個人事業主の社会保険のルールは細かく定められており、加入できないものもあれば、加入できるものもあります。
特に従業員を雇う場合は加入が義務付けられる保険もあるため、基本的な知識を理解しておきましょう。このコラムでは、個人事業主の社会保険について解説します。
1.個人事業主の社会保険のルール
独立して個人事業主になる際は、さまざまな手続きをする必要があります。社会保険の加入もそのひとつであり、会社員時代に加入していたものとは種類が異なるため、正しい知識を理解しておかなければいけません。
なかには、従業員を雇用する場合に加入が義務付けられるものもあります。個人事業主として事業を始める前に、社会保険のルールを押さえておきましょう。
1-1.個人事業主は3つの社会保険に加入できる
個人事業主は以下の3つの社会保険に加入できます。
- 国民健康保険
- 介護保険
- 国民年金保険
国民健康保険とは、各自治体が運営する公的医療保険のことです。加入の対象は、会社の健康保険に加入していない方です。国民健康保険以外では、特定の業種ごとの健康保険組合に加入したり、退職した会社の健康保険を任意継続したりする方法もあります。
介護保険は、40歳を迎えた方が加入を義務付けられる保険です。介護保険の保険料は、国民健康保険の保険料と合わせて請求されます。
国民年金保険は、日本に住む20歳以上60歳未満の方が加入しなければならない保険です。年齢や収入にかかわらず、一律の保険料を毎月支払います。
1-1-1.個人事業主と会社員の社会保険の違い
個人事業主が国民健康保険に加入するのに対し、会社員は会社独自の健康保険組合または協会けんぽに加入します。保険料の全額を負担せず、会社と折半して支払うのが特徴です。
また、個人事業主は国民年金にしか加入できませんが、会社員は国民年金と厚生年金の2つに加入します。場合によっては、企業年金に加入することも可能です。
会社員は国民年金に厚生年金や企業年金を上乗せできるため、受給できる年金額が大きくなります。なお、保険料は収入によって決定され、健康保険と同じく会社と折半で負担します。
1-2.雇用保険・労災保険には加入できない
個人事業主は雇用保険と労災保険の加入が認められません。どちらの保険も従業員を対象とした制度であり、自ら事業を営む個人事業主は対象に含まれないためです。
ただし、以下の業種に該当する場合は、個人事業主であっても労災保険に加入できる可能性があります。この仕組みを労災保険の特別加入制度といいます。
- 中小事業主等
- 一人親方等
- 特定作業従事者
- 海外派遣者
1-3.従業員を雇用する際に加入すべき保険とは
従業員を1人でも雇用するのであれば、原則として雇用保険と労災保険の加入が必須です。健康保険と厚生年金保険に加入すべきかどうかは、業種や事業所の規模によって決まります。
所定の業種に該当し、常時5人以上の従業員を雇用する場合は「強制適用事業所」と呼ばれ、健康保険と厚生年金保険の加入が必要です。
なお、従業員の半数以上が同意していれば、従業員が5人未満であっても任意適用申請を行うことで健康保険と厚生年金保険に加入できます。このような事業所は「任意適用事業所」と呼ばれます。
1-3-1.加入の手続き方法&必要書類
強制適用事業所に当てはまる場合は、事実発生日から5日以内に健康保険と厚生年金保険の加入手続きが必要です。「新規適用届」などの必要書類を準備し、事業所の所在地を管轄する年金事務所に提出しましょう。
労働保険(=労災保険と雇用保険の総称)の加入手続きは、労働基準監督署や公共職業安定所などに必要書類を提出して行います。書類の提出先や手続きの期限は以下を参考にしてください。
提出書類 | 提出先 | 手続きの期限 |
保険関係成立届 | 所轄の労働基準監督署 | 保険関係の成立日の翌日から10日以内 |
概算保険料申告書 | 以下のいずれか ・所轄の労働基準監督署 ・所轄の都道府県労働局 ・日本銀行(代理店なども可) | 保険関係の成立日の翌日から50日以内 |
雇用保険適用事業所設置届 | 所轄の公共職業安定所 | 設置日の翌日から10日以内 |
雇用保険被保険者資格取得届 | 所轄の公共職業安定所 | 資格取得の事実発生日の翌月10日まで |
上記は、労災保険と雇用保険に一括加入する一元適用事業のケースです。建設業・農林漁業などは二元適用事業に該当し、一元適用事業とは手続き方法が異なります。詳しくは厚生労働省の公式サイトを確認してみましょう。
2.独立する際に注意すべきポイント2つ
個人事業主として独立する際は、会社員時代には気にすることのなかった点にも目を向けなければいけません。具体的な注意点は以下の2つです。
- 家族の国民健康保険料・国民年金保険料も支払う必要がある
- 経費計上できる・できないものがある
特に経費計上の知識はキャッシュフロー管理に関わるため、事業を円滑に進めるうえで押さえておきたいポイントです。独立時の注意点を整理しておきましょう。
2-1.家族の国民健康保険料・国民年金保険料も支払う必要がある
個人事業主になる際は、自分の分だけではなく、家族の分の保険料も発生します。会社員が加入する健康保険・厚生年金保険であれば、家族を扶養に入れることで家族の保険料の負担がなくなります。
それに対し、個人事業主が加入する国民健康保険と国民年金保険には扶養の仕組みがありません。一人ひとりの家族に対して保険料が発生するため、個人事業主になる場合は保険料の負担が増える点に注意しましょう。
2-2.経費計上できる・できないものがある
個人事業主になると、所得に応じて税金を納める必要があります。所得は売上から経費や控除を差し引いた金額で、所得が少なくなるほど税負担の軽減につながります。つまり、経費を多く計上すれば所得を抑えられますが、すべての費用を経費にできるわけではない点に注意が必要です。
例えば、個人事業主が支払う社会保険料は経費として扱えません。経費計上ではなく、確定申告の際に社会保険料控除として処理します。そのほかにも経費計上には細かいルールがあるため、経費計上できる・できないものを正しく理解しておきましょう。
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3.個人事業主に起こりうるリスク&加入すべき保険・制度
病気やケガ、出産などによって働けなくなった場合、会社員であれば傷病手当金や出産手当金を受け取れる可能性がありますが、個人事業主はこのような公的保障を受けられません。もしものことが起きた際の保障が手薄なため、自身でリスクに備える必要があります。
ここでは、個人事業主が想定すべきリスクと、備えとして有効な手段をご紹介します。保険料を経費に計上できるものもあるため、それぞれの仕組みを理解しておきましょう。
- 死亡のリスク|定期保険・収入保障保険など
- 病気・ケガのリスク|医療保険・就業不能保険
- 老後資金のリスク|個人年金保険やiDeCoなど
- 業務上のトラブル|損害賠償保険・共済制度など
3-1.死亡のリスク|定期保険・収入保障保険など
家計を支える個人事業主が死亡した場合、遺族は生活を維持するのが難しくなるかもしれません。場合によっては遺族基礎年金を受け取れますが、それだけでは生活費が不足する可能性があります。
死亡のリスクに備えるためには、以下の生命保険に加入して保障を確保するのが賢明です。注意点として、これらの生命保険に加入するための保険料を経費に計上することはできません。
- 定期保険
- 終身保険
- 養老保険
- 収入保障保険
月々の保険料を抑えたい方には定期保険がおすすめです。掛け捨てタイプで保障期間が限定されるため、保険料が安く設定される傾向があります。
それに対し、終身保険は被保険者が亡くなるまで保障が続く保険です。月々の保険料は高めですが、保険料払込期間の満了後に解約した場合は解約返戻金を受け取れます。
養老保険は、死亡保障と貯蓄性を兼ね備えた保険です。満期までに生存している場合は満期保険金を、満期までに死亡した場合は死亡保険金を受け取れます。
収入保障保険は、被保険者が亡くなった場合に、受取人に対して保険金が支払われる保険です。一定期間にわたって毎月決まった金額、もしくは一括で保険金を受け取ることが可能です。
3-2.病気・ケガのリスク|医療保険・就業不能保険
病気やケガのリスクには、医療保険や就業不能保険で備える方法があります。国民健康保険も医療費の負担軽減に有効ですが、民間の医療保険に加入しておくと、女性特有の病気や国民健康保険でカバーできない先進医療などにも備えられます。
就業不能保険は、病気やケガによって長期間働けなくなった場合の収入減を補える保険です。加入時に月額の受取額を設定すると、所定の状態になった際に給付金を一定期間受け取れます。なお、医療保険も就業不能保険も、保険料を経費に計上することはできません。
3-3.老後資金のリスク|個人年金保険やiDeCoなど
個人事業主は国民年金しか受け取れないため、以下の保険や制度を活用し、老後資金が不足するリスクに備えることが重要です。
- 個人年金保険
- 付加年金
- iDeCo
- 小規模企業共済
個人年金保険に加入すると、一定の年齢を迎えた際に給付金を年金として受け取れます。保険料は経費にできませんが、生命保険料控除の対象に含まれます。税制適格特約を付加すれば、生命保険料控除とは別に個人年金保険料控除を適用することも可能です。
付加年金は、国民年金保険と合わせて付加保険料(月額400円)を支払うことで、老齢基礎年金に「200円×納付月数」を上乗せできる仕組みです。付加保険料も、国民年金保険料と同様に控除を適用できます。
iDeCoは「個人型確定拠出年金」ともいい、自身で預金や投資信託などを運用して年金を積み立てる制度です。運用益に税金がかからないうえに、小規模企業共済等掛金控除によって掛金の全額が控除されます。
小規模企業共済は、主に廃業・退職後のお金を準備するために活用される制度です。支払った掛金の全額が所得控除の対象となるほか、共済金を受け取る際にも控除が適用されます。
3-4.業務上のトラブル|損害賠償保険・共済制度など
事業を営むのであれば、業務上のトラブルが発生した際の備えも確保しておきましょう。個人事業主が加入すべき保険や制度には以下が挙げられます。
- 損害賠償保険・個人情報漏洩保険
- 経営セーフティ共済・中小企業退職金共済
- 火災保険・地震保険
業務上の事故や個人情報の漏洩などを起こすと、損害賠償を請求される可能性があります。損害賠償のリスクに備えるなら、損害賠償保険や個人情報漏洩保険に加入するのがおすすめです。
補償内容や特約などは保険商品ごとに異なるため、必要な補償が得られるかどうかを比較しましょう。なお、個人事業主本人にかける賠償責任保険などの保険料は経費として計上可能です。
経営セーフティ共済は、取引先の倒産によって個人事業主などが経営難に陥ることを防止するための制度です。取引先が倒産した際に、掛金の10倍までの金額を無担保・無保証人で借入れできます。掛金の全額を経費にできるため、節税にもつながるでしょう。
中小企業退職金共済は、従業員の退職金を準備するための制度です。一定期間は国からの助成が受けられます。小規模企業共済の掛金は経費にできませんが、中小企業退職金共済の掛金は全額を経費に計上できます。
自宅やオフィスが災害の影響を受けた場合に備えて、火災保険や地震保険に加入することも重要です。火災保険に加入すると、火災による損害はもちろん、落雷や水漏れなどのリスクもカバーできます。
地震保険は、火災保険の対象に含まれない損害に備えられる保険です。単独で加入できず、火災保険とセットで加入する必要があります。火災保険と地震保険の保険料は、事業に使用している分に限り経費計上が可能です。
4.法人化する際は法人保険に加入するのがおすすめ
個人事業主が法人化する際は、法人保険への加入を検討しましょう。法人保険とは、法人が契約者や保険料の負担者となって加入する生命保険の総称です。法人保険に加入すると、以下のようなメリットが得られます。
- 保険料を経費にできる
- 法人税の負担を軽減できる
- 退職金を準備できる など
法人保険の契約内容によっては、保険料を経費に計上できます。経費計上によって利益を抑えられれば、法人税の負担軽減につながるでしょう。また、貯蓄性のある保険に法人として加入すると、退職金の準備にも活用できます。
法人保険に加入するときは目先のキャッシュフローだけではなく、収支のバランスを考えながら将来を見据えたプランを提案できる、法人保険の経験が豊富なコンサルタントに相談することが必要です。
おわりに
会社を辞めて個人事業主になる際は、国民健康保険・介護保険・国民年金保険に加入できます。一方で、個人事業主は他人に雇用されているわけではないため、例外を除いて労災保険や雇用保険には加入できません。
また、社会保険だけでは万が一の際の保障が不足する可能性があることから、民間保険や共済制度などに加入するのがおすすめです。個人事業主として独立する前に、加入できる・できない社会保険を正しく理解しておきましょう。