事業を円滑に進めていくうえで、事業性資金の調達は重要な要素です。事業性資金とは、事業に関するさまざまな資金のことを指します。例えば、開業時に必要な資金や設備資金、運転資金などが挙げられます。
しかし、経営者や個人事業主の中には、資金調達の方法をあまり理解していない方もいるでしょう。本記事では、事業性資金の融資を取り扱っている金融機関や申し込む際のポイントを解説します。融資以外の資金調達方法も紹介しているため、ぜひ参考にしてみてください。


個人事業主が事業性資金として活用できる融資制度

事業性資金として活用できる融資制度は数多く存在し、そのうち個人事業主でも利用できるものは主に次の5つです。
- 日本政策金融公庫
- 信用金庫・信用組合
- 銀行融資
- 地方自治体
- ノンバンクからの融資
個々の経営状況や緊急性などで利用すべき融資元が異なります。それぞれの特徴を解説するので、自社に適した融資元を見つけるための参考にしてください。
日本政策金融公庫
日本政策金融公庫は企業や個人事業主を支援するために設立された金融機関で、政府が100%出資しています。創業融資や小規模事業者向けの融資メニューもあるため、個人事業主でも気軽に融資の相談ができます。
日本政策金融公庫は金利が比較的低く設定されており、そのうえ返済期間も5年以上と長いため、毎月の返済負担を小さく済ませられるでしょう。
その一方で、融資申込の際には多くの提出資料を求められ、準備に時間と手間がかかります。また、審査では自己資金の有無についても確認されることがあり、自己資金が不足していると審査に通らない可能性もあります。
他の融資元に比べると返済負担が小さいことから、最初に相談しに行くとよいでしょう。
信用金庫・信用組合
地域密着型の金融機関である信用金庫は、地域の住民や企業が会員となり、共に地域の発展を目指すことを目的としています。活動場所は一定の地域に限られ、会員から集めた資金は地域の発展に利用されます。
信用金庫は日本政策金融公庫よりも金利が高く設定されているものの、審査のハードルは低い傾向にあり、個人事業主でも融資を受けやすいでしょう。また、融資の相談においても、顔の見える付き合いを重視したきめ細かい対応が特徴です。
加えて、信用金庫は地域とのつながりも多く、地域に根ざした情報提供を期待できます。個人事業主や開業して間もない企業などは、信用金庫に相談してみてください。
銀行融資
融資を検討する際に、最初に思い付くのが銀行融資ではないでしょうか。
銀行といっても大手銀行から地方銀行などさまざまタイプが存在し、各銀行によって特徴は異なります。大手銀行の場合は金利が低く設定されており、融資金額の上限も高めに設定されています。その反面、審査が厳しく、場合によっては口座開設すら断られるでしょう。
一方の地方銀行は大手銀行よりも金利がやや高めであるものの、審査のハードルは低い傾向にあります。
地方自治体
地方自治体も融資制度を設けており、民間金融機関と信用保証協会の3機関で連携して融資を実施しています。自治体が融資元のため金利は低く設定されており、そのうえ審査ハードルも低いと言われています。
ただし、3機関が審査に携わっているため、申し込みから融資実行まで時間がかかってしまう点に注意が必要です。また、各自治体で融資制度が異なるため、お住いの地域でどのような融資制度があるか事前に確認しておくとよいでしょう。
なお、融資制度とは別に、地方自治体では返済義務のない補助金や助成金制度も設けています。条件が合う場合は、ぜひ活用してみることをおすすめします。
ノンバンクからの融資
ノンバンクから融資を受けるのも選択肢のひとつです。ノンバンクとは銀行以外の金融機関のことで、銀行よりも審査基準が柔軟なため審査に通過する可能性があります。
ノンバンクを活用する際のメリットは、以下のとおりです。
- 融資可能額が大きめ
- 審査時間が短い
- 申込対象の条件が幅広い
ノンバンクは銀行と比べると金利は高くなるものの、対象となる申込者の範囲も広く設定されているため利用しやすいです。そのうえ融資可能額も他の資金調達より大きく、多額の設備投資などにも対応しやすいでしょう。
セゾンファンデックスの「事業者向け不動産担保ローン」は、赤字決算や創業して間もない事業主にも多数の融資実績があります。審査スピードも早く、急な資金調達にも対応可能です。銀行融資が受けにくい状況にある方や、急な運転資金が必要になった場合はお気軽にご相談ください。
個人事業主が融資を申し込む際のポイント

事業性資金の融資を受けるにあたり、個人事業主は法人経営者に比べると審査で不利に働く傾向があります。そのため、個人事業主の方は次に紹介するポイントを押さえて融資の申し込みを行い、少しでも審査に通りやすくしましょう。
- 資金用途を明確にしておく
- 自己資金を確保しておく
- 複数の金融機関に申し込む
- 必要書類をきちんと準備する
- 赤字でも融資してもらえる場合がある
ひとつずつ解説します。
資金用途を明確にしておく
審査に通りやすくするためには融資の用途を明確にし、説得力のある事業計画書の作成が重要です。融資した資金の使い道や利益が発生する根拠、返済期日などの部分を具体的に説明する必要があります。
融資の用途が不明瞭な場合、融資の必要性も疑問視されるため、融資額が減額されたり審査に通らなかったりと振るわない結果となるでしょう。
自己資金を確保しておく
自己資金を確保しておくことも、審査において重要な要素です。とくに開業資金を借りる際には、事業に必要な資金の一部でも自己資金を用意しておくことが望ましいです。必要資金の少なくとも1割、できれば3割あると審査に通りやすくなるでしょう。
最初から融資に頼った事業計画よりも、自己資金を加味した事業計画のほうが信頼性が上がるはずです。
ただし、説得力のある事業計画書や、その他の要件をクリアしていれば自己資金がなくても審査に通る可能性があります。そのため、自己資金がないからといって融資を断念する必要はありません。
なお、自己資金として認められる資金は以下のとおりです。
- 預金または貯金
- 保有資産を売却してできた資金
- 退職金
これらの資金を活用して、融資審査に臨むとよいでしょう。
複数の金融機関に申し込む
複数の金融機関に融資を申し込むのも有効な手段です。各金融機関で融資審査の基準や必要書類、確認事項が異なるため、ひとつの銀行で融資審査が厳しい場合でも、他の銀行や信用金庫などで融資が通ることも十分にあり得ます。
さらに、複数回の融資申請を通じて、事業計画が洗練される効果も期待できるでしょう。一度の審査に通らなかったからといって諦めず、何度も挑戦することが重要です。
ただし、あまりに多くの金融機関に同時に申し込むと審査に落ちる可能性があります。目安として、銀行とノンバンクひとつずつ申し込むことで事業計画を洗練することで融資を受けられる可能性を上げられるでしょう。
必要書類をきちんと準備する
必要書類に不足があると書類の再提出を求められ、審査や融資の実行が遅れることがあります。場合によっては金融機関からの信頼を失い、審査に落ちるリスクもあるでしょう。
融資審査では融資申込書のほか、以下の書類が必要になることがあります。
必要書類 | 内容 |
---|---|
事業計画書 | 事業内容や戦略、収益の見込みなどを記載する書類 |
本人確認書類 | 運転免許証、マイナンバーカードなど |
確定申告書 | 前年度の確定申告書の写し |
創業計画書 | 開業する際に取扱商品や事業の見通しなどを記載する書類 |
納税証明書 | 確定申告した後の所得額や納税額、未納がないかを証明する書類 |
見積書 | 設備にかかる金額を詳細に記載した書類 |
賃貸借契約書 | 事務所や店舗を借りていることを証明する書類 |
上記の中でもとくに、事業計画書は念入りに作成しましょう。融資の審査では事業計画書をもとに、事業の実現可能性や返済能力の有無を見られます。事業計画書の内容が曖昧だと金融機関側は貸し倒れを懸念し、審査に通過するのは難しくなるでしょう。
なお、上記の書類はあくまで一例であり、利用する金融機関や融資の種類によって求められる書類は異なります。依頼する金融機関に確認のうえ、余裕をもって準備を進めましょう。
赤字でも融資してもらえる場合がある
事業を続けていれば、赤字決算になってしまうこともあるでしょう。しかし、赤字であっても金融機関によっては融資をしてもらえる可能性があります。
とくに、以下に該当する場合は赤字であっても審査に通る可能性は十分にあります。
- 開業当初の赤字
- 一時的な赤字
起業初期は、初期投資や設備費用で赤字になることも珍しくありません。その場合は、売上が安定すれば利益を出すことが可能です。融資担当者から将来的に黒字転換する見込みがあると判断されれば、融資を受けられる可能性は十分あるでしょう。
また一時的に赤字になった企業であっても、原因が解消されて黒字に転換する見込みがあると判断されれば、融資を受けられる可能性があります。昨今に起きた例として、昨今では新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大によって経済活動がストップし、一時的に赤字に陥ったケースです。
提出する事業計画書に具体的な改善案を記載し、現実性と実行可能性を明確に示すことで審査に通りやすくなります。
事業者が融資以外で資金を調達する方法

個人事業主が融資以外で資金を調達する方法は、他にも数多く存在します。代表的な資金調達方法として以下のようなものがあります。
- ファクタリング
- ビジネスカード
- クラウドファンディング
調達方法によって特徴やメリット・デメリットが異なるため、ひとつずつ押さえておきましょう。
ファクタリング
ファクタリングとは、売掛金をファクタリング会社に買い取ってもらい資金を調達する方法です。本来、売掛金の回収は数ヵ月後になることが一般的です。しかし、ファクタリングを活用することで、期日より早く資金を手に入れられます。
ファクタリングを利用するメリットは、主に次の3つです。
- 早急に資金調達ができる
- 赤字でも利用できる
- 売掛先企業の倒産リスクを回避できる
ファクタリングは早急に資金を要する場合に有効な資金調達方法となるでしょう。ファクタリング会社によっては即日で売掛金を買い取ってもらえます。また、ファクタリング会社は売掛先から資金を回収するため、自社の事業が赤字であっても利用できます。
ただし、ファクタリングは売掛金額に応じた手数料が発生する点に注意が必要です。手数料率は売掛金額の2.0~18.0%程度で、事業者によっては別途、登記費用や印紙税が発生するケースもあります。諸々の諸費用を差し引くと、本来の売掛金額よりも受け取れる金額が少なくなるため、利用する前に慎重に検討しましょう。
ビジネスカード
ビジネスカードを利用するのも選択肢のひとつです。
ビジネスカードには、キャッシング機能を備えているものもあり、設定されている限度額に応じて迅速に資金を調達することが可能です。ローンとは異なり、審査もなくすぐに利用できるため、急ぎの資金調達にも対応できます。
ただし、クレジットカードのキャッシング利用時には、通常15.0%~18.0%前後と高めの金利が設定されています。その後の返済負担が大きくなってしまう点に注意しましょう。
金利の負担を避けたいのであれば、商品の仕入などをクレジットカードで決済することで支払いを後回しにでき、資金を手元に残しておけます。
クラウドファンディング
一般の方から広く資金を募るクラウドファンディングも、資金調達方法のひとつです。
クラウドファンディングで出資を募る際は、実施する事業に対して多くの方から共感を得られる必要があり、プレゼン能力やアピール力が重要になります。また、社会貢献を目的とした事業など、賛同を得られやすい事業ほど支持を集めやすい傾向があります。
反対に、共感されにくい事業をしている場合は、クラウドファンディングで思うような成果が得られない可能性が高いです。
事業性資金の融資を受ける際の注意点

事業性資金の融資を受ける際は、次の点に注意して行ってください。
- 私的な理由で利用しない
- 確定申告を提出しておく
- 資金ショートしないよう早めに資金調達を進めていく
- 申込から融資実行まで数週間はかかる
- 担保が必要になる場合がある
詳しく解説します。
私的な理由で利用しない
事業性資金の融資は事業用に使用することが原則であり、私的に使うことは禁じられています。仮に私的に使用していることが発覚し、悪質と判断された場合は一括返済を求められることがあります。
私的な目的で資金が必要な際は、カードローンやキャッシングなどの資金調達方法を検討してみてください。
確定申告を提出しておく
融資を申し込む際に、個人事業主の場合は確定申告書の写しが必要になります。融資担当者は確定申告書の内容を確認し、資金繰りや財務状況などを詳しく分析して融資判断をするためです。
確定申告をしていない場合は正確な財務状況を確認できず、審査に不利となります。そのため、融資を通りやすくするためにも、毎年確定申告を適切かつ期限内に行い、必要な書類を整えておくようにしましょう。
資金ショートしないよう早めに資金調達を進めていく
審査に通り、実際に融資を受けるまではある程度の時間を要します。そのため、融資を受けるまでの間に資金ショートしないよう、早めに資金調達を進めることが大事です。
融資に詳しい税理士や中小企業診断士などと顧問契約をしている場合は、そのあたりのサポートを得ながら進められるでしょう。しかし、個人事業主の場合はひとりで運営していることも多く、計画的に進めることは難しいかもしれません。
対応が遅くなり、万一資金ショートになってしまえば、事業の継続にも問題が生じてしまいます。そのため、融資を検討する場合は余裕をもって進めましょう。
申込から融資実行まで数週間はかかる
融資の申し込みをしてから実行されるまで、一般的に数週間ほどかかります。とくに銀行や日本政策金融公庫、自治体の融資は1ヶ月ほどかかる場合もあります。
そのため、急な資金調達の場合はノンバンクやファクタリングなどが有効な方法となるでしょう。ファクタリングの場合は、売掛金を即座に現金化できます。
担保が必要になる場合がある
不動産担保ローンなど一部の融資に関しては担保が必要になります。担保となる資産は、主に以下のとおりです。
- 不動産
- 株式や国債などの有価証券
- 売掛債権
担保に出すことで事業者側からすると資金回収がしやすくなるため、借入額が大きくなるメリットがあります。一方で、返済が滞ってしまうと差し出した担保が処分されてしまうリスクがある点に注意が必要です。
FPから見た「事業性資金の融資」の結論!
事業性資金を確保するのであれば、銀行融資やビジネスローンなど、さまざまな方法があります。事業性資金の融資には多くの種類があり、金利が低いものもあれば、審査に通りやすいものなど、特徴が大きく異なります。そのなかで、自分にとって最優先すべき点を見極めることが資金調達を成功させる鍵となるでしょう。
例えば、個人事業主で審査に通りにくいと判断した場合は、信用金庫やノンバンクの活用が有効な選択肢といえます。また、急な資金調達が必要な場合は融資ではなく、ファクタリングやキャッシングが有効な方法となります。
自分の状況に適した融資を見極め、事業を円滑に進めて行けるよう努めていきましょう。
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