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30代が「資産形成」をはじめたきっかけ…仕事に子育て、多忙を極める世代の事例【CFPが解説】

30代が「資産形成」をはじめたきっかけ…仕事に子育て、多忙を極める世代の事例【CFPが解説】

人生100年時代といわれる昨今、「資産形成が重要だ」と知ってはいても、いったいなにから手をつければいいのかと悩んでいる方も少なくないでしょう。とりわけ30代になると、結婚や子どもの誕生など、一気にライフステージが変わるケースも珍しくありません。牧野FP事務所合同会社のCFPの牧野寿和さんが、そんな30代の「資産形成」について事例をもとに解説します。

  

30代は「資産形成の有無」に差が出る世代

30代は「資産形成の有無」に差が出る世代

はじめに、図表1、2をご覧ください。図表1は世帯主が30代の給与と家計収支の平均、図表2は30代の金融資産平均保有額です。

[図表1]30代の平均給与(年収)と30代の月々の家計収支(1世帯あたり)
[図表1]30代の平均給与(年収)と30代の月々の家計収支(1世帯あたり)
[図表2]30代の金融資産平均保有額
[図表2]30代の金融資産平均保有額

上記の図表1、2より、30代は「金融商品資産を保有しているかどうか(≒意欲的に資産を形成しているかどうか)」によって、資産額に大きく差が出てくる世代といえます。

FPを訪ねてきた2組の30代の相談者

FPを訪ねてきた2組の30代の相談者

ところで、ファイナンシャル・プランナー(FP)である筆者は、さまざまな世代からお金の相談を受けます。なかでも30代は、仕事で責任のある業務を任され始める時期であり、また家庭においても子育てや住宅購入などまとまった支出が重なる世代です。

今回は、そんな30代のAさん夫妻・Cさん夫妻が資産形成をはじめた2つの事例を紹介します。

1.資産形成は「定期預金」のみ…マイホームを購入したいAさん夫妻

年収500万円の会社員Aさん(35歳)は、3歳年下の妻Bさんと、都内の賃貸マンションで暮らしています。妻の年収は330万円で、世帯年収は830万円。Aさん夫妻には保育園に通う4歳の長女がいます。

夫妻は結婚後、毎月10万円ずつ銀行の定期預金に積み立てていました。結婚前からの貯蓄を含めると2人で約1,250万円の預金があります。

昨今の物価上昇から、株式や投資信託といった金融商品の運用について必要性は感じていたようですが、元本が保証されない点に躊躇していました。

2人はマイホームを購入したいと考えており、今後の資産形成について相談しようと、筆者のもとを訪ねたそうです。

2.年収1,000万超えも、散財を続ける夫に困り果てているCさん夫妻

他方、年収1,100万円のCさん(35歳)は、都内に本社を構える有名企業に勤め、都心の賃貸に住んでいます。3歳年下の妻・Dさん(32歳)はもともと会社勤めでしたが、2歳になる長女の子育てに専念するため、産休育休を経て勤めていた会社を退職しました。

Cさんは高所得者ではあるものの、“宵越しの銭は持たない”タイプだそうで、独身時代から給与はほぼすべて使い切っていたそうです。Dさんも付き合った当初はそんなリッチな生活に満足していましたが、長女が生まれ、会社を退職し収入が減っても変わらず散財を続けるCさんの様子に、将来への不安が募っていったといいます。

今後の生活が心配になったDさんは、Cさんを連れて筆者のもとを訪れました。

2組の相談者の共通点

Aさん夫妻の家計は健全に見える一方、Cさん夫妻は散財に困り果てており、目に見える課題がありそうです。

しかし、2組の家計収支を確認したところ、どちらも収支に問題を抱えていることがわかりました。

まずAさん夫妻は、子どもが生まれたタイミングで保険会社の募集人にすすめられるがまま、保障が過大な死亡保険や医療保険に加入していました。また、契約しているサブスクリプションサービスのなかにもほとんど使用せずに契約を続けているものがあり、すべてあわせると毎月5万円近くの無駄な支出がありました。

他方、Cさんは先述のように、毎月給与を使い切っています。具体的には、所有している高級車の維持管理費や家賃、趣味、交際費に消えている様子。本来資産形成のための余剰資金があっておかしくない収入ですが、残念ながらその余力は残っていません。

背景は異なりますが、両夫妻とも無駄な支出を抑えれば「資産形成」にあてることができそうです。

資産形成の目的は「理想のライフプラン」を叶えること

資産形成の目的は「理想のライフプラン」を叶えること

資産形成の目的は、夫婦や家族の描くライフプランを実現することです。

「マイホームを建てたい」「子どもを大学に行かせたい」「老後豊かに暮らしたい」…それぞれのプランに基づき、住宅購入費や教育費、老後の生活費用など、必要な資金を蓄えていきます。

たとえば、数年後に使う住宅購入のための頭金のためであれば、Aさん夫妻のように銀行に定期預金で積み立ててもいいでしょう。

ただし、15年~20年以上先の、たとえば子どもの大学にかかる費用などは、株式や債券、投資信託といった金融商品に投資して資産形成を行うこともおすすめです。

なお、資産運用の際には、下記の3点を押さえておきましょう。

  • 利益が利益を生む複利効果が期待できる「長期」投資
  • 複数の金融商品に投資して、価格や為替、地政学リスクを抑える「分散」投資
  • 一定額を継続して積み上げていく「積立」投資

ちなみに、Aさん・Cさん夫妻の公的年金の受給見込額は下記のとおりです。

■Aさん夫妻
Aさん:月額21.07万円(65歳から)
Aさん+Bさん:月額30.82万円(Aさん68歳、Bさん65歳から)
■Cさん夫妻
Cさん:月額23.74万円(65歳から)
Cさん+Dさん:月額28.77万円(Cさん68歳、Dさん65歳から)

老後をシミュレーションしたうえで、年金で足りない分の資金はいまから準備を始めておくと安心でしょう。

また、昨今では「インフレリスクに備える」ことも資産形成の重要な目的のひとつです。資産形成を始める際には、今後の物価上昇も見越して目標額を多めに設定しておくと安心かもしれません。

投資初心者は「NISA」の利用もひとつの手

投資初心者は「NISA」の利用もひとつの手

とはいえ、投資経験がなければ「いったい何から始めればいいんだ」と悩む人も多いと思います。そこでおすすめしたいのが、運用益(売却益、配当・分配金)の20.315%が非課税となるNISA(少額投資非課税制度)です。

2024年からスタートした新NISAでは年間120万円が上限の「つみたて投資枠」と、年間240万円が上限の「成長投資枠」があります。なかでもつみたて投資枠は、投資できる銘柄が金融庁の定める「長期の積立・分散投資に適した一定の投資信託」に限られていることから、資産形成初心者におすすめです。

まとめ:資産形成をはじめ懸案が解決できた

後日、Aさん夫妻・Cさん夫妻ともに、「支出を抑えて浮いたお金で資産形成を始めることにした」と連絡がありました。両組とも、NISAを利用するべくNISA口座を開設したそうです。

Aさん夫妻は堅実に、「つみたて投資枠」の債券を中心とした投資信託で運用を開始。Cさん夫妻は「つみたて投資枠」に加えて、車を売ってそのお金で「成長投資枠」でも運用を始める予定だといいます。

人生100年時代、30代はまだまだ時間を味方につけられる年代です。マイホームの購入や子育て、定年後のセカンドライフなど、さまざまなライフイベントが待っています。焦らず慌てず、コツコツ資産形成を進めることが大切です。

※本記事は公開時点の情報に基づき作成されています。記事公開後に制度などが変更される場合がありますので、それぞれホームページなどで最新情報をご確認ください。

牧野 寿和(牧野FP事務所 代表社員/CFP/1級FP技能士)

執筆者

牧野FP事務所 代表社員/CFP/1級FP技能士

牧野 寿和

1958年名古屋生まれ。2003年、牧野FP事務所を開業。住宅や相続、老後の生活など相談者の課題を解決し、思い描いた人生の実現を目指す「家計を健康にするプランニング」を得意とする。投資信託や保険といった金融商品の販売は一切なく、真摯に相談者に寄り添う姿勢で信頼を得ている。現在は1,000件以上の個別相談を中心に、企業や銀行、自治体主催セミナーに登壇。また、高校生やその保護者に、奨学金制度やライフプランニングといった講演も行っている。

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