一昔前は“富裕層の特権”だった不動産投資。しかし、近年ではいわゆる「サラリーマン大家」が増加の一途をたどっていると、FP Office株式会社の渥美功介FPはいいます。今回は、会社員が不動産投資を行うメリットをみていくとともに、年収750万円の会社員が実際に都内のワンルームマンションへ投資した場合の年間収支についてシミュレーションを行います。
いまや不動産投資はほとんどが「サラリーマン」
人生100年時代といわれる昨今、個々人の生き方や働き方は多様になりつつあります。こうしたなか、ライフプランに合わせた資産形成がより重要になっており、岸田政権も2023年を「資産所得倍増元年」と位置づけ、新NISAをはじめとした「貯蓄から投資へ」のシフトを促進しています。
では、「国がすすめているし、とりあえずNISAさえやっておけば将来安泰」なのでしょうか? いいえ、FPである筆者は、今後を見据えた資産形成の方法として「不動産投資」も組み入れることをおすすめします。読者のなかには「富裕層でもない会社員の自分に不動産投資なんてできるのか?」と思っている人もいるかもしれません。しかし近年、会社員が不動産投資を始めるケースが増えています。
いまや不動産投資は「会社員」が主流?
ひと昔前は、不動産投資といえば「地主や経営者、医師がやるもの」と認識されていました。
しかし、2019年に国土交通省が行った調査※によると、不動産投資経験者(2,530人)のうち、41.5%が会社員という結果に。不動産経営者は3.8%、オーナー経営者は4.3%、医師は0.7%となっています。
※「個人投資家への不動産投資に関するアンケート」(2019年7月25日~29日実施)。約2万人が回答。
2022年には、民間企業であるR&C株式会社が現物不動産投資について調査※を行っていますが、ここでも不動産投資を行っている方の属性は「会社員」が実に61.1%を占めていました。さらに、2023年10月に、筆者が売上規模80億円以上の不動産投資会社にヒアリングを行った結果、直近1~2年において不動産投資を行う会社員の割合は80~90%にのぼっているそうです。
※全国の18歳以上65歳以下の男女2万人を対象に、アイブリッジ株式会社の「Freeasy」を使ってインターネット上で調査したもの(2022年12月23日実施)。
これらのデータからわかることは、昔に比べ不動産投資を行う会社員の数が格段に増えているということです。
ではなぜ、会社員の資産形成の方法として不動産投資が選ばれているのでしょうか?
会社員が不動産投資をする「5つ」のメリット
会社員は不動産投資で主に5つのメリットを享受することができます。
定年後も継続的な収入を得られる
会社員が不動産投資を行うメリットとして、まずは「継続的な収入を得られる」という点があげられます。定年を迎えるなどして自分が働くことができない年齢になってからも、入居者さえいれば、継続的な収入(=いわゆる不労所得)が得られます。
副業ができなくても安心
不動産投資が事業的規模をこえなければ「副業」とはみなされないため、副業ができない会社員にとって特に有効です。
生命保険の代わりになる
投資用不動産を所有する際に加入する「団体信用生命保険(団信)」は、生命保険の代わりに活用することができます。そのため、不動産投資をすることによって保険を見直し、本来生命保険にかけていたコストを削減できる可能性があります。
節税効果がある
確定申告時に「減価償却」をすることで、購入費用を何年かに分けて費用計上することができ、課税所得の圧縮をし、いわゆる節税効果をもたせることが可能になります。
レバレッジ効果がある
不動産投資は、ローンを組むことによって「レバレッジ効果」もあります。レバレッジ効果とは、少ない資金で大きな利益をもたらすこと。たとえば自己資金300万円で3,000万のローンを組めた場合、3,300万円の資産を持てたことになるのです。
現金・株・不動産の「資産三分法」で資産が安定
また、「資産三分法」をご存知でしょうか。資産三分法とは、資産を「現金」「土地(不動産)」「株」の3つに分けて所有するという考え方のことです。値動きの異なる複数の資産を組み合わせることで、価格変動を緩和でき、安定した資産形成につなげることができます。
好景気時には、“株は緩やかな値上がりでも、不動産の値上がりが大きくなる”といったようにバランスを取ることが可能ですし、不景気時には、例えば株が下落した場合でも、その影響が不動産に波及するまでにはタイムラグがありますから、資産の下落を緩和する効果があります。
このように、“現金だけ”“株だけ”ではなく不動産で資産の内訳を増やすことによって、投資のリスク分散を図ることができるのです。
不動産投資って初心者でもできるの?
とはいえ、冒頭で述べたNISA改正などによって、投資信託なども投資のしやすさが向上する見込みです。
そんななか、「不動産投資」と聞くとなんとなくリスクが高く、損をしてしまうのではないかと思う人もいるかもしれません。しかし実は、他の投資と比較しても、不動産投資はリスクとリターンのバランスがいい初心者向きの投資手法といえます。
株式やFX、債券など世の中にはあらゆる投資がありますが、リスクとそれによって得られるリターンのバランスによって、「ローリスク・ローリターン投資」、「ミドルリスク・ミドルリターン投資」、「ハイリスク・ハイリターン投資」の3つに分けられます(図表)。
不動産投資は「ミドルリスク・ミドルリターン」に分類されますが、ここがポイントです。元本の保証はないものの、現物投資であるため投資した資金が一気に失われるリスクは抑えられており、状況やタイミングに応じて売却することで一定の利益を得られる可能性の高い投資です。
もちろん、空室リスクや賃料が下落するリスクなどはありますが、これらを回避する方法も存在します。したがって、不動産投資は初心者向け投資手法のひとつといえるでしょう。
年収750万円の会社員が不動産投資…収支はいくら?
40歳、年収750万円のAさんが東京23区内のワンルームマンションに投資したケースを考えてみます。実際に現在販売に出されている物件を参考にシミュレーションしてみましょう。
不動産投資を行う場合、資産状況や勤務先にもよりますが、一般的には年収の7~8倍まで借入が可能です。Aさんの場合は、上場企業ではないものの大手企業にお勤めだということもあり、年収の7倍まではローンが組めると確認できました。
ただし、自宅の住宅ローンの残債(3,000万円)があるため、以下のように計算し今回ローンが組める上限は2,250万円となります。
年収750万円×7=5,250万円
5,250万円-ローン残債3,000万円=2,250万円
Aさんは、2,170万円の中古マンション(投資用不動産)を購入しました。築20年で東京駅から地下鉄で2分・最寄り駅から徒歩8分の立地にある、8階のお部屋です。
110万円の諸経費(登記費用、火災保険料、印紙代、ローン事務手数料等)がかかるため、総額は2,280万円となります。このうち、自己資金は120万円、銀行からの借り入れは2,160万円としました。
家賃を相場に準じて8.5万円/月にすると、年間で102万円の家賃収入(a)が入ってくることになります。しかし、その全てが収益になるわけではありません。管理費・修繕積立金や固定資産税、火災保険料などがかかるほか、賃貸管理などを不動産会社に任せる場合、さらに管理費がかかります。
この物件では、管理費・修繕積立費が1.06万円/月、管理手数料等で0.38万円/月かかるため、年間で約17.28万円の経費がかかります。(b)また、ローンについては、35年ローン・金利1.5%で融資が通り、月々の返済は6.61万円、年間で79.32万円(c)です。したがって、手取り収入は年間5.40万円(d)となります。
まとめると下記のようになります。
・1年間の家賃収入:8.50万円×12ヵ月=102.00万円(a)
・管理費等含む諸経費:1.44万円×12ヵ月=17.28万円(b)
・ローン返済額:6.61万円×12ヵ月=79.32万円(c)
年間収支:102万円-17.28万円-79.32万円=5.40万円(d)
不動産投資は会社員にメリット大!まずは「一歩」踏み出して
上記の物件は固定資産税が年間4.15万円かかるため、実際には年間約1.2万円がプラスになる程度ですが、確定申告での還付金を含めるとより良い運用ができます。不動産投資を始めたことで、老後に向けた不労所得の仕組みをつくることができました。
当然、頭金をいくら入れるかによっても融資条件が変わりますし、築年数や立地によっても物件の質は変わってきます。物件選びの際には、上述したような費用を加味し、総合的な収支を確認したうえで購入に踏み切ることで、大きな失敗を回避することができるでしょう。
また、物件の状況や市況にもよりますが、1軒目のローンを順調に支払っていき、途中で売却しキャピタルゲイン(売却益)を得るという方法もあります。その売却益を元手により良い条件で2軒目を購入し、利益を積み上げていくのです。
まとめ
株式やFXの場合、相場を読み利益の出るタイミングで売却することが必須です。そのためには日々値動きを確認したり、常に最新の知識をアップデートしたりと、忙しい現役世代にとって簡単なことではありません。
一方、不動産投資は物件の入居者さえ維持できていれば、市況に関係なく安定した家賃収入を得ることができます。さらに時間拘束が少なく、リスクも抑えられますから、不動産投資は会社員にとって有効であるといえるでしょう。
実際に不動産投資を始める際には、ご自身のライフプランを見直し、最適な購入の方法を見出すことが理想的です。1社に絞らず、まずは複数の不動産事業者に話を聞いてみるのも良いでしょう。
自分だけで考えるのが難しい場合は、ファイナンシャルプランナーをはじめとする「お金の専門家」に意見を聞き、ともに将来設計を行うことをおすすめします。