下水道が整備されていない地域では、河川に生活排水をそのまま流さないために、浄化槽を設置しなくてはいけません。しかし、これまで設置工事をしたことがない場合、そもそも浄化槽が何か、設置・維持・撤去にどれぐらい費用がかかるのかわからないはずです。この記事では、浄化槽の設置工事を考えている人向けに、浄化槽の機能や設置・維持・撤去にかかる費用、足りない場合の調達法について解説します。
- 浄化槽とは、生活排水を再利用できる水にするために設置されている家庭用の汚水処理設備のこと
- 単独処理浄化槽、合併処理浄化槽の2種類があるが、法令上新規での設置が認められているのは後者のみ
- 浄化槽の設置・変更には届出および都道府県知事の登録を受けた工事会社による工事が必須
- 設置費は80~150万円、維持費は年5~10万円、撤去費は5~10万円と諸費用もかかる


そもそも浄化槽とは?

浄化槽とは、生活排水を再利用できる水にするために設置されている家庭用の汚水処理設備を指します。浄化槽の中に生息している微生物を利用して、生活排水をきれいにする仕組みです。
公共の下水道が配管されていない家庭で、台所やトイレで使った水など生活排水をそのまま河川に流すと、川や海を汚しかねません。そこで、汚れを取り除くために浄化槽に通す必要が出てきます。ただし、あくまで家庭で発生する汚れを取り除くためのものであるため、そのまま河川や地下水に放流できる水準まで浄化することはできません。
浄化槽の種類
一口に浄化槽と言っても、特徴に着目すると以下の2つに分類することが可能です。
種類 | 特徴 |
---|---|
単独処理浄化槽 | トイレの水だけを処理する |
合併処理浄化槽 | トイレの水以外にも、台所・洗濯・洗面などの排水も処理する |
なお、平成13年4月1日より、合併処理浄化槽のみが法律上で浄化槽と位置づけられるようになっています。単独処理浄化槽では、台所やお風呂の排水がそのまま水路に流されてしまっていたためです。
そのため、現在は単独処理浄化槽を新設することは原則禁止されているため注意してください。
浄化槽を設置するメリット
浄化槽を設置するメリットとして挙げられるのは「コストを安く抑えられる」ことです。例えば、水道水をたくさん使用する家庭では、下水道使用料金を安く抑えられる可能性があります。
また、下水道を設置するより、浄化槽を設置するほうが安く済むかもしれません。さらに、下水道を使わない場合、市町村に最初に収める受益者負担金が不要になります。
浄化槽を設置するデメリット
一方、浄化槽を設置するデメリットとして挙げられるのは「手間がかかる」ことです。浄化槽を設置したら、各家庭で定期点検・清掃をしなくてはいけません。また、浄化槽本体やブロアー(空気を送る部品)などには寿命があるため、時期が来たら交換する必要があります。
加えて、浄化槽内の微生物が弱ると悪臭の原因になりかねません。相応の費用と手間をかけてメンテナンスをしないと、浄化槽として使えないだけでなく、周囲にも迷惑がかかるため注意が必要です。
浄化槽の設置・撤去工事における注意点

浄化槽の設置や撤去をする際は、トラブルが起きないように注意が必要です。具体的に留意すべき点として以下の2つを解説します。
浄化槽の設置・変更時は届け出が必要である
汲み取り便所を水洗便所に改造するなど、浄化槽を建築確認なしで設置する場合、さらにはすでに設置されている浄化槽の規模や構造に変更がある場合には、定められた期日内に届け出なくてはいけません。新規に設置して使用を開始した場合は、使用開始日から30日以内に「使用開始報告書」も提出する必要があります。
なお、市町村の担当部署(例:環境局)に提出する必要がありますが、具体的な名称は市町村によっても異なるため事前に確認してください。また、届出が必要であるにもかかわらず、手続きをせずに浄化槽を設置した場合、3ヵ月以下の懲役又は50万円以下の罰金が科せられます。
浄化槽の工事は信頼できるプロに依頼する
浄化槽の工事は、都道府県知事の登録を受けた工事会社に依頼しなくてはいけません。具体的な工事会社の名称は、都道府県のWebサイトから検索することが可能です。自分で探せない場合は、都道府県もしくは市役所の担当部署に聞いてみましょう。
浄化槽|設置にかかる費用

浄化槽を設置するための費用は、サイズによっても異なるのが実情です。補助金が使えることもあるため、積極的に利用しましょう。
ここでは、理解しておきたいポイントを解説します。
浄化槽はサイズによって設置費用が異なる
家庭用の浄化槽の大きさは、実際に使用する人数でなく住宅の延べ床面積により決まります。目安は以下のとおりです。
浄化槽の大きさ | 住宅の広さ | 設置費の目安 |
---|---|---|
5人槽 | 130㎡未満(延床面積) | 80~100万円 |
7人槽 | 130㎡以上(延床面積) | 100~130万円 |
10人槽 | 二世帯住宅など水回りの多い住宅 | 120~150万円 |
なお、浄化槽を設置する工事は3~7日かかるのが一般的です。工事中、水道が利用できなくなることもあるため打ち合わせの際に確認しましょう。水道が利用できない間は手洗いや風呂、料理をどうするかも決めておく必要があるためです。
浄化槽の設置費用に使える補助金もある
自治体によっては、浄化槽の設置費用に利用できる補助金制度を設けていることがあります。例えば、埼玉県さいたま市の場合は「浄化槽設置整備事業補助金」という制度名で、以下の内容で補助を受けることが可能です。
区分 | 5人槽 | 7人槽 | 10人槽 |
---|---|---|---|
設置に要する費用 | 332,000円 | 414,000円 | 548,000円 |
既存単独処理浄化槽若しくはくみ取り便槽の処分又は雨水貯留施設に再利用するために要する費用 | 100,000円 | ||
配管工事に要する費用 | 200,000円 |
制度の有無や名称、詳細は市町村によっても異なるため、環境局などの担当部署に確認してみましょう。
浄化槽|設備を維持するのにかかる費用

一般的な家庭用の浄化槽の場合、年間の維持費は5~10万円が相場といったところです。ここでは、浄化槽を維持するために具体的にどのような費用がかかるか、詳しく解説するので参考にしてください。
保守点検費用
保守点検とは点検専門会社が年に3~4回実施する検査の費用です。水質、バクテリアの状態を確認して、必要に応じて消毒剤を充填します。浄化槽内では、微生物が生活排水に含まれる有機物(食べ残しや油など)を分化してくれますが、人体に害のある病原菌の細菌やウイルスは分解してくれません。
そのため、河川に放流する前に細菌やウイルスを殺すために、塩素系の消毒薬を入れる必要があります。なお、保守点検費の相場は2万円程度ですが、浄化槽のサイズによっても変動する点に注意が必要です。また、消毒薬や試薬の金額が含まれているかは、見積もりを取って確認しましょう。
清掃費用
浄化槽は、年に1回以上、清掃専門会社による清掃を受けなくてはいけません。金額は浄化槽がある地域や依頼先の清掃専門会社によって異なります。なお、自治体によっては補助金が出ることもあるため、利用できないか市町村役場に確認してみましょう。
例えば、埼玉県熊谷市の場合「合併処理浄化槽維持管理補助制度」という名称で、清掃費用としても利用できる補助金を設けています。保守点検、清掃及び法定検査をすべて行っているなど、所定の条件を満たせば補助を受けることが可能です。補助金額は、浄化槽の大きさによって異なり、最大10回まで補助を受けることができます。
浄化槽人槽 | 補助金額 |
---|---|
5人槽 | 15,000円 |
7人槽 | 17,000円 |
10人槽 | 20,000円 |
出典:合併処理浄化槽維持管理補助制度をご利用ください:熊谷市ホームページ
法定検査費用
法定検査とは、都道府県知事が指定した公的機関により行われる検査のことです。年1回受ける必要があり、具体的には以下の検査が行われます。
検査項目 | 内容 |
---|---|
外観検査 | 設置状況・設備の稼動状況・悪臭の発生状況・消毒の実施状況・害虫の発生状況などを調べる |
水質検査 | 透視度・残留塩素濃度・水素イオン濃度・溶存酸素量などを調べる |
書類検査 | 保存されている保守点検・清掃の記録を基に、特段問題なく行われているかを調べる |
なお、法定検査を浄化槽法における条文を用いて「11条検査」と呼ぶことがあります。これに対して、浄化槽の利用開始日から3ヵ月経過した日の5ヵ月以内に受けなくてはいけない検査のことを「7条検査」と呼ぶことがあるので、覚えておきましょう。
電気代
浄化槽内のブロアーという装置は、24時間365日稼働させなければならず、電気代がかかります。浄化槽内にいる微生物に酸素を送り届けなくてはいけないためです。具体的な費用は契約している電力会社やブロアーの使用によっても異なりますが、1万円~1.5万円程度が相場となっています。
浄化槽|修理・交換にかかる費用

浄化槽や周辺設備には寿命があります。一般的な浄化槽本体と周辺設備の耐用年数は以下のとおりです。
耐用年数 | |
---|---|
浄化槽本体 | 20~30年 |
ブロアー | 5~10年 |
マンホールのふた | 20年 |
ただし、耐用年数を過ぎていても状態次第では交換ではなく部品の交換など修理により使い続けることが可能です。
また、経年劣化だけでなく、自然災害で壊れることもあり得ます。修理費は工事費込みで7~12万円程度ですが、具体的な金額は個々の状況によっても異なるため、事前に見積もりを取ってもらいましょう。
浄化槽|撤去にかかる費用

公共下水道に接続した、古くなったので交換するなどの理由で、浄化槽を撤去することはあり得ます。ここでは、その場合に行う工事とかかる費用について解説するので参考にしてください。
全撤去
全撤去とは、本体の撤去を行い、槽内の部材や装置などを含めて全ての部分を解体する方法です。工事が完了後は、地中に何も残らない状態になるため、土地の売却もスムーズに進められます。
なお、一般的な費用の相場ですが、5~10万円といったところです。ただし、これに残土処理費や重機手配費が加算されることもあるため、事前に見積もりを取りましょう。自治体によっては補助金が使えることもあるため、一度確認するのをおすすめします。
砂埋め処理(埋め戻し・埋め殺し)
砂埋め処理とは、浄化槽を地中に埋めてしまう方法のことです。このうち、本体の3分の1にあたる部分の解体をして、残りの部分は地中に埋める方法を「埋め戻し」と言います。一方「埋め殺し」とは、浄化槽内にある汚水を取り除くものの、部材や装置等は地中に埋める方法です。
全撤去に比べると、砂埋め処理は費用が安く済むというメリットがあります。ただし、汚水を残した状態で地中に埋めると不法投棄と判断され、刑事罰が科される可能性があるため要注意です。また、将来的に土地の売却を考えているなら、全撤去しなくてはいけません。
浄化槽の設置や撤去の資金を用意するならセゾンのリフォームローン

浄化槽の設置・メンテナンス・撤去に関して、自治体によっては補助金が利用できる可能性があります。しかし、それでも決して安くはない費用を出さなくてはいけません。
浄化槽の設置や撤去の資金を用意するならセゾンのリフォームローンも活用しましょう。「セゾンのリフォームローン」は、自宅だけではなく投資用物件にも対応しています。借入期間は最長25年、最大500万円を金利年4.55%(変動金利、2025年5月時点)でお借入れいただくことが可能です。審査結果は最短1日でご回答のうえ、契約に際してご来店いただく必要もありません。最短で4営業日後の融資実行となるため、お急ぎの場合にもお使いいただけます。
浄化槽を含め、ご自宅もしくは投資用物件のリフォームをお考えでしたら、ぜひ一度お問い合わせください。


おわりに
下水道に接続されていない住宅から生活排水がそのまま流れてしまうと、深刻な環境汚染につながりかねません。そのために浄化槽は不可欠と言えますが、設置・メンテナンス・撤去に相応の費用がかかります。まずは、自治体の補助金制度を利用できるかを調べたうえで、足りない部分をどうやって用意するかを考えましょう。預貯金を取り崩すなど自己資金で用意できれば問題ありませんが、難しい場合はリフォームローンの活用も視野に入れてください。
※本記事は公開時点の情報に基づき作成されています。記事公開後に制度などが変更される場合がありますので、それぞれホームページなどで最新情報をご確認ください。