少子高齢化による人口減少に伴い、空き家の増加が問題となっています。自分の死後、今住んでいる自宅がどうなるか考えたことはありますか?遺される家族にとって不動産は、資産としてのプラスの面だけでなく、相続問題や空き家の維持コスト等、マイナスの面もあるため、元気なうちに考えておかなければ後々家族に迷惑をかけることになるケースも……。そのようななか、自宅を生前に売却するという選択肢もあります。
今回は、住みながら住宅を売却できる「リースバック」について、1級ファイナンシャル・プランニング技能士の川淵ゆかり氏が解説します。
増える空き家…放っておくと「負の遺産」へ
人生の1/3以上をかけて住宅ローンを完済し、理想の住まいを手に入れても終の棲家となるとは限りません。年老いて体の自由が利かなくなってくると、老人ホームなど高齢者施設への入居を選択することになるかもしれません。
また、この住まいを子供達が喜んで受け継いでくれるとも限らない時代です。将来は「空き家」という重荷に転じてしまう危険性もあるのです。
日本の空き家数の推移は次のとおりです。
空き家が増えることにより、次のような問題が想定されています。
倒壊、崩壊、屋根・外壁の落下
火災発生のおそれ
◯防犯性の低下
犯罪の誘発
◯ごみの不法投棄
◯衛生状態の悪化、悪臭の発生
蚊、蝿、ねずみ、野良猫の発生や集中
◯風景、景観の悪化
◯その他
樹枝の越境、雑草の繁茂、落ち葉の飛散 等
親が残した不動産は子供にとっては不要かもしれません。空き家の維持にも次のようなお金がかかります。子供にとって「不動産」が「負動産」とならないか、考えてみましょう。
場所にもよりますが、年間数万円~数十万円といった出費になります。
◯水道光熱費
空き家でも水道や電気など基本料金だけでも年に数万円といった金額になります。
◯火災保険料
空き家にも放火や自然災害、盗難といったリスクがあります。遠方だとすぐに駆けつけられませんし、空き家でも火災保険は必須です。こちらも年間に数万円の出費となります。
ほかにも草刈りや様子を見に来るために訪問の都度交通費がかかりますし、草むしりや不法投棄があった場合はゴミの処分など手間もかかります。
せっかく苦労して手に入れた住まいですから「お金がかかる」のではなく、「お金になる」方法を考えないといけません。そこで、不動産をもとにお金に換える方法についてみていきたいと思います。
「不動産担保ローン」「リバースモーゲージ」「リースバック」の違い
不動産をもとにお金に換える3つの手段、「不動産担保ローン」「リバースモーゲージ」「リースバック」の違いを確認していきましょう。
不動産を担保にして「お金を借りる」
まず、不動産担保ローンとリバースモーゲージの大きな違いは、リバースモーゲージには年齢制限があることです。
不動産担保ローンは、法人でも個人(年齢制限なし)でも不動産を担保に借り入れができる仕組みです。一方、リバースモーゲージは高齢者が所有する戸建てを担保に借り入れができますが、借入金の使用目的も生活資金や住宅関連費用等と、制限があるのが特徴です。
これだけ見ると制限のない不動産担保ローンのほうが借りやすいような気がしますが、実
は、毎月の返済額が大きく変わってくるのです。
不動産担保ローンは、元本と利息を合わせて返済していかないといけないため、毎月の返済額が大きくなり高齢者にとっては大変です。
これに対し、リバースモーゲージでは、毎月の返済額は利息部分のみであるため負担は小さく、元本部分の返済については担保を設定した不動産を死後に売却する方法で行うため、基本的に相続人に大きな負担がおよぶことはありません。
なお、借り入れることができる金額も不動産評価額の50%程度と不動産担保ローンに比べると低いですし、金融機関によっては子ども全員(将来の相続人)の同意がないとリバースモーゲージが利用できないこともあります(不動産は売却し元本の返済に充てられますので、相続できなくなってしまうからです)。不動産評価額の100%を借りることができないのは、将来の不動産価値の変動(下落)リスクを考慮して借入枠が決められるためです。
不動産を売却して「お金を手に入れる」
不動産担保ローンやリバースモーゲージが不動産を担保にして「お金を借りる」のに対し、リースバックは不動産を「売却したお金を手に入れる」といった方法になります。
リバースモーゲージとリースバックは売却によって不動産をお金に換えるという点では同じですが、売却するタイミングが異なります。リバースモーゲージは死後に売却しますが、リースバックは先に売却します。
また、リースバックは売却した資金ですから、使い道も自由になり、リバースモーゲージのような制限はありません。
リースバックは自宅の売却となるため、所有権が移転します。その後は「定期建物賃貸借契約」という賃貸契約を結ぶことにより、そのまま住み続けることが可能な仕組みです。住まいを売却してしまいますので、固定資産税等の税金や修繕費等の費用の負担はなくなりますが、住み続ける限り家賃の支払いを行わなければなりません。
また、家賃を払えば住み続けることができるとも限りません。家賃は値上がりになることもありますし、賃貸借契約には期間があるため定期借家契約で再契約を拒絶され、住み続けることができないケースもあります。普通借家契約が可能な事業者もありますので、事前にしっかりと説明を受けて、自分の意向と合っているかを確認しておきましょう。
年金暮らしの70代夫婦、「リースバック」を選択
Aさんは大阪府在住の年金暮らしの70歳男性です。住宅ローンがすでに完済している駅から徒歩15分の戸建て住宅に妻と2人で住んでいます。40代の息子が2人いますが、2人とも結婚して独立しており、Aさんとは離れた土地にそれぞれ家族と住んでいます。
Aさんは60歳で定年退職となったあと、嘱託職員として昨年まで働いていました。Aさんは元気なのですが、2歳年上の妻が5年前から介護状態となり、介護費用にお金がかかっています。
先が見えない今後に不安を感じたことから、妻の介護費用と将来の自分自身の高齢者施設への入居資金も確保するために、まとまった資金を手に入れられるリースバックを選択しました。
先述のとおりリースバックは自宅の売却が先に済みますので、将来の不動産価値の下落も気にする必要がありませんし、いざ施設への転居となった場合も慌てて売り急ぐ必要もありません。Aさんが将来高齢者施設に入居するときが来た場合にも、息子達に自宅の管理や処分といった負担をかけたくない、というのも大きな理由です。
Aさんは、「リースバックはメリットばかりではないかもしれませんが、いろいろ検討した結果私にとっては自分の意向に合う良い選択ができたと思います」と喜んでいます。
このように、空き家が増えていく日本の実情を踏まえ、自身の将来のみでなく、子ども達世代への「迷惑をかけたくない」という配慮も含めて、リースバックを利用する方も増えてきています。