しいです。雑煮文化があるのは、鹿児島の奄美大島が南端になりますが、奄美では、かつて武家が行っていた本膳である「三献」の習慣が今も残っており、一の膳の赤椀にお餅が入った汁があります。正月のお雑煮の習慣が始まる前の饗応料理のカタチが南端に残っているというのも面白いですよね。

お雑煮やさん代表選、ユニークな全国のお雑煮4選

お雑煮やさん代表選、ユニークな全国のお雑煮4選

全国数々のお雑煮を知り尽くした、お雑煮やさんが教える、ユニークなお雑煮とは?全国各地から個性豊かなお雑煮を4つご紹介します。きっとあなたも食べたことのない、新しいお雑煮との出会いが待っています。

①山形県 ワラビくるみ雑煮

①山形県 ワラビくるみ雑煮
(提供:粕谷さん)

新潟県と山形の県境、鶴岡市関川地区ではくるみの雑煮が食べられています。この雑煮の最大の特徴は、なんといってもくるみの風味が加わるところです。地元産のくるみを丁寧にすりつぶし、水を加えて伸ばしたものを雑煮にのせて、溶かしながら食べます。乾燥ワラビの戻し汁の出汁で、ちょっと苦味のある汁にくるみの風味が加わり、香りとコクが生まれ食欲をそそります。具材は切り餅と戻したワラビだけ。シンプルながら、滋味豊かな味わいです。

②香川県 あんもち雑煮

②香川県 あんもち雑煮
(提供:粕谷さん)

あんもち雑煮のベースとなるのは、香川県の名産品である「讃岐白味噌」です。甘口の白味噌は、あんこの甘みと見事に調和し、まるで和風クリームシチューみたいな味です。あんもち雑煮の歴史は江戸時代まで遡ります。当時は砂糖(和三盆)が貴重品だったため、お正月など特別な日にだけ、甘いあんこをたっぷり入れたお餅を食べる習慣がありました。香川県では、この習慣が定着し、今日まで受け継がれてきたのです。具材は円満を願って全部丸く切り、あおさの磯の風味を加えるのが特徴でもあります。

③島根県 干し鮎出汁の雑煮

③島根県 干し鮎出汁の雑煮
(提供:粕谷さん)

島根県益田市の高津川沿いの漁師さんのご家庭に古くから伝わる雑煮です。夏の鮎漁の後、すぐに正月の雑煮のために焼き干し鮎を作るといいます。じっくり2日かけて、低温の炭で燻すように焼き干した鮎はお正月まで大切に保管しておくそうです。この焼き干し鮎の出汁がたまらなく美味しいのです。基本的に具はあまり入れず、春菊と彩りのためのかまぼこやユズが添えられます。特別なハレの日である正月のみに楽しめる味わいとして、鮎出汁があるのですね。晴れやかな気持ちになれるお出汁です。

④福岡県 筑前朝倉蒸し雑煮

④福岡県 筑前朝倉蒸し雑煮
(提供:粕谷さん)

見た目にもインパクト大な福岡県朝倉地域に伝わる「蒸し雑煮」は、その名の通り、蒸していただくユニークなお雑煮です。一般的なお雑煮を煮るのではなく、蒸すという調理法が特徴です。長崎から伝わった茶碗蒸し料理と、地元の食材や食文化が融合して生まれ、具材は、鶏肉、椎茸、筍など、茶碗蒸しによく使われるものに加え、お餅が入っているのが特徴です。だしは、鰹節や昆布で取った上品な味わいで、具材の旨味を引き出します。食材の旨みが凝縮され、口の中にふわっと広がるような食感が楽しめます。日本全国、さまざまなお雑煮がありますので、ぜひいろいろ食べ比べてみてくださいね。

まとめ:地域ごとの個性豊かなお雑煮を楽しもう

まとめ:地域ごとの個性豊かなお雑煮を楽しもう

お正月には欠かせないお雑煮。日本各地には、まだまだ多くの地域特有のお雑煮が存在します。次のお正月には、ご自身のふるさとや、行ってみたい地域の伝統的なお雑煮を味わってみてはいかがでしょうか。きっと、新しい発見があるはずです。お正月は、家族や親戚と集まって、それぞれの地域の伝統的なお雑煮を囲み、楽しい時間を過ごしましょう。

※本記事は公開時点の情報に基づき作成されています。記事公開後に制度などが変更される場合がありますので、それぞれホームページなどで最新情報をご確認ください。

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