【家計簿はつけなくていい?資産形成のための第1ステップ】

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【家計簿はつけなくていい?資産形成のための第1ステップ】

長寿化が進み「人生100年時代」という言葉をよく目にするようになりました。長生きするということは、リタイアした後、すなわち老後の期間が昔より長くなることを意味します。厚生労働省によると2020年の日本人の平均寿命は、男性が81.64歳、女性が87.74歳でいずれも過去最高を更新しています。もし60歳定年で仕事から引退すると20年以上仕事をしない人生が待っており、それは収入の道が1つ絶たれることを意味します。

「老後資金2000万円問題」が取り沙汰されたのは2019年のこと。金融審議会市場ワーキンググループの報告書「高齢社会における資産形成・管理」が伝えたいことが正確には報道されていませんでしたが、クローズアップされたのはそれだけ老後に不安がある方が多いということの表れなのでしょう。これによって、老後資金について真剣に考える方が増えたように思います。ただ、何から始めたら良いのかわからないと途方に暮れて結局何もしないという方もいらっしゃるようです。また、難しく考えてもしょうがないと開き直ってしまう方も少なからずいて、本気で資産形成に取り組んでいる方が大きく増えているとはいえないでしょう。

このコラムでは、老後資金に不安がありつつも何から始めたら良いかわからない、本気で取り組もうと思っていらっしゃる方のために、まず最初に行うことについてご紹介します。

1.いきなりボルタレンを処方されたらどう思いますか?

「資産形成」というと、すぐに「どうやって貯めたら良いのか」、「株式と投資信託、どちらが良いのか」、「NISAって何?」と考えてしまうことはありませんか?

実際に上記のような貯蓄方法についてご相談を受けることが多くありますが、「お金を貯めることは大切ですが、ご自身の経済状況やお金を貯める目的を明確にすることからはじめましょう」とお伝えしています。

例えば病院に行ったときのことを想像してください。診察室に入ったら、まず医師から「今日はどうされましたか」と質問されて、それに答えていくところから始まりますよね。それがいきなり「今日はボルタレンを1週間分出します」と言われたらどうでしょうか?「どうやって貯めたら良いのか」ということをまず考えてしまう方は、医師がボルタレンをすすめるのだからと、実際の症状に効くかどうかもわからず受け取ってしまうという行動をとってしまっています。これをお金の問題に置き換えると、すすめられるままに必要でもない保険等に入ってしまうという危険性があることにもなります。

症状(状況)を把握しないでいきなり解決策を言われても、症状に対して適切な処置なのかわかりません。処方されても納得できないでしょう。状況を把握していないのに、いきなり適切かどうかもわからない解決策を求めてしまっていることと同じです。

2.資産形成のための第1ステップ

上述したとおり、お金を貯める方法を考える前にするべき大事なことがあります。

それは、「現状把握」です。つまり、毎月いくら稼ぎ、何に使い、いくら貯めているかを知ることが、まず最初にするべきことです。

それはなぜでしょうか。

例えば、「北海道に行く」ということを考えてみましょう。その手段は、飛行機、車、新幹線、船など色々とありますが、現在ご自身がどこにいるかによって、取れる選択肢は異なります。現在地がわからなければ方向も距離もわからず、間違った手段を選んで結局目的地に着くことができなくなるということも起こりえます。現状把握というのは、「現在地を知る」ということです。

現状把握はどんな場面でもまず最初にすることで、資産形成においても例外ではありません。お金を貯めたい(資産形成したい)という前に、今どんな状態なのかということをご自身がまず認識することが必要で、その状態によってお金を貯める(資産形成する)手段を決めていくことになります。

3.家計簿はつけなくていい?

「現状把握」ということから、すぐに「家計簿をつけているから大丈夫」と思った方は、要注意です。

このコラムをお読みの方がどれだけの期間家計簿をつけているかわかりませんが、みなさまにお伺いします。「家計簿をつけていて資産形成ができているでしょうか?家計簿をつけることがどのくらい資産形成に役立っているでしょうか?」

おそらく多くの方は着実な資産形成の道を進めていないかもしれませんし、家計簿をつけることそのものが資産形成に貢献できていないはずです。なぜなら、本当の家計簿のつけ方を知らないからです。それ故にこのコラムをお読みになられているのでしょう。

そもそも家計簿をつける目的とは何でしょうか。考えたことはありますか?ここで答えがすぐに出てこない方は、まず目的を明確にすることが大事です。家計簿をつけること行為自体が目的になっている、ということはありませんか。家計簿をつけることでお金と堅実に向き合っている、という意識が生まれるのかもしれませんが、何のために家計簿をつけるのかという本来の目的が忘れ去られ、独り歩きし、家計簿をつけることで満足してしまっている方が多いのではないでしょうか。

ほとんどの家計簿は、支出の管理のみしか行っていません。しかし、これでは毎月どれだけ使ったかを把握することが目的となってしまいます。支出の把握のための記録を目的とし、支出の管理だけをしていても資産形成はできません。無駄遣いを抑え支出削減のために役立てる、という目的意識は持っていただけると良いですが、多くの方は、正しい家計簿のつけ方を学んでいませんし教えてもらう機会もあまりなく、「支出を管理(把握)すること=家計簿をつけること」と認識してしまっているかもしれません。

確かに、何もしていない方よりは、お金の管理ができているとはいえるでしょう。しかし、それが将来の資産形成につながっていないのであれば、精神的にも時間的にも無駄なことをしているといわざるを得ません。これなら、家計簿をつけるのをやめて、それに費やしていた時間を他の有意義なことに回した方が良いでしょう。このような家計簿でしたら、つけなくて良いとも思います。

4.家計簿の代わりに

では、現状把握をどのように行うのか、と疑問に思われる方もいらっしゃるでしょう。

まずここで確認しておきたいのは、「現状把握」は何のために行うのかということです。現状把握を行うと、見たくない現実と向き合うことになります。現状把握する時点でのお金、資産というのは、それまでのその方の人生を表しているものだからです。目を瞑ったり、顔を背けたりしたくなることもあるでしょう。その現実に目を避けて先に進むこともできますが、資産形成という目標のための方針や手段を決定するため、ということを忘れないでください。

さて、現状把握の方法ですが、家計簿では把握しきれない点を補強した「収支表」を作成します。毎月の収入(給与等)、支払い、貯蓄、などのバランスによってこれまでの生活が成り立ってきましたし、これからの生活も支えていきます。収支表の作成により、どのくらいの収入があるのか、何にどのくらい支払っているのか、どのくらいお金が貯まっているのかという3つを確認することができます。その結果として、ご自身がどのようなバランスになっているか(黒字or赤字orプラスマイナスゼロ)を確認することができます。赤字の方、プラスマイナスゼロの方は、お金を使う、増やす、貯める、を行うことはできません。なぜなら、黒字にならなければお金を増やすことができないからです。これらの方はまず黒字にすることを目指す必要があり、お金を増やすことができるのは黒字の方だけだということはお分かりいただけると思います。つまり、どういうアクションをとっていくかは、現状のバランスにかかっているということです。

「収支表」は下記のとおり支出は固定費と変動費に大きく分け、対象の収入についても数値を入力します。

固定費:住居費、保険料、通信費、光熱費、教育費(子どもがいる場合)、
    自動車費等(自動車や二輪車を保有している場合) 等
変動費:食費、交際費、日用品、医療費 等
収入 :勤労収入、年金収入、株式等の金利・配当収入、家賃収入 等

上記で現状把握することにより収支バランスを出します。このとき黒字になっていれば、その額が貯蓄額と同じになるはずです。

タイトルにあるように「家計簿をつけなくていい」と先述していますが、この収支表を作成するという目的のため(最終的には資産形成のため)でしたら、家計簿をつけることは有効です。むしろ、このためには積極的に行っていただいて良いでしょう。これまで家計簿をつけたことが無く面倒だと思われる方には、アプリを活用すると良いでしょう。家計簿アプリは家計簿をつけるものではなく、利用すれば自動的に家計簿ができあがるものですから、慣れてしまえばそれほど手間ではないでしょう。ライフスタイルに合わせて、ご自身に適した家計簿を選択してください。

5.作成のポイント

収支表を作成するうえでのポイントは色々あるのですが、最も気を付けていただきたい点をご紹介します。

それは、「ご自身で作成する」ということと、「収支表の評価・判断はプロに任せる」ということです。

まず「ご自身で作成する」ということですが、ファイナンシャルプランナー等お金の専門家に相談して作ってもらうことが楽ではあるものの、彼らにとっては究極的には他人事であり最終的な責任は彼らにはありません。自分事としてとらえ、向き合いたくない面にも向き合うことでより適切な資産形成のための方針や手段を決定できます。

ただし、ご自身で作成した収支表の評価や判断はご自身で行わない方が良いでしょう。何が問題でどのように解決すれば良いかはわからないですし、感情が入ってしまうことで冷静に評価や判断ができないからです。客観的な視点が必要であり、専門的な視点も必要であることから、プロに評価や判断は任せた方が良いです。

なお現状把握の際には、1年という時間軸で見ることが必要です。季節によって支出は変わりますし、会社員の方でしたらボーナスという臨時収入もあるからです。

おわりに

不安というのは、「わからない」、「知らない」からわき起きる感情です。特に金銭面、退職までに十分な貯えができていないがどのくらいあれば十分なのか把握できていない、つまり老後の収支がわからないという方が、「老後資金2,000万円問題」で不安を掻き立てられたのではないでしょうか。老後資産の不安を口にしながら何の対策も打たないのでは、きっと後悔することになります。あの時もっと真剣に考えておけば良かったと思っても遅いです。資産形成は、始めるのが早ければ早いほど良いものです。なぜなら時間を味方につけることができるからです。

不安をなくすためには、「わからない」、「知らない」から「わかる」、「知っている」に変える必要があります。「わかる」、「知っている」状態になるためには、まず現実と向き合わなければなりません。ご自身の現状を把握するところからスタートしましょう。