不動産の購入にあたって、不動産売買契約書の内容が難しくて不安に感じている方も多いのではないでしょうか。
不動産売買契約書は、不動産の売買におけるトラブルを避けるために必要な書類です。
そこで本記事では、不動産売買契約書の記載事項や必要性に加え、契約の流れや必要書類について解説します。本記事を読んでいただければ、不動産売買契約書の内容と確認すべきポイントがわかるため、安心して契約を締結できるでしょう。
この記事を読んでわかること
- 不動産売買契約書は、売買対象物件の内容や取引条件を記載した重要な書類である。
- 書面には物件の概要、合意条件、金銭に関する事項、契約解除の要件や方法、契約不適合責任などが詳細に記載されている。
- 専門的な内容が含まれており、契約の手続きや注意点を理解して臨む必要がある。
不動産売買契約書とは?
不動産売買契約書とは、不動産の売買契約時に作成し、署名捺印する書類です。民法の規定によると不動産の売買契約は口約束でも有効ですが、契約の安全性を確保するために契約書を作成するのが一般的です。
本章では、不動産売買契約書の概要と必要性、契約の解除について解説します。
不動産売買契約書について
不動産売買契約書とは、不動産の売買契約について、対象物件の情報や売主と買主が合意した条件などを記載する書類のことです。
民法における売買契約は売りたい買いたいという意思表示がなされ双方が合意した時点で成立しますが、不動産の売買契約は売主と買主が契約書に署名した時点で成立したとみなされます。これは高額な取引となることが多い不動産取引の慣行によるもので、過去の判例でも示されています。
不動産売買契約書の書式は自由です。個人間売買の場合は売主や買主も作成できますが、一般的には不動産会社・仲介業者が作成します。
不動産売買契約書を締結する必要性
個人間の不動産売買では、売買契約書の作成は義務ではありません。しかし、不動産売買は高額な取引となるため、売主と買主の間で認識の相違によるトラブルを防止するために、書面を作成します。
また、住宅ローンを利用する場合は、金融機関から不動産売買契約書の提出が求められます。その他税務関係の申告や各種控除を申請する際にも、売買契約書の提出が求められるケースが多いです。
不動産売買契約の解約は可能?
不動産売買契約は、一定のペナルティを受ければ、売主と買主どちらからでも契約を解除できます。契約を解除する方法は以下のとおりです。
- 手付放棄による解除
- 違約金による解除
- 住宅ローン特約による解除
- 契約不適合責任による解除
- 消費者契約法による解除
- 売主買主双方の合意による解除
- クーリングオフによる解除
宅地建物取引業法では、一定の要件に当てはまる場合に、買主にクーリングオフによる契約解除を認めています。クーリングオフが利用できる要件は、以下のとおりです。
- 売主が宅建業者であること
- 売主の事務所等以外の場所で申込みあるいは契約がなされたこと
- 買主が宅建業者でないこと
買主の申し出により買主の自宅や勤務先にて契約した場合は利用できません。クーリングオフは、申込みあるいは契約から8日以内に書面にて申し出なければならないため、期間に注意しましょう。
<基本事項>不動産売買契約書において確認すべきポイント
不動産売買契約書には日常生活では使うことのない不慣れな専門用語や難しい条文があるため、しっかりと理解する必要があります。
本章では、不動産売買契約書の記載事項について確認すべきポイントを解説します。
対象物件の情報
不動産売買契約書には、売買の対象となる土地や建物の情報が記載されています。具体的には法務局で取得できる登記簿謄本に記載してある以下のような内容です。
- 所在
- 地番
- 面積
- 持分
- 建物の構造 など
対象となる土地が複数ある場合は、全ての土地の情報を記載しなければなりません。地域によっては、一般的に使用される住所と登記簿謄本の地番が異なる場合もあります。
記載されている内容に間違いがないか、登記簿謄本と照らし合わせながら細かく確認しましょう。
売買代金や手付金などの確認
取引に関わる金額は重要な事項であるため、売買代金や手付金、支払日などに間違いがないかを必ず確認しましょう。
建物に消費税がかかる場合は、その金額も記載されます。支払いが遅延すると違約となる可能性があるため、手付金、中間金、残代金は金額だけでなく支払期日もしっかりと確認しなければなりません。
土地面積や代金の清算
登記簿謄本に記載されている土地面積を「公簿面積」、現地にて有資格者が測量した土地面積を「実測面積」といいます。
測量した結果、公簿面積と実測面積が異なるケースも珍しくありません。その差異を後日清算する場合は、対象となる土地の面積と清算の単価が不動産売買契約書に記載されています。都心部などは土地の価格が高く、少しの面積差で売買価格が大きく異なる場合もあるため、必ず確認しておきましょう。
なお、公簿売買といい、実測面積と差異があっても清算しない場合もあります。
境界についての確認
境界の確認は不動産取引の重要なポイントです。
現地に境界標がある場合は売主と買主が立ち会って確認しますが、確認できない場合にどうするかが問題になります。
中古戸建など、以前に測量が行われてから長い時間が経っている場合、現地の境界標がなくなっていたり測量後に設置されたコンクリート塀の下に埋まっていたりして、境界標が確認できないことがあるためです。
通常は、売主の費用負担で土地家屋調査士などに依頼し、隣地所有者立ち会いのもと測量を行い、境界を確定させます。
一方で、法務局に保管されている測量図を提示する代わりに、売主が境界を明示しないことを契約条件とする場合もあります。
将来境界をめぐって隣地所有者とトラブルにならないように、境界標の有無や無い場合の対応を必ず確認しましょう。
所有権の移転と引き渡し日
一般的に不動産の売買では、売買代金(残代金)の支払いと対象物件の引き渡し、所有権移転登記を同時に行います。これを同時履行といいます。同時履行をするのは代金を支払ったにもかかわらず物件を引き渡してもらえない、所有権移転登記をしたのに代金を支払ってもらえない、といったトラブルを防ぐためです。
不動産売買契約書には「本物件の所有権は、買主が売主に対して売買代金全額を支払い、売主がこれを受領した時に売主から買主に移転します」といった旨の文言が記載されています。
税金の分担確認
売主と買主間で支払われる金額には、売買代金の他に固定資産税と都市計画税の清算金があります。
固定資産税と都市計画税は1月1日時点の所有者に請求書が送付されるため、売主が全額を納付し、引渡し時に日割り清算するのが一般的です。1月1日から引渡日の前日までが売主の負担、引渡日から12月31日までが買主の負担となります。
不動産売買契約書には分担の起算日と清算日が明記されているため、間違いがないか確認が必要です。
設備の引き渡しや修復について
戸建住宅やマンションの場合、エアコンや庭木など設備の引き継ぎや故障・修理についての確認が必須です。何を引き継いで何を撤去するのか、引渡し後に故障した場合はどちらが修復するのかが原因でトラブルになるケースは珍しくありません。
不動産売買契約書、あるいは付帯設備表や物件状況報告書など別紙書面で、引き継ぐ設備の内容や状況、引き渡し後の対応について明確にする必要があります。
解約条項
不動産売買契約書には、契約が解約となるケースがいくつか定められています
具体的には融資利用の特約です。融資利用の特約とは、買主の住宅ローンが期日までに承認を得られなかった場合に契約解除となる特約です。
また、消費者契約法により契約解除となる場合もあります。消費者契約法は、売主・買主のどちらかが宅建業者の場合に適用される法律であり、個人の売主や買主が事実と誤認するような間違った内容を宅建業者から説明されて契約してしまったケースなどが該当します。
契約不適合責任
引き渡した物件について、種類、品質、または数量において契約の内容に適合しない場合、売主が買主に対して責任を負うことを契約不適合責任といいます。契約不適合があった場合、買主は売主に以下の権利を請求できます。
請求できる権利 | 内容 |
追完請求 | 契約内容に適合した状態に修復するように請求すること |
代金の減額請求 | 修補を請求をしても売主が応じない場合や、契約内容に適合する状態へ修復できない場合、買主は代金の減額請求が可能 |
契約解除 | 買主は催告したうえで契約解除を請求する権利を持つ。ただし、明らかに契約の目的を達せられない場合は、催告せずに契約解除が可能 |
損害賠償請求 | 契約不適合による損害賠償請求が認められている。ただし、売主に落ち度や過失がない場合は請求不可 |
契約不適合責任は、契約内容に適合しない場合に追うため、別紙で作成する付帯設備表に明記されている欠陥については契約不適合責任を負わないと定められています。
買主は、契約不適合があることを知ってから1年以内に売主へ通知する必要があります。ただし、売主の責任があまりにも重いため、実際の不動産取引では引き渡し後3ヵ月以内などの条件が付けられているのが一般的です。
<解除について>不動産売買契約書において確認すべきポイント
契約後に何らかの理由で契約を解除しなければならなくなったり、反対に解除されたりすることが起こり得ます。そのような際にも、事前に契約解除の条件や手順を認識しておけば、慌てずに対応できるでしょう。
本章では、契約解除の規定と方法を解説します。
手付解除についての規定
何らかの事情によりやむを得ず解除しなければならない場合は、手付解除をするのが一般的です。
買主は手付金を放棄すれば無条件で契約を解除できます。一方、売主が手付解除を行うには、手付金を買主に返却し、さらに手付金と同額を買主に支払います(手付の倍返し)。
ただし、手付解除ができるのは、相手方が契約の履行に着手するまでです。契約の履行とは、売主が所有権移転登記の手続きを行ったり、買主が中間金や残代金を支払ったりすることを指します。なお、通常の契約では契約書に手付解除の期限が明記されています。
契約違反によって起こり得る解除や違約金について
契約違反(債務不履行)があった場合、違反によって被害を被った方は契約を解除できます。例えば、物件を引き渡したのに代金を半額しか払ってくれない、代金を全額支払ったのに所有権を移転してくれないなどのケースが該当します。
契約を解除する際は、解除と合わせて違約金の請求が可能です。違約金の金額は不動産売買契約書に記載されており、通常は手付金を充当して支払います。
引き渡し前に発生した滅失や毀損について
自然災害など売主や買主の責任ではない理由で物件が滅失または毀損した場合、売主は修復して買主に引き渡さなければなりません。ただし、損害が甚大で修復が不可能な場合や修復に多大な費用がかかる場合は、契約を無条件で解除できます。
自然災害はいつ発生するかわかりません。万が一に備えて、内容をしっかりと把握しましょう。
不動産売買契約書の締結にあたって注意すること
不動産の売買は専門的で難しいことが多いため、契約には注意が必要です。
本章では、不動産売買契約書の締結にあたっての注意点を解説します。具体的には以下のとおりです。
- 契約書の不明点はその場で解消する
- 手付金の相場について
- 重要事項説明書もしっかり確認する
- 宅建協会のモデル契約書と比較してみる
不動産の売買契約で失敗しないために、これらの注意点をしっかり把握しましょう。
契約書の不明点はその場で解消する
不動産売買契約書には不慣れな専門用語が多く使われており、一度説明を聞いただけでは理解できないような難しい内容も含まれています。
不動産会社はプロですが、信用しているからと任せきりにするとトラブルに発展する可能性もあります。
契約書は細部までしっかり読み、わからない部分があれば遠慮なく質問して疑問点を解決してから契約を締結しましょう。また、契約当日に契約書を読むのではなく、事前に草案を受け取り確認しておくのもおすすめです。
手付金の相場について
手付金とは、不動産の売買契約時に買主から売主に支払う金額のことで、引渡し時に売買代金の一部に充当されます。手付金の種類は以下の3つに分けられます。
- 解約手付:当事者に契約の解約権を持たせるもの
- 証約手付:売買が成立した証となるもの
- 違約手付:債務不履行があった場合に違約金となるもの
一般的に特段の定めがない場合は解約手付と推定されます。
手付金の上限は法律で定められていませんが、相場は売買代金の5〜10%程度です。売主が宅建業者の場合、手付金の上限は20%と定められています。
手付金は、高すぎると手付解除の際に高額な金額を支払わなければなりませんし、少なすぎると簡単に手付解除できてしまいます。
手元に現金が少なく少額の手付金しか用意できない場合は、売主の了解を得なければなりません。買主から売主に直接交渉するケースは少ないため、まずは不動産会社に相談しましょう。
重要事項説明書もしっかり確認する
重要事項説明書とは、不動産の売買契約を締結するにあたって買主が知らなければならない重要な事項について説明している書類です。契約締結前に買主に対して宅地建物取引士が重要事項を説明します。
契約の重要な事項が記載されているため、しっかりと説明を聞いて疑問点は遠慮なく質問しましょう。
また、不動産売買契約書と重要事項説明書にはいくつかの関連書類が添付されています。法務局に備え付けられている登記簿や測量図、建築図面、道路図やライフラインの埋設管状況などです。それらの書類も合わせて確認しましょう。
宅建協会のモデル契約書と比較してみる
不動産会社が加盟する宅建協会では不動産売買契約書の雛形を提示しており、それを利用して契約書を作成している不動産会社は多いです。
雛形は宅建協会のホームページからダウンロードできるため、不動産会社が作成した契約書と見比べてあまりに劣る部分があれば説明を求めましょう。
購入を検討する過程で雛形に目を通しておくと、物件を実際に見学したり担当者の説明を受けたりする際に理解が深まります。
参考:公益社団法人全国宅地建物取引業協会連合会「不動産売買契約書」
不動産売買契約書締結の必要書類と流れ
不動産の売買は人生で何度も経験するものではありません。見慣れない書類や専門用語も多いため、わからないことも多いでしょう。
そこで本章では、契約の流れと必要なものを解説します。契約の全体像を理解してから契約に臨みましょう。
不動産売買契約書締結に必要な書類とは
買主が不動産売買契約締結時に用意するものは以下のとおりです。
- 印鑑(住宅ローンを組む場合は実印)
- 手付金
- 身分証明書
- 印紙代あるいは印紙
- 仲介手数料の半金
買主が現金で不動産を購入する場合、印鑑は認印でかまいません。ただし、住宅ローンを利用する場合は、実印が必要になります。
手付金は、不動産売買契約書に署名したタイミングで支払うため、現金または預金小切手で持参するのが一般的です。銀行振込を希望する際はあらかじめ不動産会社に相談しましょう。なお、近年では事前に信託銀行に預け、契約完了のタイミングで信託銀行から売主に振り込む形式も普及しています。
身分証明書に関しては買主本人の運転免許証、マイナンバーカード、パスポートなど顔写真入りの書類が必要です。
また、不動産売買契約書には必ず印紙を貼付します。不動産会社が印紙を用意する場合は、その分の現金を持参しましょう。
印紙税は契約書に表記される売買代金によって金額が定められています。なお、2024年3月31日までに作成される不動産売買契約書については、印紙税の軽減が適用されます。
売買代金 | 印紙税額 |
100万円を超え500万円以下 | 1,000円 |
500万円を超え1,000万円以下 | 5,000円 |
1,000万円を超え5,000万円以下 | 10,000円 |
5,000万円を超え1億円以下 | 30,000円 |
1億円を超え5億円以下 | 60,000円 |
参照元:国税庁「不動産の譲渡、建設工事の請負に関する契約書に係る印紙税の軽減措置」
本人の代わりに代理人が契約をしたり、住宅ローンの事前審査を同時に行ったりする場合、売買契約時に必要なものが変わります。準備が間に合わず当日に慌てることのないように、前もって確認して確実に準備しましょう。
不動産売買契約書締結の流れ
不動産売買契約書の締結は、以下の流れで行われます。
- 重要事項説明書の読み合わせ
- 不動産売買契約書の読み合わせ
- 別紙および添付書類の確認
- 各種書類への署名捺印
- 買主から売主へ手付金の支払い
- 不動産会社へ印紙代や仲介手数料の支払い
- 住宅ローンを利用する場合は本審査の手続き
全体の流れを把握しておくことで、気持ちに余裕を持って契約を進められるでしょう。
不動産売買でお困りの方は不動産会社に相談
不動産売買は専門知識が必要とされる取引です。金額も高額であるため、個人のみで行うにはリスクを伴います。
トラブルを避けてスムーズに取引を行うためにも、不動産売買でお困りの方は不動産会社に相談しましょう。
住宅ローンのことなら「住宅ローンの相談窓口」にお任せ
住宅ローンは金融機関によって金利などの借入条件が異なるため、ご自身に適した住宅ローンを探すのは困難です。ライフプランにもとづいた無理のない返済計画を立てるためにも、住宅ローンの悩みや不明点は専門の窓口へ相談しましょう。
クレディセゾングループが提携するiYellの「住宅ローンの相談窓口」は、国内100以上の金融機関と提携しています。各金融機関の審査基準を統合した情報をもとにご提案を行うため、一般的な住宅ローンの比較情報とは異なり、お客様の希望に寄り添った商品のご提案が可能です。専門の知識を持ったプロのローンアドバイザーに無料で相談したい方は、ぜひ一度ご相談ください。
おわりに
不動産売買契約書とは、不動産の売買契約について、対象物件の情報や売主と買主が合意した条件などを記載する書類のことです。売主と買主間の認識の相違によるトラブルを避けるために不動産売買契約書を作成します。
不動産売買契約書には、取引に関する重要な内容が多数記載されているため、内容をしっかりと理解する必要があります。専門的な内容が多く難しく感じる部分もありますが、本記事で解説した内容をもとに、支払いや解除など特に重要なポイントをおさえておきましょう。
疑問や不明点があれば不動産会社に遠慮なく質問し、しっかりと理解したうえで進めることが大切です。