結婚して同居している夫婦は仲が良ければ問題ないですが、両者の関係が良好でなくなり、夫婦間の関係が破綻してしまった場合、残念ながら離婚という結論に達してしまうでしょう。
離婚は合意であれば成立して、その後は共同生活が中止になりお互い別々に暮らすことになります。しかし、夫婦間の関係がほぼ破綻した状態であっても、同じ屋根の下での暮らしを継続する夫婦もいます。このような夫婦の状態は家庭内別居と呼ばれています。
いったい家庭内別居を選択する夫婦は、どのような経由でそういった状態になるのでしょうか。今回のこのコラムでは、家庭内別居の原因やメリット・デメリット、夫婦の関係を修復する方法などについて、詳しく解説します。ぜひ参考にしてみてください。
1.家庭内別居とは?どんな状態を指す?
家庭内別居と聞いてもいまいちピンとこない方もいるでしょう。
「家庭内で同じ場所に住んでいたらそれは別居といわないのでは?」
「ただ夫婦ゲンカしてるだけの状態では?」
家庭内別居と聞いて、このように違和感を感じる方も少なくないでしょう。では、家庭内別居とはいったいどのような夫婦関係を指すのでしょうか。家庭内別居の定義などにについて説明しましょう。
1-1.家庭内別居の定義
家庭内別居とは、夫婦としての関係が完全に破綻していながら、離婚という選択肢を選ばずにそのまま同居生活を続けている状態の夫婦のことです。
夫婦関係が破綻しているということは、当然良好な関係ではなく仲が悪い状態なので、同居空間でのコミュニケーションはほとんどありません。家庭内別居の夫婦は以下のような状態になります。
- 口を聞かない
- 食事・洗濯などの家事は別々に行う
- 寝室は、別室
家庭内別居を行っている夫婦のタイプによっては、最低限のコミュニケーション・家事は行うなど細かいルールがありますが、基本的には夫婦間の仲は完全に冷めた状態です。
1-2.「仮面夫婦」とどう違うの?
家庭内別居と似たような夫婦関係に仮面夫婦というものがあります。家庭内別居と仮面夫婦の関係を同じものと思っている方もいるかもしれませんが、この2つは厳密には違いがあります。
いつ離婚してもおかしくない状態なのは、家庭内別居も仮面夫婦も一緒です。しかし、外でも家でも夫婦として交流することがほとんどない家庭内別居と違って、仮面夫婦は二人だけでいるとき以外は仲の良い夫婦を演じます。
外で友だち・知り合いなどご自身達以外の第三者に会ったとき、文字どおり「何も問題のない仲良し夫婦」という仮面を付けて、夫婦を演じるのが仮面夫婦なのです。仮面夫婦となる理由は、世間体、経済的な理由などさまざまですが、コミュニケーションを放棄している家庭内別居と違って、仮面夫婦は精神的に負担のかかる夫婦関係といえるでしょう。
2.冷めた夫婦関係でもメリットがある?
なぜ、いつでも離婚できるほど関係が悪化した夫婦のなかには、家庭内別居という手段を選ぶのでしょうか。実は、最悪な関係性と思われている家庭内別居にもメリットは存在します。では、家庭内別居のメリット・デメリットとは何か、その詳細を紹介していきましょう。
2-1.家庭内別居のメリット
家庭内別居のメリットは次のとおりです。
・経済的にひっ迫することがない
夫婦が共働きをしている場合を除き、専業主婦が離婚をすると今後は働いて自立した生活を迫られますが、家庭内別居であれば経済的な負担が少なくて済みます。
専業主婦が小さい子どもを連れて離婚したい場合、ひとりで仕事・育児をこなさないといけないので、子どものために仕方なく家庭内別居をしている例も少なくないようです。
また、離婚してそれぞれ独立すると、ガス・水道・電気といった公共料金や食費も、ひとりで捻出する必要があります。しかし、夫婦共働きで共同の住まいに住んでいれば、生活費は折半となるので、独立した暮らしよりも経済的な負担がありません。
・周囲に騒がれることがない
離婚をすると、友人関係や職場で知れ渡って、他の方から心配されたり、話のネタにされるなどの弊害があり、日常生活でも支障となる場合があります。しかし、夫婦関係が冷めていても公式に離婚していなければ、そんな心配もありません。
2-2.家庭内別居のデメリット
家庭内別居は、メリットだけでなくデメリットも発生します。そのデメリットとは何か、次よりみてみましょう。
・精神的なストレス負担が続く
経済的な理由のため、子どものためなど、いくら割り切った関係でいても、いつ離婚してもおかしくない方と同じ屋根の下で毎日暮らすのは、ストレスが溜まるものです。
なるべくお互い干渉しない、顔を合わせないように努めていても、同じ居住空間にいると、どうしても顔を合わせてしまいます。家庭内別居の時点で険悪な関係になっているのだから、ちょっとしたことが気になって、ケンカに発展することもあるでしょう。
それが毎日のように続くとストレスもどんどん溜まっていき、日常生活にも支障をきたす可能性もあります。
・子どもの負担になる
夫婦二人っきりであれば問題はないですが、もし夫婦の間に子どもがいる場合、複雑になる可能性が高いでしょう。同じ家庭にいるお父さんお母さんがまったく会話をしない状態が続いていれば、子どもは「おかしいな。どうしたんだろう。」と不穏な空気を感じとることでしょう。
子どもがある程度の年齢であれば、事態を察知してそれなりの対処ができるかもしれませんが、小さい子どもの場合は難しいでしょう。仲の良い家族でいたいという気持ちと、どうしたら良いかわからに気持ちの間で不安になってしまい、最悪トラウマになる可能性もあります。
3.離婚する場合は財産分与をしっかりと
家庭内別居はメリットもありますが、それでも夫婦ふたりが家庭内別居の空気に耐えられず多大なストレスを感じるようになった場合、離婚に踏み切った方が良いかもしれません。
離婚の際に気をつけなければいけないことは、財産分与です。財産分与を円滑に進めないとトラブルに発展する可能性もあるので、事前に確認しておくことが大切です。
3-1.財産分与とは
財産分与とは、男女ふたりが夫婦だった期間中に共同でつくった財産である「共有財産」を、離婚時に分与することです。これは民法の規定にある決まりなので、夫婦ふたりとも財産を受け取る権利があります。
財産分与の対象となっているのは、分けることができる財産としての「共有財産」です。なお、結婚前から個人で所有していたもの、個人でつくったものである「特有財産」がありますが、これは基本的に分与の対象外です。
共有財産は、不動産、車、家にある家具や家電、有価証券、預貯金、保険金を解除した際の返戻金、退職金や年金が代表格です。
特有財産は、お互いが独身時代から持っていたご自身名義の預貯金、結婚したあとに相続や生前贈与でもらったお金、不動産などがあります。
参照:法務省:財産分与
3-2.財産分与の決め方
財産分与を決める方法は、夫婦ふたりだけで話し合いで決める方法、家庭裁判所で決める方法があります。
夫婦だけで話し合う場合、裁判所や弁護士費用などの出費、時間もかかりません。しかし、公平な立場の第三者を入れずに話し合いをするので、お互いの主張が食い違ってトラブルに発展する可能性もあります。話し合いが終わったあとに、どちらかがやはり公平な財産分与ではないと、いいがかりをつけることもあるかもしれません。
そのようなトラブルを回避するために、公正証書の作成をしておくと良いでしょう。特に財産分与の対象が不動産など高額なものがあった場合、客観的な証拠になる公正証書があると余計なトラブルを回避できます。
財産分与においてお互いが主張を譲らず話し合いが平行線のままの場合、最終手段として家庭裁判所の審判で決める必要があります。裁判所への手続きは法律などの知識がないと難しいので、弁護士に代行依頼をすると良いでしょう。ただし自分で手続きをやるより費用がかかります。
財産分与についてはこちらで詳しく解説しています。
関連記事:財産分与とは何か?離婚前に知っておきたい、対象となるものならないものなど徹底解説
4.家庭内別居の関係を修復するには
家庭内別居を続けることに苦痛を感じている場合、離婚という方法を選ぶ方もいるでしょう。しかし、離婚を選んだ場合、先述した財産分与や離婚に関する面倒な手続き、世間体などの問題も発生します。
家庭内別居の問題からの解放、離婚の回避をするためには、夫婦間の関係を修復するという選択肢もあるでしょう。しかし、離婚寸前までの険悪な関係を修復するのは簡単なことではありません。難題である夫婦間の関係の修復を図る方法について、以下でポイントを紹介しましょう。
4-1.共通のルール作成
家庭内別居に至る理由のひとつに、「お互いの価値観の不一致」があります。そのため、改めてお互いの嫌なところをピックアップして、そこから妥協点を見出して生活における共通のルールを決めておくのも良いでしょう。あらかじめルールを決めておけば、そのルールにしたがって生活すれば良いのであって、お互いのストレスは緩和されるでしょう。
4-2.別居する
家庭内別居、仮面夫婦、離婚以外の選択肢もあります。それは離婚をせずに実際に別居する方法です。離婚をしてしまうと手続きや周囲の目などを気にしなくてはいけませんが、籍を外さずに別居していれば、そのような心配はありません。
別居となると、お互いが独立して生活しないといけないのでそれぞれの生活費は夫婦時代よりかかりますが、顔を合わせないで済むのでストレスにならないといったメリットがあります。ずっと一緒だった夫婦が距離を置いて生活することで、ご自身及びお互いの存在を客観視できて、険悪な関係も修復できるかもしれません。
4-3.第三者を介して話し合う
当事者同士で話し合いをしても、険悪な関係である以上、どうしてもふたりとも感情的になってしまい、話し合いをスムーズに進めることはできないでしょう。
もし、今後どうするかといった話し合いが進まない場合、離婚調停の時の裁判所と同じ公平な立場である友人・知り合いに第三者に入ってもらい、話を進めるという手段もあります。客観視できる立場である第三者がいれば、ふたりだけの時より、まだ円滑に話し合いが進められて、仲直りのきっかけが芽生えるかもしれません。
4-4.お互いの原点に戻る
夫婦というものは当然ながらお互いが好き合うことによって結婚に至ります。それがなぜこんなにもいがみ合うようになったのか、離婚をする前に、もう一度ふたりで知り合ったころを思い出す作業をすることも必要です。ふたりが出会った頃から今に至るまでを丁寧に振り返れば、どこで気持ちのズレが出てきたのか、何が原因なのかが、浮き彫りになるでしょう。
思い出の写真などを眺めながら振り返る作業をしていると、当時の思い出話に花が咲いて、久しぶりにお互いが笑顔になるでしょう。それにより、お互いささくれだった心が治り、出会った頃のようなふたりに戻れるかもしれません。
おわりに
いくらお互いが好きで結婚したとしても、夫婦とは、ご自身の家族以外の血のつながっていない者同士で同じ屋根の下で暮らす関係です。お互いが長年培ってきた生活のルールなどが異なるため、共同生活でそれをストレスに感じることもあるでしょう。
それが積もり積もって、気がついたら険悪な仲に発展して取り返しのつかない事態に陥る場合もあります。
その結果、今回取り上げた家庭内別居という特殊な関係になる可能性もあるので、このコラムを参考にして、その特徴やメリット・デメリット、対処法などを覚えておくと良いでしょう。