みなさんは温泉に入る時「泉質」を気にしていますか?泉質とは、温泉に含まれる成分の種類や量によって決まるお湯の性質のことです。そして温泉の魅力のひとつは、その多様な泉質にあるといっても過言ではありません。同じ温泉でも、泉質によって肌触りや香り、そして体の温まり方が全く異なります。
今回はそんな温泉の泉質について、その種類や特徴、そしてそれぞれの効能まで詳しく解説していきます。泉質の違いを知って、あなたにぴったりの温泉を見つけてみませんか?
“温泉”の定義を知ろう
そもそも温泉と呼べるものにはどんな定義があるのでしょうか?
温泉とは簡単に言うと、地中から湧き出る温かいお湯のことです。ただ単に温かいだけでなく、いくつかの条件を満たす必要があります。
日本では、「温泉法」によって、温泉の定義が定められています。
- 温度: 摂氏25度以上
- 物質: 19種類の特定の物質(リチウムイオン、水素イオン、沃素イオンなど)のうち、いずれかひとつが一定量以上含まれている
温泉は、地下深くで水がマグマなどの熱源によって温められ、地表に向かって上昇して生まれます。この時、地下の岩石と触れ合うことで様々な成分が溶け込み、温泉独特の成分や温度を持つようになります。
参照元:温泉の定義 [温泉の保護と利用]
温泉入浴がもたらす健康への効果

温泉入浴は、古くから人々に親しまれてきた健康法です。温かいお湯にゆっくりと浸かることで、心身のリラックス効果だけでなく、さまざまな健康効果が期待できます。
温熱効果による血行促進や新陳代謝の向上、温泉成分による肌の改善、浮力効果による関節への負担軽減など、その効果は多岐にわたります。また、リラックス効果が高まり、ストレスの軽減や質の高い睡眠にもつながります。
「泉質」とは?

泉質とは、温泉の成分や性質を指し、温泉水に含まれる化学成分やその濃度、温度、pH(酸性・アルカリ性の度合い)などを総合的に表したものです。泉質は温泉ごとの特徴を表す重要な要素であり、その種類によって効能や肌触り、匂いなどが異なります。
そして、特別な成分を含んでいたり、ある一定以上の温度のお湯で、体の不調を改善したり、病気の治療に役立つ可能性がある温泉のことを「療養泉」といいます。環境省では、このような療養泉を10種類の泉質に分類して、それぞれに特徴的な効能を認めています。
療養に役立つ泉質は日本に10種類
療養泉は10種類の泉質に分けられており、それぞれの「適応症」が定められていますが、すべての泉質に共通する「一般的適応症」と泉質別に定められた「泉質別適応症」とがあります。
療養泉の一般的適応症(浴用)
- 筋肉又は関節の慢性的な痛み又はこわばり(関節リウマチ、変形性関節症、腰痛症、神経 痛、五十肩、打撲、捻挫などの慢性期)
- 運動麻痺における筋肉のこわばり
- 冷え性、末梢循環障害
- 胃腸機能の低下(胃がもたれる、腸にガスがたまるなど)
- 軽症高血圧
- 耐糖能異常(糖尿病)
- 軽い高コレステロール血症
- 軽い喘息又は肺気腫
- 痔の痛み
- 自律神経不安定症、ストレスによる諸症状(睡眠障害、うつ状態 など)
- 病後回復期
- 疲労回復、健康増進
次に泉質別の特徴とそれぞれに定められた「泉質別適応症」を見ていきましょう。
1.単純温泉
その名前から成分が「単純」な温泉と思われがちですが、含有成分の量が一定量に達していない温泉のことを「単純温泉」といいます。
単純温泉は成分が比較的マイルドで肌への刺激が少なく、自律神経を整え、ストレスや疲労、不眠症の改善に役立つとされています。赤ちゃんや敏感肌の方も安心して利用できる優しい泉質です。
<泉質別適応症>
浴用/自律神経不安定症、不眠症、うつ状態
2.塩化物泉
「塩化物泉」は海水に近い成分を持つため、塩辛いのが特徴です。入浴時には塩分が肌をパックのように覆い、体温低下を抑えて保温効果を持続させる効果があります。
また、この効果は冷え性や末梢循環障害の改善に役立ち、保湿作用で肌の乾燥も防いでくれます。塩分の殺菌作用により、傷や火傷の回復、飲用としては胃酸分泌を促し消化を助け、腸の蠕動運動を活性化し便通を改善する効果も期待できます。
<泉質別適応症>
浴用/きりきず、末梢循環障害、冷え性、うつ状態、皮膚乾燥症
飲用/萎縮性胃炎、便秘
3.炭酸水素温泉
主成分として炭酸水素イオンを多く含む温泉を指します。この泉質は皮膚の古い角質や皮脂をやさしく洗い流す働きがあり、入浴後には肌がつるつるになることから「美肌の湯」として親しまれています。
また、肌の汚れを落とすだけでなく、毛細血管を拡張して血行を促進する効果もあり、冷え性や肩こり、筋肉痛の緩和に役立ちます。さらに、飲用すると胃の働きを整え、消化を助ける作用があります。
弱アルカリ性の炭酸水素塩泉は特に入浴後の保湿効果が高く、肌をしっとりさせる点も人気です。心身のリフレッシュや美容効果を求める方に適した温泉といえるでしょう。
<泉質別適応症>
浴用/きりきず、末梢循環障害、冷え性、皮膚乾燥症
飲用/胃十二指腸潰瘍、逆流性食道炎、耐糖能異常(糖尿病)、高尿酸血症(痛風)
4.硫酸塩泉
血行を促進し、動脈硬化や高血圧の改善に役立つとされているのが「硫酸塩泉」です。成分に含まれる硫酸塩には肌の表面を引き締める収れん作用や、傷の治癒を助ける働きがあるため、「傷の湯」としても知られています。
さらに飲用することで便秘の解消や胆汁分泌の促進を助け、肝臓や胆のうの働きを整える効果も期待されます。
<泉質別適応症>
浴用/きりきず、末梢循環障害、冷え性、うつ状態、皮膚乾燥症 ※塩化物泉と同じ
飲用/胆道系機能障害、高コレステロール血症、便秘
5.二酸化炭素泉
「二酸化炭素泉」は、温泉水1kg中に遊離二酸化炭素(CO2)を1,000mg以上含む温泉で、「泡の湯」とも呼ばれます。泉温は低めの35℃前後で、最初はひんやりしますが、炭酸ガスが皮膚に吸収されると血管が拡張し、体がじわじわと温まります。この特性から「心臓の湯」としても知られ、血行促進により傷の治癒や筋肉痛の緩和、冷え性の改善、自律神経の安定に効果的です。
また、飲用すれば胃腸を刺激し、消化を助けます。炭酸の効果を最大限に楽しむには「源泉かけ流し」がおすすめです。
<泉質別適応症>
浴用/きりきず、末梢循環障害、冷え性、自律神経不安定症
飲用/胃腸機能低下
6.含鉄泉
「含鉄泉」とは、その名の通り、鉄分を豊富に含んでいる温泉のことで、湧き出したばかりの時は無色透明ですが、空気に触れると鉄が酸化し、茶褐色に変化することが特徴です。
含鉄泉は「婦人の湯」とも呼ばれ、貧血、更年期障害、月経障害、冷え性など、女性に多い症状に効果があるとされています。皮膚からの鉄分吸収はごくわずかなため、飲用すると鉄欠乏性貧血に効果が期待できます。ただし飲用できる場所は限られているので、必ず事前に確認をしてください。
<泉質別適応症>
飲用/鉄欠乏性貧血
7.酸性泉
「酸性泉」は、温泉水中に水素イオンを多く含む強い酸性の温泉で、殺菌力が非常に高く、皮膚トラブル全般の改善が期待できることから「皮膚病の湯」と呼ばれます。皮膚の細菌やウイルスを抑制し、アトピー性皮膚炎や水虫、などの皮膚感染症にも効果的です。
注意点として、酸性泉は刺激が強いため、肌の弱い人には不向きで、「湯あたり」しやすい泉質です。そのため、長時間の入浴は避け、入浴後はシャワーで温泉成分を洗い流すことが望ましいでしょう。
<泉質別適応症>
浴用/アトピー性皮膚炎、尋常性乾癬、耐糖能異常(糖尿病)、表皮化膿症
8.含よう素泉
2014年の「鉱泉分析法指針」の改定により新しく誕生した泉質で、その名の通り、ヨードチンキやうがい薬に使われる「よう素」という成分を多く含んでいます。よう素は強力な殺菌作用を持つため、皮膚の殺菌や消毒に効果が期待できます。飲用の場合、一部の研究では、コレステロール値を下げる効果が報告されています。ただし、よう素を多く含むため、甲状腺機能の病気がある方は注意が必要です。
<泉質別適応症>
飲用/高コレステロール血症
9.硫黄泉
「硫黄泉」とは、温泉水1kg中に、総硫黄と呼ばれる物質が2mg以上含まれているものを指します。硫化水素という成分によってゆで卵のような独特のにおいがあり、無色透明のものから、乳白色、緑色、青色など、様々な色合いがあるのが特徴です。殺菌作用が高く、皮膚病やアトピー性皮膚炎などに効果が期待できます。
また、温熱効果によって血行が促進され、冷え性やリウマチの改善にも役立つといわれています。「酸性泉」と同じく刺激が強い泉質なので、肌の弱い方や高齢者には注意が必要です。
<主な効能>
浴用/アトピー性皮膚炎、尋常性乾癬、慢性湿疹、表皮化膿症(硫化水素型については、末梢循環障害を加える)
飲用/耐糖能異常(糖尿病)、高コレステロール血症
10.放射能泉
ラドンやトロンを一定量以上含む温泉で「ラジウム泉」とも呼ばれます。温泉水が湧き出る過程で、放射性物質であるウランやトリウムを含む岩石を通過することで、ラジウムやラドンが溶け込んで湧出します。ラドンやトロンは生体活性作用(イオン化作用)が強く、体内に取り込まれることで血液や細胞に働きかけ、新陳代謝を促進し、神経痛などの症状改善に効果があるとされています。
また、飲泉では痛風、糖尿病、リウマチ、神経痛、婦人病や高血圧などの改善にも役立つといわれています。
浴用/高尿酸血症(痛風)、関節リウマチ、強直性脊椎炎など
温泉の泉質は、単一の成分ではなく、複数の成分が複雑に組み合わさってできています。この多様な組み合わせが、温泉の個性豊かな世界を作り出しているといえるでしょう。
あの人気温泉地はどんな泉質が楽しめる?

温泉に入りたいと思った時、全国各地にある有名な温泉地を思い浮かべ、一度は訪れてみたいと考える方も多いと思いのではないでしょうか?温泉地の人気ランキングで毎年上位を占める人気の温泉地の泉質を改めて知ることで、自分の症状や気分に合った場所選びができるかもしれません。
登別温泉(北海道)

登別温泉は、北海道を代表する温泉地のひとつで、「温泉のデパート」と呼ばれるほど、豊富な種類と湯量の温泉が魅力です。約1万年前の火山活動によって生まれた地獄谷から、様々な泉質の温泉が湧き出ています。
硫黄の香りが漂う地獄谷や、間欠泉が噴き出す泉源公園など、温泉だけでなく、大自然のダイナミックな姿も楽しめます。温泉街には、歴史ある和風旅館から現代的なホテルまで、様々な宿泊施設があり、湯めぐりを楽しむことができます。札幌や函館からのアクセスも良く、北海道旅行の際に立ち寄りやすいのも魅力です。
<登別温泉で楽しめる泉質>
硫黄泉、塩化物泉、硫酸塩泉、含鉄泉、酸性泉、炭酸水素塩泉、放射能泉、単純温泉
草津温泉(群馬県)

1000年以上の歴史を持つ日本を代表する温泉地で、「日本三名泉」のひとつとしても知られる草津温泉は、日本一の自然湧出量を誇り、なんと毎分32,300リットル以上の温泉が湧き出ています。温泉地のシンボルである「湯畑」はその象徴であり、常に多くの観光客で賑わう人気スポットです。
そして、草津温泉といえば「恋の病以外効かぬ病はない」と古くから伝わるほど、さまざまな効能がある泉質が何よりの魅力です。そして強い酸性度があることでも有名で、pH2.1という数値は、日本の温泉の中でもトップクラスの酸性度を誇ります。この高い酸性度が、草津温泉の独特の効能を生み出しているのです。
<草津温泉で楽しめる泉質>
酸性泉・硫黄泉・硫酸塩泉・塩化物泉
箱根温泉(神奈川県)

古くから「箱根七湯」を中心に発展し、現在では「箱根十七湯」とも呼ばれるほど多くの温泉地が存在します。首都圏からのアクセスが良く、四季折々の自然景観とともに温泉を楽しめることから、国内外の観光客に人気です。
箱根は地域ごとに温泉の泉質や雰囲気が異なり、湯本、強羅、仙石原、芦ノ湖周辺など、それぞれに個性があり、温泉巡りを楽しむことができます。なかでも強羅温泉は「5色のパステルカラー温泉」として知られており、目で見て楽しむこともできます。
<箱根温泉で楽しめる泉質>
単純温泉、硫黄泉、塩化物泉、酸性泉、炭酸水素塩泉、硫酸塩泉
有馬温泉(兵庫県)

有馬温泉は兵庫県神戸市北区に位置する、日本三古泉・三名泉のひとつで、飛鳥時代に舒明天皇が訪れた記録があり、豊臣秀吉も愛した歴史的温泉地として知られています。
有馬温泉といえば、特徴的な「金泉」と「銀泉」の2種類の温泉が楽しめることで有名です。
金線は鉄分を多く含み、空気に触れると茶褐色に変化します。塩分濃度も高く、保温効果が高いのが特徴で、冷え性、腰痛、筋肉痛、皮膚病などに効果的です。一方銀泉は、二酸化炭酸泉と放射能泉の混合で、さらりとしたお湯が特徴です。こちらは冷え性、高血圧、動脈硬化、神経痛などに効くとされているので、訪れた際は入り比べてみるのがおすすめです。
<有馬温泉で楽しめる泉質>
単純性温泉、二酸化炭素泉、炭酸水素塩泉、塩化物泉、硫酸塩泉、含鉄泉、放射能泉
道後温泉(愛媛県)

道後温泉は、古くから人々に親しまれてきた歴史ある温泉です。その特徴は、なんといっても日本最古の温泉といわれることではないでしょうか。神話の時代から湯治場として栄え、現在もその歴史的な面影を残しています。
なかでも道後温泉本館は明治27年に建設され、国の重要文化財に指定されています。
全国的にも珍しく、源泉そのものを加温や加水せずに使用しているのが特徴で、18本の源泉をブレンドし、42℃程度の入浴に適した温度で提供しています。すべての浴槽や蛇口において源泉かけ流しが実現されており、温泉効果を最大限に感じられます。
<道後温泉で楽しめる泉質>
単純温泉(アルカリ性単純泉)
まとめ:泉質を知って温泉選びを楽しもう

泉質によって効果や効能が異なり、自分の体調や目的に合った温泉を選ぶことで、より高いリラクゼーションや健康効果が期待できます。それぞれの泉質が持つ特性を知ることで、温泉の楽しみ方はより魅力的なものになるはずです。
また、周囲に広がる自然やその地に根付く文化や歴史などに触れられることも、温泉がより楽しくなる重要な要素です。次の温泉旅行ではぜひ泉質にも注目しながら、自分に最適な温泉を探してみてはいかがでしょうか。
※本記事は公開時点の情報に基づき作成されています。記事公開後に制度などが変更される場合がありますので、それぞれホームページなどで最新情報をご確認ください。