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ゼロ金利時代の終焉…「政策金利の上昇」が日本国民にもたらすかもしれないメリット・デメリット

ゼロ金利時代の終焉…「政策金利の上昇」が日本国民にもたらすかもしれないメリット・デメリット
山下 耕太郎(金融・投資ライター)

執筆者

金融・投資ライター

山下 耕太郎

一橋大学経済学部卒業後、証券会社で営業・マーケットアナリスト・先物ディーラーを経て個人投資家・金融ライターに転身。投資歴20年以上。現在は金融ライターをしながら、現物株・先物・FX・CFDなど幅広い商品で運用を行う。保有資格は証券外務員一種。

2024年7月31日、日本銀行が政策金利を0.25%に引き上げたことは、ゼロ金利時代の終焉を象徴する重要な決定です。この利上げは物価上昇や円安リスクへの対応として行われましたが、金融市場に大きな波紋を広げました。

日経平均株価の歴史的暴落や、住宅ローン金利の上昇による家計への影響など、政策金利上昇が日本国民にもたらすメリットとデメリットについて考察します。

日銀は2024年7月31日に政策金利を0.25%程度に引き上げ

日銀は2024年7月31日に政策金利を0.25%程度に引き上げ

2024年7月31日、日本銀行(以下、日銀)は政策金利を0.25%に引き上げることを決定しました(※1)。この追加利上げは、2024年3月の金利引き上げに続くものであり、日銀が経済・物価の好調な推移を背景に2%の物価目標達成が見込めると判断したことによるものです。この決定は、福井総裁時代の2007年2月以来の追加利上げであり、物価上昇と円安のリスクを考慮した結果となりました。

また、政策金利0.25%は2008年12月以来の水準であり、物価が日銀の見通しに沿って上昇する可能性が高まる中で利上げが実施されました。日銀は今後の金融政策運営において、短期の市場金利を0.25%程度とすることを目指し、物価上昇と円安によるリスクに対して警戒を強めています。

8月5日に日経平均株価が歴史的暴落

8月5日に日経平均株価が歴史的暴落

2024年8月5日、日経平均株価は前週末比4,451円(12%)安の31,458円まで下落し、過去最大の下落幅を記録しました(※2)。この暴落は、1987年のブラックマンデー翌日の3,836円を超えるものであり、日銀の追加利上げ決定と植田総裁のタカ派姿勢表明が市場に与えた影響が顕著に現れました。

7月31日の発表時点では、日銀の利上げは市場に織り込み済みであったものの、植田総裁の会見での姿勢変化が引き金となり、円高が急速に進行したのです。これにより、翌日(8月1日)の日経平均は1,000円近い下落を見せ、その後も下落が続きました。

さらに、米国の雇用統計が悪化し、米国の景気後退懸念が広がったことから、米ダウ平均株価が急落し、週明けの8月5日には日経平均が過去最大の下落幅を記録するに至ったのです。

政策金利上昇のメリットとデメリット

政策金利上昇のメリットとデメリット

政策金利の上昇には、さまざまなメリットとデメリットがあります。

まず、政策金利の上昇により、長期金利も上昇することが予想され、これに伴い金融機関の定期預金の金利も引き上げられる可能性があります。預金者にとっては、預金の利息が増加し、より高い収益が期待できるでしょう。また、生命保険の「予定利率」も上昇することが考えられ、契約者が受け取る金額が増加する一方で、新規の保険料が安くなる可能性もあります。

しかしながら、政策金利の上昇はデメリットも引き起こします。企業にとっては、資金調達コストが増加し、設備投資や研究開発への投資が抑制される可能性が高まるからです。特に、成長を目指す中小企業にとっては、資金調達のコスト増が経営に大きな影響を与えることが懸念されます。

また、個人にとっても、住宅ローン金利の上昇により家計の負担が増加することが予想されます。変動金利型の住宅ローンを利用している場合、金利上昇に伴って返済額が増える可能性が高く、生活費への圧迫が懸念点です。さらに、国債の利払い費が増加することで、国の財政悪化が進む可能性もあり、将来的な増税や財政支出の抑制などが議論される可能性があります。

住宅ローンへの影響と注意点

住宅ローンへの影響と注意点

住宅ローンへの影響について詳しく解説します。政策金利の上昇は、住宅ローン利用者にも大きな影響を及ぼします。住宅ローンには固定金利と変動金利の2種類がありますが、今回の利上げにより、特に変動金利型の住宅ローンを利用している場合は金利が上昇し、返済額が増加する可能性が高まるからです。

変動金利型の住宅ローンでは、短期プライムレートに連動して金利が変動しますが、この短期プライムレートは政策金利の影響を直接受けます。そのため、今回の利上げにより、短期プライムレートが引き上げられる可能性があり、これに伴って住宅ローンの返済額が増加することが予想されるのです。

ただし、住宅ローンには、「5年ルール」や「125%ルール」といった、返済者の負担を軽減するための仕組みが設けられている場合があります。例えば、「5年ルール」によって5年間は毎月の返済額が変わらないように設定されている場合がありますが、5年後には新しい利率で再計算され、返済額が増加する可能性があるのです。また、「125%ルール」により、毎月の返済額の増加は抑えられるものの、元金の返済が遅れる可能性があります。

一部のネット銀行では、これらのルールが設定されていない場合もあるため、金融機関を選ぶ際には注意が必要です。特に、変動金利型の住宅ローンを選択する際には、将来的な金利上昇リスクを十分に考慮し、返済計画を立てるようにしましょう。

歴史的な観点から見る日銀の利上げ

歴史的な観点から見る日銀の利上げ

日銀の利上げが過去にどのような影響をもたらしてきたかを振り返ると、2000年8月のゼロ金利解除や2007年の追加利上げが象徴的な例となります。2000年のゼロ金利解除は、ITバブル崩壊と密接に関連しており、日本経済に深刻な打撃を与えました。この時期、日銀はインフレを抑えるために利上げを決定しましたが、その後の急激な株価下落と経済停滞を招く結果となりました。

同様に、2007年の追加利上げもリーマンショックの前兆となり、世界的な金融危機を引き起こす一因となりました。当時、日銀は世界経済が堅調であると判断し、利上げを実施しましたが、その後の米国のサブプライム危機が引き金となり、世界的な金融市場の混乱を招きました。これらの歴史的事例は、日銀の利上げが慎重に行われるべきであることを示唆しています。

金融市場への影響と今後の展望

金融市場への影響と今後の展望

日銀の植田総裁は、7月31日の金融政策決定会合で、物価の上方リスクに対応するため、今後も追加利上げを検討する姿勢を示しました。しかし、金融市場の混乱を受け、内田副総裁は慎重な姿勢を示しており、今後の利上げの実施時期や最終的な金利水準には不確実性が伴っています。

特に、企業の賃上げや価格設定の動向を注視しながら、日銀は慎重に政策を進める必要があります。企業が賃上げを進め、物価が安定的に上昇する状況が見られない限り、追加利上げのタイミングは慎重に見極められることになるでしょう。

また、米国が景気後退に入り、FRB(米連邦準備制度理事会)が利下げに転じる可能性が高まっているなかで、日銀が利上げを進めることにはリスクが伴います。円高が進行し、株価が下落するリスクが高まるため、日銀が追加利上げを見合わせる可能性も考えられます。

金融政策のリスクと展望

金融政策のリスクと展望

日銀の金融政策は、国内外の経済情勢に強く影響を受けます。現在、米国経済が景気後退に向かう兆候が見られ、FRBが利下げに転じる可能性が高まっているといえるでしょう。この状況で日銀が追加利上げを行うと、円高が進み、輸出企業にとって厳しい状況が生まれる可能性があります。円高によって日本製品の競争力が低下し、企業業績が悪化すれば、株価の下落がさらに進行するリスクもあります。

一方で、国内のインフレが進行し、物価上昇圧力が高まるなかでは、利上げを見送ることが物価の急騰を招く可能性もあります。日銀は、このジレンマに直面しながら、経済全体のバランスを取りつつ金融政策を進める必要があります。

さらに、今回の利上げが、今後の経済成長にどのような影響を与えるかについても注目です。金利が上昇すると、企業の設備投資や個人の住宅投資が抑制される可能性があり、これが経済成長を鈍化させる要因となるかもしれません。特に、日本経済は内需の拡大が成長の鍵となっているため、金利上昇によって個人消費や投資が冷え込むリスクを慎重に考慮する必要があります。

※1 NHK『日銀 追加利上げ決定 政策金利0.25%程度に【総裁会見詳細も】』2024年8月19日閲覧

※2 産経新聞『日経平均株価4451円安 下げ幅ブラックマンデー超え最大』2024年8月19日閲覧

※本記事は公開時点の情報に基づき作成されています。記事公開後に制度などが変更される場合がありますので、それぞれホームページなどで最新情報をご確認ください。

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