2020年5月から施行されている改正金融商品取引法で、「電子記録移転権利」としてST(セキュリティ・トークン)が追加されました。これにより、貴金属から宇宙開発事業にいたるまで、あらゆるモノや事業にスマホ1つで投資可能な仕組みが確立しつつあると、Hash DasH株式会社取締役の三好美佐子氏はいいます。今回は、デジタル証券の詳しい仕組みや未来の可能性をみていきましょう。
“デジタル証券”と“一般的な有価証券”の違い
デジタル証券とは、端的にいえば「ブロックチェーンを使って管理される有価証券」です。デジタル化された有価証券はST(セキュリティ・トークン)と呼ばれ、ブロックチェーンで管理されることになります。
株式や投資信託といった従来の有価証券は「証券保管振替機構(通称:ほふり)」が投資家の権利の発生や移転などを管理していますが、このほふりが行っている役割をブロックチェーンで実施すると「デジタル証券」と呼ばれるようになります。
有価証券の管理システムは「縁の下の力持ち」のような存在。そのため、多くの投資家からはあまり体感的な違いは感じられないかもしれません。
では、どのようにしてデジタル証券が誕生したのでしょうか?
ブロックチェーン技術はセキュリティに強い
通常の金融システムは、1つのサーバーにデータを保有し、各利用者がそのサーバーにアクセスする形で稼働します(中央集権型)。それに対して、ブロックチェーンは、ネットワークにつながったそれぞれの機器(ノード)がすべてのデータを持ちながら稼働する仕組みです(分散型台帳技術)。
ブロックチェーンの名の通り、取引履歴などのデータを箱(ブロック)にまとめて、それを鎖(チェーン)でつなぐように記録していくのです。
新しい取引が発生すると、そのデータがネットワーク上に置かれて、各参加者のノードに書き込まれ、ハッシュ化(暗号化)されたうえで保存されます。
この仕組みから生まれるメリットは、2点あります。
1.データの改ざんが極めて困難
ブロックチェーンでは、つながっている全ノードでデータの整合性を管理・監視しており、不整合があれば容易に発見されます。データを改ざんするには、全ブロックのデータを、しかも“ハッシュ値”を変更しなければなりません。技術的な難しさやコストから、改ざんがほぼ不可能な状況を作り出しています。
2.システム障害が起きにくい
従来のシステムでは、基幹サーバーがダウンするとすべての取引が停まってしまいます。それに対して、ブロックチェーンでは1つのノードがダウンしても、全体の運用や稼働を停めるには至りません。
また、ブロックチェーンには参加者の範囲によっていくつかの型があります。
暗号資産などが使う世界のどこからでもアクセスが可能な「パブリック型」ではなく、管理者が許可したノードだけが参加できる「コンソーシアム型」「プライベート型」が使われます。特に「プライベート型」はもっとも参加者が限定されており、プライバシーも確保される非常に安全性の高いものです。
デジタル証券が個人投資家にもたらす「3つ」のメリット
このように、デジタル証券は安定的に管理されるインフラであることがひとつのポイントですが、投資家目線では下記のように大きな3つのメリットがあります。
1.富裕層・プロ向け商品が一般投資家でも購入可能
大型不動産や航空機リース、そのほかユニークな事業に投資するファンドなど、従来は富裕層やプロ向けに限定されていた投資商品が小口化され、1口10万円からの購入が可能になりました。ブロックチェーンを使ったペーパーレス管理で事務コストが削減されたことから生まれたメリットです。
加えて、スマートフォン1つで売買ができる手軽さ、一定の換金性が付与された点も大きな進歩です。
2.名画、ワイン、ブランド牛…今まで手が出せなかった商品もチャレンジできる
デジタル証券は小口で換金性もあるため、リスク・リターンの大きい商品にも親和性があります。商品開発のポテンシャルが幅広く、不動産はもちろん、名画にワイン、ブランド牛、宝飾品・貴金属、宇宙開発などなど……夢のある事業の数々に小口から投資できる可能性を有しているのです。
3.“最高レベル”の投資家保護
デジタル証券は、投資家保護を主旨とする「金融商品取引法」で認められた商品です。厳しい基準を満たした財務基盤を持つ金融機関に限って取扱いが認められているほか、金融当局への届出が必要であり、上場企業と同じ定期的な情報開示が義務づけられることで高い透明性が維持されるなど、最高レベルの投資家保護が施されます。
このように、これまで一部の投資家しか手が出せなかったあらゆる投資対象に気軽にチャレンジできるのが、デジタル証券の魅力といえるでしょう。
デジタル証券の主戦場となっている「不動産」
2020年に誕生し3年目のデジタル証券は、いま不動産でコンスタントに資産を伸ばしています。ありきたりに感じるかもしれませんが、不動産デジタル証券ではREITの持つ2つの弱点が見事にカバーされています。
魅力的な物件の見える化
たくさんの不動産物件をパッケージにし、かつ入れ替えもあるREITと異なり、デジタル証券では1~3つの物件を持ち切るカタチになります。そのため現物不動産と同様に、個別物件の魅力に注目して投資ができ、不動産オーナーシップを感じることができます。
価格の安定性
REITの価格は、不動産投資でありながら株式市場の変動から強い影響を受けます。本来の不動産投資は建物がありテナントが居れば日々価値が変わるものではない安定投資です。デジタル証券は、鑑定評価額をもとにした価格での取引を行うため、本来の不動産価値を反映します。
投資対象不動産の種類はレジデンス(マンション)から、世界的に有名なファーストフードチェーンが使う物流施設、温泉旅館、ホテルなどに展開し、徐々にバリエーションを広げています。
不動産以外では社債がいくつか出ていますが、少し変わったところでは、ソニー銀行の投資用マンションローン債権を裏付け資産にしたデジタル証券も。1口=10万円からの投資で0.3%の利息を受け取ることができます。実質的にローンを借りるのも出すのも個人投資家となる構造がユニークですね。
投資が社会貢献・自身の健康管理にも寄与…デジタル証券のいまとこれから
日本のデジタル証券を取り巻く環境は、試験的な商品として不動産STを発売しながら、売買ができるプラットフォームを構築しているところです。
このビジネスについて、メガバンク(三菱UFJや三井住友など)やオンライン証券(SBI)、対面型証券会社(野村、大和など)、スタートアップ(Hash DasH)など、金融機関総動員で取り組んでおり、しかるべき時期がくれば、一気に大きな前進がみられるのではないかと期待されています。
越後湯沢の温泉宿…宿泊料金割引のトークンを付与
越後湯沢の温泉宿「湯けむりの宿 雪の花」に投資する不動産デジタル証券では、投資家にデジタル優待として宿泊料金が割引されるトークンを付与しました。自分が投資する(つまりいわばオーナーでもある)お宿にお得な価格で宿泊し、温泉にゆったり浸かる……温泉好きにはこたえられない醍醐味ではないでしょうか。
このように、デジタル証券には、投資収益を求めるだけでなく“ファン・サービス”的な施策も期待されています。これからどのようなものが出てくるか楽しみですね。
こういった新しい挑戦を皮切りに、デジタル証券は、高い投資家保護レベルや換金性を持ちながら、お金も心ももっと豊かになれる“ユニークなワクワク投資商品”が出てくるのではないかと期待されています。