トランプによる相互関税政策や歴史的な円安、地政学的リスクに異常気象など、予測不能な出来事が相次ぐ昨今。そんな先行き不透明な情勢のなか、投資家が株価の動きを予測する手法として重宝しているのが「テクニカル分析」です。15年間の証券会社勤務を経て、現在はJ-FLEC(金融経済教育推進機構)の講師としても活動するCFPの倉橋孝博さんによれば、ひまわりやピラミッドにも見られる「黄金比」が、実は株価予測にも活用されているのだとか。その仕組みや考え方について、詳しくみていきましょう。
株価と「黄金比」の意外な関係

4メートル。これは、宮崎県の小学校で児童が育てたひまわりの高さです。テレビの映像で見たそれは非常に立派で、大輪は校舎2階部分で太陽に向かっていました。
さて、ひまわりの種はらせん状に実りますが、これはオーム貝の巻き方と同じでとても神秘的です。これらにはいわゆる「黄金比」が隠されていて、自然界のみならず、パルテノン神殿やピラミッド、凱旋門などの建造物にも見ることができます。黄金比は1:1.618ですが、この1.618は次の数列から導かれます。
0,1,1,2,3,5,8,13,21,34,55,89,144,233,377……
これは「フィボナッチ数列」と呼ばれ、1+1=2、1+2=3、2+3=5、3+5=8……というように、前の2つの項を足したものが次の項にきます。一見なんてことはない数列ですが、ここからが不思議なポイントです。
21÷13=1.615、34÷21=1.619、55÷34=1.617、89÷55=1.618、144÷89=1.617……というように、隣り合う〈右の項〉を〈左の項〉で割ると、その答えは限りなく「1.618」に近づきます。
世の中でもっとも安定していて美しいといわれる黄金比は、いろいろな場面で応用されています。それは、アップル社の林檎のロゴにも見られるそうです。
フィボナッチ数列の数字は、テクニカル分析における「基本数値」といわれることもあります。たとえば昨年、日経平均株価が34年ぶりに高値を更新しましたが、フィボナッチ数列のなかにも「34」があります。
「そんなのたまたまだろう」という声も聞こえてきそうですが、“自然の摂理”として高値を更新すべくして更新したと考えても面白いかもしれませんね。
フィボナッチ数列からは黄金比の1.618以外にもさまざまな数字が導かれますが、そのなかに「0.382(38.2%)」という数字があります。
リーマンショックでの株価大暴落も、1年前に言い当てられていた
2008年10月。「リーマンショック」により世界中で株価は大暴落し、日経平均株価も10月28日に一時7,000円を割り込み、6,994円まで下げました。いまも当時もとうてい信じられない数字です。
ところが、この7,000円割れを1年前に言い当てていたテクニカルアナリストがいます。彼はこう言っていました。
当時、日経平均株価はまだ1万5,000円をキープしていました。「7,000円割れといったら半分の水準だ。まずありえない」と筆者は高を括っていたものの、実際に1年後、日経平均は7,000円を割れてしまったのです。
これを“偶然”ととらえるか、それとも“自然の摂理”ととらえるか……。筆者自身は、17年たったいまも偶然だと信じているものの、株価の奥深さを強烈に感じた出来事でした。
実際、リーマンショックでマーケットは阿鼻叫喚の売り物に支配され、大混乱を招きました。これまでの常識やファンダメンタル(経済成長率・企業業績・為替状況など)では計れないパニック下において、テクニカル分析は一定の効果があるのかもしれません。
「テクニカル分析」と「ファンダメンタルズ分析」は表裏一体

テクニカル分析とは、株価の値動きなどからおおよその流れ(トレンド)をつかみ、今後の展開を予測する方法です。具体的には、「株価チャート(株価の動きをグラフにしたもの)」で値動きのパターンや傾向を分析します。また、先述したような「黄金比」や「基本数値」などを活用することもあります。
たとえば、「A社の株価チャートを紐解いたら、過去5年間、毎年30%上昇している。今年も30%程度の値上がりが期待できるのではないか」というイメージです。
また、業績が安定していて大きな変化がない会社は、株価の値動きもある程度安定しています。この場合、「B社は1,000円近辺まで下がったら買い頃で、1,500円ぐらいまで上がったら売りだ」と分析できます。もちろんこのパターンが永遠に続くわけではありませんが、参考にはなりますよね。
このように、テクニカル分析は「相場の雰囲気」をつかむのに適しています。
これに対し、「ファンダメンタルズ分析」という分析方法もあります。「ファンダメンタル(fundamental)」は「基本的な」「根本的な」「主要な」といった意味で、会社の売り上げや利益、財務状況などから将来の動向を予測する分析方法です。
具体的には、PER(株価収益率)やPBR(株価純資産倍率)、ROE(株主資本利益率)などの指標のほか、ニュースや世界経済の動向など、業界動向も織り交ぜて分析することで、その会社の成長力を読み取ります。
会社の経営や財務状況が良好で業績が伸びれば、その通知表である株価は上昇します。仮に「C社が今年は100億円の利益を上げることができたが、来年はさらに売り上げが伸び、利益は200億円になりそうだ」となれば、考え方として株価は倍になります。これがファンダメンタルズ分析です。
もちろんそんな簡単に株価は動いてくれませんが、ファンダメンタルズ分析から見出された通知表の点数を線で結んだものが株価チャートといってもいいでしょう。この株価チャートからその会社の先行きを予測するのがテクニカル分析です。
つまり、テクニカル分析とファンダメンタルズ分析は表裏一体といえます。
「移動平均線」を見れば、株価の「買い時・売り時」がわかる

テクニカル分析でよく用いられ、王道といわれるのが、「移動平均線」です。移動平均線とは、ある期間(5日、25日、75日など)の株価の平均値を線にしたもので、期間の異なる移動平均線の位置関係などから、今後の予測や転換点を判断します。
平均値なので大まかな方向性をとらえやすく、慣れてくれば「トレンド」や「買い時・売り時」などを判断する参考になります。
なお、ここでいうトレンドとは、移動平均線が右肩上がりのときを上昇トレンド、右肩下がりのときを下降トレンドといいます。これは初心者でもすぐに見分けがつくものです。上から順に5日線、25日線、75日線、200日線と位置しており、それぞれが右肩上がりであれば、“最強の上昇波動”といえます。
株価の「買い時」や「売り時」は、5日などの期間の短い移動平均線(以下、短期線)と25日などの期間の長い移動平均線(以下、長期線)の2つを使って分析することができます。
一般的に、短期線が長期線を下から上に突き抜けることを「ゴールデンクロス」といい、これが現れると上昇相場に入ったシグナルととらえることがあります。
反対に、短期線が長期線を上から下に突き抜けることを「デッドクロス」といい、下降相場に入った可能性があると警戒されます。
短期的な相場展開を予測するときには5日や25日などの期間の短い移動平均線を、中長期的な予測の場合は75日や200日などの期間の長い移動平均線を利用します。
ただし、ゴールデンクロスやデッドクロスには「だまし」も多くあります。また株価チャートや移動平均線には複数の判別方法や考え方があるため、あくまでも参考として活用するのがよいでしょう。
さて、4万円を超えた日経平均株価。長期の移動平均線は右肩上がりですが、短期線は気迷い状態か……。小学生が育てたひまわりのように、大きく上昇して欲しいものです。