更新日

70代の父が自宅で転倒…親の介護をきっかけに「自分の将来」が不安になった40代会社員の事例【みんなが資産形成をはじめたきっかけ

70代の父が自宅で転倒…親の介護をきっかけに「自分の将来」が不安になった40代会社員の事例【みんなが資産形成をはじめたきっかけ

人生には結婚や昇進といったポジティブな転機がある一方、離婚や解雇、介護など、心身に負担のかかるネガティブな転機が訪れることもあります。ただ、そのネガティブな転機を、自身の将来について考える機会だとポジティブにとらえることで、その後の向き合い方が変わります。親の介護をきっかけに自身の将来について考えはじめた40代会社員の事例をもとに、40代が向き合いたい「介護」と「資産形成」についてみていきましょう。。

長寿大国・日本の現役世代が抱える「介護」のリスク

長寿大国・日本の現役世代が抱える「介護」のリスク

「世界一の長寿国」といわれる日本ですが、「健康寿命」を視野に入れると、必ずしも長寿=健康とはいえない現実がみえてきます。

厚生労働省「令和4年簡易生命表」によると、平均寿命は男性が81.05歳、女性が87.09歳となっていますが、日常生活が制限されることなく心身ともに健康でいられる「健康寿命」は、男性が72.57歳、女性が75.45歳です。

つまり、平均寿命から健康寿命を差し引いた高齢期の約8年は、誰かの手を借りて生活する期間ということになります。

親の介護は、病気などによって徐々に負担が重くなるケースもあれば、ある日突然、ケガや事故などによって突発的に必要になるケースもあります。

厚生労働省「国民生活基礎調査の概況(2022年)」によると、在宅介護における要介護者等から見た主な介護者は、配偶者や子、子の配偶者などの「同居の家族」が45.9%と最も多くなっています。

したがって、ある日突然親の介護が必要になり、生活が一変するという事態は「誰にでも起こり得るリスク」ということです。

ギリギリの家計にトドメを刺した「父の転倒」

ギリギリの家計にトドメを刺した「父の転倒」

都内近郊に住むAさんは、妻と高校生の息子の3人家族です。親が高齢になってきたことから、Aさんはいずれ「親の介護が必要になるかもしれない」と考え、家族と相談のうえ70代の両親が住む実家の近くに、35年ローンでマンションを購入しました。

夫婦は共働きではあるものの、息子の教育費と住宅ローンの返済で、家計には余裕がありません。

他方、Aさんの両親は夫婦合わせて月約23万円の年金で暮らしており、生活は年金の範囲内で賄えているようです。しかし、固定資産税や自動車税などのまとまった税金や臨時の出費は年金では足りず、貯蓄を取り崩したり、ときにはAさんが援助したりする場合もあります。

自分たちの生活でも精一杯ななか、援助をせざるを得ない状況に、Aさんは複雑な思いもありました。

そんな生活を続けていたある日のこと。Aさんが電話に出ると、取り乱した様子で母が言いました。

「お父さんが倒れた」

Aさんの父親が自宅で転倒し、足と腕を骨折してしまったのです。

突発的に介護が必要になったものの、高齢の母親だけで父の介護をするのは難しく、特に入浴の際は、Aさんの助けが不可欠です。そこでAさんは、仕事を終えたら実家に向かい、介護を手伝うことに。やがて、父の通院の付き添いもAさんが担当することになりました。

この時点で、Aさんは仕事と家庭に加えて介護まで背負い、心身に大きな負担がかかっていました。そこへさらに、金銭的な負担も大きくのしかかってきます。

それは、父の入院費や通院にかかる費用でした。両親は年金以外に収入がなく、ケガによる突発的な支出に対応できません。そのため、やむなくAさんが支払わざるを得なかったのです。

そのうえ、実家は昔の作りでバリアフリーになっていないため、両親はこれを機に貯金を取り崩し、リフォームすることを検討しているといいます。

「時間もお金もない。これ以上どうすればいいんだ……!」

Aさんは思わず頭を抱えました。

A夫婦は共働きのため収入は比較的多いものの、教育費や住宅ローンの負担があり、手元の余裕資金は限られています。しかし父親の介護をきっかけに、このままの暮らしでは無理が生じると感じたAさん。今後のライフスタイルが大きく変わる可能性が出てきました。

こうして、自身の将来に不安を抱いたAさんは、ファイナンシャルプランナー(FP)である筆者のもとへ相談に訪れたのでした。

「介護不安」に備える40代の資産形成術

「介護不安」に備える40代の資産形成術

筆者が聞いた話によると、Aさんは中小企業の営業職で、同い年の妻・Bさんは同じ会社の事務職員とのこと。いわゆる社内結婚で、夫婦の年収は合わせて約1,000万円(Aさん600万円、妻400万円)です。

世帯年収1,000万円でも、「介護離職」になれば生活は一変

国税庁「令和5年分 民間給与実態統計調査」によると、40代前半の男性の平均給与は617万円、女性は345万円。40代後半では男性660万円、女性347万円となっています。これと比較すると、A夫婦の収入は平均的な水準であることがわかります。

父親の介護は骨折による一時的なもので、時間はかかるものの治癒すればAさんの負担は軽くなる見込みです。

とはいえ、70代の両親が今後歳を重ねれば、病気やケガによって長期にわたって介護が必要になる可能性があります。その場合、仕事との両立が難しくなる恐れもあるでしょう。

総務省「令和4年就業構造基本調査」によると、介護や看護を理由に過去1年間で離職した人は男女合わせて10.6万人にのぼります。Aさん自身も、介護が長期化すれば「介護離職」につながるのではと、不安を口にしていました。

介護と老後資金準備に役立つ『iDeCo』

40歳になると、健康保険に加え、「介護保険料」も会社と折半で給与から控除されます。したがって、Aさんのように直接的な出来事がなくとも、介護とお金について考えはじめている40代も多いのではないでしょうか。

老後や介護に不安を感じているAさんのような人には、資産形成方法のひとつとして「iDeCo(個人型確定拠出年金)」の活用をおすすめします。

iDeCoは現役時代であっても、掛金の全額が「小規模企業等掛金控除」として所得控除の対象となるため、節税効果が期待できます。

ただし、原則として途中解約はできません。そのため住宅ローンや教育費の負担が大きい時期は、掛金を少額(最低5,000円/月から)に設定するといいでしょう。

その他、民間の介護保険の加入も選択肢となります。さらに、中長期的な資産形成を考える場合には、必要に応じて取り崩しが可能で、非課税で再投資できる「NISA」の活用も検討しましょう。

また、共働き家庭では、どちらか一方の収入が途絶えると生活に大きな影響が出る可能性があります。そこで、働けなくなった場合に備えて「就労不能保険」への加入も視野に入れておきたいところです。

住まいについては、A家が暮らすマンションはまだしばらく住宅ローンが残っており、実家ではまとまった資金を必要とするリフォームを検討中とのこと。したがって、場合によっては「A家と両親の同居」を含めた将来の住まいのあり方について話し合う必要がありそうです。

40代からはじめる「介護とお金」の準備

40代からはじめる「介護とお金」の準備

後日、Aさんからコメントをいただきました。

「介護は突然やってくるんですね。父の介護をきっかけに、自分の将来についても考えさせられました。必要な保険に加入し、長い目で見て資産形成をはじめようと思います。ただ、まだ息子の教育費などでお金がかかる時期なので、無理のない範囲で取り組んでいくつもりです」

40代の人が介護と聞くと、「まだ先の話で自分には関係ない」と思いがちです。しかし、少子高齢化が進む現代では、90代の祖父母の介護を任されることもあるかもしれません。そして気づけば親の介護、自分や配偶者の介護へとシフトしていきます。そう考えると、「まだ先のこと」と言い切ることは難しいのではないでしょうか。 介護ははじまりも終わりも人それぞれです。だからこそ、早いうちから積極的に情報を集めつつ、無理のない形で準備を進めてみてはいかがでしょうか。

執筆者/三藤 桂子 (社会保険労務士法人エニシアFP代表)

執筆者

社会保険労務士法人エニシアFP代表

三藤 桂子

社会保険労務士法人エニシアFP代表。社会保険労務士・ファイナンシャル・プランナーとして相談、セミナー講師や執筆等で活動している。本名は三角桂子。会社員時代に年金の仕組みに興味を持ち、社会保険労務士、FPの資格を取得。公務員、自営業、会社員、専業主婦、シングルマザーとあらゆる立場の経験をもとに、会社側と社員(個人)側、両方の立場を理解することで、社労士として労務・年金相談、FPとして家庭内のお金の悩み等をサポートしている。

みんなに記事をシェアする
PICK UP アイコン

PICK UP

関連記事 アイコン

おすすめの記事