個人事業主とは、法律上は税務署に開業届を提出し、事業の開始を申請した人のことです。今現在、会社員として働いているなら、個人事業主として働くことがなかなか理解できないかもしれません。
今回の記事では、個人事業主として働くことに興味がある方のために、メリットやデメリット、事前の準備について解説します。この記事を読めば、将来的に個人事業主になる際に行うべきことについてしっかり理解できるはずです。
この記事でわかること
個人事業主とは、個人で事業を営んでいる人のことです。税法上は、税務署に開業届を提出し、事業の開始を申請した人を指します。働き方が自由で、自らの能力・努力次第で収入がアップするなど、メリットの大きい働き方です。 一方で、社会的信用が低い、収入が不安定など一定のデメリットもあります。特に、個人事業主本人が急病や事故に巻き込まれた場合は、事業の継続性すら危うくなるかもしれません。個人事業主として働くのが良いかどうかは個人の価値観や資質による部分も大きいですが、取り組むなら事前の準備を入念にしましょう。
1.個人事業主とは?フリーランスや自営業との違い
個人事業主という言葉自体は有名なものの、どのようなものかはなかなか正確に理解できないかもしれません。また、よく似た言葉としてフリーランスや自営業があるため、ますます混乱してしまうでしょう。
ここでは、個人事業主の意味について正確に説明した上で、フリーランスと自営業の違いについても解説します。
1-1.個人事業主とは
個人事業主とは、個人で事業を営んでいる人のことを指します。
税務署に開業届を提出し、事業の開始を申請すれば誰でも個人事業主になることが可能です。極論すれば、会社員であったとしても、副業をするために開業届を出していたなら、個人事業主になれます。
なお、基本的に個人として事業を営む以上、法人は設立しません。実際は、利益額が大きくなってきたタイミングで、個人事業主としては廃業し、法人を設立して業務を引き継ぐ代表者になるパターンも多く存在します(法人成り)。
1-2.フリーランスとの違い
フリーランスとは、特定の企業や団体などに所属せず、都度契約を結び、仕事を請け負う働き方を表す言葉です。カメラマン、ボイストレーナーなどの芸術系の仕事や、プログラマー、WEBデザイナーなどIT系の仕事でも、働き方としてフリーランスを選択している方は多くいます。非常勤勤務(アルバイト)を主とした勤務形態で働くフリーランス医師も近年は珍しくありません。
ただし、あくまで働き方を表す言葉であって、税法上の区分ではありません。自ら法人(株式会社など)を設立し、代表者として仕事を請け負う場合もあれば、個人事業主として仕事を請け負う場合もあるのが実情です。
1-3.自営業者との違い
自営業者との違いについても説明しておきましょう。自営業者とは、特定の組織・企業に属さずに自ら独立して個人で事業を営む人のことです。個人事業主と意味としてはそれほど大きな違いはありませんが、法人の代表者(会社経営者)も含まれるより広い概念といったところでしょう。
2.個人事業主がしなければならないことは?
個人事業主になった場合、事業を開始するタイミングでしなければならないことがいくつかあります。具体的にしなければならないこととして以下の4点について解説します。
- 社会保険の手続き
- 開業の準備
- 開業届の提出
- 必要なら「青色申告承認申請書」も提出
2-1.社会保険の手続き
会社員から個人事業主になる場合は、社会保険の手続きが必要になります。
まず、医療保険については、国民健康保険に加入するのが一般的です。ただし、以下の方法を選ぶこともできます。
- 会社員の時に加入していた健康保険に引き続き加入する(任意継続被保険者制度)
- 配偶者が会社員として働いていて厚生年金保険に加入しているなら配偶者の扶養に入る
国民年金保険料については、国民年金保険に加入し、毎月ご自身で保険料を払うのが一般的です(第1号被保険者)。ただし、配偶者の扶養に入る形でも問題ありません。
なお、元の勤務先を退職して国民健康保険や国民年金保険に加入する場合は退職してから14日以内に手続きを済ませる必要があります。最寄りの市区町村役場の担当窓口で手続きをしましょう。
また、医療保険について任意継続被保険者制度を利用するには以下の2つの条件を満たさなくてはいけません。
- 資格喪失日の前日(退職日)までに継続して2ヵ月以上の被保険者期間がある
- 資格喪失日から20日以内に、「任意継続被保険者資格取得申出書」を提出する
詳しい手続きは、以前の勤務先の担当部署に確認しましょう。
2-2.開業の準備
同時並行で、開業の準備を進めていきます。名刺やホームページの作成、電話番号の取得、家具・備品の購入など、必要だと思われる作業を洗い出し、着実に進めましょう。
開業準備で支払った費用の中には、経費として計上できるものもあるため、領収書やレシートは保管しておくことをおすすめします。
2-3.開業届の提出
自宅を管轄する税務署に開業届を提出します。事業を開始した日から1ヵ月以内に提出しないといけません。提出しなかったことに対する罰則は特にありませんが、青色申告をする際に必須である上に、さまざまなメリットが受けられるので、忘れずに提出しましょう。
2-4.必要なら「青色申告承認申請書」も提出
個人事業主の場合、毎年確定申告を行い、納めるべき税額を決定・納付しなくてはいけません。その際は青色申告と白色申告のいずれかで進める必要があります。
税金上のメリットを重視するなら、青色申告を選びましょう。青色申告により確定申告を行う場合は、青色申告承認申請書を提出しなくてはいけません。税務署の窓口で入手するか、国税庁の公式ホームページからダウンロードできます。
3.個人事業主のメリット
個人事業主として働くことには、以下のメリットがあります。
- 働き方が自由
- 能力次第で収入がアップする
- 年齢制限がない
- 税負担・事務負担が少ない
- 自己実現の機会
それぞれのメリットについて、詳しく解説します。
3-1.働き方が自由
個人事業主のメリットのひとつに、働く時間が自由であることが挙げられます。会社員の場合は、決まった就業時間から大きく外れて働くのは難しいのが実情です。一方、個人事業主は依頼された業務さえこなせれば、深夜に働いても構いません。
また、個人事業主は自宅や事務所以外の場所でも働くことができます。会社員のように、オフィスの近くに住み、通勤したりする必要はありません。中には「ノマドワーカー」といって、遊牧民のように場所を移動しながら働いている個人事業主もいます。
3-2.能力次第で収入がアップする
個人事業主は、能力次第で収入を着実にアップさせられます。能力が高く、努力さえすれば収入が上がっていく場合が多いため、モチベーションも維持しやすいです。
会社員の場合、能力が高く、努力をしてもなかなか収入が上がらないこともあり、モチベーションが維持できないのは珍しいことではありません。「自らの持てる力を活かし、努力は惜しまない」という方なら、個人事業主として働くのは向いているでしょう。
3-3.年齢制限がない
個人事業主に年齢制限はありません。
会社員の場合、大半の会社に定年があります。だいたい、60歳から65歳の間に定年を迎え、その後は再雇用制度や勤務延長制度を使い、負担の少ない働き方をすることが多いでしょう。それでも、制度を利用できるのは70歳までなど、一定の制限はあるはずです。
一方、個人事業主は、体力・健康の面で問題がなければ何歳であっても働き続けられます。体力に合わせて引き受ける業務の量・質を調整すれば、負担なく続けることが可能です。「できれば一生現役でいたい」という方にも向いている働き方といえます。
3-4.税負担・事務負担が少ない
個人事業主の場合、利益が少ないうちは法人よりも税金の負担が少なくなっています。
また、一部の例外を除き、国民年金や国民健康保険に加入することが多いため、煩雑な手続きもあまり必要ありません。税理士や社会保険労務士などの専門家に依頼しなくても、事務作業を問題なく行えます。
3-5.自己実現の機会
個人事業主は、会社員と比べると、自己実現の機会に恵まれているといえます。
会社員の場合、基本的には勤務先の企業の意向に沿って行動しなくてはいけません。当然、本人のアイデアやビジョンとは異なる仕事であっても、引き受けなくてはいけない場面もあるでしょう。
一方、個人事業主の場合は、本人のアイデアやビジョンを、自ら決定・実現できます。簡単にいうと「本人がやりたいようにできる」ということです。
4.個人事業主のデメリット
一方、個人事業主には特有のデメリットもあります。具体的なデメリットとして、以下の5つを解説します。
- 社会的信用が低い
- 利益が出ると税金の負担が大きくなる
- 収入が不安定
- 失業保険が受けられない
- 事業の継続性が危うい
4-1.社会的信用が低い
個人事業主は、法人に比べると社会的信用が低いとされています。法人(会社)は、会社法などの法律に基づいて厳格に運営しなくてはいけません。また、謄本(履歴事項全部証明書)に記載された情報(会社名・本店住所・事業目的・役員の名前など)は誰でも閲覧できます。
一方、個人事業主にはそのような仕組みはありません。外部からは事業の運営実態がわかりづらいため、法人に比べると社会的信用という意味では不利になりがちです。このような背景があるためか、銀行などの金融機関からの融資も、個人事業主は法人に比べて受けにくくなっています。
4-2.利益が出ると税金の負担が大きくなる
個人事業主の場合、利益(所得)が大きくなり過ぎると、税金の負担も大きくなり過ぎる可能性があります。
利益が小さいうちは所得税率も低いですが、大きくなるにつれ税率も上がっていく仕組みになっている(累進税率)ためです。
所得税の税率と法人税の税率を比べるとわかりやすいでしょう。なお、法人税の税率は以下のようになっています。
<法人税の税率> ※資本金1億円以下の場合
課税される所得金額 | 税率 |
年800万円以下の部分 | 15% ※適用除外事業者の場合は19% |
年800万円を超える部分 | 23.2% |
一方、所得税において課税される所得金額が800万円の場合の税率は23%です。利益が800万円を超えるようなら、法人化したほうが税金の面では有利になります。
4-3.収入が不安定
会社員の場合、毎月決まった給料が受け取れます。その上、業績の急激な悪化など特殊な事情がなければ、いきなり収入が途絶えることはめったにないでしょう。
一方、個人事業主の場合は、自ら努力しなければ、収入は入ってきません。努力していたとしても、状況に恵まれなければ収入に結びつかないため、収入が不安定になりがちです。
4-4.失業保険が受けられない
個人事業主として事業を営んでいた場合、経営が悪化したとしても失業保険は受け取れません。
そもそも、失業保険は雇用保険の基本手当であるため「会社に従業員として雇われていること(雇用保険の被保険者であること)」が前提になります。
個人事業主は雇用保険の被保険者ではない以上、失業保険による保障もありません。
4-5.事業の継続性が危うい
個人事業主が急病や事故などに巻き込まれた場合、事業を継続することが難しくなるリスクがあります。
すでに触れたとおり、個人事業主は自己資金で事業を行っている上に、法人に比べると融資も受けづらいです。また、個人事業主の場合、本人だけ、もしくは本人と数名のスタッフで業務を回しているのは珍しくありません。業務がストップしてしまい、事実上廃業せざるを得ない事態に発展するおそれもあります。
5.個人事業主になるには準備が大切
個人事業主になるには、事前準備が非常に重要です。具体的に済ませるべき準備として、以下の3点について解説します。
- 仕事を受注する方法を確立
- 専用の銀行口座を作っておく
- 専用のクレジットカードを作成しておく
5-1.仕事を受注する方法を確立
個人事業主は仕事を受注できないと収入が得られない以上、まずは受注する方法を確立しましょう。例えば、WEBライターとして仕事を受注したい場合、案件を獲得する方法として以下のものが考えられます。
- クラウドソーシングに登録する
- ライターの求人情報を探して応募する
- 自ら営業活動を行う
また、仕事を受注できたとしても、成果物の質が低ければ、継続依頼にはつながりません。ご自身に相応のスキルが身についているかも、定期的に確認するようにしましょう。
5-2.専用の銀行口座を作っておく
個人事業主として仕事を始める際は、屋号名義の事業専用の銀行口座を作っておきましょう。青色申告で確定申告を行う場合、複式簿記で帳簿を付けなくてはいけません。そのためには、事業におけるお金の流れをわかりやすく整理する必要があります。
プライベート用の銀行口座を事業用口座として併用した場合、どの支出が事業用(プライベート用)なのかわかりにくいかもしれません。事業専用口座を作り、事業用の収入・支出はすべてそこに出し入れするようにすれば、情報が整理され、帳簿付けもスムーズになるでしょう。
5-3.専用のクレジットカードを作成しておく
プライベート用のクレジットカードを事業用のものと併用したのでは、どれが事業用の費用なのか整理するのに手間がかかりがちです。財務状況を簡単に把握するためにも、専用のクレジットカードを作り、事業用の費用はそれで払うようにしましょう。
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おわりに
個人事業主は、会社に属さない以上、働く場所や時間、取り組む仕事もご自身で選び取れます。その一方で、仕事がなくなったり、急な体調不良や事故に巻き込まれたりした場合のリスクも背負わなくてはいけません。どう働けばご自身の満足度が高まるのかを考えてみましょう。
そして、個人事業主として仕事を始めるにあたっては、準備が非常に重要です。経理の作業も自身でこなすなら、専用の銀行口座やクレジットカードを準備しておくとスムーズに進められます。