「病気やケガで仕事に就けない」「働きたいけど就職先が決まらない」となると、生活費が心配になります。そんな時にサポートしてくれるのが、傷病手当金や失業保険です。しかし、どちらを受け取った方が得なのでしょうか。
そこで、傷病手当金と失業保険の支給要件・支給額・支給期間から、どちらが得になるのかを探ってみましょう。傷病手当金や失業保険をうまく受給することで、生活費の心配をせずに就職活動に励みませんか。
傷病手当金は、病気やケガで療養するために仕事を休まざるを得ない場合に、ご自身が加入している健康保険や共済組合から支給されるお金です。病気やケガで就業できないまま退職した場合、退職後も引き続いて給付されます。一方、失業保険とは、雇用保険の「基本手当」のことで、失業状態になったときに受け取れる手当をいいます。失業保険は、病気やケガで就労できない場合には支給の対象外です。したがって、傷病手当金と失業保険は同時に受け取ることはできません。
ご自身の給与額や年齢などによって支給額が異なるため、一概にどちらが得とはいえません。実際に計算し、比較してみましょう。
傷病手当金と失業保険について知っておこう
傷病手当金と失業保険はどちらが得なのかを知る前に、それぞれの制度について理解を深めておきましょう。制度の概要とともに、支給要件・支給額・支給期間などをまとめました。
傷病手当金とは
傷病手当金は、病気やケガで療養するために仕事を休まざるを得ないときに、ご自身が加入している健康保険や共済組合から支給されます。ただし、病気やケガで仕事を休んでいるすべての方が受け取れるわけではありません。傷病手当金の目的は、被保険者とその家族の生活を支えるためであることから、仕事を休んでいる間に充分な報酬が得られない場合に限ります。他にも、傷病手当金には支給要件が定められていますので、次で詳しく見てみましょう。
雇用保険における「傷病手当」との違い
「傷病手当金」と混同されやすい言葉として、雇用保険に基づく「傷病手当」が挙げられます。傷病手当とは、求職活動中の病気やケガによって職に就けないときに支給されるお金です。
具体的には、離職後にハローワークで求職の申し込みをした後、病気やケガの療養のため15日以上職に就けない場合に支給されます。なお、「傷病手当金」と「傷病手当」はそれぞれ受給要件が異なるため、併給はできません。
傷病手当金の支給要件
傷病手当金の支給要件は4つあり、すべてを満たす必要があります。
- 業務外の事由で起こった病気やケガの療養中である
- 就労できない状態である
- 連続3日間仕事を休み、4日目以降にも休んだ日がある
- 休み中に給与や報酬の支払いがない
まず、業務外の事由で起こった病気やケガでなければなりません。業務中、あるいは通勤途中で負った病気やケガは、健康保険ではなく、労働者災害補償保険(労災保険)の適用となります。
病気やケガを療養するため、就労できない状態であることも必須になります。ただし「働けない」と判断するのはご自身ではありません。医師の意見と被保険者の仕事内容を基に判断されます。
また、傷病手当金を受け取るには、3日間連続で仕事を休み、その間給与や報酬が支払われていないことが条件になります。連続した3日間の休み(待期期間)が完了すれば、4日目以降の休みから傷病手当金支給の対象となるのです。
有給で休んでいる間は傷病手当金が受け取れないので、注意しましょう。
なお、国民健康保険に加入している方は、傷病手当金の制度が適用されません。ただし、自治体によっては新型コロナウイルスに感染した場合、傷病手当金を支給するケースがあります。
傷病手当金の支給額
傷病手当金の支給額は、給与のおよそ2/3と考えてください。詳しい計算式は、以下のとおりです。
傷病手当金が支給される日を境に、健康保険などの加入期間によって2つのパターンで計算します。
【支給開始日以前に12ヵ月以上健康保険に加入していた場合】
1日当たりの支給額=12ヵ月間の各標準報酬月額の平均÷30日×2/3
【支給開始日以前の健康保険加入歴が12ヵ月未満の場合】
- 1日当たりの支給額=継続した各月の標準報酬月額の平均÷30日×2/3
- 1日当たりの支給額=前年度9月30日時点の全被保険者の同月の標準報酬月額の平均値÷30日×2/3
※1または2のいずれか少ない方の金額を支給
標準報酬月額とは、給与などの報酬月額を段階的に区切り、該当区分ごとに決まっている金額を指します。例として、東京都在住で協会けんぽに加入している場合の標準報酬月額を、一部表にまとめました。
報酬月額 | 標準報酬月額 |
---|---|
485,000~515,000円 | 500,000円 |
515,000~545,000円 | 530,000円 |
545,000~575,000円 | 560,000円 |
毎月の給与が520,000円の方の場合、標準報酬月額「530,000円」を計算式に当てはめて傷病手当金の支給額を求めます。
また、標準報酬月額の平均値とは、前年度の9月30日時点で加入している全被保険者の標準報酬月額を平均した値です。ちなみに、協会けんぽの場合、2023年9月30日時点における標準報酬月額の平均値は、307,007円となっています。
なお、この値は加入している健康保険などによって異なる可能性があるため、詳しくは加入先の健康保険組合等にご確認ください。
参照元:病気やケガで会社を休んだとき(傷病手当金)、令和6年3月分(4月納付分)からの健康保険・厚生年金保険の保険料額表、【健康保険】令和6年度の任意継続被保険者の標準報酬月額の上限について
傷病手当金の支給期間
傷病手当金が支給される期間は、通算1年6ヵ月です。支給開始日から1年6ヵ月間ではなく、実際に休んだ日の合計が1年6ヵ月に達すると、支給停止となります。そのため、仕事の休みの合間に出勤した日は、傷病手当金の支給期間にカウントされません。
パート・アルバイトでも傷病手当金はもらえる?
雇用形態に関わらず、社会保険に加入していればパートやアルバイトでも傷病手当金を受け取ることが可能です。現在、社会保険に加入するには年収が130万円を超えているか、もしくは以下の要件をすべて満たしている必要があります。
- 使用される従業員が常時101人以上の企業に在籍
- 週の所定労働時間が20時間以上かつ1年以上雇用される見込みがある
- 所定内賃金が月額8万8000円以上(残業代・賞与を除く)
- 2ヵ月を超える雇用の見込みがある
- 学生ではない
なお、2024年10月から社会保険・厚生年金の適用範囲が拡大する見込みです。具体的には、「使用される従業員が常時101人以上の企業」から「使用される従業員が常時51人以上の企業」へと適用範囲が拡大します。
したがって、これまで社会保険の適用範囲外で働いていたパート・アルバイトの方でも、10月から新たに加入対象となる方が出てくると考えられます。社会保険に加入できれば、病気やケガで働けない場合に傷病手当金を受け取れるだけではなく、将来の年金額が増えるといったメリットも得られます。
しかし、いわゆる「年収の壁」を意識し、扶養の範囲内で働いているパートやアルバイトの方々にとっては、社会保険への加入はメリットだけではありません。新たに社会保険料を負担することになるので、これまでと同じ就業時間では手取り額が減少します。働き方については勤務先や家族と相談の上、慎重に判断しましょう。
失業保険とは
失業保険の正式名称は、雇用保険の「基本手当」です。雇用保険の被保険者が失業状態になったときに、受け取れる手当です。失業保険を支給することで、失業状態の方が生活費の心配をせずに就職活動に励み、一日も早く再就職をしてもらうことを目的としています。
そのため「働きたい」という意思が伝わらないと、失業保険が給付されません。詳しい要件を見ていきましょう。
失業保険の支給要件
失業保険の支給要件は、次のとおりです。
- ハローワークに行き、積極的に就職活動をしている
- 就職できる能力があり、努力しているにもかかわらず就職先が決まらない
- 離職日より以前の2年間で雇用保険に12ヵ月以上加入している
いずれの要件にも当てはまれば、失業保険の支給対象となります。ただし、次の状態では「積極的に就職する意思」「就職できる能力」「努力している」という観点から外れてしまうため、失業保険が支給されません。
- 病気やケガですぐに就労できない
- 妊娠・出産・育児に専念するためすぐに就労できない
- 家事に専念するためすぐに就職できない
- 退職後、しばらく休養する予定である
失業保険の支給額
失業保険の支給額を割り出すには、はじめに「賃金日額」を求めます。
【賃金日額の計算式】
賃金日額=離職直前の6ヵ月間の給与の合計(賞与を除く)÷180
賃金日額が計算できたら、年齢や賃金日額ごとに定められているパーセンテージをかけ合わせ「基本手当日額」を導き出します。基本手当日額が、実際に受け取れる1日当たりの金額です。
【基本手当日額の計算式】
基本手当日額=賃金日額×50~80%(60~64歳は45~80%)
賃金日額と基本手当日額には、年齢区分ごとに応じた上限額が設けられています。2024年8月現在の上限額を表にまとめました。
離職時の年齢区分 | 賃金日額の上限額 | 基本手当日額の上限額 |
---|---|---|
~29歳 | 14,130円 | 7,065円 |
30~44歳 | 15,690円 | 7,845円 |
45~59歳 | 17,270円 | 8,635円 |
60~64歳 | 16,490円 | 7,420円 |
つまり、賃金日額の上限額を超えた場合は、自動的に基本手当日額の上限額を受け取ることになります。
失業保険の支給期間
失業保険の支給期間は、原則、離職した日の翌日以降の1年間です。なお、雇用保険の一般被保険者が基本手当の支給を受けられる日数は、90日~360日です。
この日数は、離職時の年齢や雇用保険の被保険者期間、離職理由などによって左右されます。つまり、失業保険の支給期間である1年間の間に、基本手当の日数分の支給を受け取ることになります。
失業保険の支給期間の例外として、病気や妊娠などで失業保険がもらえない期間があった場合、働けなくなった日数分だけ延長可能です。失業保険の受給期間を最大3年間延長でき、トータル4年間となります。ただし、働けない日数が30日以上であることが条件です。また、離職時に65歳以上だった方は、受給期間が延長できません。
ここで注意したいのが、失業保険の待期期間です。失業保険にも待期期間があり、申請したからといって、すぐに手当てがもらえるわけではありません。ハローワークに離職票の提出および求職の申し込みをした日から7日間は待期期間となり、失業保険が支給されないのです。
自己都合で退職した場合には、待期期間終了の翌日からさらに2ヵ月間失業保険が受給できない「給付制限」が追加されます。ご自身に大きな非がある重責解雇や職業指導を正当な理由なく拒否したケースでも、1~3ヵ月の給付制限がつくことを覚えておきましょう。
参照元:ハローワークインターネットサービス – よくあるご質問(雇用保険について)、Q&A~労働者の皆様へ(基本手当、再就職手当)
傷病手当金と失業保険は結局どちらが得?
「病気やケガで療養中ではあるけれど、働こうと思えば働ける」という状態だと、傷病手当金と失業保険のどちらをもらうか迷ってしまうでしょう。
傷病手当金と失業保険は、年齢や退職理由などによって受け取れる金額が異なるため、どちらが得か断言できません。ここでは、先ほど紹介した計算式に以下の条件を当てはめ、それぞれの支給額をシミュレーションしてみます。
- 東京都在住
- 協会けんぽに12ヵ月以上加入
- 離職時50歳
- 給与月額550,000円
【傷病手当金の日額】
560,000円÷30日×2/3=およそ12,444円
※給与月額550,000円の標準報酬月額は560,000円
【失業保険の賃金日額】
3,360,000(550,000円×6ヵ月分)円÷180=およそ18,666円
※45~59歳の場合、賃金日額17,270円以上は上限額になるので、基本手当日額は8,635円(2024年度)
この条件でもらえる日額を計算すると、傷病手当金は約12,444円、失業保険は8,635円円です。つまり、この方の場合は傷病手当金をもらった方が得になります。シミュレーションを参考に、ご自身の給与額や保険加入月数、年齢などに応じて計算し、どちらが得なのか検証してみましょう。
傷病手当金と有給休暇の取得はどちらを選ぶべき?
傷病手当金は「12ヵ月間の各標準報酬月額の平均÷30日×2/3」が支給されます。一方、有給休暇の場合は給与の100%が支払われます。そのため、単純に考えれば有給休暇を取得したほうがお得です。
ただし、療養期間が長期におよぶ場合は有給休暇では足りなくなってしまう可能性があります。また、有給休暇は入社後一定期間経過しないと付与されなかったり、付与日数が少なかったりするため、取得が難しい場合もあるでしょう。このような場合は、傷病手当金を受け取る方が有利といえます。
なお、基本的に有給休暇を使うと傷病手当金は受け取れませんが、以下のようなケースでは両方受け取れます。
- 有給休暇によって得た給与が傷病手当金の支給額よりも少ない場合
- 傷病手当金の待期期間(原則として病気やケガで仕事を休んだ日から3日間)に有給休暇を使う場合
有給休暇によって得た給与が傷病手当金の支給額よりも少ない場合は、その差額を傷病手当金として受け取ることが可能です。また、傷病手当金の待期期間中は給付金が支払われませんが、この期間に有給休暇を取得した場合、その分の期間は待期期間から除外され、収入がない期間を減らすことができます。
【注意】傷病手当金と失業保険は同時に受給できない
お伝えしたように、病気やケガで働けない間は失業保険がもらえないため、傷病手当金と失業保険は同時に受給できません。そこで、まずは傷病手当金を受給し、療養が終わって働けるようになったら失業保険をもらうのが良いでしょう。
しかし、傷病手当金を長く受け取ると、失業保険の支給期間(離職日翌日から1年間)が過ぎてしまう恐れがあります。そのため、失業保険の受給期間延長の申請が必要なケースが発生します。
ちなみに、病気やケガが理由で離職した場合、失業保険の給付制限はありません。したがって、傷病手当金から失業保険に切り替えた後、7日間の待期期間が満了すれば失業保険が支給されます。
ここからは、傷病手当金を受給した後に失業保険へ切り替える手順や方法を確認していきましょう。
失業保険の受給期間延長と傷病手当金からの切り替え方法
申請が退職後29日以内の場合、傷病手当金から失業保険への切り替えである旨を申告する必要はありますが、一般的な失業保険の申請手順と大きな違いはありません。しかし、退職してから就労するまで30日以上かかる場合は、失業保険の受給期間延長手続きを行う必要があります。ご自身がハローワークに行けなくても、郵送や代理人申請が可能です。
- 離職票・雇用保険受給資格者証・受給期間延長申請書・医師の証明書(延長理由を示すもの)を準備する
- 1の書類をハローワークに提出し、失業保険の受給期間延長の申請を行う
- 働けるようになったら医師に証明書(就労可能となったことを示すもの)をもらう
- 傷病手当金の申請を止める
- 受給期間延長通知書・雇用保険受給資格者証・延長理由が止んだことを示す書類をハローワークに提出し、受給延長を解除する
- 待期期間を満了させる
- 失業保険を受け取る
まずはハローワークで失業保険の受給期間延長の申請を行います。病院を受診し、病気やケガの療養のためしばらく働けない証明をもらってください。または、傷病手当金の申請書でも代用可能です。
病気やケガが回復し、働けるようになったら傷病手当金の受給を終了し、失業保険の受給延長を解除します。病気やケガで療養していた期間や、回復して就労可能となったことを示す証明書を準備しましょう。地域のハローワークによって持ち物が異なるケースがあるので、事前に電話などで確認しておくと安心です。
受給延長解除ができたら、待期期間を経て失業保険が受け取れます。
切り替えの際に気をつけたいこと
最後に、傷病手当金を受給してから失業保険へ切り替える際に、注意したいポイントをまとめました。
受給期間延長の申請はなるべく早く行う
病気やケガなどで30日以上働けないようであれば、早めに失業保険の受給期間延長手続きを行いましょう。延長の申請は、30日以上継続して就労できなくなった日の翌日から可能です。離職前から仕事を休んでいた場合は、退職した翌日から30日経過すれば申請できます。
受給期間延長の申請は、延長後の受給期間最終日まで可能です。しかしながら、申請が遅れると所定給付日数すべてを受給できないリスクがあります。そのため、なるべく早いタイミングで受給期間延長の申請を済ませましょう。
待期期間中は傷病手当金も失業保険も受け取れない
失業保険の待期期間中は、傷病手当金も失業保険も受け取れません。どちらの手当ももらえない期間があることを、あらかじめ把握しておきましょう。
待期期間中の急な出費の対策として、セゾンのカードローン「MONEY CARD GOLD(マネーカードゴールド)」を持っておくと安心です。ATMの利用手数料は何度でも無料で、最高300万円までの利用可能枠が設定されています。スマホやパソコンから、指定の金融機関口座に最短数十秒で振り込みも可能です。
MONEY CARD GOLDについて詳しく知りたい方は以下をご覧ください。
おわりに
傷病手当金と失業保険は、どちらが得かは断言できません。給与額や年齢などによって支給額が変わるので、どちらを受け取るか迷ったら一度シミュレーションして確認すると良いでしょう。
病気やケガの療養中は傷病手当金を受給し、就労可能になったら失業保険に切り替えるのが良さそうです。今回紹介した計算方法や手続きの流れを参考に、傷病手当金や失業保険の受け取り方を検討してみてください。
※本記事は公開時点の情報に基づき作成されています。記事公開後に制度などが変更される場合がありますので、それぞれホームページなどで最新情報をご確認ください。