企業の成長に不可欠な「資金調達」は、経営者にとって常に重要な課題です。近年は、スタートアップや中小企業が大企業などと事業提携し、資金だけでなく、技術・販路・ブランド力など多様なリソースを同時に獲得する事例が増えています。本記事では、公認会計士・税理士の視点から、事業提携による資金調達の種類やメリット・デメリット、成功のポイントについて解説します。
事業提携による資金調達の種類

「事業提携」と一口に言っても、その形態はさまざまです。
ここでは、資金調達という観点から代表的な3つのスキームをご紹介します。
(1)資本業務提携(出資+業務提携)
代表的なのが「資本業務提携」です。
これは、提携先企業から出資(資本参加)を受けると同時に、業務面でも提携する形態です。
・出資により、相手企業の支援コミットメントを強化できる
大企業側にとっても、スタートアップの革新的技術やビジネスモデルを自社に取り込む狙いがあります。互いにリスクを分担しながら、長期的な協業関係を築くことが特徴です。
(2)業務提携+リソース提供型
資本参加は伴わず、業務面での提携を通じて資金に相当するリソース提供を受ける形態です。
・大企業の販路・ブランド活用権利
・共同開発・共同マーケティング支援
直接的な資金提供はなくても、通常であれば多額の投資が必要なリソースを「提携関係によって実質的に調達する」ことが可能です。
(3)共同事業立ち上げ型(ジョイントベンチャーなど)
スタートアップと大企業が共同出資で新会社を設立し、共同で事業を展開するスキームです。
・大企業の資金力・営業力とスタートアップの機動力・技術力を融合
・独立した新会社として市場開拓を狙う
事業スケールの大きいプロジェクトや、中長期的な市場獲得を見据えたケースで選ばれることが多い形態です。
事業提携による資金調達のメリット・デメリット

事業提携を資金調達手段として活用する際には、メリットだけでなく、注意すべきデメリットも理解しておく必要があります。
<メリット>
・大企業の信用力・ネットワークを活用でき、成長スピードを加速できる
・銀行融資やVC出資では得られない事業協業や経営資源の共有が可能
・実績のないスタートアップでも、大企業との提携を実績・PR材料にできる
特に資金調達と同時に、市場参入・営業拡大・技術開発などの支援も得られる点は、事業提携ならではの大きなメリットです。
<デメリット・リスク>
・相手企業の意向や戦略変更によって提携関係が不安定になる可能性
・出資を受けた場合は、経営権や意思決定に影響を受けるリスク
・提携内容や条件次第では、自由な事業展開が制約される恐れ
また、提携先のブランドや社内調整スピードに合わせなければならず、スタートアップ本来の機動力や柔軟性を失う危険性もあります。
事業提携を成功させるためのポイント

事業提携は、資金だけでなく事業成長に必要なリソースやノウハウを得られる大きなチャンスである一方、提携条件や関係性を誤れば、スタートアップ側が不利な立場に追い込まれるリスクもあります。
資金調達と事業成長を両立させる「本当に意味のある提携」を実現するためには、次の3つの視点が欠かせません。
(1)提携先の「目的」と「相性」を見極める
大企業がスタートアップと提携を検討する背景には、必ず狙いがあります。例えば、次のような目的です。
・既存事業を補完・拡張したい
・革新的な技術や人材を取り込みたい
・将来の競合を囲い込んでおきたい
こうした狙いを理解せず、「資金がほしいから」と安易に飛びついてしまうと、相手の戦略に取り込まれるだけで、自社の成長が犠牲になる可能性もあります。
提携を検討する際には、以下の点を冷静に見極めることが長期的な成功への第一歩です。
・「本当に自社と目指す方向性は一致しているのか」
(2)提携条件・契約内容を徹底的に明確化する
事業提携は、単なる「握手」や「口約束」では成り立ちません。特に、資本参加や知財・ノウハウ共有を伴う提携では、事前の契約設計が非常に重要です。例えば、次のようなポイントを具体的かつ明文化しておく必要があります。
・共同事業の範囲・期間・独占権の有無
・知的財産や技術ノウハウの帰属・利用条件
・提携解消時のルール・権利義務の整理
これらを曖昧にしたまま提携を進めると、後々「言った・言わない」のトラブルに発展するリスクがあります。不利な条件を一方的に押し付けられないためにも、弁護士や専門家のサポートを受けながら、契約内容をしっかり確認・明確化しておくことが重要です。
(3)長期的な「信頼関係の構築」に本気で取り組む
事業提携は、「一度組んで終わり」ではなく、「どれだけ継続的に信頼を積み重ねられるか」が成否を分けます。
・経営層同士の対話・相互理解の機会づくり
・現場レベルの信頼醸成や担当者同士の提携強化
こうした「日々の積み重ね」こそが、変化の激しいビジネス環境の中でも柔軟に関係を維持・発展させる土台となります。表面的な「資金調達」や「提携実績づくり」にとどまらず、本当に信頼し合えるビジネスパートナーを目指し、「共に成長する覚悟」を持つことが、事業提携成功の大きなポイントです。
まとめ
事業提携による資金調達は、決して「資金だけを得る手段」ではありません。 その本質は、「事業成長のための戦略的パートナーシップを築くこと」にあります。
・業務提携で、販路・技術・ブランドといった成長加速装置を手に入れる
・共同事業の立ち上げで、市場そのものを共に切り拓く
こうした提携を通じて、単なる資金調達にとどまらず、事業を次のステージへ引き上げるための力を得ることができます。
しかし、相手企業に依存しすぎたり、不利な条件を受け入れてしまえば、自社の独自性や意思決定の自由度を失い、逆に成長を妨げるリスクもあります。
・「どう組むか」を設計する知恵
・「どう続けるか」を築く信頼
この3つを徹底し、資金だけでなく本当の意味での「事業成長に資する提携」を目指してほしいと考えています。
公認会計士・税理士として、これまで多くの事業提携や資金調達を支援してきた立場からも、事業提携は今後ますます資金調達の手段として重要性を増していくと確信しています。
資金とリソースの両方を同時に確保できるのが、事業提携という次世代型資金調達の特徴です。
※本記事は公開時点の情報に基づき作成されています。記事公開後に制度などが変更される場合がありますので、それぞれホームページなどで最新情報をご確認ください。