ストックオプションを導入する企業に勤務する方の中には、退職時にどうなるか気になっている方も多いのではないでしょうか。退職時に権利がなくなる場合には損をするので、ストックオプションの仕組みを正しく理解しておくことが大切です。
このコラムでは、ストックオプションの仕組み、退職時の扱い、権利行使のタイミングや注意点などを解説します。ストックオプションについて詳しく知りたい方は是非参考にしてください。
- ストックオプションとは、あらかじめ決められた価格で株式を取得できる権利で、数年後に価格が上昇すれば売却益を得ることができる
- 未上場企業の場合は株価の上昇によって大きな売却益が期待できるが、上場しなければ価値が付かない
- 各企業で仕組みが異なるが、退職後はストックオプションの権利を行使できないケースが多い
- 権利を行使する前に退職するとせっかくの利益を得るチャンスを失ってしまうため、退職前に仕組みを理解してから退職することが大切
ストックオプションとは?仕組みやメリット・デメリット
ストックオプションとは、株式会社に勤務している従業員や取締役といった社内向けに発行する新株予約権のことです。あらかじめ決められた期間内であれば、決められた価格で会社が発行する株式を取得できます。
具体的にストックオプションがどのような仕組みなのか、どのようなメリット・デメリットがあるのか詳しく見ていきましょう。
ストックオプションの仕組み
ストックオプションのポイントは、決められた期間内に一定価格で株式を取得できるという点です。例えば、5年以内であれば会社が発行する株式を1株1,000円で1,000株まで購入できるとします。
4年後に会社の株価が3,000円になったタイミングで、ストックオプションの権利を上限いっぱいまで行使すると、1,000円×1,000株=100万円で購入でき、3,000円×1,000株=300万円で売却できるので大きな売却益が得られるでしょう。
一方、株価が下落して500円になった場合は権利を行使すると損をします。そのようなケースでは、権利を行使しないという選択も可能です。
ストックオプションのメリット
ストックオプションは、全ての株式会社が導入しているわけではありません。ストックオプションを導入する企業はどのようなメリットがあって導入しているのでしょうか。
ストックオプションを導入するメリットについて企業側と社員側から見ていきましょう。
企業側のメリット
企業側のメリットとして、以下の3つのメリットが挙げられます。
- 人件費を抑えつつ従業員にインセンティブを渡せる
- 主力社員の転職を防げる
- 優秀な人材の採用に役立つ
会社から従業員にインセンティブを渡す場合は、人件費の負担が大きくなります。しかし、ストックオプションを導入すると、株価が上昇すれば人件費の負担をかけずにインセンティブを渡せます。
ストックオプションは退職後に権利を行使できないケースが多いです。そのため、もったいないという理由から主力社員の転職を防ぐ効果が期待できるでしょう。
また、未上場のベンチャー企業でストックオプションを導入した場合は、上場後の大幅な価格上昇が期待できます。ストックオプションが魅力となって優秀な人材が集まりやすくなるでしょう。
社員側のメリット
社員側のメリットとして、以下の2つのメリットが挙げられます。
- 大きな損失のリスクがない
- 仕事の頑張り次第でストックオプションの価値向上につながる
ストックオプションの権利は、行使してもしなくてもどちらでも問題ありません。株価が下落しても権利を行使しなければ損をしないため、株式投資をする際のリスクを伴わない点が強みです。
また、企業の株価は、業績が向上すれば上昇するのが一般的です。頑張るほどストックオプションの価値が高まるので意欲を持って仕事に取り組めるでしょう。
ストックオプションのデメリット
メリットだけ見れば導入すべき制度のように感じられますが、何かデメリットはあるのでしょうか。
ストックオプションを導入するデメリットについて企業側と社員側から見ていきましょう。
企業側のデメリット
企業側のデメリットとして、以下の2つのデメリットが挙げられます。
- 業務が向上しないとストックオプションの価値がない
- 社員間でモチベーションの差が生まれる可能性がある
業績が向上して証券取引所に上場した、もしくは株価が上昇してようやくストックオプションに価値が生まれます。未上場のまま、株価が下落した場合、従業員のモチベーションが下がってしまいます。
また、ストックオプションの権利を持っている従業員と持っていない従業員が混在している場合は、モチベーションの差が生まれる可能性がある点に注意しましょう。
社員側のデメリット
社員側のデメリットとして、以下の3つのデメリットが挙げられます。
- 収益が株価に左右される
- ストックオプションで得た利益は課税対象
- ストックオプションの恩恵を受けられなくなるケースがある
ストックオプションの権利を行使して利益を得られるのは、証券取引所に上場して株価が上昇したケースです。未上場のまま、株価が下落した場合には利益を得られません。
ストックオプションの権利行使で得た利益は、一般的な株式投資と同様、譲渡所得税が課されます。また、会社を退職した場合はストックオプションの権利が失われる場合が多いので注意が必要です。
ストックオプションには税制優遇措置がある
ストックオプションの権利を行使する場合に税制上の優遇を受けられるかどうかは、ストックオプションが以下のいずれかに該当するかによって異なります。
- 税制適格ストックオプション
- 税制非適格ストックオプション
両者の違いについて詳しく解説していきます。
税制適格ストックオプション
税制適格ストックオプションとは、ストックオプションの権利を行使した時点では課税されず、株式売却によって利益を得た時点で課税されるストックオプションです。
購入時には税金が課税されませんが、売却時に利益が生じた場合には確定申告によって譲渡所得税を納めなくてはなりません。
税制適格ストックオプションとして認められるには、以下のような要件を満たす必要があります。
- 付与対象者が自社の取締役や執行役、従業員である
- 権利行使期間が付与決議後2年を経過した日から付与決議後10年を経過するまで
- 権利行使価格が年間1,200万円を超えない
上記以外にも厳しい条件が設けられているので注意が必要です。
税制非適格ストックオプション
税制非適格ストックオプションとは、税制優遇措置のないストックオプションです。権利を行使した時点での時価が権利行使価格を上回っていれば、その差額が給与所得として扱われるため、所得税が課されます。
また、売却時に売却益が生じた場合には、売却価格と権利行使時の時価との差額分が譲渡所得として課税されるため、税負担が大きくなる点に注意が必要です。
ストックオプションは退職後に行使できる?
退職する場合、ストックオプションの権利行使がどうなるのか気になる方も多いでしょう。退職後のストックオプションの権利行使がどうなるのかについて詳しく解説していきます。
退職後はストックオプションが失効するケースが多い
会社を辞めると、ストックオプションは失効するケースが多いです。その理由は、従業員のストックオプションは従来在職中の従業員のモチベーションを高めるための制度なので、退職後の権利行使を認める必要がないためです。
しかし、会社によっては退職から一定期間はストックオプションの権利行使を認めるといった条件を設けている場合があります。また、退職理由が任期満了や定年退職などの場合は、権利行使を認めるケースも多く、会社によって扱いが異なるので退職前に確認しておきましょう。
退職後にストックオプションが行使できるケースとは?
退職後に権利行使できるストックオプションとして、退職金型1円ストックオプションがあります。
退職金型1円ストックオプションとは、従業員が退職する場合の退職金を準備する目的で導入されるストックオプションです。
退職時の退職金を準備することが目的なので、退職後の一定期間は権利行使を認めています。
ストックオプションは退職前に行使しよう
ストックオプションは、退職後に権利行使できない可能性があることから、退職前に行使することをおすすめします。
どのタイミングで権利を行使すればよいのか、ストックオプション行使の流れと手続きなどについて詳しく見ていきましょう。
ストックオプションを行使するおすすめのタイミング
ストックオプションを行使するタイミングは決められていません。ご自身の好きなタイミングで権利を行使できます。しかし、タイミングによっては損をするので注意してください。
ストックオプションを行使するのは自社の株価が権利行使価格よりも高くなったときです。例えば、1株1,000円で権利行使できる場合、2,000円になったタイミングで売却するといった具合です。
ストックオプション行使の流れと手続き
ストックオプションを行使する際は、以下の流れで手続きを進めます。
- ストックオプション口座の開設
- 権利行使手続き
- 指定の銀行に権利行使代金の振り込み
- 株式がストックオプション口座に入庫
- 入庫処理翌日から売却可能
ストックオプションをスムーズに行使するためにも、流れを把握しておきましょう。
ストックオプション口座の開設
まず、証券会社などでストックオプション用の口座を開設します。証券会社によって必要な手続きが異なるので、証券会社に問い合わせてみましょう。
権利行使手続き
ストックオプションを発行する会社で権利行使手続きを行います。会社ごとに手続きに必要な書類が異なるのでどのような手続きが必要なのかを確認しておきましょう。
指定の銀行に権利行使代金の振り込み
自社株の購入に必要な権利行使代金を支払います。基本的にはストックオプションを発行する会社が指定する権利行使代金を口座に振り込みます。
株式がストックオプション口座に入庫
開設した証券会社のストックオプション用口座に株式が入庫されます。権利行使代金の振り込みから入庫までに数週間かかる場合があります。
入庫処理翌日から売却可能
入庫処理完了の翌日から株式を売却できます。口座の開設から売却の完了までは時間がかかるので、退職を予定している場合は逆算して早めに手続きを済ませましょう。
ストックオプション行使前に退職してしまったときの対処法
退職後も権利を行使できるという条件が付与されていない限り、退職後に権利を行使することは原則不可能です。
しかし、条件に「取締役会が承認した場合はこの限りではない」といった文言があれば、会社への貢献が大きい場合には特別に認められる可能性があります。
取締役会の承認に関する文言がある場合は、取締役会に上申すれば認められる可能性はありますが、可能性としては低い点に注意してください。
ストックオプションに関する3つの注意点
ストックオプションを導入する企業で働いている方は、権利行使の際に後悔しないためにも、以下の注意点を押さえておくことが大切です。
- 権利行使期間が決められている
- 行使時と売却時では株価が変動する可能性がある
- 退職後に行使できるか確認する
それぞれの注意点について詳しく見ていきましょう。
権利行使期間が決められている
ストックオプションの権利行使はいつでも自由にできるわけではありません。権利行使期間が事前に決められているため、その権利行使期間内に行使する必要があります。
権利行使の期間は、付与決議日後2年を経過した日から10年を経過する日までとなっていましたが、設立5年未満の非上場会社は権利行使の期間が15年を経過する日までに改正されました。
行使時と売却時では株価が変動する可能性がある
ストックオプションは権利を行使してからすぐ売却できるわけではありません。権利行使から株式を売却できるようになるまで2週間程度の期間を要する場合があります。
その間に株価が下落すると、想定通りの利益を得られない可能性があるので注意してください。
退職後に行使できるか確認する
権利行使の条件は会社ごとに違います。退職後も権利を行使できる場合は、権利行使時期を気にする必要はありません。
しかし、退職後の行使を認めていない会社が多いため、退職してから後悔しないためにも、退職後に権利行使できるかどうかを確認しておきましょう。
おわりに
ストックオプションを導入する企業に勤務している場合は、株価を割安で取得し、高値で売却できる可能性があるため、モチベーションが上がります。
しかし、ストックオプションは、在職中の従業員のモチベーションを向上させるためのものなので、退職後の権利行使が認められていない企業が多いです。
退職してから後悔しないためにも、権利行使の条件を事前に確認しておきましょう。