株式投資、特に信用取引を行う際には、「追証(おいしょう、追加証拠金)」という言葉を耳にすることがあります。追証は投資家にとって大きな負担となる可能性があり、適切に対処しなければ深刻な財務問題に発展する恐れがあります。この記事では、追証が発生する状況、支払えない場合のリスク、そして対処方法について詳しく解説します。さらに、追証を回避するための戦略も紹介しますので、投資家の皆様にとって有益な情報となるでしょう。
追証が払えないとどうなる?時系列で解説
現金や株式を担保として証券会社に預け、証券会社からお金を借りて株式を買ったり、株券を借りて売ったりする取引のことを「信用取引」と呼びます。信用取引では証拠金を入金し、各証券会社で定められた一定倍率までの取引を行うことが可能です。
しかし、取引中の株式などの価格が予想とは反対の方向に変動すると、含み損が生じることもあります。含み損とは、その時点で取引を確定した場合に生じる損失で、実際には取引を確定していないため損をしているわけではありません。
含み損が生じると、その分が証拠金から差し引かれます。証拠金が減ると、取引額における証拠金の割合が各証券会社で定められた倍率を下回ることがあり、取引が維持できなくなることもあるでしょう。
証券会社から連絡が届く
取引が維持できなくなったときは、証券会社は「追証(おいしょう、追加証拠金)」の入金を投資家に請求します。追証が払えないときは、強制的に決済が実行されて損失が確定するため注意が必要です。
損失は証拠金から清算されますが、不足するときには証券会社から請求されます。また、追証や不足金を支払わない状態が続くと、証券会社から信用取引などの取引を制限されることもあるため注意しましょう。
裁判所から一括請求される
証券会社からの連絡を無視していると、裁判所から一括請求の督促状が届きます。裁判所からの連絡には、いつまでに連絡・支払いが必要かが記載されているため、迅速に対応しましょう。
財産の差し押さえが実施される
裁判所が指定した期日までに連絡や返済などの対応をしないときは、差し押さえが実施されます。差し押さえの対象になるのは、給料や預金、動産、不動産などです。なお、追証や不足金の未払いによって給料が差し押さえられるときは、以下の金額に限られます。
- 手取りの1/4
- 手取りが440,000円を超える場合は、330,000円を差し引いた残額
例えば、月の手取りが400,000円の方が不足金として500,000円請求されている場合、毎月の給料から100,000円差し押さえられます。差し押さえは定められた金額が回収されるまで続くため注意しましょう。また、証券会社が差し押さえを裁判に申し立てたときの費用や、遅延損害金も加算されることがあります。そのため、証券会社に支払わなかった金額よりも結果的に高い金額を支払うことになるでしょう。
参照元:広島法務局「従業員の給与について裁判所から差押命令が送達された場合に雇用主がする供託」
自己破産などの債務整理を実施する
支払いが難しいときは、債務整理も検討する必要が生じるかもしれません。債務整理には、任意整理や自己破産などがあります。任意整理とは証券会社と相談し、分割払いや支払いの減額などの対応をしてもらう方法で、任意整理が認められると差し押さえが実施されずに済みます。
一方、自己破産とは裁判所を通じて返済を免除してもらう方法です。受理されると証券会社への未払金だけでなく、他の借金の返済も免除されます。ただし、自己破産を選択すると、基本的に所有する財産はすべて手放して借金の返済に充当しなくてはいけません。自宅を売却することにもなりかねないため、しっかりと吟味してから手続きを進めましょう。
そもそも追証とは?
そもそも追証とは、各証券会社で最低保証金率が定められていることで発生する証拠金です。信用取引では取引額に対する証拠金の割合において下限が決まっており、これを最低保証金率と呼びます。最低保証金率を下回るときは、追証をして証拠金を増やすか、一部あるいはすべての保有銘柄などを売却することが必要です。
以下の状況になると、追証が発生することがあります。
- 投資銘柄に含み損が生じたとき
- 証拠金の代わりに差し入れた有価証券(代用有価証券)が値下がりしたとき
投資銘柄や代用有価証券の価格をこまめにチェックすると、追証が必要になりそうか予想できることもあります。追証が生じるまでに、保有銘柄を売却する、あるいは追加で証拠金や代用有価証券を差し入れるなどの対策をすることもできるでしょう。
追証が払えないときに検討したい対処策
追証が払えなくなると、最終的には給料などが差し押さえられたり、自己破産などの債務整理をすることになったりする可能性があります。また差し押さえを実施されるときには、未払い金に加え、裁判所に申し立てるための費用や遅延損害金も払うことになるため、支払いの負担がさらに大きくなるでしょう。
追証が払えないときには、すぐに証券会社に連絡することが大切です。そのうえで次の4つの方法を検討してみましょう。
- 証券会社に分割払いが可能か相談する
- ローンを利用する
- 売却できる資産がないか検討する
- 知人に借りられるか相談する
それぞれの方法についてわかりやすく解説します。
証券会社に分割払いが可能か相談する
追証や不足金は基本的には一括払いです。しかし、どうしてもまとめて払えないときは、証券会社に分割できないか相談してみましょう。分割払いに応じてもらえるときは、差し押さえを回避できます。
ローンを利用する
分割払いに応じてもらえない場合には、ローンを組んで支払うことも検討しましょう。
なお、追証や不足金の支払いには期限が定められています。期限を超えると遅延損害金が発生するため、さらに負担が増えてしまいます。期限までに支払えるように、申し込みから借り入れまでの期間が短いローンを選ぶようにしましょう。
クレディセゾンの「MONEY CARD(マネーカード)」は、最短でその日のうちに指定の口座への振込みによる融資が可能なローンです。限度額の範囲内であればすぐにお金を借りられるため、万が一に備えて事前に申し込みをしておきましょう。
MONEY CARD GOLDについて詳しく知りたい方は以下をご覧ください。
売却できる資産がないか検討する
バッグや時計などの売却できる資産があるときは、質屋やリサイクルショップなどで売ることも検討しましょう。また、追証や不足金の金額が大きいときは、車や不動産などを手放すことを検討することもあるでしょう。資産を売却してお金を準備する場合、返済しなくても良いというメリットがあります。
知人に借りられるか相談する
現金化できそうな資産がないときは、知人や親族などに借りるという方法も検討できます。しかし、相手に負担をかける方法のため、無理のない範囲で頼むことが大切です。
借用書を記載して計画的に返済するならば、相手も安心して貸せるかもしれません。借用書に記載した約束を違えると、信用を失うことになりかねないため注意が必要です。
追証が払えない状況を回避するための方法
例えば、会社の業績が下がって収入が減った場合、投資資金にも影響を与えます。追証を請求されてもすぐには応じられないこともあるかもしれません。追証が払えない事態を回避する方法として、次の4つが挙げられます。
- レバレッジを低めに設定する
- ロスカットのルールを決めておく
- 価格変動に影響しない証拠金の割合を多くする
- 信用二階建て投資は避ける
それぞれの方法を詳しく解説します。
レバレッジを低めに設定する
レバレッジとは、証拠金を担保にして自己資金以上の取引を可能にする仕組みです。日本の証券会社では信用取引におけるレバレッジは最大約3.3倍と定められています。レバレッジを高めにすると、少ない資金で多額の取引ができるというメリットはありますが、追証が発生しやすくなる点には注意が必要です。
信用取引においても、常に思ったような価格変動をするとは限りません。価格が予想外に変動するケースに備えて、レバレッジを低めに設定しましょう。
ロスカットのルールを決めておく
保有銘柄の価格の動きをこまめに確認し、損失が出そうなときは早めに見切りをつけて手放すようにしましょう。このように見切りをつけて手放すことをロスカットと呼びます。投資を始める際に、「〇円以下になったら売却」のようにロスカットのルールを決めておくと、迷わず手放せるでしょう。
価格変動に影響しない証拠金の割合を多くする
価格変動によって追証が発生する状況でも、そもそもの証拠金が多めにあれば、そこから補てんされるため、追証を請求されにくくなります。取引額に対して最低保証金率ぎりぎりの証拠金を入金するのではなく、余裕を持って多めに入金し、価格変動が生じても追証が発生しにくいようにしておきましょう。
信用二階建て投資は避ける
現物株を担保にして、同じ銘柄を信用買いする投資方法を「信用二階建て投資」と呼びます。信用二階建て投資をすると、株価が下がると担保も信用買いした株式もどちらにも含み損が生じ、追証が発生しやすくなるため注意が必要です。
現物株を担保にするときは、信用買いする銘柄の価格変動とは関連しにくい銘柄を選ぶようにしましょう。あるいは現物株と比べると価値が変わりにくい現金(証拠金)を担保にすることでも、信用二階建て投資のリスクを回避できます。
よくある質問(FAQ)
- 追証はいつまでに支払う必要がありますか?
- 追証の支払期限は証券会社によって異なりますが、一般的には2〜3営業日以内です。具体的な期限は証券会社からの連絡で確認してください。期限を過ぎると遅延損害金が発生する可能性があります。
- 追証の金額はどのように計算されますか?
- 追証の金額は、(必要保証金 – 現在の保証金評価額)で計算されます。必要保証金は取引額の30%程度で、証券会社によって異なります。具体的な計算方法は、利用している証券会社に確認してください。
- 追証を支払えない場合、すぐに強制決済されますか?
- 必ずしもすぐには強制決済されませんが、証券会社の規定による期限内に支払いがない場合、強制決済される可能性が高くなります。できるだけ早く証券会社に連絡し、対応策を相談することをおすすめします。
- 追証の発生を事前に防ぐ方法はありますか?
- はい、以下の方法が有効です
- 保証金に余裕を持たせる
- レバレッジを控えめに設定する
- 損切りラインを事前に決めておく
- 市場の動向を常に注視する
- はい、以下の方法が有効です
- 追証が発生した後、株価が回復して含み益になった場合はどうなりますか?
- 追証の請求が発生した時点で支払い義務が生じるため、その後株価が回復しても追証を支払う必要があります。ただし、支払期限前に回復した場合は、証券会社に確認することをおすすめします。
おわりに
追証は信用取引を行う投資家にとって避けて通れないリスクの一つです。しかし、適切な知識と準備があれば、その影響を最小限に抑えることができます。
本記事で解説した通り、追証が発生した場合には迅速な対応が重要です。証券会社との交渉、分割払いの相談、あるいは必要に応じて債務整理の検討など、状況に応じた適切な対策を取ることが重要です。
同時に、追証の発生を未然に防ぐための方策も重要です。適切なリスク管理、レバレッジの調整、そして市場動向の把握に努めることで、追証のリスクを大幅に軽減することができるでしょう。
投資は常にリスクを伴いますが、正しい知識と慎重な姿勢があれば、そのリスクを管理し、長期的な資産形成につなげることができます。この記事が皆様の投資活動の一助となり、より安全で効果的な投資戦略の構築に貢献できれば幸いです。